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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる
保存食パーティ!開・催
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夜になるまであと少しと言ったところだろうか。テントを張り?終えた大地達は柵でキャンプ場を囲い終わり、今はアーデルハイドが全員を集めて今の現状とこれからの探索について話を進めているところだ。
因みに柵も魔道具らしく割とあっという間にキャンプ地を囲む事が出来た。このキャンプ場のど真ん中には大きな焚き火型の魔道具が設置されているらしく、辺りの寒さを緩和してくれている。
もちろん自分たちのテント前にも焚き火は用意してあり、ここで暖を取る事にもなるだろう。ただ、辺りの寒さを緩和しても雪が解ける前に地面に落ちている事を考えていると来た当時よりだいぶ温度が低いのだろうか。
「――であるから、今日はゆっくり休んでくれ。そして明日からは船の修理と探索を平行する為、探索班とこの場所の防衛班に分けるからそのつもりでいてくれ。では解散だ」
日が沈む前にアーデルハイドの話は終わった。正直大半を右から左に聞き流したからよくわかっていないが、とりあえず今日はもう休んでいい事だけは聞こえた。
「さぁ大地さん。ご飯頂きに行きましょう」
「んー?何のことだ?」
「もう!何も聞いてなかったんですか?」
あきれ顔のフルネールに大地は反論する。
「休んでいい事だけは聞こえたぞ!」
「そんなんで威張らないでください。アーデが2週間分のみんなのご飯を用意しているから欲しい人は取りに来る様にって言ってたじゃないですか」
意外と雇った人の事を考えているいい上司だ。
「それはいい事を聞いた。取りに行くか」
「まったく……」
そうしてアーデルハイドの場所へと歩いていくのだが並んでる。30人くらい?
「たぶん私達で最後ですよ。ゆっくり並んでいきましょうか」
「ああ。そうするか」
列の移動は早くも遅くも無いと言った感じか。だが、並んでいる内に太陽はもう隠れたのだ。キャンプ場の大きい焚き火型魔道具のおかげで暗いわけではないが冷え込んではきている。
「あー、手袋とかも買ったほうがよかったな。やはりちょっと準備不足だったか」
「まぁ仕方ないですね。お金稼ぐ時間ありませんでしたし」
「とは言え寒いだろ?」
「それはまぁ。でもこれくらいは大丈夫ですよ」
ああ。久々にフルネールが女神様の様に見える。慈悲深い笑顔がなんとも……。
「あー、あれだったら一度戻る?であっているか分からないけど、この世界から離れておくか?必要になったらまた呼ぶぞ?」
「ふふ。そんなお気遣い出来るんですね?」
「おいおい茶化すなよ」
クスクスとフルネールに笑われた大地は少しだけ赤くなる。
「ごめんなさい。でも、戻らないですよ。もったいないじゃないですか」
「もったいない?何がだ?」
「んーそうですねぇ」
そう雪が降る夜の空を見上げながら考えたフルネールは再び大地へと視線を落とした。
「こうやって大地さんと並ぶ事。ですね」
「それがもったいないのか?」
「はい!こういう事をメガミッターで呟くと羨ましがられたり嫉妬がられたりして楽しいですよ?」
「おぅ。まぁお前が楽しいなら別に構わないけどさ」
周りを見たフルネールが笑顔になって言う。
「でも大地さんが望むなら、私の手を温めてくれてもいいんですよ?」
そう言って両手を合わせた状態で大地の前に差し出した。
「これで何をしろと?」
「わかりませんか?」
ある程度察しては要るけれど察する事を憚れるというか、『え?ここでマジでやるの?』的な気持ちが非常に高い。
「コホン。そろそろ受け取ってくれないだろうか?」
と言ったところで既に大地たち意外には配り終えたらしく、真横にはアーデルハイドと配るのをお手伝いしているリリアが二人を待っていた。
アーデルハイドは淡々としているがリリアにはフルネールにからかわれている大地を見て苦笑気味だ。
「リリアはここで手伝っているのか」
「はい。折角ですからお手伝いを。大地さん、フルネールさん。どうぞ」
そう言ってフルネールが先に受け取り大地も手を伸ばす。そしてものを受け取った瞬間に指が触れてしまった――。
「きゃっ」
と短く声を上げたリリアは直ぐに手を引いた。
「あ、あーすまん」
「い、いえ。こちらこそごめんなさい!」
そう言って逃げるようにリリアのテントと思われる四角いプレハブ小屋の中へと入っていった。
「大地さん、リリアちゃんに何かしました?」
「ダイチ、リリアに何かしたのか?」
二人そろってジト目を浴びせながら糾弾するように聞いてくるのだが、大地としては特に身に覚えがない。
「え、えー?何もしてないはずなんだけど……」
「でも今の反応は……何というか触れられたくないバッチィ物に触ったような……」
「ぐはぁっ……。おま……どうしてそんな笑顔で心を抉れるんだ……」
フルネールと大地を交互に見るアーデルハイドは二人のやり取りに驚きながら見ているが、何も言ってこないのは同じ感想なのだろうか……。
「ふふ。大地さんは本当に女の子の気持ちがわかっていませんね♪冗談ですよ」
冗談……だと?
「でも、もしリリアちゃんと接するのに雑な反応とかしてたらそうなります。離れるときは一瞬なんですからね?」
「ぐ……わかった。肝に銘じておく。でもそれならあのリリアの反応は何なんだ?」
「ん~心境の変化じゃないですかね?まぁリリアちゃんはアーデがいるから私達が気にしても仕方ありませんし、あちらでご飯でも食べましょう」
フルネールがアーデルハイドにウィンクしてから大地の背中を押す様にその場を離れていく。
「まったく強引だな」
フルネールに押されて戻ってきた大地達のテント前だ。焚き火の炎の前によって暖かさは充分だ。
「ふふ。それよりご飯を頂きましょうよ」
そう言って受け取ったのは干した肉と少し硬めのパンにある程度の塊となるチーズだ。これぞ保存食セットと言った具合だ。
「何時もの飯より豪華だな」
「はい♪この干し肉もしっかり味付けしてありますよ!」
たまに夕飯が無い事がある大地達にとってはまさに御馳走である。
「兄貴たちも王女様から頂いてきたんですね」
いつの間にかにやってきたレイヴンが仲間を引き連れてやってきた。
どうする?
戦う ◀ピコン
魔法
道具
会話
逃げる
「俺の飯を取りに来やがったか……」
「ち、ちが!せっかくだから飯を一緒にして親睦を!」
慌てながら言うレイヴン。その後ろにいる仲間たちが少し呆れている。
「なぁこの人がお前が言っていた凄い人なのか?」
レイヴンの前に歩いてきたのは少し背が低い男だ。武器は腰につけている短剣だろうか。そして目が細い……というか糸目。
「ああ。悪い。こいつはレンジャーのレルムだ」
「あんた強いんだってね。よろしく頼むよ」
「まぁそれなりにな。ダイチだ。こちらこそよろしく頼む」
軽い挨拶をした後、光の玉が飛んできた。大きさは直径10~15㎝といったぐらいだろうか。その光の玉が大地の回りをぐるぐると旋回し顔の前で止まった。何事かと思ったらその光が消えていく。すると……昆虫の羽を背中から伸ばす女の子が姿を現した。
「妖精か!」
その驚いた一言で彼女は満足したように笑顔を見せる。
「そうよ。私はミルって言うの。得意なのは魔法よ」
一気にファンタジー感が増したな。ほー、しかし妖精なんているんだな。
もちろんいますよ?妖精、エルフ、ドワーフに……あと女神もここにいます。
そうだな。何時もたよりにしているぞ。
えへへ。
「それにしても貴方……不思議な感じね。一見、あまり強そうじゃないのに」
グサリと刺さる棘を真正面から刺してきたぞ。恐ろしい。まぁ、格闘技とか何もしてこなかったし、フルネールあっての力だからな。
「でも……底が知れないわ。正直、どんな理由であれ敵になってほしくないわね」
再びゆっくりと大地を中心に回り始めたミルが大地を値踏みするように観察する。その後、フルネールの方へと視線を向けるとこちらも首をかしげた。
「貴女も出不思議な感じがするわね」
「大地さん。私特別見たいですよ?」
嬉しそうに言うフルネールを見てミルは「気のせいなのかしら?」と呟いた。
「ま、いいわ。二人ともこれからよろしくね」
「ああ、よろしくな」
「そういや、ダイチさんはランクはどれくらいなんだ?」
レルムが聞いてきた事にたいして大地は素直に返す。
「俺はCランクだな」
「C!?」
レルムがまさかのランクだったことを聞いて驚く。それも無理はなく、今この場所に集められたのは最低でもAランクなのだ。アーデルハイドもそう銘打って集めていたのだから。
あれ?この流れはいつものお決まりか?
そう思った大地だかレルムは別の反応をする。
「なるほど。ダイチさんは名声を欲しがらない人なのかな」
大地のランクを聞いたレルムは考える。まず、大地が嘘をついた可能性に。だが、これはすぐさま無いと切り捨てた。自分達と同じ集めかたされていればAかSしかないのだからだ。正直、嘘をつくならSランクといった方が仲間を作りやすく、且つ他に舐められないだろう。
では、なぜCランクの大地が混ざっているか。アーデルハイド王女様がランクを見誤るわけがない。特にこの重要な依頼で……だ。
そして、レイヴンとミルの反応を考慮した場合、ランクでは計れない強さをもっている。それしか可能性が残らないのだ。
「おっと、これはまた初めての反応だな。大体のやつはランクで突っかかって来るんだけどな」
カイ青年とか名も知らない赤髪のBランクとか。もう印象薄いんじゃないだろうか。
「考えるのが俺の仕事だよ。と言っても短絡的じゃなければ誰でもわかると思うんだ」
「まぁまぁ、取り敢えず飯食おうぜ」
話が長くなりそうだと察知したレイヴンはそういったあと地面に何か四角い魔道具を置いた。そう思った次の瞬間にはビニールシートのようなものが出てきたのだ。魔道具って便利だな。
そのシートの上に座るとレイヴンが「ささ、兄貴たちもどうぞ」と言ってきてくれたので座らせてもらった。
雪の上なのに冷たくないのは凄い。
因みに何故かミルは大地の肩を椅子がわりに座った。
レイヴンはそれを見て「兄貴に失礼じゃないか」と言うのだが、ミルは「ファンサービスのつもりなんだけど退いた方がいい?」と聞いてきた。
ああ。この子は自分を見た反応で行動を変えられる子なんだな。
「妖精とあったの初めてで、そういうサービスはわりと嬉しいな」
そんなに重さは感じないが乗っていると言うことはわかる。それが特にファンタジーっぽくてテンション上がりそうなのだ。
そんな一幕がありつつも食事は開始された。
「兄貴たちはいつもどんな食事をしているんですか?」
大地やフルネールがおいしそうに食べているのを見て唖然とする。レイヴン達からしたら保存食と言うのは硬い肉で食いづらく、パンはパサパサしているし、チーズはボロリと欠けるような代物だ。正直な話としては胃に入れられる物程度の認識である。――いや、大体のAランク以上のメンバーはそういう認識だろう。
「ん?何って……基本は山菜とウォーラビットの肉だな。若しくは食えない時もある程度だが?」
「……んー?レイヴンからの話にもよるとダイチさんはあのリヴァイアサンを撃退したんですよね」
レルムの頭では理解が追い付かなかったらしく腕を組んで考えながら聞いてきた。
この手の話をすると頭のいい奴は大体理解してくれず大地は悲しみを覚える。
「あー、したした。中々物分かりのいい奴だったよ」
「物分かりがいいって……リヴァイアサンは言葉喋れるのかしら?」
肩に乗るミルが尋ねるとフルネールが口の中の食べ物を飲み込んでから口を開く。
「ええ。なんか痴情のもつれ見たいな会話が聞こえてきましたよ」
「お前……まだそれを引っ張るのか。っていうか会った事は無いのか?」
「兄貴、リヴァイアサンって言うのは基本出会う事は無いモンスターなんですよ。古い書物かそれを基に作られた話でしか出てこないんですけど、その古い書物の書かれた年代とかを考慮すると最後に人前に現れたのは1000年くらい前なんだ。その書物にも一瞬で国を亡ぼす力があるとか」
あー。あの凄いブレスかな?確かにアレをまともに受けた国は滅びそうな気がするけど。
「そんな昔なのか……でもリリアはリヴァイアサンについて少し知ってそうだったけど有名なのか?」
「結構有名だな。伝説として語られるモンスターの一つだから。ただ、リリア様ならその辺も調べていてもおかしくはないかもな」
レルムの一言が気になった。
「それは聖女だからか?」
「そうとも言えるし、そうとも言えないわよ。リリア様はちょっと特別だから……幼い時は本の虫だったみたいよ?」
ふむ?
あれですよ。伝説と聞いてリリアちゃんは調べたんだと思いますよ?
あーラノベでカッコいい神話の名前を知って調べる見たいな?
はい。リリアちゃんはああ見えて本が好きですからね。
「なるほどな」
「あなたリヴァイアサンと戦って見逃して貰ったのね」
ミルはどうやら大地が言った『物わかりが良い』という台詞から言葉巧みに危機を脱した。と、捉えたようだ。
「……そうなんだよ。情けないことにな」
あ、大地さん。今めんどくさくなりましたね?
「そんなこと無いわよ。あのリヴァイアサンに立ち向かって行っただけでも凄いのよ?もっと胸を張ってもいいのに……あなた変わっているのね」
少し前にも聞いたような言葉だな。
「不本意だがそうらしいな」
ミルにも変人呼ばわりされ少し傷つきながら、リヴァイアサンにも言われた事を思い出してそう呟くのであった。
因みに柵も魔道具らしく割とあっという間にキャンプ地を囲む事が出来た。このキャンプ場のど真ん中には大きな焚き火型の魔道具が設置されているらしく、辺りの寒さを緩和してくれている。
もちろん自分たちのテント前にも焚き火は用意してあり、ここで暖を取る事にもなるだろう。ただ、辺りの寒さを緩和しても雪が解ける前に地面に落ちている事を考えていると来た当時よりだいぶ温度が低いのだろうか。
「――であるから、今日はゆっくり休んでくれ。そして明日からは船の修理と探索を平行する為、探索班とこの場所の防衛班に分けるからそのつもりでいてくれ。では解散だ」
日が沈む前にアーデルハイドの話は終わった。正直大半を右から左に聞き流したからよくわかっていないが、とりあえず今日はもう休んでいい事だけは聞こえた。
「さぁ大地さん。ご飯頂きに行きましょう」
「んー?何のことだ?」
「もう!何も聞いてなかったんですか?」
あきれ顔のフルネールに大地は反論する。
「休んでいい事だけは聞こえたぞ!」
「そんなんで威張らないでください。アーデが2週間分のみんなのご飯を用意しているから欲しい人は取りに来る様にって言ってたじゃないですか」
意外と雇った人の事を考えているいい上司だ。
「それはいい事を聞いた。取りに行くか」
「まったく……」
そうしてアーデルハイドの場所へと歩いていくのだが並んでる。30人くらい?
「たぶん私達で最後ですよ。ゆっくり並んでいきましょうか」
「ああ。そうするか」
列の移動は早くも遅くも無いと言った感じか。だが、並んでいる内に太陽はもう隠れたのだ。キャンプ場の大きい焚き火型魔道具のおかげで暗いわけではないが冷え込んではきている。
「あー、手袋とかも買ったほうがよかったな。やはりちょっと準備不足だったか」
「まぁ仕方ないですね。お金稼ぐ時間ありませんでしたし」
「とは言え寒いだろ?」
「それはまぁ。でもこれくらいは大丈夫ですよ」
ああ。久々にフルネールが女神様の様に見える。慈悲深い笑顔がなんとも……。
「あー、あれだったら一度戻る?であっているか分からないけど、この世界から離れておくか?必要になったらまた呼ぶぞ?」
「ふふ。そんなお気遣い出来るんですね?」
「おいおい茶化すなよ」
クスクスとフルネールに笑われた大地は少しだけ赤くなる。
「ごめんなさい。でも、戻らないですよ。もったいないじゃないですか」
「もったいない?何がだ?」
「んーそうですねぇ」
そう雪が降る夜の空を見上げながら考えたフルネールは再び大地へと視線を落とした。
「こうやって大地さんと並ぶ事。ですね」
「それがもったいないのか?」
「はい!こういう事をメガミッターで呟くと羨ましがられたり嫉妬がられたりして楽しいですよ?」
「おぅ。まぁお前が楽しいなら別に構わないけどさ」
周りを見たフルネールが笑顔になって言う。
「でも大地さんが望むなら、私の手を温めてくれてもいいんですよ?」
そう言って両手を合わせた状態で大地の前に差し出した。
「これで何をしろと?」
「わかりませんか?」
ある程度察しては要るけれど察する事を憚れるというか、『え?ここでマジでやるの?』的な気持ちが非常に高い。
「コホン。そろそろ受け取ってくれないだろうか?」
と言ったところで既に大地たち意外には配り終えたらしく、真横にはアーデルハイドと配るのをお手伝いしているリリアが二人を待っていた。
アーデルハイドは淡々としているがリリアにはフルネールにからかわれている大地を見て苦笑気味だ。
「リリアはここで手伝っているのか」
「はい。折角ですからお手伝いを。大地さん、フルネールさん。どうぞ」
そう言ってフルネールが先に受け取り大地も手を伸ばす。そしてものを受け取った瞬間に指が触れてしまった――。
「きゃっ」
と短く声を上げたリリアは直ぐに手を引いた。
「あ、あーすまん」
「い、いえ。こちらこそごめんなさい!」
そう言って逃げるようにリリアのテントと思われる四角いプレハブ小屋の中へと入っていった。
「大地さん、リリアちゃんに何かしました?」
「ダイチ、リリアに何かしたのか?」
二人そろってジト目を浴びせながら糾弾するように聞いてくるのだが、大地としては特に身に覚えがない。
「え、えー?何もしてないはずなんだけど……」
「でも今の反応は……何というか触れられたくないバッチィ物に触ったような……」
「ぐはぁっ……。おま……どうしてそんな笑顔で心を抉れるんだ……」
フルネールと大地を交互に見るアーデルハイドは二人のやり取りに驚きながら見ているが、何も言ってこないのは同じ感想なのだろうか……。
「ふふ。大地さんは本当に女の子の気持ちがわかっていませんね♪冗談ですよ」
冗談……だと?
「でも、もしリリアちゃんと接するのに雑な反応とかしてたらそうなります。離れるときは一瞬なんですからね?」
「ぐ……わかった。肝に銘じておく。でもそれならあのリリアの反応は何なんだ?」
「ん~心境の変化じゃないですかね?まぁリリアちゃんはアーデがいるから私達が気にしても仕方ありませんし、あちらでご飯でも食べましょう」
フルネールがアーデルハイドにウィンクしてから大地の背中を押す様にその場を離れていく。
「まったく強引だな」
フルネールに押されて戻ってきた大地達のテント前だ。焚き火の炎の前によって暖かさは充分だ。
「ふふ。それよりご飯を頂きましょうよ」
そう言って受け取ったのは干した肉と少し硬めのパンにある程度の塊となるチーズだ。これぞ保存食セットと言った具合だ。
「何時もの飯より豪華だな」
「はい♪この干し肉もしっかり味付けしてありますよ!」
たまに夕飯が無い事がある大地達にとってはまさに御馳走である。
「兄貴たちも王女様から頂いてきたんですね」
いつの間にかにやってきたレイヴンが仲間を引き連れてやってきた。
どうする?
戦う ◀ピコン
魔法
道具
会話
逃げる
「俺の飯を取りに来やがったか……」
「ち、ちが!せっかくだから飯を一緒にして親睦を!」
慌てながら言うレイヴン。その後ろにいる仲間たちが少し呆れている。
「なぁこの人がお前が言っていた凄い人なのか?」
レイヴンの前に歩いてきたのは少し背が低い男だ。武器は腰につけている短剣だろうか。そして目が細い……というか糸目。
「ああ。悪い。こいつはレンジャーのレルムだ」
「あんた強いんだってね。よろしく頼むよ」
「まぁそれなりにな。ダイチだ。こちらこそよろしく頼む」
軽い挨拶をした後、光の玉が飛んできた。大きさは直径10~15㎝といったぐらいだろうか。その光の玉が大地の回りをぐるぐると旋回し顔の前で止まった。何事かと思ったらその光が消えていく。すると……昆虫の羽を背中から伸ばす女の子が姿を現した。
「妖精か!」
その驚いた一言で彼女は満足したように笑顔を見せる。
「そうよ。私はミルって言うの。得意なのは魔法よ」
一気にファンタジー感が増したな。ほー、しかし妖精なんているんだな。
もちろんいますよ?妖精、エルフ、ドワーフに……あと女神もここにいます。
そうだな。何時もたよりにしているぞ。
えへへ。
「それにしても貴方……不思議な感じね。一見、あまり強そうじゃないのに」
グサリと刺さる棘を真正面から刺してきたぞ。恐ろしい。まぁ、格闘技とか何もしてこなかったし、フルネールあっての力だからな。
「でも……底が知れないわ。正直、どんな理由であれ敵になってほしくないわね」
再びゆっくりと大地を中心に回り始めたミルが大地を値踏みするように観察する。その後、フルネールの方へと視線を向けるとこちらも首をかしげた。
「貴女も出不思議な感じがするわね」
「大地さん。私特別見たいですよ?」
嬉しそうに言うフルネールを見てミルは「気のせいなのかしら?」と呟いた。
「ま、いいわ。二人ともこれからよろしくね」
「ああ、よろしくな」
「そういや、ダイチさんはランクはどれくらいなんだ?」
レルムが聞いてきた事にたいして大地は素直に返す。
「俺はCランクだな」
「C!?」
レルムがまさかのランクだったことを聞いて驚く。それも無理はなく、今この場所に集められたのは最低でもAランクなのだ。アーデルハイドもそう銘打って集めていたのだから。
あれ?この流れはいつものお決まりか?
そう思った大地だかレルムは別の反応をする。
「なるほど。ダイチさんは名声を欲しがらない人なのかな」
大地のランクを聞いたレルムは考える。まず、大地が嘘をついた可能性に。だが、これはすぐさま無いと切り捨てた。自分達と同じ集めかたされていればAかSしかないのだからだ。正直、嘘をつくならSランクといった方が仲間を作りやすく、且つ他に舐められないだろう。
では、なぜCランクの大地が混ざっているか。アーデルハイド王女様がランクを見誤るわけがない。特にこの重要な依頼で……だ。
そして、レイヴンとミルの反応を考慮した場合、ランクでは計れない強さをもっている。それしか可能性が残らないのだ。
「おっと、これはまた初めての反応だな。大体のやつはランクで突っかかって来るんだけどな」
カイ青年とか名も知らない赤髪のBランクとか。もう印象薄いんじゃないだろうか。
「考えるのが俺の仕事だよ。と言っても短絡的じゃなければ誰でもわかると思うんだ」
「まぁまぁ、取り敢えず飯食おうぜ」
話が長くなりそうだと察知したレイヴンはそういったあと地面に何か四角い魔道具を置いた。そう思った次の瞬間にはビニールシートのようなものが出てきたのだ。魔道具って便利だな。
そのシートの上に座るとレイヴンが「ささ、兄貴たちもどうぞ」と言ってきてくれたので座らせてもらった。
雪の上なのに冷たくないのは凄い。
因みに何故かミルは大地の肩を椅子がわりに座った。
レイヴンはそれを見て「兄貴に失礼じゃないか」と言うのだが、ミルは「ファンサービスのつもりなんだけど退いた方がいい?」と聞いてきた。
ああ。この子は自分を見た反応で行動を変えられる子なんだな。
「妖精とあったの初めてで、そういうサービスはわりと嬉しいな」
そんなに重さは感じないが乗っていると言うことはわかる。それが特にファンタジーっぽくてテンション上がりそうなのだ。
そんな一幕がありつつも食事は開始された。
「兄貴たちはいつもどんな食事をしているんですか?」
大地やフルネールがおいしそうに食べているのを見て唖然とする。レイヴン達からしたら保存食と言うのは硬い肉で食いづらく、パンはパサパサしているし、チーズはボロリと欠けるような代物だ。正直な話としては胃に入れられる物程度の認識である。――いや、大体のAランク以上のメンバーはそういう認識だろう。
「ん?何って……基本は山菜とウォーラビットの肉だな。若しくは食えない時もある程度だが?」
「……んー?レイヴンからの話にもよるとダイチさんはあのリヴァイアサンを撃退したんですよね」
レルムの頭では理解が追い付かなかったらしく腕を組んで考えながら聞いてきた。
この手の話をすると頭のいい奴は大体理解してくれず大地は悲しみを覚える。
「あー、したした。中々物分かりのいい奴だったよ」
「物分かりがいいって……リヴァイアサンは言葉喋れるのかしら?」
肩に乗るミルが尋ねるとフルネールが口の中の食べ物を飲み込んでから口を開く。
「ええ。なんか痴情のもつれ見たいな会話が聞こえてきましたよ」
「お前……まだそれを引っ張るのか。っていうか会った事は無いのか?」
「兄貴、リヴァイアサンって言うのは基本出会う事は無いモンスターなんですよ。古い書物かそれを基に作られた話でしか出てこないんですけど、その古い書物の書かれた年代とかを考慮すると最後に人前に現れたのは1000年くらい前なんだ。その書物にも一瞬で国を亡ぼす力があるとか」
あー。あの凄いブレスかな?確かにアレをまともに受けた国は滅びそうな気がするけど。
「そんな昔なのか……でもリリアはリヴァイアサンについて少し知ってそうだったけど有名なのか?」
「結構有名だな。伝説として語られるモンスターの一つだから。ただ、リリア様ならその辺も調べていてもおかしくはないかもな」
レルムの一言が気になった。
「それは聖女だからか?」
「そうとも言えるし、そうとも言えないわよ。リリア様はちょっと特別だから……幼い時は本の虫だったみたいよ?」
ふむ?
あれですよ。伝説と聞いてリリアちゃんは調べたんだと思いますよ?
あーラノベでカッコいい神話の名前を知って調べる見たいな?
はい。リリアちゃんはああ見えて本が好きですからね。
「なるほどな」
「あなたリヴァイアサンと戦って見逃して貰ったのね」
ミルはどうやら大地が言った『物わかりが良い』という台詞から言葉巧みに危機を脱した。と、捉えたようだ。
「……そうなんだよ。情けないことにな」
あ、大地さん。今めんどくさくなりましたね?
「そんなこと無いわよ。あのリヴァイアサンに立ち向かって行っただけでも凄いのよ?もっと胸を張ってもいいのに……あなた変わっているのね」
少し前にも聞いたような言葉だな。
「不本意だがそうらしいな」
ミルにも変人呼ばわりされ少し傷つきながら、リヴァイアサンにも言われた事を思い出してそう呟くのであった。
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