初めての異世界転生

藤井 サトル

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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる

朝チュンは見られたくも無いが見たくも無い

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 朝目覚めると大地は身動きがとれないでいた。
 右腕にはフルネールが左腕にはリリアがなぜか俺の腕を占領しているからである。

 あれぇ?この二人ベッドで寝てただろ。布団までかけてあるし……。と言うか、油断すると俺の所有物(腕)は自由を奪われるのか。なるほど、勉強になるなぁ。

 引っ付いてくるフルネールはいつもの事として意識からはずしつつリリアを見る。リリアは流石にフルネールのようなことはしていないが、パジャマを少しだけ摘まんでいる。

 そうか、自由に出来ないのは腕じゃなく体か……。と言うか寝起きにこれは割りと心臓に悪いんだよな……。理性にもだが。

 このまま二人が目覚めるのを待つしかないか。幸いな事に閉じられた空間なら誰かに見られることは……。

 ――コンコン。

 突如ノック音が聞こえてきた。忘れてはならないのは……確かにここは閉じられた空間出はあるが宿屋の一室なのだ。プライベート空間ではない。つまり……。

「リリア様、朝食のご用意が整いました。失礼しますね」

 そういって鍵が開く音が聞こえてくる。

 まてっ!誰も返事してないのに入ってこようとするなあああああ!!

 そんな大地の心で叫ぶ魂の声は届くことはなく、扉を開けたメイドが一人、この部屋へ足を踏み入れる。

「リリア様」

 一歩、近づく音が聞こえる。しかもよりによって入ってきたのは女性である。

「お食事は」

 また一歩。近くなる。せめて男性なら情事と笑ってくれるかもしれない……いや、情事もなにもしていないんだが。

「食堂とお部屋の」

 一歩。近づいてくる音に耳を傾けるしかない大地。せめて通報されませんようにと祈るばかりだ。

「どちら……が……」

 最後の一歩。ついに見られた。その入ってきたメイドは固まったように見続けた。と思いきやくるりと振り返った。

「し、失礼しました」

 そう言って出ようとする誤解したメイドを逃せば、明日の朝刊は俺の話題で殺到だろう。マズイ。非常にマズイ。

「待て……」

 大地は何とかその声を振り絞って言った。

***

 リリアの借りている宿は中々に高級である。清潔なのはもちろんのこと行き届いたサービスは客を楽しませるのだ。それ故にこの宿は貴族が多く利用する。ただ過ごすだけならばただの高級宿なのだが、たまに来る女好きの貴族は……この宿の娘を高額で買ったりもしたという。

 その話をメイドのハンナ・マリアベルは女将から聞いていた。もちろん、宿の方針としては断ってもよいのだが、金払いのよさなどでは受け入れるメイドもいる。

 幸いにもハンナはそういった貴族に出会う事はないのだが自分も何れは貴族に買われることがあるかもしれない。と思うことがあった。しかし、そんなハンナに一つの部屋を専属メイドとして任せる仕事が舞い降りた。その部屋が聖女リリアの部屋だ。

 何故ハンナなのかと言うと彼女は頭も良く、思考の回転が速いからだ。一を知れば十を知る。そう言う人物なのだ。そして聖女の事をとても尊敬している。特にリリアは歴代の聖女の中でも珍しいほどに人と関わっているのだ。色んな人を助ける為にハンターとしてお仕事をする。だから尊敬するし、その人の部屋を任せられた事は自分の中で誇りにも思っている。

 だから今日もリリアよりやや低い胸を張りながら姿勢良くして、鼻唄混じりに廊下を歩き、やや薄いピンクの長髪を揺らしながらリリアの部屋前まで来た。

 そして、その運命の扉を開いてしまったのだ。

 部屋に入り一番最初に目に飛び込んできた一番気になる事。それは床で寝る男だ。オン・ザ・布団なのも気になる。しかし、その男の左右には聖女様と見知らぬ美女が添い寝しているではないか。美女の方は人目みてその美しさからどこかの王族なのだろうと推測すら出来る。

 床……なのがやはり気になりつつも、今の見た目を一言で言うならば女と遊んだ男。である。

 さて、ここで問題なのはこの男が何者か?である。
 そしてその問いのキーになるのが聖女様だ。

 聖女とは全国から特別な存在とされている。それはそれで理由があるものの敵対国からだろうと基本的には聖女への手出しは一切されない。例えリリアが敵国に赴き王様に直接挨拶をすれば、美味しい料理でもてなされ無事に帰してもらえるだろう。更に言うとある程度のわがままを言っても通せてしまう程だ。

 そんな彼女に床を一緒にさせた。と考えれば思いつくのがかなり高位の人なのではないだろうか。仮に美女がどこかの王族。或いはかなり位が高い貴族ともなれば、聖女様が一緒の床に入らなくてはならない存在の可能性が非常に高い。

 この時、ハンナは自分を呪った。なんて間の悪い時に入ってしまったのか。だ。入った時に男がまだ寝ているのであればそっと扉を閉じて見なかったことにすればいいだけなのだが、ばっちり目が合ってしまった。
 自分はメイドである。それ故に例え聖女様が脅されて床を一緒にしていたとしても口に出して抗議などしようものなら即刻首をはねられてしまうだろう。だから、ハンナはすぐにこの場所から逃げるしか選択肢は無かった。

「し、失礼しました」

 ものの1秒程で全てを考え抜いたハンナは振り返ってその部屋を後にしようとした。だが――失敗した。

「待て……」

 そう男が短く告げたのだ。
 ハンナは理解する。ああ、ここで止まらずに去ったら……恐らくその怒りの矛先は聖女やそこの美女に向けられてしまうだろう。と。

 そして、メイドを意味もなく呼ぶことはないだろう。用事があれば『待て』ではなく『持ってこい』となるはずだ。

 だから……この先、自分の身に起こる未来がどういうものかわかった。その上でハンナは踏みとどまり、心の不安を表す様に振るえながら大地に近づいて行った。
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