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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる
星空と儚い夢
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「そういえば、大丈夫なのか?」
大地がフルネールを見ながら言ったことで自分に聞かれている事はわかったフルネールだが、その質問の意図が分からなかった。
「大丈夫って何がですか?」
主語が無い質問に対しては正確に答えを返す事なんて無理だ。だからこそその主語を求めて聞き返す。
「いや、確かお前って生物を傷つけちゃいけないってルールがあったよな。さっきのがそれに該当するのかわからないけど……」
被害者とは言え、少しでもかかわった大地は心配そうに聞く。そうするとようやくフルネールは大地の意図を理解すると、少し困惑した表情を見せた。
「えっと、あれ……?私、『魔法で傷つけちゃいけない』って言いませんでしたっけ?」
「え?あれ?ん~?」
自分の頭を探る様に大地は何日か前の記憶を思い出そうとするが……言葉の端々なんて覚えていない。
「という事は素手なら何も問題ないという事か?」
「はい♪心配してくれたんですね。ありがとうございます」
自分の思い過ごしだったからか、或いはフルネールの悪意のない笑顔で拍子抜けしたからか。どちらにしても大地は気が抜けた。
「そうか……何もないならいいんだが」
「えっと。何のお話ですか?」
安堵している大地と笑顔のフルネールの間にいるリリアが二人の顔を交互に見る。
「リリアちゃん。私のお話ですよ。私がこの世界にいる条件として魔法で誰かを傷つけちゃいけないお決まりなんです。それはモンスターも含まれてしまうので……」
「そうなんですね。それじゃあ頑張ってフルネールさんをお護りします!」
リリアが両手を自分の前に出しながら手を握り『頑張ります!』といった具合に意気込む。
「リリアちゃんは素直ですねぇ。大地さんは護るだなんて、そんな事を言ってくれなかったのに」
チラチラとフルネールは大地を見てくる。
「でも素手でなら撃退してもいいんだろ?」
「大地さん!モンスターに素手で向かっていけって言うんですか!?それとも武器を持って私にモンスターの首をはねろと!?」
「そこまで言ってねぇよ!」
全く。そう思いながら大地はリリアに目を向けるとアーデルハイドの髪の色を思い出し気になってしまった。
「リリア?ちょっと後ろ向いてくれるか?」
「え?あ、はい」
リリアが素直にくるりと振り返る。
「リリアちゃんに何か変な事をする気ですね!」
フルネールは驚くように言うがその目は少し期待に満ちているようにも見えなくはない。
「しねぇよ!」
フルネールの言葉を一刀両断した大地は再びリリアの方へと振り向くと徐にリリアの髪へと手を伸ばした。長い金色の髪は大地の指の間からスルリと離れていく程サラサラとしている。
触感はさておいて、この髪色が特にアーデルハイドと似ている触れて近くで見るとよくわかる。
そんな綺麗な髪の束を救い上げるように掌に乗せサラサラと落としたり、掌と親指で髪をはさんで滑らしたりと眺めていく。
「あの大地さん?変な事をしないんじゃないんですか?」
「え?」
フルネールが大地をジト目で見ながら抗議をする表情だ。
「え?じゃないですよ。もう、いきなり女の子の髪を弄ぶなんてダメですよ?犯罪ですよ?……ほらほら、リリアちゃんからも何か言ってあげてください」
「まじ……で?」
「え、えっと。わ、私は大丈夫…です」
リリアは顔を赤くさせながら固まったまま動かない。
頭を撫でられる時に髪に触れられる事は度々あった。それは別に大地だけではなく、フルネールやアーデルハイドおねえちゃ……お姉さまやクルスお兄様も撫でてくる事はあった。だけど、こうやってじっくり髪を触られたことはなく、何かむず痒さが溢れてくるのだ。
「お前たちはいったい何をしているんだ?」
大地とリリアの様子を横から少し眺めていたアーデルハイドが呆れ顔で言ってきた。
「アーデルハイドか。いや、リリアの髪がアーデルハイドと同じ色しているなって思ってな」
クールな様子を振舞いながらシレっと言って離れる大地だが、アーデルハイドに見つかり内心ではバクバクと悪い事をしたように心臓が早鐘を打つ。
「え!?……わ、私の髪色なんていっぱいいますよ?」
リリアのいう事ももっともだ。もっと奇抜なら今の不思議に思う感覚も分かるのだが、何故自分は気になったのだろうか?
「ん?それもそうだよな」
「あ、あー。もしかして大地さん。リリアちゃんの髪を触りたいからそんな事を言ったんですか?」
フルネールがジト目で見始めてきた。この流れは……ヤバい!そう思ったのだが、その流れをアーデルハイドが断ち切ってくれる。
「ふふ。何なら私の髪も触ってみるか?」
と思ったのだが、断ち切ってくれたかは少し疑問だ。
「いや、さすがに王女様であるアーデルハイドの髪を弄るのはちょっと……」
「ふむ。今更だと思うんだがな」
何気なく言ったアーデルハイドの言葉だが、それに強く反応したのはリリアだ。
「アーデルハイドお姉ちゃん!」
リリアの声にアーデルハイドが驚いているが、おふざけで言っただけで戒める様に名前を叫ぶ様に呼ばれれば驚きもするだろう。
「いや、やめておくよ。さっきもフルネールにみだらに触れれば犯罪だって言われてしまったからな」
いやぁまじで。リリアが「気持ち悪いので通報しますね」とかって言ってこなくて本当に良かった。というかあまり仲のいい女性でなかったら確実に通報案件かもしれん。
「そうか……。それはさておいて、部屋についてはすまなかったな」
「いえ、本来なら私とリリアちゃんが含まれていなかったでしょうし仕方ありませんよね?」
「え?何の話?」
「だが、ベッド一つしかないのは」
「それは何とかなりますよ」
「ねぇ?何の話?」
アーデルハイドとフルネールが話す内容に何とか割り込もうとする大地。嫌な予感しかしないのだ。
「いえ、ただベッドが一つしかないですよってお話ですから大地さんは気にしないでください」
なるほどー。リリアと2人部屋なら大変だもんな。
「一つの部屋に3人だからな。多少窮屈かもしれないが我慢してくれ」
「3人……?2人じゃなくて?」
「ん?聞いていないのか?部屋数が足りなくてな。ダイチとネールとリリアを一緒の部屋にするしかないんだ」
「まじで?」
「ちなみにリリアちゃんには大地さんが海の中へ落ちてしまった時にお話ししておきましたよ?」
「どの道もう出発してしまっているんだ。ダイチも諦めてくれ」
そう言って去っていくアーデルハイドを見送る事しか大地には出来なかった。
結局その後は諦めて3人部屋を承諾するのだが、正直、一人部屋や男だけの部屋より気を遣う。まぁそれはあちらもそうなのだろう。
そうこうしている内に夜がくる。今度こそリリアとフルネールはベッドに大地は床にという具合で就寝する……はずなのだが、なかなか寝付けない大地は寝ている二人を起こさずにふと外へとでた。昼とは全く違い夜の帳に覆われた甲板の上は辺りの暗闇の中で潮の匂いが協調され、上を見上げれば星空が一面に広がっていた。
自分以外に誰もいない……見張りなどを置かなくても大丈夫なのだろうか?そう思えるほどの静けさのおかげで波の音もよく聞こえてくる。その音以外にももう一つ別の音が聞こえ始めた。
足音?
そう思って振り返ろうとした時に声が聞こえてきた。
「ダイチさん」
よく聞き馴染んだ声……リリアだ。
「リリアか?眠れないのか?」
「……はい。絶対に見つけなきゃって考えちゃうとどうしても」
「気負い過ぎるのはよくないと思うぞ?」
「わかってはいるんですけど……難しいです」
少し困ったように苦笑するリリアの顔が星空から降る明りに照らされているものの、それでもこの帳の中でははっきりとその表情を見る事は出来ない。
「難しいか。それなら星空でも眺めていくか?なかなか綺麗だぞ」
甲板の上層に繋がる階段へと座る大地の後に続く様にその隣へとリリアは腰を掛けた。
「本当に綺麗ですね。あ、雪も降ってきましたよ?」
チラリチラリと降り出した雪。それは雪山が近くなってくる合図なのだが、船の上、周りは海原、天には満開の星空に雪というアクセントが加わって星空がより一層輝いて見える。その光景にくぎ付けになっているとリリアは一つの逸話を思い出した。
「ダイチさん。ドラゴンがいるってお話はした事有りますよね」
「ああ。竜の谷にドラゴンが住むとかっていうのを聞いたことがあるな」
「そのドラゴンの一種に『ソルリア』という戦死した勇敢な魂を運ぶドラゴンが居ると言われています」
「魂を運ぶ?」
「はい。運ぶ先はお空に輝くお星様まで連れて行ってくれると言われています」
「あの星にか?それは偉く高いところまで運んでくれるな」
「それだからそのドラゴンの体は星の光を浴びて白くなった。とか、神の使いだから白いと言われたりするんですよ」
リリアはその瞳を星に向けたまま続ける。
「そのドラゴンの話を思い出す度に思うんです。もし私が死んだら……聖女でも、あのたくさんあるお星様まで連れてってくれないかなって……」
「人間なのだからいつかは死ぬだろうけどよ、聖女だからってそこで差別されるのか?」
リリアは大地に視線を戻す。先ほどとは距離が違う故にその苦笑している表情をしっかりと大地は視認する。
「……聖女はほかの人と違うので出来ないってわかっているんです。だから、今言ったのは私のただの夢……みたいなものです」
「聖女だから……ねぇ。そんなに特別なものなのか?」
魔力が高いのは分かる。聖女にしかできない事があるのもわかる。だけど、それ以外はただの人だ。
「はい。私は人とは違うので……」
諦めにも似た雰囲気を感じ取る。だから少しだけイラっとした。それはリリアにではなく、リリアがそう思わなくてはならない程に敬遠してきた奴等にだ。
「それならいつか……俺があの場所まで連れてってやるよ?だが恐らくきっついぞ?」
その冗談のような言葉にリリアはクスクス笑う。流石の大地でも無理だろうとわかりつつも少しだけ期待をくれると気分も晴れやかに……楽しくなってくる。だから――。
「その時を楽しみにしていますね」
そうして雪が降る中、そう言ってはにかんだリリアの心にズキリと痛みが走った――。
大地がフルネールを見ながら言ったことで自分に聞かれている事はわかったフルネールだが、その質問の意図が分からなかった。
「大丈夫って何がですか?」
主語が無い質問に対しては正確に答えを返す事なんて無理だ。だからこそその主語を求めて聞き返す。
「いや、確かお前って生物を傷つけちゃいけないってルールがあったよな。さっきのがそれに該当するのかわからないけど……」
被害者とは言え、少しでもかかわった大地は心配そうに聞く。そうするとようやくフルネールは大地の意図を理解すると、少し困惑した表情を見せた。
「えっと、あれ……?私、『魔法で傷つけちゃいけない』って言いませんでしたっけ?」
「え?あれ?ん~?」
自分の頭を探る様に大地は何日か前の記憶を思い出そうとするが……言葉の端々なんて覚えていない。
「という事は素手なら何も問題ないという事か?」
「はい♪心配してくれたんですね。ありがとうございます」
自分の思い過ごしだったからか、或いはフルネールの悪意のない笑顔で拍子抜けしたからか。どちらにしても大地は気が抜けた。
「そうか……何もないならいいんだが」
「えっと。何のお話ですか?」
安堵している大地と笑顔のフルネールの間にいるリリアが二人の顔を交互に見る。
「リリアちゃん。私のお話ですよ。私がこの世界にいる条件として魔法で誰かを傷つけちゃいけないお決まりなんです。それはモンスターも含まれてしまうので……」
「そうなんですね。それじゃあ頑張ってフルネールさんをお護りします!」
リリアが両手を自分の前に出しながら手を握り『頑張ります!』といった具合に意気込む。
「リリアちゃんは素直ですねぇ。大地さんは護るだなんて、そんな事を言ってくれなかったのに」
チラチラとフルネールは大地を見てくる。
「でも素手でなら撃退してもいいんだろ?」
「大地さん!モンスターに素手で向かっていけって言うんですか!?それとも武器を持って私にモンスターの首をはねろと!?」
「そこまで言ってねぇよ!」
全く。そう思いながら大地はリリアに目を向けるとアーデルハイドの髪の色を思い出し気になってしまった。
「リリア?ちょっと後ろ向いてくれるか?」
「え?あ、はい」
リリアが素直にくるりと振り返る。
「リリアちゃんに何か変な事をする気ですね!」
フルネールは驚くように言うがその目は少し期待に満ちているようにも見えなくはない。
「しねぇよ!」
フルネールの言葉を一刀両断した大地は再びリリアの方へと振り向くと徐にリリアの髪へと手を伸ばした。長い金色の髪は大地の指の間からスルリと離れていく程サラサラとしている。
触感はさておいて、この髪色が特にアーデルハイドと似ている触れて近くで見るとよくわかる。
そんな綺麗な髪の束を救い上げるように掌に乗せサラサラと落としたり、掌と親指で髪をはさんで滑らしたりと眺めていく。
「あの大地さん?変な事をしないんじゃないんですか?」
「え?」
フルネールが大地をジト目で見ながら抗議をする表情だ。
「え?じゃないですよ。もう、いきなり女の子の髪を弄ぶなんてダメですよ?犯罪ですよ?……ほらほら、リリアちゃんからも何か言ってあげてください」
「まじ……で?」
「え、えっと。わ、私は大丈夫…です」
リリアは顔を赤くさせながら固まったまま動かない。
頭を撫でられる時に髪に触れられる事は度々あった。それは別に大地だけではなく、フルネールやアーデルハイドおねえちゃ……お姉さまやクルスお兄様も撫でてくる事はあった。だけど、こうやってじっくり髪を触られたことはなく、何かむず痒さが溢れてくるのだ。
「お前たちはいったい何をしているんだ?」
大地とリリアの様子を横から少し眺めていたアーデルハイドが呆れ顔で言ってきた。
「アーデルハイドか。いや、リリアの髪がアーデルハイドと同じ色しているなって思ってな」
クールな様子を振舞いながらシレっと言って離れる大地だが、アーデルハイドに見つかり内心ではバクバクと悪い事をしたように心臓が早鐘を打つ。
「え!?……わ、私の髪色なんていっぱいいますよ?」
リリアのいう事ももっともだ。もっと奇抜なら今の不思議に思う感覚も分かるのだが、何故自分は気になったのだろうか?
「ん?それもそうだよな」
「あ、あー。もしかして大地さん。リリアちゃんの髪を触りたいからそんな事を言ったんですか?」
フルネールがジト目で見始めてきた。この流れは……ヤバい!そう思ったのだが、その流れをアーデルハイドが断ち切ってくれる。
「ふふ。何なら私の髪も触ってみるか?」
と思ったのだが、断ち切ってくれたかは少し疑問だ。
「いや、さすがに王女様であるアーデルハイドの髪を弄るのはちょっと……」
「ふむ。今更だと思うんだがな」
何気なく言ったアーデルハイドの言葉だが、それに強く反応したのはリリアだ。
「アーデルハイドお姉ちゃん!」
リリアの声にアーデルハイドが驚いているが、おふざけで言っただけで戒める様に名前を叫ぶ様に呼ばれれば驚きもするだろう。
「いや、やめておくよ。さっきもフルネールにみだらに触れれば犯罪だって言われてしまったからな」
いやぁまじで。リリアが「気持ち悪いので通報しますね」とかって言ってこなくて本当に良かった。というかあまり仲のいい女性でなかったら確実に通報案件かもしれん。
「そうか……。それはさておいて、部屋についてはすまなかったな」
「いえ、本来なら私とリリアちゃんが含まれていなかったでしょうし仕方ありませんよね?」
「え?何の話?」
「だが、ベッド一つしかないのは」
「それは何とかなりますよ」
「ねぇ?何の話?」
アーデルハイドとフルネールが話す内容に何とか割り込もうとする大地。嫌な予感しかしないのだ。
「いえ、ただベッドが一つしかないですよってお話ですから大地さんは気にしないでください」
なるほどー。リリアと2人部屋なら大変だもんな。
「一つの部屋に3人だからな。多少窮屈かもしれないが我慢してくれ」
「3人……?2人じゃなくて?」
「ん?聞いていないのか?部屋数が足りなくてな。ダイチとネールとリリアを一緒の部屋にするしかないんだ」
「まじで?」
「ちなみにリリアちゃんには大地さんが海の中へ落ちてしまった時にお話ししておきましたよ?」
「どの道もう出発してしまっているんだ。ダイチも諦めてくれ」
そう言って去っていくアーデルハイドを見送る事しか大地には出来なかった。
結局その後は諦めて3人部屋を承諾するのだが、正直、一人部屋や男だけの部屋より気を遣う。まぁそれはあちらもそうなのだろう。
そうこうしている内に夜がくる。今度こそリリアとフルネールはベッドに大地は床にという具合で就寝する……はずなのだが、なかなか寝付けない大地は寝ている二人を起こさずにふと外へとでた。昼とは全く違い夜の帳に覆われた甲板の上は辺りの暗闇の中で潮の匂いが協調され、上を見上げれば星空が一面に広がっていた。
自分以外に誰もいない……見張りなどを置かなくても大丈夫なのだろうか?そう思えるほどの静けさのおかげで波の音もよく聞こえてくる。その音以外にももう一つ別の音が聞こえ始めた。
足音?
そう思って振り返ろうとした時に声が聞こえてきた。
「ダイチさん」
よく聞き馴染んだ声……リリアだ。
「リリアか?眠れないのか?」
「……はい。絶対に見つけなきゃって考えちゃうとどうしても」
「気負い過ぎるのはよくないと思うぞ?」
「わかってはいるんですけど……難しいです」
少し困ったように苦笑するリリアの顔が星空から降る明りに照らされているものの、それでもこの帳の中でははっきりとその表情を見る事は出来ない。
「難しいか。それなら星空でも眺めていくか?なかなか綺麗だぞ」
甲板の上層に繋がる階段へと座る大地の後に続く様にその隣へとリリアは腰を掛けた。
「本当に綺麗ですね。あ、雪も降ってきましたよ?」
チラリチラリと降り出した雪。それは雪山が近くなってくる合図なのだが、船の上、周りは海原、天には満開の星空に雪というアクセントが加わって星空がより一層輝いて見える。その光景にくぎ付けになっているとリリアは一つの逸話を思い出した。
「ダイチさん。ドラゴンがいるってお話はした事有りますよね」
「ああ。竜の谷にドラゴンが住むとかっていうのを聞いたことがあるな」
「そのドラゴンの一種に『ソルリア』という戦死した勇敢な魂を運ぶドラゴンが居ると言われています」
「魂を運ぶ?」
「はい。運ぶ先はお空に輝くお星様まで連れて行ってくれると言われています」
「あの星にか?それは偉く高いところまで運んでくれるな」
「それだからそのドラゴンの体は星の光を浴びて白くなった。とか、神の使いだから白いと言われたりするんですよ」
リリアはその瞳を星に向けたまま続ける。
「そのドラゴンの話を思い出す度に思うんです。もし私が死んだら……聖女でも、あのたくさんあるお星様まで連れてってくれないかなって……」
「人間なのだからいつかは死ぬだろうけどよ、聖女だからってそこで差別されるのか?」
リリアは大地に視線を戻す。先ほどとは距離が違う故にその苦笑している表情をしっかりと大地は視認する。
「……聖女はほかの人と違うので出来ないってわかっているんです。だから、今言ったのは私のただの夢……みたいなものです」
「聖女だから……ねぇ。そんなに特別なものなのか?」
魔力が高いのは分かる。聖女にしかできない事があるのもわかる。だけど、それ以外はただの人だ。
「はい。私は人とは違うので……」
諦めにも似た雰囲気を感じ取る。だから少しだけイラっとした。それはリリアにではなく、リリアがそう思わなくてはならない程に敬遠してきた奴等にだ。
「それならいつか……俺があの場所まで連れてってやるよ?だが恐らくきっついぞ?」
その冗談のような言葉にリリアはクスクス笑う。流石の大地でも無理だろうとわかりつつも少しだけ期待をくれると気分も晴れやかに……楽しくなってくる。だから――。
「その時を楽しみにしていますね」
そうして雪が降る中、そう言ってはにかんだリリアの心にズキリと痛みが走った――。
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