初めての異世界転生

藤井 サトル

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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる

魔道混合船メロウ

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「おおー。いい眺めだな」

 船の先頭部から大地達はその景色を満喫する。
 出港前とはいえ船が大きいからこそ眼前に広がる海原が視界いっぱいに映り、また、太陽の反射光によってキラキラとしていてとても綺麗な光景だ。

「大地さん。はしゃがないでくださいよ。みっともない」

 本日のおま言うスレはここですか?

 さんざんはしゃぎ倒したフルネールが大地の様子をみながら呟く。

「美女と少女に挟まれてるんですから、もっと別の反応してくださいよ。花より海ですか?」

「その諺は花違いだし、比べるなら食べ物にしとけよ……」

 フルネールが少し考えたあと口を開こうとしたが、先に大地に釘を刺される。

「変なこと言うなよ?」

 そう言って大地は口を塞ぐのではなくフルネールの頬を両手で少しだけ挟むようにした。

「ふひゅ……だいひひゃん。わはひのほほはほうえすは?」

「ごめん、何言ってるのかわからん」

 パッと手を離すとフルネールは再び同じことを言う。

 「うん、んん」と喉の調子を確認してコホンと一つ咳払い。そうして前段階を済ませたフルネールが言う。

「大地さん。私の頬はどうですか?って聞いたんですよ。柔らかかったですか?」

 ニヤニヤしながら聞いてくるフルネールに再び両手で頬を挟む。

「だから変なこと聞いてくるなって」

「ふひゅ……」

 そんなよくわからない声をあげた後、フルネールは大地の手を払いのける。

「もう!はしゃがないでくださいよ。みっともない」

 あれれ~。その台詞に親近感あるぞー?

「全く落ちたらどうするんですか?」

 この船の手すりは大地の腰からやや上辺りの高さで、リリアならギリギリ顔を出せるか。と言った具合だ。

「嵐が来るならわかるけどよ、手すりがこの高さならそうそう落ちないだろ?」

「わかりませんよ?例えば……」

 フルネールが大地の前に立つ。その両手は前につき出すようにして構えるところを見ると、どうやら大地の上半身を押してバランスを崩させて慌てる様子を見る算段なのだろう。

 リリアにもそれがわかったのか大地の隣から離れてその様子を見守……被害を被らないように避難する。そして、フルネールが動き出した。トテトテと、小走りで近づいてくる様は可愛いものだ。しかし、体重が軽いフルネールに押されたところでバランスを崩すわけがない。

「こうやって誰かに押され……」

 あと2~3歩の距離だっただろう。大地であれば後一歩の距離からでも身構えるには十分すぎる時間だ。だが、いくら反応速度や反射神経があれど大地が驚いて固まってしまった場合は意味が無い。例えば――。

「きゃっ!」

 とフルネールが何もないところで躓き、距離を一気に詰め寄った。その予想していない動きとフルネールが躓いたことによる心配で大地は固まる。そして、その動きを止めた大地のみぞおちにフルネールの頭が勢いよく突っ込む。

「ぐふぅ」

 この世界で……俺に痛みを与えたのはお前で二人目だ……。

 痛みのあまりに上半身を前へ折りたたむ様に曲げていく。しかし、その程度では終らない。

「大地さん大丈夫ですか!?」

 頭に当たった感触と大地の吐き出される様に出た声に驚き慌てたフルネールが何も考えず直ぐに退こうとして頭を上げた。

 ――ゴッ!!

 フルネールの後頭部と大地の顎が盛大に衝突した。

「ぐはぁ!!」

「きゃあっ!?」

 フルネールは痛みにより頭を抑えながらしゃがみ、大地はというと……顎に受けた痛みと衝撃により盛大に仰け反った。その結果……。

「うわああああああああああああ」

「ダイチさあああああああああん」

 リリアの叫びもむなしく大地の体は手すりを越えて船の外、母なる海へと落ちて盛大に水しぶきをあげた。

「と、とんでもない目にあった……」

 ずぶ濡れになって戻ってきた大地が嘆きながら呟くとフルネールが前から大地の頭へと手を伸ばす。そして、手に持っていた布で大地の頭を拭く。……のだが、フルネールは大地より身長が低いため背筋を伸ばさなければいけない。

 それは言い換えるとフルネールが胸を張る行動とおなじであり、大地は目のやり場に困るのだ。何せ目の前に大きな山が二つ……なんとかして顔を背けようとするが、フルネールに「ちょっと動かないでください。拭きにくいですよ!」と怒られてしまい、強制的に前を向けさせられる。

 フルネールが大地の頭を拭き終わると船の上空にホログラムのような画面が現れた。その画面にはアーデルハイドが映っている。

「これも魔法なのか?」

「いえ、これは通信用の魔道具の一つですね」

 リリアがアーデルハイドの通信映像に目を向けながら答えた。そして、アーデルハイドの口が動く。

「みんな、集まってくれた事に感謝する。そして、ようやく準備が整った。これより出港するぞ!」

 そのアーデルハイドの掛け声と共に甲板に出ている船員と戦員は「おおおおおーーーー!!!!」と大きく声をあげた。

 そして、自分の体がグラリと傾いたかと思いきや船が動き出した事を知る。
 
「これ、どうやって動いてるんだ?」

「操縦室で宝玉に魔力を流すと、船の底に取り付けてある宝玉が連動して水をある程度操れるらしいです。それによって前以外にも横や後ろにも行けるようにした最新式らしいですよ?名前は確か『魔道混合船メロウ』ってアーデルハイド王女様が構造については誰にも言っちゃダメだよって教えてくれました!」

 リリアが物凄い笑顔で物凄い機密情報を教えてくれた。彼女は今の話からそれに気づいているんだろうか?

「リリアちゃん。誰にも教えちゃダメってアーデから言われているなら、私たちにも教えちゃダメじゃないですか?」

「…………あっ!?」

 フルネールの指摘にリリアの一気に顔を青ざめた。

「あの、このことは内緒でお願いします」

 直ぐに表情を切り替えて「えへへ」と笑って誤魔化そうとするのはフルネールの影響だろうか。
 機密を漏らすと言う点ではかなりまずいのだろうが……ただ、何となくだけどそうやって誤魔化すリリアに悪い気はしてこない。

「あ、せっかくですし後ろの方へ行ってみませんか?」

「せっかく?」

 大地がフルネールの意図を理解できずに聞くのだが、フルネールは「いいからいいから。行きましょう!」と二人の背中を押す。
 そうして船の後ろ側へやってきたわけだが何がると言うのか全く分からない。

「ここに来てどうしようというんだ?」

 フルネールに目を向けて抗議するように大地は言う。

「もう……後ろの風景を見てくださいよ。海より花ですか?全く大地さんは……」

 あれ~?先ほどとは逆の事言われている気がするぞ?

 少々不満を感じながらも視線を移す。船の斜め後ろにはもう一隻船が有るのと……。

「なるほどな。これは少しロマンを感じるな」

「私は少し……感慨深いものがあります」

「そうでしょう?私達が居た大陸から離れて小さくなっていくのって目が離せなくなりますよね」

 少しずつ、少しずつ大陸が小さく見えていく。その光景にこれから自分たちは冒険が開始されるのだろう。もっとも今回のは依頼による探索ではあるのだが、それでも大地の……自分の少年心をくすぐられるのは確かにあったのだ。
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