初めての異世界転生

藤井 サトル

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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる

雪の中を探索するぞ!

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 一夜明けた後、アーデルハイドから探索を開始する胸が告げられた。
 昨日も話したらしいのだが、メンバーを探索班と拠点を守る防衛班に分けたらしい。そのわけかたは希望を聞いてから半々になるように調整したらしいのだけど……。

 なにそれ、俺たち何も聞いてないんだけど。

「大地さん。私達は探索班らしいですよ?」

「いやそれはいいんだけど……」

「まぁまぁ。私達は探すために来たのですから」

 そう言ってフルネールは大地を宥めていると、雪を踏みしめながら近付いてくる足音が聞こえてきた。大地とフルネールは音が鳴る方へと振り向いた。

「ダイチさん。フルネールさん。よろしくお願いします」

 なんの憂いも無さそうな顔をしているリリアを見て大地は安堵する。昨日あわてて逃げられてしまったのと、フルネールに追い討ちをかけられたことでかなり心配していたのだ。

「よろしくな。と言っても気張らずに行こう」

「はい!」

 よかったですね。何時ものリリアちゃんで。

 からかうなよ。

 ふふ。

「よし出発するぞー!」

 アーデルハイドの号令が出た事で雪山への道を総勢17名(2名多いのはリリアとフルネールの分である)は歩き始めた。
 奥へ進むたびに積もっている雪は深くなっていき歩きにくさが増すばかりだ。それなのにちょっとしたモンスターは出てくる。

 白い狼型モンスターの群れ、大地の三倍くらいの大きさがある白熊型モンスター、黄色と黒の縞模様がある子犬サイズの蜘蛛型モンスター、なんかよく分からない雪だるま、真っ白く鋭利な牙をはやした猪型モンスター、雪に隠れて襲ってくる白い猫型モンスター。

 一番厄介だったのは白い猫型モンスターだ。大きさは普通のネコのような物だが目が赤く光り、狙いを定めて雪の中から飛びかかってくる。さすものSランク集団でも怪我を負う人が出てきたのだ。

 因みに今の構成は大地達意外は全員Sランクだ。
 その話を聞いてアーデルハイド王女様もSランクレベルの強さだと聞かされた時は衝撃だった。のだが、フルネールから「限界突破が大地さんとまではいわないですけどチート魔法に近いんですよ。もっとも前に言ったように使ったら体がボロボロになっちゃいますけど」という事を聞いた。

 改めて聞くと漫画の主人公の様な魔法だな。しかも王女様だから主人公ポジは範囲内じゃないか。

「はい。これで大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。リリア様」

 不意打ちで負傷した仲間をリリアは癒し終える。もちろんSランクの各パーティメンバーには傷を治療する手段は持っているのだが、聖女であるリリアには劣り、また、リリアも自分の魔力量と治癒速度を考慮した上で申し出たのだ。

 お礼を言われる度に苦笑しているのは何時もの光景だが、なんでそんな表情するのか……そう言えば気にしたことなかったな。今度聞いて……いや聞いていいものなのか?

「リリア……疲れてないか?」

「え?あ、はい!」

 アーデルハイド先導のもと歩き続ける。進めば進むほど雪の振り方は激しさを増してくる。さらに登るに連れて風も吹き始めてきた。こうなると視界は最悪だ。

「アーデルハイドは何か当てがあって進んでるのか?」

「そうみたいですよ。弱死病を治す果実……スノーパールは洞窟の様なところで作られてたらしいです」

 隣を歩くリリアが歩きにくそうに雪へ足を沈めていく。

「それじゃあこの行進も洞窟かそれらしい場所を探していると言うことか?」

「はい。アーデルハイドおねえ……王女様が言ってました」

 回りを気にしてかリリアが言い直す。

「しかし、スノーパールか。一応果実なんだよな?」

「そのはずです。ただ、どんな風に育つのかまではわからなかったので……その情報も探した見たいなのですが情報が手に入らなかったらしくて……」

 残念そうに言うリリアだが、名前やありそうな場所、形までわかっているのだ。そけだけでも大したものなのだと思うのだが、それでも不服なのは親しい人の命がかかっているからだ。

 ……だがこの日、なにも見つかる事はなく拠点へと戻ることとなった。

 ……そして。

 二日目は別の道へと歩みを進めた。しかし、見えるのは雪とモンスターのみだ。半日雪に晒されながらもなにも見つからない。

 三日目、探索班と防衛班を入れ替えて出発した。大地達は前日探索班だったが、リリアの希望でこの日も探索班として行動する。しかし、見つからない。

 四日目、前日と同じ探索班が一日目のルートよりも奥に行ってみる事を提案し、アーデルハイドは承諾した。そこで、ようやく廃村と思われる場所が見つかった。しかし、日が落ちる時間を考慮して短い探索で帰還した。

 五日目、六日目、廃村を重点的に調べることとなった。結果から言うと……何も見つからなかった。せめて、スノーパールが栽培されている思われる情報の欠片くらいあってくれれば希望はあるのだが……。

 八日目。廃村で何も見つからなかった事が大きいのか、半分の戦闘員が浮かない表情をしている。寒さと疲れもあるのだろう。その為、この日は全体的に休みとした。ただリリアは不満そうだった。

 九日目。この日は大地とフルネールとリリアは強制的に探索からはずされた。リリアの疲労の溜まり具合をみたアーデルハイドが安全を考えての決定だった。

 十日目、アーデルハイドや大地達を含んだ10名での探索を開始した。
 ある程度、雪山を登っていくと雪と風により視界を遮ってくる。

「リリア大丈夫か?」

「はい!2日も休んだんです!大丈夫です!」

 隣を歩くリリアに声をかけた。鋭気を充分に養えているからこその元気だろう。そして大地は後に続くフルネールにも聞くために振り返る。

「フルネールも吹雪いてきたが大丈夫か?」

「ええ。この程度の吹雪になんて負けませんよ!」

 前から思っていたがこの女神は色々強いと思う。ただ、多少弱いところを見せた方が可愛げもあるのだが。

 何か今、私の事について考えました?

 いや、お前はすげえなって思っただけだ。

「あれ……?リリアちゃんはどちらへ?」

 フルネールは何を言っているのだろう。いくらリリアが小さ……背が引くかったって、視界に映らないなんて酷いことを言うもんだ。だってすぐ隣にいたんだぜ?

「何言ってんだリリアなら隣に……あれ?いない……」

「だから言ってるじゃないですか!」

 リリアを探し始めた直後に大きいドーンと言う音と地面が縦に大きく揺れた。揺れがすぐに収まった事と先程鳴った音を関連付ければ地震ではなさそうだ。

「大地さん……今の振動は不味いんじゃないですか?」

 雪山で
   大きい音が
      鳴り響く

 ちょっと!辞世の句なんて詠んでる場合じゃないでしょう!!

 辞世の句じゃないやい!!

「リリアはどこだ!?」

 後方へ振り返ってもいない。前方にも見えない。

「大地さん!あそこに!」

 リリアは列から外れている場所にいた。真っ直ぐ進む大地達と離れるように斜めに向かって進んでいて、俯きながら歩く様は何かを考えているようだった。

「リリア!こっちにこい!!」

「え?あれ?大地さんなんでそんな場所……」

 声をかけられてようやく自分が離れたのだと理解した。そして急いで大地のいる場所へ戻ろうとするが、それを邪魔するように地響きがなり始めた。

「雪崩だ!全員私の後ろに集まれ!!」

 アーデルハイドは当然雪崩に対処する魔道具を持ってきている。が、その範囲は今アーデルハイドが言ったように自分から後ろにいる人員しか守ることは出来ない。

 そして、地面が動くなかで歩幅が狭いリリアは雪に足をとられるため、合流することは出来ないだろう。

「フルネール。アーデルハイドの近くにいろよ?」

 フルネールの返事を聞かずに大地はリリアへと近寄っていく。

「ダイチさん!来ちゃダメ!!危険だから!!!」

 自分は助からないだろう。でも、大地まで巻き添えにしたくないから叫ぶ。だが、その声を無視して近づいていく大地。

 リリアとの距離は後わずか。しかし、雪崩もすぐそこに迫っていた。手が届くか届かないか。そんな距離にいる大地とリリアを雪崩による大量の雪が飲み込んでいった。
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