初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族からは逃げられない

帰宅前の一騒動

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「ありがとう。これで十分に花を積むことができた」

 アーデルハイドは23本の竜魂花を手に持ちながらこの場にいる三人へ礼を言った。

「もういいのか?」

「ああ、23人分の花は摘めたな」

 その花を見つめるアーデルハイドはどこか悲しそうな表情を浮かべていた。

「そうか、それじゃあ帰ると――」

「皆さん気を付けてください」

 言いかけた大地の声はリリアの声にかき消される。それと同時に花畑に黒いか影が落ち、大きめな翼を羽ばたくような音も聞こえてきた。

「ワイバーンです!!」

 リリアの叫び声と共に大地は上空を見上げる。

 少し青みがかった体は一人分の人間を乗せて飛び回ることは余裕で出来そうだ。顔は爬虫類の独特な気味悪さがあり、その瞳は大地へと向けられている。足の爪はつかんだ獲物をそのまま息の根を止めそうなほど鋭利に尖っていて長い。

「これが……ドラゴンか……?」

「違います!ワイバーンですよ!ダイチさん!さっきも言ったじゃないですか!!」

「わかってる、わかってる。言ってみただけだ」

「遊んでる暇はないぞ!心してかかれ。ダイチ。こいつが先程言ったAランクとSランクの間にいるモンスターだ」

 ボケた大地にリリアが突っ込みアーデルハイドが諌めた。

 しかし、このモンスターずっと俺の方を見ているな。俺はオイシクナイヨー。

 試しに大地はトコトコと右へ移動してみる。するとワイバーンは首を動かして大地を視界に捉え続ける。今度は逆に左へトコトコと歩いて見ると、同じくしてワイバーンも首を動かした。

 うん、やっぱり俺狙いか。

 好かれてますね!?4人目の女の子をゲットですか。流石ですね!!

 その女の子は補食してきそうなんですが……せっかくだし、アーデルハイドの言う力試しとやらを終わらせるか。

 あー、じゃあお一人で倒すんですね!それなら私はリリアちゃんとアーデの三人で女子トークでもしてますから、終わったら言ってくださいねー!

 女子トーク……。

 洞窟での脳内女神の乱を思い出して苦笑いを浮かべながら、フルネールに『まぁ、ほどほどにな』と会話を送る。

「さて、アーデルハイドとリリア。どうやらこいつは俺をご指名見たいだからそっちでのんびりしててくれ」

 大地は既に移動済みのフルネールがいる場所へと親指を向けて言うが、アーデルハイドは拒否をする。

「何をバカな事を言っているんだ!まさか、私の依頼を真に受けているのか?」

「ダイチさん。私もお手伝いしちゃいけないんでしょうか……」

 声を張り上げるアーデルハイドとは対照的にリリアは沈んだ声で聞いてくる。

「リリア、お前こんなのと戦いたいのか?」

「そう言うわけでは……でも、ダイチさん一人に任せて私が休んでるなんて……」

「リリア、そういう話ではないだろう!?全員で戦わなければ危険だ!」

 リリアはさらに落ち込み、アーデルハイドはヒートアップ。カオスになってきた。そして、面倒にもなってきた。

「あー、とりあえずフルネール!あとは任せた」

 もう!また私ですか!

「アーデ?リリアちゃん。私に作戦があるのでこちらに来ていただけませんか?」

 隠れていた岩場の影からひょこっと顔を出したフルネールが二人を手招きする。
 いま、モンスターを目の前にしている状況であるにも関わらずに彼女の余裕さを見て、アーデルハイドは不思議に思いながら一先ず下がるようにフルネールへ近づく。

 リリアはリリアでフルネールに呼ばれては無視などできようはずもなく、大地を残す後ろめたさを感じながらもフルネールのもとへと小走りで近寄った。

「もっとこちらへ」

 そう言って二人が岩場の影で完全にみえなくなる場所まで誘導してからフルネールはどこからともなく大きく厚めの布を取り出した。(どこから取り出したかは秘密です)

「アーデはそちらの端を持ってください。リリアちゃんはこちらです」

 そう言って布の端を持たせ、ピンとはった布を地面へと敷いた。

「ありがとうございます。ささ、乗ってください。あ、靴は脱いでくださいね?」

 フルネールは靴を脱いでその布の上に座ってからそう言った。

「えっと、フルネールさん。これはなんでしょう?」

 リリアがフルネールの言う通りに靴を脱ぎ、その布の上へと座り出す。それを見たアーデルハイドも怪訝そうな表情を浮かべながらも続くように靴を脱いで座った。

「せっかくなのでピクニックですよ。お菓子も作ってきたので食べてくれませんか?」

 実際にお菓子を作ってきたのは呪いの仮面騒動の時だ。砂漠を行く前の準備で作っていたのだが出しそびれてしまったものだ。あれからだいぶ日にちが経っているのだが女神の不思議空間の中では時間が止まっているため何も問題はない。

「ネール。いまはそんな事している暇はないだろ!モンスターがいるんだぞ?」

「大丈夫ですよ。あの程度のモンスターで大地さんが負けるはずはありませんから。ここでゆっくりお茶してましょう?」

 そう言って次はどこからともなくティーセットを取り出す。白いティーポットとカップには花が描かれていてどこか上品さが醸し出されている。

「でも、フルネールさん。私は――」

「はい。あーん」

 しゃべっている途中のリリアの口へ無理やりクッキーを入れてかじらせる。

 ――サクッ。

 そんな小気味よい音ともにリリアの口に広がるのはバニラの甘い良い香りと砂糖の甘味が口一杯に広がった。そのとたん、リリアの顔が一気に破顔した。

「美味しい……です……」

 フルネールから受け取ったクッキーの二口目をリリアは口にする。

「さぁアーデも。あーん」

「いや、自分で食べるか――」

「あーん」

 有無を言わさない。そんな意思を表に出しながらフルネールはクッキーをアーデルハイドの口へと近づけていく。

 これは食べないと終わらないな。そう感じたアーデルハイドは諦めて口を開き、少しの恥ずかしさから頬を赤くしてクッキーへ顔を近づけていく。

 ――サクッ。

 リリアと同じように良い音をならしながら口一杯に広がる甘味の波を味わう。

「これは……美味しいな。城の中でもこれ程のは出ないぞ……」

 アーデルハイドもフルネールから渡されたクッキーを口に放り込む。
 その感想に満足しながらフルネールは紅茶も振るまうと女子トークは開始されたのだった。

「そう言えば、ネールはダイチとどういう関係なんだ?」

「関係ですか?うーん、そうですねぇ」

 少し考えたあとフルネールは良い表現方法を見つけた。

「一蓮托生ですね。大地さんのためなら何処までもついていってこの体を捧げます……」

 少し色っぽく言うフルネールだが、アーデルハイドとリリアは完全に冗談だと見抜いてた。

「体をねぇ。その割には戦闘に参加しなかった見たいだが?」

「攻撃できる魔法持ってないんですよ~。回復魔法ならだいたい出きるんですけどね。だから戦闘は全部大地さんにお願いしてます♪」

 寄生するパーティメンバーの台詞としか思えないが、現にクリスタルリザードとの戦闘でも大地の後ろに隠れ、大地はそれをよしとしていたのを知っているからこそアーデルハイドは特に咎めるようなことではないと認識する。

「アーデはどうしてそのお花を?」

 フルネールの瞳はアーデルハイドの横に置いた花に向いている事である程度の察しがついていると予想した。

「ああ、ベルナーに行った帰りにクラスターモンキーに出会って仲間を失ってしまってな……」

「……そうですか」

 自分達がいる町から南の森に向かい、そこから東へ突き進む。その先に一つの温泉が名物となる町。それがベルナーである。

「ああ。仲間たちを労る為に行ったのだが……」

 あの場所では出会うはずのないモンスターだ。クラスターモンキーが現れる場所というのはほぼ決まっている。それは王都ホワイトキングダムから南西の方角の遠く離れた地にあるジャングルでしかいないはずなのだ。だからこそ、フルネールですらそれが人為的である事は分かる。

「アーデ……。忘れるなんて事は嫌でしょうし出来ないでしょうから、私が言えることは感情に引っ張られ過ぎてはいけませんよ?」

「わかっている……わかっているんだが、それでも、あの場所へモンスターを召喚した奴が必ずいる。私はそいつを絶対に許さない」

 未だに誰が計画したか、実行に移したかの尻尾は掴めていない。だが、自然ではあり得ない以上、必ず明らかにして報いを受けさせる気迫がフルネールやリリアに伝わってくる。

「アーデ……」

「すまない。美味しいクッキーと紅茶を頂いている時に話すことじゃなかったな」

「それは良いんですけど……」

 出来れば力になってあげたいとフルネールは思う。だが、自分は思うように力を振るうわけにはいかない。そして、もしここで力になるなんて言ったところで戦闘になれば大地が代わりに戦う事になるだろう。それは流石に大地だって迷惑がるだろう。だが、アーデルハイドの悲しみは伝わってくるから……。

 ねぇ大地さん?

 どうした?今こっちは忙しいんだが?飛んでばっかで降りてこねぇんだよコイツ!!マジで某ゲームの閃〇玉とか召喚するか……あ、閃光手榴弾とかでいいのか?

 あの、もし、私のわがままでモンスターと戦う事になったら……どうしますか?

 ん?いいんじゃねえの?何か倒してほしいモンスターいるのか?ひと狩り行くか?

 その脳内会話の合間に大きな音と岩陰の向こうから強烈な光が一瞬だけ見えた。大地が何かしたのだろう。

 えっと、ゲームの話じゃないですよ?その、アーデの力になってあげたいんですけど……。

 ん?だからいいんじゃねえの?そもそも俺がここにフルネールを呼んだんだからな。必要なら俺を呼べよ。いくらでも手なんて貸すからよ。ってか一瞬怯むだけでコイツ落ちてこねぇ……。

 ……ふふ。ありがとうございます。ねぇねぇ大地さん?

 今度はなんだ?

 サービスでキスしてあげましょうか?

 お、口にか?

 頬です!も、もう!直ぐ調子に乗るんですから!

 ふむ。それじゃあそれを楽しみにいっちょ気合入れるか。

「ネール?どうした?黙ってるが何かあったのか?ん?少し顔が……」

「い、いえ、アーデ。もし何かあったら私や大地さんを頼って……力になりますから約束してください」

「ネール。だが……」

 迷うアーデルハイドにリリアもしっかりとした口調で言う。

「アーデルハイドお姉ちゃん!私も何かあったら手伝います!だから、一人で無理はしないでください」

 アーデルハイドはたまった肺の中の空気を一息で吐き出した。二人がそう言うということは自分はそこまで張り詰めているように見えたのだろうか。
 二人の心配そうな顔を見るに恐らくそうなのだろう。

「わかった。何かあったら二人に話す……頼りにさせてもらうよ」

 その直後に大地がいる方向から爆発音が聞こえてきた。そしてその数秒の後に「終わったぞー!」という声が聞こえてきた。

 三人がその後、大地のいる場所に近寄ってみるとそこには首から上が爆ぜてなくなったワイバーンの死体があった。

「どうしたらこんな事になるんだ?」

 答えは簡単で閃光手榴弾で怯ませた一瞬の隙に手榴弾を口の中にねじ込んで爆発させただけなのである。
 だが、それを伝えたところで全部を理解するのはまず無理だろう。それ故に大地は簡単に答えた。

「これも俺の魔法だ」
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