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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる
不安を解消するには安心するのが一番である
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脱いだ服はかごへと入れた。
何も着ていない……まさに一糸纏わぬ姿とはこの事だろう。
だが、風呂にはいるのに服など要らぬ。この身一つあればいい。
脱衣所から風呂場へと足を進めた。宿の一室についているだけの風呂と大地は侮っていたが中々どうして広いもので感嘆する。
「これくらいなら確かに二人は入れるか」
そう呟くと先ほどまで二人が入っていたことを少しだけ想像してしまった。
思考を変えるために頭を振ってから『湯船には入らなくても良いか。』と結論づけるがその直後にフルネールの声が頭に響く。
ゆっくり暖まって来てくださいね。この世界でほとんどの夜を外で過ごしていますし、私のせいで一人になることなんて殆ど無いのですから……。
このタイミングでフルネールがからかってこない事に驚くほか無かった。もし、通常運転ならば『どうです?美女と少女の残り湯は。お腹を壊さない程度には飲んでも構いませんよ?』などと言ってのけるだろう。
そんなんだからこそ先ほどの言葉は大地を気遣ってのものだとわかる。
ああ、ありがとう。そうだな、少しゆっくりさせてもらうよ。
そう返事を返してから大地は浴槽を見る。風呂はユーナさんに借りて以来だ。色々意識しそうな場面ではあるけれど……風呂に浸かればそんなことはすぐに忘れてしまう……と思う。
大地の入浴中、リリアとフルネールはベッドに腰かけて視線を合わせていた。
ただ、リリアの方は少しだけ表情に元気がない。
「私……このままで良いんでしょうか」
その言葉は後悔からくるものだとフルネールは分かっている。
「それは嘘をついた事に……ですよね?」
フルネールの核心突く言葉にリリアはただ「はい」と頷くだけだった。でも、その様子からリリアがどれほど辛く思っているのか。それが全部わかってしまう。
「ごめんなさい。私が嘘をつけるようになるといいって言ったからですよね」
ハッしたように顔を上げるリリアだが直ぐに首を横に振った。
「いえ。あの時……私がダイチさんに知られたくないって思ったから……私が自分で選んで嘘をついたんです」
だが、それからだ。ふとした時に胸に痛みが走るようになったのは。最初は気づかないふりをしていた。気のせいかな?くらいに。ただ、その胸に刺さった嘘という棘は次第に深く食い込んでいくなんてその時は思いもしなかった。
「なんでこんなに胸が……痛くなるんでしょう。昔一度だけ嘘をついた時は……こんなに痛くなかったのに」
痛みのせいか。それともただ胸がチクリと痛いだけで嘆く情けない自分を思ってからか。ついにリリアの声は震え小さくしゃくりあげてもいる。
「辛いなら大地さんに全部お話しちゃいますか?」
そうすれば楽になるかもしれない。いや、楽になるだろう。ただ、その後嫌われる。
「やだ、やだ。バレたくない」
涙をぽろぽろ零しながら首を振るう。
もし、全部伝えたら……嫌われる。だって、嘘をついているから。だって、騙しているから。だから言ったら嫌われる。
ずっと女神としてリリアを見てきたがここまで駄々をこねる様子を見せるのは初めてである。それはリリアがいい方向に変わったともいえるのだが、その結果としてはリリアをただ苦しめているようにも見て取れる。
「怖いですか?」
頷くリリア。
いっそ大地に告白でもして一緒にでもなればそこまで苦しまないだろう。だが、大地が頷くとはあまり思えないでもいる。その理由は常識人であろうとする心を持っているからだ。だからそんな無責任なアドバイスをする事が出来ない。
それに、仮にリリアがその気になって告白したとしても大地がもし断ってしまったら今のリリアは本当に心が折れてしまうだろう。
まぁ告白より先にリリアの想い抱く感情についてもっと理解してもらわないとダメでしょうけど。
「リリアちゃん。大地さんに嫌われるのが怖い理由。少しでも考えてみましたか?」
「考えてみましたけどわかりません。ギルドにいるハンターの人とも比較して見ました。その人たちに嫌われたらどうだろう?って。でも、私は怖いと思うより嫌われたらしょうがないって思っちゃいます。だって……聖女だから。けど、ダイチさんだけ嫌なんです。それがわからなくて……」
考えはできるものの、沸き起こる経験からの知識がない為、途中でかならず思考は止まってしまう。しかもその止まる理由すらおぼろげなのだ。
「そうですか。辛いでしょうけど、まだまだ時間はありますから……ゆっくり心を落ち着けて考えてみてくださいね」
横から言うのは簡単だ。だが言ったところでわかりはしないだろう。例えるなら『おじいちゃんに半重力装置の説明をする』ようなものだ。
年若いリリアならいずれきっときっかけを掴むだろう。ただ、掴んだら掴んだでその先にもやはり問題が……いや、酷な選択が待っている。フルネールはそれを知っていて尚、その先に進ませたい。
リリアちゃん辛いですよね……ごめんなさい。でも、きっとソレを知ることが必要になるはずです。
「さ、リリアちゃん。そろそろ大地さんもお風呂から出ると思いますので涙を拭いてください」
「はい……!」
乱暴にパジャマの袖でゴシゴシと拭うと、まだ落ち着いていない心のまま無理やり笑顔をフルネールに見せる。
「えへへ」
その直後に大地が浴室から出てきた。
「風呂ありがとな。久々にさっぱりした……何かあったのか?」
部屋に戻るや否や大地は何かの違和感を感じたのかそう聞くが、リリアやフルネールは横に首を振るった。
「いえ?特にありませんよ?」
フルネールがシレっとそう言うと大地は「そうか」と一言返事を返した。
その後、就寝時間となりリリアとフルネールは二人で同じベッドを使用し、大地は特に掛布団とかが無いためそのまま床でごろ寝した。ごろ寝自体はいつも通りなのだが、地面はそこまで固いわけでも無く風が吹いているわけでも無いため、過ごしやすさを感じる。
やっぱ家って大事だよな。絶対家買ってグータラすっぞ……。
そんな邪だらけの思想をしていく中で意識が薄れていった。
大地が寝息をたて始める中、リリアはまだ寝付けないでいる。隣のフルネールは眠っているのだろう。二人が寝ていると考えれば考える程、自分も早く寝なければと思うのだがそれが余計に睡眠を妨げる。
だが、目をつぶると先ほどフルネールとした会話が蘇り嫌な思考へと流れていく。それは全部ばらした結果として大地に嫌われてしまうと言ったもの。何度も『そうならない』と強く思うのだが思考はすぐに流れてくる。
「リリアちゃん。眠れませんか?」
「フルネールさん。起きてたんですか?」
「ふふ。リリアちゃんの寝顔を見る為に寝たふりしてただけですよ。……大地さんの事で悩んで眠れないって感じでしょうか」
やはり女神様に自分の考え何て全てお見通しなのだろうか。
「全てではないですよ?」
その思考さえ突っ込まれ少しだけぎょっとするものの、フルネールの目は優しいものであり怖さは感じない。
「はい。明日は大事な依頼なのに……」
「……わかりました。それでは、リリアちゃんの嘘がもしばれても嫌われないおまじないをしましょう」
「おまじない?」
「はい。大地さんが嫌わない様にするおまじないです」
そう言うとフルネールはベッドから出ると「あ、掛け布団を持ってもらえますか?」と掛け布団の端を持ちながら言う。
どこかに持って行くのだろうかと考えつつもフルネールのすることに興味をもったリリアは二人で布団を持ち上げるために端をもつ。
「まず大地さんに布団をかけてあげます」
自分達より大地さんを優先するためだろうか?そう思いながらも言われた通りに布団をかける。
「次に大地さんの腕を広げます」
リリアはいいのかな?と思いつつも少しドキドキしながらフルネールの真似をするように腕を動かす。これによって大地はTの字を体で表現するような姿勢になった。
「最後に一緒に布団にはいり、大地さんの腕を枕にして寝ます。この時のポイントは大地さんに甘えるようにくっつくことですよ」
既に布団へ入ったフルネールを見て驚く。自分も同じことをするのかと。リリアは恋を知らないだけで流石に羞恥心はもちろん持ち合わせている。故にフルネールの行為で顔を真っ赤にそめるのだが……何かに惹かれるように掛け布団をつまむとゆっくりと持ち上げていく。
リリアが入れるくらいの隙間を作ると、ベッドで寝る時に靴を脱いだ素足のまま片足ずつ入れていく。
そして、布団のなかに潜り込むと今度は大地の腕をじっと見る……今日は始めての体験が多い日だ。その中でも今やろうとしている事は何よりも恥ずかしいのだが、何よりも興味がある。そして、不思議なことに先ほど気にしていた事は既に吹っ飛んでしまっている。
「えと……し、失礼します」
そう小声で言っては見たものの大地は既に夢の中で聞こえるわけがない。逆に聞こえているとしたらリリアはきっと跳び跳ねるように布団からでたであろう。
ゆっくりと頭を下ろしていき大地の腕に乗せていく。不思議な感じ。そうとしか言い表せないが安心も覚える。ただ、フルネールが言った抱きつくに関しては流石にできそうになく、裾を掴むだけに留めて目を瞑った。
何も着ていない……まさに一糸纏わぬ姿とはこの事だろう。
だが、風呂にはいるのに服など要らぬ。この身一つあればいい。
脱衣所から風呂場へと足を進めた。宿の一室についているだけの風呂と大地は侮っていたが中々どうして広いもので感嘆する。
「これくらいなら確かに二人は入れるか」
そう呟くと先ほどまで二人が入っていたことを少しだけ想像してしまった。
思考を変えるために頭を振ってから『湯船には入らなくても良いか。』と結論づけるがその直後にフルネールの声が頭に響く。
ゆっくり暖まって来てくださいね。この世界でほとんどの夜を外で過ごしていますし、私のせいで一人になることなんて殆ど無いのですから……。
このタイミングでフルネールがからかってこない事に驚くほか無かった。もし、通常運転ならば『どうです?美女と少女の残り湯は。お腹を壊さない程度には飲んでも構いませんよ?』などと言ってのけるだろう。
そんなんだからこそ先ほどの言葉は大地を気遣ってのものだとわかる。
ああ、ありがとう。そうだな、少しゆっくりさせてもらうよ。
そう返事を返してから大地は浴槽を見る。風呂はユーナさんに借りて以来だ。色々意識しそうな場面ではあるけれど……風呂に浸かればそんなことはすぐに忘れてしまう……と思う。
大地の入浴中、リリアとフルネールはベッドに腰かけて視線を合わせていた。
ただ、リリアの方は少しだけ表情に元気がない。
「私……このままで良いんでしょうか」
その言葉は後悔からくるものだとフルネールは分かっている。
「それは嘘をついた事に……ですよね?」
フルネールの核心突く言葉にリリアはただ「はい」と頷くだけだった。でも、その様子からリリアがどれほど辛く思っているのか。それが全部わかってしまう。
「ごめんなさい。私が嘘をつけるようになるといいって言ったからですよね」
ハッしたように顔を上げるリリアだが直ぐに首を横に振った。
「いえ。あの時……私がダイチさんに知られたくないって思ったから……私が自分で選んで嘘をついたんです」
だが、それからだ。ふとした時に胸に痛みが走るようになったのは。最初は気づかないふりをしていた。気のせいかな?くらいに。ただ、その胸に刺さった嘘という棘は次第に深く食い込んでいくなんてその時は思いもしなかった。
「なんでこんなに胸が……痛くなるんでしょう。昔一度だけ嘘をついた時は……こんなに痛くなかったのに」
痛みのせいか。それともただ胸がチクリと痛いだけで嘆く情けない自分を思ってからか。ついにリリアの声は震え小さくしゃくりあげてもいる。
「辛いなら大地さんに全部お話しちゃいますか?」
そうすれば楽になるかもしれない。いや、楽になるだろう。ただ、その後嫌われる。
「やだ、やだ。バレたくない」
涙をぽろぽろ零しながら首を振るう。
もし、全部伝えたら……嫌われる。だって、嘘をついているから。だって、騙しているから。だから言ったら嫌われる。
ずっと女神としてリリアを見てきたがここまで駄々をこねる様子を見せるのは初めてである。それはリリアがいい方向に変わったともいえるのだが、その結果としてはリリアをただ苦しめているようにも見て取れる。
「怖いですか?」
頷くリリア。
いっそ大地に告白でもして一緒にでもなればそこまで苦しまないだろう。だが、大地が頷くとはあまり思えないでもいる。その理由は常識人であろうとする心を持っているからだ。だからそんな無責任なアドバイスをする事が出来ない。
それに、仮にリリアがその気になって告白したとしても大地がもし断ってしまったら今のリリアは本当に心が折れてしまうだろう。
まぁ告白より先にリリアの想い抱く感情についてもっと理解してもらわないとダメでしょうけど。
「リリアちゃん。大地さんに嫌われるのが怖い理由。少しでも考えてみましたか?」
「考えてみましたけどわかりません。ギルドにいるハンターの人とも比較して見ました。その人たちに嫌われたらどうだろう?って。でも、私は怖いと思うより嫌われたらしょうがないって思っちゃいます。だって……聖女だから。けど、ダイチさんだけ嫌なんです。それがわからなくて……」
考えはできるものの、沸き起こる経験からの知識がない為、途中でかならず思考は止まってしまう。しかもその止まる理由すらおぼろげなのだ。
「そうですか。辛いでしょうけど、まだまだ時間はありますから……ゆっくり心を落ち着けて考えてみてくださいね」
横から言うのは簡単だ。だが言ったところでわかりはしないだろう。例えるなら『おじいちゃんに半重力装置の説明をする』ようなものだ。
年若いリリアならいずれきっときっかけを掴むだろう。ただ、掴んだら掴んだでその先にもやはり問題が……いや、酷な選択が待っている。フルネールはそれを知っていて尚、その先に進ませたい。
リリアちゃん辛いですよね……ごめんなさい。でも、きっとソレを知ることが必要になるはずです。
「さ、リリアちゃん。そろそろ大地さんもお風呂から出ると思いますので涙を拭いてください」
「はい……!」
乱暴にパジャマの袖でゴシゴシと拭うと、まだ落ち着いていない心のまま無理やり笑顔をフルネールに見せる。
「えへへ」
その直後に大地が浴室から出てきた。
「風呂ありがとな。久々にさっぱりした……何かあったのか?」
部屋に戻るや否や大地は何かの違和感を感じたのかそう聞くが、リリアやフルネールは横に首を振るった。
「いえ?特にありませんよ?」
フルネールがシレっとそう言うと大地は「そうか」と一言返事を返した。
その後、就寝時間となりリリアとフルネールは二人で同じベッドを使用し、大地は特に掛布団とかが無いためそのまま床でごろ寝した。ごろ寝自体はいつも通りなのだが、地面はそこまで固いわけでも無く風が吹いているわけでも無いため、過ごしやすさを感じる。
やっぱ家って大事だよな。絶対家買ってグータラすっぞ……。
そんな邪だらけの思想をしていく中で意識が薄れていった。
大地が寝息をたて始める中、リリアはまだ寝付けないでいる。隣のフルネールは眠っているのだろう。二人が寝ていると考えれば考える程、自分も早く寝なければと思うのだがそれが余計に睡眠を妨げる。
だが、目をつぶると先ほどフルネールとした会話が蘇り嫌な思考へと流れていく。それは全部ばらした結果として大地に嫌われてしまうと言ったもの。何度も『そうならない』と強く思うのだが思考はすぐに流れてくる。
「リリアちゃん。眠れませんか?」
「フルネールさん。起きてたんですか?」
「ふふ。リリアちゃんの寝顔を見る為に寝たふりしてただけですよ。……大地さんの事で悩んで眠れないって感じでしょうか」
やはり女神様に自分の考え何て全てお見通しなのだろうか。
「全てではないですよ?」
その思考さえ突っ込まれ少しだけぎょっとするものの、フルネールの目は優しいものであり怖さは感じない。
「はい。明日は大事な依頼なのに……」
「……わかりました。それでは、リリアちゃんの嘘がもしばれても嫌われないおまじないをしましょう」
「おまじない?」
「はい。大地さんが嫌わない様にするおまじないです」
そう言うとフルネールはベッドから出ると「あ、掛け布団を持ってもらえますか?」と掛け布団の端を持ちながら言う。
どこかに持って行くのだろうかと考えつつもフルネールのすることに興味をもったリリアは二人で布団を持ち上げるために端をもつ。
「まず大地さんに布団をかけてあげます」
自分達より大地さんを優先するためだろうか?そう思いながらも言われた通りに布団をかける。
「次に大地さんの腕を広げます」
リリアはいいのかな?と思いつつも少しドキドキしながらフルネールの真似をするように腕を動かす。これによって大地はTの字を体で表現するような姿勢になった。
「最後に一緒に布団にはいり、大地さんの腕を枕にして寝ます。この時のポイントは大地さんに甘えるようにくっつくことですよ」
既に布団へ入ったフルネールを見て驚く。自分も同じことをするのかと。リリアは恋を知らないだけで流石に羞恥心はもちろん持ち合わせている。故にフルネールの行為で顔を真っ赤にそめるのだが……何かに惹かれるように掛け布団をつまむとゆっくりと持ち上げていく。
リリアが入れるくらいの隙間を作ると、ベッドで寝る時に靴を脱いだ素足のまま片足ずつ入れていく。
そして、布団のなかに潜り込むと今度は大地の腕をじっと見る……今日は始めての体験が多い日だ。その中でも今やろうとしている事は何よりも恥ずかしいのだが、何よりも興味がある。そして、不思議なことに先ほど気にしていた事は既に吹っ飛んでしまっている。
「えと……し、失礼します」
そう小声で言っては見たものの大地は既に夢の中で聞こえるわけがない。逆に聞こえているとしたらリリアはきっと跳び跳ねるように布団からでたであろう。
ゆっくりと頭を下ろしていき大地の腕に乗せていく。不思議な感じ。そうとしか言い表せないが安心も覚える。ただ、フルネールが言った抱きつくに関しては流石にできそうになく、裾を掴むだけに留めて目を瞑った。
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