初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族からは逃げられない

年月が経てば人は変わる。それこそが成長というもの

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 どうしましょう。大地さんは優しいからああ言ってくれましたけど。でも、私は怖いです……。もし私の家の事を知って態度が変わってしまったら?もし今のこうして大地さんとの楽しい日常が壊れてしまったら?

 それに私は嘘もついちゃいました。フルネールさん……いえ、女神様は嘘の一つや二つつけれるようになればいい。とおっしゃって下さいましたが……もしその嘘がバレて嫌われてしまったら……怖い。

「リリア?」

 深刻な顔をして俯いているリリアを気にかけたアーデルハイドが名前を呼んだ。その声がリリアに届いたのは三度目に呼んだ時のことだった。

「あ、はい。なんでしょう?」

「大丈夫か?」

 アーデルハイドお姉ちゃんはいつも私の事を気にしてくれる。たまにそれが煩わしく思い酷い言葉を投げ掛けてしまった事もあったけれど、最後にはアーデルハイドお姉ちゃんは笑って許してくれて、解決策を探してくれる。

 だから、今の良くわからない嫌な憂鬱も話せばきっといい方向にいくのかもしれない。だけど……。

「私は大丈夫ですよ」

 そう言ってまた一つリリアは嘘をつき心を傷つける。ただ、少しでもその心を騙す為に一つだけ思う。ただの心の有り様なので考え方を変えれば嘘にならないはず。と。

「そうか。ならいいが、もうすぐ目的の場所に到着するから警戒はしておくんたぞ?」

「はい。そう言えばアーデルハイドお姉様?」

「ここには五月蝿い奴もいないし、いつも通りの呼び方で構わないよ」

 アーデルハイドの心遣いにリリアは「うん」と頷いてから名前を呼び直す。

「アーデルハイドお姉ちゃんはここになにしに来たのですか?」

「私は……ここに花を取りに来たんだよ」

「竜の谷に咲く花って確か……」

 自分の頭の中を探るようにリリアはこの場所で咲く花について思い出す。

竜魂花りゅうこんかですか?」

 竜の種類によっては魂を運ぶドラゴンと認識されるモンスターがいる。竜魂花とはそのドラゴンに因んでつけられた名前だ。

 ドラゴンとは知能があり普通のモンスターとは一線を引かれる存在でもあるのだが、とりわけ魂を運ぶとされるドラゴンはそれらよりも上位種にあたる。

 そして戦闘力に関して言えばSランクは当たり前である。以前に大地が倒した海龍と言うモンスターがいるが、一番弱いドラゴンでも同格とされており魂を運ぶとされるドラゴンは計り知れない強さを持つと言われている。

 もっとも一部の場所以外でドラゴンと出会う事はそうそうありはしない。ドラゴン達は自分の縄張りからは基本的に出ることはない。

 そう、一部の場所と言うのは自分の縄張りだ。更に言うと縄張りに入ったらそく狩に来ると言うわけでもない。無礼さえ働かなければ牙は向いてこないのである。

 もちろん例外は存在するが、そんな例外のドラゴンと当たる確率なぞ200万文の1程度だろう。

 前置きが長くなったが、竜魂花は勇敢に戦死を遂げた仲間がドラゴンに運ばれて魂が天へと帰れることを願うための花だ。

 ただ、こんな危険な場所でしか咲かないため、普段はよっぽど親しまれている兵士にしか送られることはない。

「そうだ。私のせいで多くの仲間が死んでしまったから……せめての手向けにな」

 いるはずもないクラスターモンキーの手によって失ってしまった親衛隊の部下達。その彼ら、彼女らに少しでも手向けとして供えてやりたくてここまで来たのだ。

「でもあれは……」

 リリアが言いたいことは理解している。そう、あの場所にクラスターモンキーが居たことは明らかに人為的……つまり人の手が加わっていることだ。

「私もそう思う。だが、Sランクのモンスターをあの場所れいきなり呼び出すなんて本当が全くわからない。呼びだした理由は国落としだろうが……。ただ、私のピンチの時に現れた大地が私を救う。その事について考えるとあまりにも出来すぎた英雄譚だと思っていたよ」

 リリアはようやくここに来てわかる。アーデルハイドは大地をずっと疑っていたのだと。

 もし大地が本当に国を落とす事を目的としてアーデルハイドの信頼を得るためにモンスターをけしかけ、そして聖女である自分を身内の仲間にするように動いていたのなら……非常に狡猾だと言わざるを得ないだろう。

「でも、お姉ちゃん。私は……ダイチさんは……敵じゃないと思う」

 そうだ。きっと敵じゃない。何せ彼は見返りを求めるよりも面倒と言うイメージだけで助けたアーデルハイドと一言も話さずに逃げたのだ。

 それだけじゃない。海龍の時も体をはって巨大な氷から助けてくれた。熱を出したときに自分のお金もないのに高価な食材で美味しいものを食べさせてくれた。砂漠にも自分のわがままで付き合ってくれた。何より本当の女神様もついているのだから。だから――。

「ううん。思うんじゃなくて、絶対に敵じゃないよ!」

 大地を信じる。信頼する。

 その強い意思を瞳に宿しながら言うリリアの顔を見てアーデルハイドはクスクス笑い始める。

「言っただろう?思ってたって。今は敵じゃないと私も思う。何せ自分の魔法についてしゃべるどころか、体内の魔力まで調べさせてくれるほどのお人好し。若しくは何もわかっていないスケベな男か。だな」

 その評価もそれはそれで複雑な顔をリリアはする。

「す、スケベってダイチさんが?」

「ああ、私に手を握られて顔を赤くしていたからな。あれはきっとやましいことを考えていたかもしれん。ああ、それとも考えないように頑張っていたか。その辺りだろう?」

 そう自分で言ってアーデルハイドは今度は大地の顔を思い出してクスクス笑う。

「まさか、王女の私にそんな顔出来るほど豪胆な男だとは思わなかったな。私の身近にいる奴らなんて殆ど委縮するぞ?」

「お姉ちゃん……楽しんでます?」

「さぁどうだろうな?ただ、アイツのお陰でな陰鬱な気持ちが少し和らいだのも事実だが」

 ああ、少しだけ楽しませてもらったのかもしれない。もし、そうでなければ私は恐らく……足どりを重くしてここに来るまでもっと時間が掛かっていただろう。

「リリア。今の国は何か不穏な影を纏っているから、しっかり気を付けてくれ」

「はい!私はギルドにいますし何かあっても対処できます!これでも色々な経験しましたから。だから私よりお姉ちゃんとお兄ちゃんが心配です」

「そうか……」

 最後にモンスターと一緒に戦ったのは何時だったか。先の戦いをみても、あの頃に比べて魔力も魔法も……心も強くなったとリリアを見ながら感じるアーデルハイド。

「もう、リリアは昔のように守られるだけではないのだな」

「そうですよ!それにお姉ちゃんと最後にモンスターと戦った時の私は8歳ですよ?」

「そんな昔だったか……」

 少しずつ思い出される昔のリリアはお兄様よりも自分に引っ付いてきていた。隠れるようにアーデルハイドの後ろにいたのが今は懐かしく感じる。

 アーデルハイドは隣に歩くリリアへと視線を移す。

 そんな彼女が今では真横でならんで歩いているのだ。そんな成長したリリアならば大地の言う通りこの後の依頼について教えて判断を任せてもいいのかもしれない。

 アーデルハイドは神妙な顔をしてリリアに迷っていたことを告げる事にした。

「リリア?」

「なんですか?」

「今から大事な話をするから聞いてくれるか?」

「……はい!でも、どんな話ですか?」

「……クルス・ロウ・ホワイトお兄様の現状の話だ」
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