76 / 281
雪夜咲く、美人の笑顔に、満ち足りる
子供と大人の中間は大変です
しおりを挟む
あの時…… 自分の名前を聞かれてドキンと心臓がひとはねしたのを感じた。今まで名だけを教えていたのは大地に知られたいと思わなかったからだ。
答えたときは衝動的に……だった。口が勝手に『リリア・フローライト』と言ってしまっていた。その時に訂正しようとも考えた。けど、どうしても言うことが出来なかった。ただ……あの日から刺さる胸の刺が……辛い。
「リリア。大丈夫か?」
大地にご飯を渡したあと隠れるように入ったテントの中でアーデルハイドがリリアの名前を心配そうに呼んだ。
アーデルハイドは当たり前だが女性であり、且つ、リリアの姉だ。そんなリリアの表情に影がさしていれば当然気になる。
「お姉ちゃん……私、ダイチさんに嘘ついてて……」
どんどん声が沈んでいく。大地に嘘をついたと罪の意識を感じる度に、そして、大地と話しててふと感じた罪の意識によって胸の痛みは肥大していく。
「ああ。名前のことだろう?」
「うん。ダイチさんは王族も貴族も関わりたくないって言ってて……だから、私の名前。嘘……ついちゃった。フローライト何て名前じゃないのに……」
リリアが名前を偽っていたのは知っている。ただ、それについてなにも言わなかったのはリリアは実の家が嫌いなんじゃないかと思ったからだ。
「そうか……」
そこで気づく。『王族の私がダイチに近づいたからリリアが言い出せなかったんじゃ?』と。
何せリリアまで王女だと『リリア・ロウ・ホワイト』だと名乗れば王族を敬遠するために逃げる可能性もあるかもしれない。リリアはもしかしたらそう考えたのかもしれない。
「それからずっと……辛いの。お姉ちゃん何でこんなに辛いの……!」
「リリア……」
目に涙を浮かべているリリアをアーデルハイドは真正面から抱き締める。胸の中でしゃくりあげるリリアを抱きしめ頭を撫でる。
少しでも良い。リリアが落ち着くように。
少しでも良い。リリアの痛みが消えるように。
そして気づいてほしい。その辛さはある特有の思いを抱ける人物がいなければ起こり得ない感情だということに。
今までのリリアでは無縁なものだったその感情は大切なものだ。だからこそ理解は難しく困難だろう。
「リリア?ダイチに本当の名前を言っても良いんじゃないか?」
「いや。嫌われちゃう。怒られちゃう」
何時ものリリアらしくない子供っぽさを全面に出すように胸の中で必死に首を横に振るうリリア。その様子からでもアーデルハイドは確信をもって言った。
「リリアはダイチに恋をしているんだね」
少し落ち着いてきたリリアにアーデルハイドが言うと、胸の中から離れたリリアが首をかしげる。
「恋?……って何ですか?」
何時もリリアにあったのは人を守りたいと思うことだけ。そう育てられたとかではない。他の人が淡々とした態度で接してきても……関わってきた人がふと見せる感情に好感がもてたから。だから、人を好きになる。とりわけ感情をほぼむき出しにしてくる大地は別格だ。見てても、話してても楽しい気分になるから。ただ、そこまでしか知らない。
一緒にいて楽しいから好き。大地に対してもそれと同じ感覚だとリリアは思う。
「んー?特別に好きって思える人のことだ」
「特別に?」
あまりピント来ない様子だが、何かを察したリリアはアーデルハイドに言った。
「それなら私はアーデルハイドお姉ちゃんにも恋をしているんですね!!」
「違う!」
と、否定したもののどう答えたら良いか。恋の経験値的なものがないアーデルハイドとしては、リリアよりも有る、なけなしの知識を探るのだが……残念何も出てこない。
「違うんですか……?」
再び「うーん?」と考えるリリア。アーデルハイドが言った『特別』と言う意味を考える。大事、と言う点ではアーデルハイドも大地も同じだ。なのにアーデルハイドとは違うというのなら異性の話かもしれないと気づく。それであるなら……。
「あ!それなら!クルスお兄ちゃんにも私は恋をしているんですね!!」
「違うっ!!」
自分の時よりも強めにアーデルハイドは否定をした。何せ今リリアが言ったことは禁断とも言えるだろうから。
「今のは絶対に誰にも言ってはダメだぞ!?わかったな!?」
アーデルハイドは念を押すようにリリアの両肩を掴んで言い聞かす。
「え?え?何でですか?私はダイチさんもアーデルハイドお姉ちゃんもフルネールさんもクルスお兄ちゃんも好きですよ?」
無垢な表情で言うリリアだ。今まではそう言う感情に縁がなく、『恋』という言葉を知らなかったからアーデルハイドもクルスもほほえましく見ていたのだ。
「よし、わかった。今の話は忘れてくれ」
リリアの気持ちを助けてやりたいのは確かだ。だが、それで『クルスお兄ちゃんに恋をしてます!』何て言いふらし出したらお兄様は終わるだろうし、リリアも変な目で見られてしまうだろう。
ならば、言わないようにしてもらうのが一番だ。と言うか『もうダイチに丸投げするしか無いだろう』と考える。こんなにもリリアの心を動かしたのだから。
「え……っと。わかりました」
結局解決の糸口にはならなかったものの、胸に残る痛みは泣いたことで少し収まってくれたから……きっとまた明日、ダイチとは笑顔で話せるとリリアは思うのであった。
答えたときは衝動的に……だった。口が勝手に『リリア・フローライト』と言ってしまっていた。その時に訂正しようとも考えた。けど、どうしても言うことが出来なかった。ただ……あの日から刺さる胸の刺が……辛い。
「リリア。大丈夫か?」
大地にご飯を渡したあと隠れるように入ったテントの中でアーデルハイドがリリアの名前を心配そうに呼んだ。
アーデルハイドは当たり前だが女性であり、且つ、リリアの姉だ。そんなリリアの表情に影がさしていれば当然気になる。
「お姉ちゃん……私、ダイチさんに嘘ついてて……」
どんどん声が沈んでいく。大地に嘘をついたと罪の意識を感じる度に、そして、大地と話しててふと感じた罪の意識によって胸の痛みは肥大していく。
「ああ。名前のことだろう?」
「うん。ダイチさんは王族も貴族も関わりたくないって言ってて……だから、私の名前。嘘……ついちゃった。フローライト何て名前じゃないのに……」
リリアが名前を偽っていたのは知っている。ただ、それについてなにも言わなかったのはリリアは実の家が嫌いなんじゃないかと思ったからだ。
「そうか……」
そこで気づく。『王族の私がダイチに近づいたからリリアが言い出せなかったんじゃ?』と。
何せリリアまで王女だと『リリア・ロウ・ホワイト』だと名乗れば王族を敬遠するために逃げる可能性もあるかもしれない。リリアはもしかしたらそう考えたのかもしれない。
「それからずっと……辛いの。お姉ちゃん何でこんなに辛いの……!」
「リリア……」
目に涙を浮かべているリリアをアーデルハイドは真正面から抱き締める。胸の中でしゃくりあげるリリアを抱きしめ頭を撫でる。
少しでも良い。リリアが落ち着くように。
少しでも良い。リリアの痛みが消えるように。
そして気づいてほしい。その辛さはある特有の思いを抱ける人物がいなければ起こり得ない感情だということに。
今までのリリアでは無縁なものだったその感情は大切なものだ。だからこそ理解は難しく困難だろう。
「リリア?ダイチに本当の名前を言っても良いんじゃないか?」
「いや。嫌われちゃう。怒られちゃう」
何時ものリリアらしくない子供っぽさを全面に出すように胸の中で必死に首を横に振るうリリア。その様子からでもアーデルハイドは確信をもって言った。
「リリアはダイチに恋をしているんだね」
少し落ち着いてきたリリアにアーデルハイドが言うと、胸の中から離れたリリアが首をかしげる。
「恋?……って何ですか?」
何時もリリアにあったのは人を守りたいと思うことだけ。そう育てられたとかではない。他の人が淡々とした態度で接してきても……関わってきた人がふと見せる感情に好感がもてたから。だから、人を好きになる。とりわけ感情をほぼむき出しにしてくる大地は別格だ。見てても、話してても楽しい気分になるから。ただ、そこまでしか知らない。
一緒にいて楽しいから好き。大地に対してもそれと同じ感覚だとリリアは思う。
「んー?特別に好きって思える人のことだ」
「特別に?」
あまりピント来ない様子だが、何かを察したリリアはアーデルハイドに言った。
「それなら私はアーデルハイドお姉ちゃんにも恋をしているんですね!!」
「違う!」
と、否定したもののどう答えたら良いか。恋の経験値的なものがないアーデルハイドとしては、リリアよりも有る、なけなしの知識を探るのだが……残念何も出てこない。
「違うんですか……?」
再び「うーん?」と考えるリリア。アーデルハイドが言った『特別』と言う意味を考える。大事、と言う点ではアーデルハイドも大地も同じだ。なのにアーデルハイドとは違うというのなら異性の話かもしれないと気づく。それであるなら……。
「あ!それなら!クルスお兄ちゃんにも私は恋をしているんですね!!」
「違うっ!!」
自分の時よりも強めにアーデルハイドは否定をした。何せ今リリアが言ったことは禁断とも言えるだろうから。
「今のは絶対に誰にも言ってはダメだぞ!?わかったな!?」
アーデルハイドは念を押すようにリリアの両肩を掴んで言い聞かす。
「え?え?何でですか?私はダイチさんもアーデルハイドお姉ちゃんもフルネールさんもクルスお兄ちゃんも好きですよ?」
無垢な表情で言うリリアだ。今まではそう言う感情に縁がなく、『恋』という言葉を知らなかったからアーデルハイドもクルスもほほえましく見ていたのだ。
「よし、わかった。今の話は忘れてくれ」
リリアの気持ちを助けてやりたいのは確かだ。だが、それで『クルスお兄ちゃんに恋をしてます!』何て言いふらし出したらお兄様は終わるだろうし、リリアも変な目で見られてしまうだろう。
ならば、言わないようにしてもらうのが一番だ。と言うか『もうダイチに丸投げするしか無いだろう』と考える。こんなにもリリアの心を動かしたのだから。
「え……っと。わかりました」
結局解決の糸口にはならなかったものの、胸に残る痛みは泣いたことで少し収まってくれたから……きっとまた明日、ダイチとは笑顔で話せるとリリアは思うのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
154
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる