初めての異世界転生

藤井 サトル

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雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる

全力の遊びを見られたら恥ずかしくなるよね

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 朝、回りの喧騒によって目をつむっている暗闇のなかで大地は目覚める。なにか何時もと違う騒ぎ方に違和感があるのだ。

 未だに眠気を帯びている瞼を開くといつも以上の人だかりが自分達を囲んでいた事がわかる。いや、違和感はそれだけじゃない。

 一人分の重さが自分の体にかかっている感覚だ。

 大地は恐る恐る下へ……自分の体へと視線を動かした。自分の胸に顔を埋めるフルネールが見える。何時もと違うのはくっつくというレベルではないことだ。

 完全に密着している。普段と違うのは横からくっつくのではなく、上から自分の体を押し付けるような感じになっていることだ。

 ただそれだけだであればフルネールを知るものからすればいつもの調子と思う人もいるだろう。問題なのは大地の腕の位置である。片方は使われることのなかった腕枕のために隣へ投げだされているのだが、もう片方の腕はがっしりとフルネールの背中を押さえつけている。

 つまり……今の状態はどこからどう見ても大地がフルネールの体を堪能するために抱き寄せているようにしか見えないのだ。

「う、うーん。どうしたんですか?」

 フルネール二度目の目覚めである。だが、上体を起こすことができず、目の前は大地の胸板だ。背中には逞しい腕らしきものが回されている。

 そして、思い出される今朝の出来事。フルネールはすべてを理解した。

「やーん。大地さんこんな朝早くから大胆なんですから♪」

 そう言って寝ていた時のように再び胸に顔を埋めた。

「おま、こんな時にその冗談は致命的だから!!」

 抗議する大地にフルネールは顔をあげて大地の上で寝るのを楽しんでいるように言った。

「でも、大地さんのぉ、かたぁい……腕が背中に回されてて起き上がれないんですよ?」

 途中の言葉をねっとりと言うフルネールだが、その効果は大地以外にも及ぼされ、近くの男性達を早歩きで場を離れさせた。

 残った女性たちの目線が痛い……と思いきや、フルネールの言葉で既におふざけであり『いつもの事か』といった風に大地とフルネールを風景を見るように意に介さずに歩き始めた。

「ところで大地さん。そろそろ腕を離してほしいなぁって」

 うっすらと今朝の事が思い出されてくる。フルネールに起こされ、ちょっとしたショックがあり、そして眠さのあまりにフルネールを引き込んだ記憶。

「あー、寝ぼけていたとはいえすまない」

 大地がパッと腕を離すと、解放されたフルネールは体勢によって視界は大地しか見えないため、手探りで地面を探す。

 少しだけ手間取りつつも地面を見つけたフルネールはようやく上体を起こすと立ち上がった。
 その瞬間、大地は勢いよく上体を起こすと飛び上がるように立ち上がった。

「ど、どうしたんですか?」

 その早さにフルネールが驚いて声をかけるが大地の返答は歯切れが悪い。それに少しだけ顔が赤い。

「い、いや。そろそろ起きないと、と思って……な」

 時間的にはそう考えてもおかしくはない。おかしくはないんだが……気にはなる。だから、少しだけ考えてしまった。

 大地が即座に起きた理由。自分が起きたことに関係ありそうだ。自分が離れたから?いや、それだとしたらあの早さで起きる意味はない。では、本当に起きようと思っての行動か?だが、あの歯切れの悪さはなにかを隠しているだろう。

 その隠しているものはなにか。大地の反応からして……やましいことではなかろうか?自分が立ち上がることで反応した?

 うーん?私が起きた直後に……寝ていた大地さんも起きざるを得なくて……顔をあか……く……する……。

 その直後、頬を赤くしたフルネールは自分のスカート部分を両手でバッと抑えた。

「大地さん……見ましたね?」

 フルネールの出した結論は『大地が自分のスカートの中を見たのでは』というものだ。そしてそれは半分当たって半分外れである。

「……信じるかわからないが、見えたのは太ももまでだ」

 その言葉が嘘か本当かは大地しかわからない。だが、だいたいこういう時の大地は嘘をつかない。それに、見られていたとしても自分が無防備だったせいでもあるのだ。

「むー。わかりました。信じますからこの話はもう止めましょう」

 まだ少し頬が赤いフルネールは大地から視線を外してそう告げる。大地としても太ももまでとは言え続けられるのも分が悪い気がするのだ。

「俺としてもそうしてくれると助かる。とりあえずギルドに入るか」

「よ!おっさん。こんなところで何してるんだ?」

 ギルド前で立ち尽くしているように見えたのか、大地達を見つけて声を掛けてきたのはCランクパーティのリーダーカイ青年だ。

「……って言うか、その人とパーティ組んでるのか?」

 カイが大地の近くにいるフルネールへ顔を向けた。カイはフルネールとまだあったことが無かったのだ。赤髪にフルネールが絡まれたときも、呪いの仮面のときもいなかったから。

「フルネールはハンター登録してないけどパーティと言っていいのか?」

 大地がフルネールに振り向きながら聞くと小首をかしげてわからないといった様子だ。

「は?」

 だが、カイ青年はそれが余りにも……非人道的に感じられた。

 それはハンター出はない人がパーティを組まずに一緒に行動する事はある。ただ、その大半が奴隷として扱うためだ。それ故に主人は奴隷にハンター登録を行わせず、少しの賃金でコキ使いまくる。更に女性と言うことはそれ相応のこともされていると考えられるだろう。

 もちろん、奴隷以外の組み合わせだって存在はする。例えば依頼人と行動する等だ。そちらは珍しすぎて若いカイ青年では考え付くのは難しいほどだが。

「あんた……やっぱり腐った野郎か」

 ギルド前で盛大に勘違いしたカイが剣を引き抜く。

 ええー。何これ、どんな展開?

 あー、これ、きっと私を奴隷として見てますね。昼は囮として、夜は大地さんのお供として使うと……でも、夜だけはあってますね!

 あってねぇよ!お供っつか、一緒に寝てるだけじゃねえか。

 大地さん。それ結局同じ意味に聞こえますよ?キャッ。

 無言で両手を頬に当ててくねくねしだすフルネールを無視してカイに掌をかざす。

「まて、何か勘違いしてるだろ!」

「勘違い?」

 カイがその言葉を素直に聞き入れてくれたのが幸いだ。少しずつ剣を下ろしてくれている。

 よかった。それにまだフルネールはくねくねしてるからなにも起きないだろう。

「カイ?どうしたのよ?」

 その後ろからカイのパーティメンバーであるセクシー戦士マリンと魔法使いの俺よりおっさんオーガスが後ろからやって来た。

 よし!更に常識人が来た。勝ったな!

「ダイチさん……その人は何?」

 一瞬にしてマリンから威圧と呼べるような声がきこえてきた。カイのただならぬ雰囲気を見事に感じとり、そして察したオーガスとマリンは睨んで来ている。

 いやもう本当にどういう展開だよ!

 その時である。ギルドの扉が開いてユーナの顔が見えた。彼女が来てくれたのだ。この場を納めてくれるに違いない。

「ダイチさん。流石に起きないと……あ、起きてますねおはようございます。今日のダイチさんとフルネールさんすごかったので……一回スルーしちゃいました」

 そう言って心配になった大地達を見に来たユーナは起きていることに安堵し、爆弾だけを残してギルドへと戻っていった。

「ユーナさんがスルーするほどの……すごいこと?この場所……で?」

 カイはそう思ったことをそのまま呟くと下ろしかけた剣先を上げて構える。それに次いでマリンは両刃の手持ち斧を、オーガスは杖の先端をこちらに向けてくる。

「やはり奴隷を買い始めたんだな!」

 王都ホワイトキングタムに奴隷売買は存在する。奴隷に落ちた人を商人が売り、金のあるやつが買う。どこの国も似たようなものだろう。しかし、他国とは違う点が一つだけ存在する。それは、奴隷商人とその購入者については国から一切関与しないと言うことだ。

 それは国から咎められることはないと言うことと、国から守られる事がないと言うことだ。

 そのせいか、この国で奴隷を売る人はごく少数であり、闇に潜んでいることが多い。更に購入者は奴隷を奴隷だとわからないように小綺麗にしたりパーティメンバーだとして偽装する。

 因みに奴隷についてはギルドからも関与することはできず、また個人情報の為にギルド登録しているかの有無も答えることができない。ギルドも国の公的機関なのだ。

 因みにの因みに、フルネールはその事を知っているが大地は知らない。

「いや奴隷じゃねえって!」

「今さらそんな言い訳するのは見苦しいわよ。あなたも買ったんだから知っているでしょ?奴隷商人と奴隷買いには人権がないって!!」

 何それ知らない。奴隷買うつもりないけどそんなに重いのか。そりゃ今まで見かけないはずだよ。闇討ちされるもん。

「抵抗してもいいわよ?三対一だけどね!」

 マリンが斧を振りかぶってこちらに走ってきた。


 俺 VS カイパーティ


 気は進まないが……吹っ掛けられた戦いだ。しかも『Kill youお前を殺す』と言われてんだ。なら、迎撃してもいいよね!

 振り下ろしてくる斧をあっさり避けるが、その避けた軌道上に炎の魔法が飛んで来る。さらに、その後ろからはカイが大地に目掛けて突進しているのも目で捉えられた。

 なるほど、これがランクCパーティーの連携と言うことか。俺はこのまま避け続けてもいいし、避けなくても良い。当たってもダメージにならんだろうな。

 だが、受けてダメージにならないのを見せるのは少し可哀想である。故に仕方なく避ける。

「よっと」

 炎を避けると軌道を変えたカイが横一文字に剣を振るう。だが、まだ振りは遅い。

 大地は振られた剣を上に蹴り上げて弾く。

「なんだと!!」

 数多くのモンスターを今の連携で仕留めてきたのだろうか。自信満々の連携攻撃をあっさり破られて驚き、カイは動きを止めてしまった。

「おいおい。敵を前にして止まったらダメだろ?」

 まるで大地は悪役だ。カイの首を片手でガシッと掴みながら言う。

「「カイ!?」」

 マリンとオーガスも動きを止めるしかない。今へたに動けばカイは死ぬだろう。自分達の攻撃をあっさり避けた大地は戦闘力がかなり高いと判断した。

「くそ……」

 そのカイも下手なことをしたら即殺されることはわかっている。だからこそ何もできない。そしてこれこそが奴隷商人や奴隷買いの特権でもある。強い人ならば相手を殺して自由に振る舞えるからだ。更に言うと相手を奴隷に落とすことすら出来てしまう。

「クックック。もうお仕舞いか?」

 大地は口許で笑みを作りながら言う。その言葉にカイ達は絶望する。このままカイを人質に全員を奴隷へ落とすかもしれない。

「さて……どうしてくれようか――」

「……ダイチさん。何してるんですか?」

 その真後ろから聞きなれた、でも、中々聞かない声質の……つまり、怒ったリリアの声が聞こえてきた。
 大地は悪戯がバレたガキのように汗をたらりと流しながら振り向いてリリアと後ろにグラネスが居ることを視認した。
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