初めての異世界転生

藤井 サトル

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王族からは逃げられない

天然トラップは防げない

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 目の前には大きな崖だ。きっと空から見れば縦に大きな亀裂が入っているように見えるだろう。辺りには草木がなく乾いた大地のように白や茶色い地層が見えてくる。まさに断崖絶壁という言葉がふさわしいところだ。

 ここで不思議なのがその壁の途中途中に色々な色で光る鉱石が見える。まるで色とりどりの宝石がくっついているみたいだ。それも原石ではなく磨かれて透明感がある綺麗な姿だ。

「ここが……谷か……」

「竜の谷と呼ばれていてな。噂ではドラゴンが住んでいるらしい」

 横に立つアーデルハイドが谷底を見下ろしながら知識を与えてくれる。ありがたい。

 それくらいなら私だって答えられますよー!

 ほほう?

 ここはですね。その、ほら?大きいドラゴンさんが住んでるんですよ!

 噂じゃなくてか?

 もちろんです!信じられませんか?

 いいや、もちろん信じるさ。

「でも、誰もドラゴンさんを見たことが無いんですよね」

 フルネールの隣にいるリリアが呟く。

 彼女はもともとアーデルハイドの依頼の参加者ではないのだが、大地とギルドで話したあとアーデルハイドに直接着いていきたいと話したらしい。

 アーデルハイドとしても、可愛いリリアの頼みを無下にしたくないのと、聖女としての彼女の力は何かあったときに必要なものであるため、二つ返事で了承したらしい。

「まぁ、出会えば危険だろうし会わないに越したことないだろ」

 大地がキョロキョロと視線をさまよわせてどうやって下に降りるかを模索していると、フルネールが下に行けそうな掘って作られた階段を見つけた。

「降りる場所はここですか?」

 すでに何度か来たことがあるアーデルハイドとリリアは揃って頷くと、フルネールの近くへ集まり出す。

「ここから下に降りられるんだ。先頭は私が――」

 「行こう」と最後まで言う前に大地が止める。

「何を言っているんだ?護衛が先に降りて安全確保しないとダメだろう」

 だがそれは彼女の意にそぐわないらしい。

「いや、しかしここは慣れてる私が行くべきであろう!」

 そう言って大地の前へズイッと出てくるアーデルハイド。ここで彼女の容姿を紹介しよう。

 先ずは顔。綺麗や美しいと言う形容詞が似合い凛々しいのだが、その凛とした声も合わさると男だけじゃなく女からもファンは手厚いだろう。

 次に体格。大地よりは低いのだがリリアよりはもちろん高い。その立ち振舞いは背中をピント伸ばしていることから普段からの姿勢も良いことが伺える。

 さらに言うと、武器は剣を持っているのだがその体は華奢のように細いように見えてスレンダーだ。からだ全体はしなやかさも垣間見えてやわらかそうだが、胸は残念なことにあまりない様子だ。

 そして髪は金色でロングヘアーだ!これは得点高いですねー。ただ、リリアと違って毛先の方はリボンで纏めている。

 やはり総合的に見ても美人の類いだ。そんな彼女の顔が近くなれば、大地の顔も赤くなって当然だろう。

「いいから、先頭はまかせてくれ」

 大地はこれ以上近づかれる前にアーデルハイドの脇を通り抜けて階段へと先に降り始める。

 どうでした?アーデに近づかれた感想をどうぞ。

 そうだな、いい匂いして……ってなに言わせるんだよ!

 大地さんは匂いフェチっと。さっそくリリアちゃんと共有しましょう!!

 やめろぉーー!!!おま、俺を牢屋にぶちこませたいのか?

 いいえ?これはただの嫉妬です。

 なんだただの……え?嫉妬?誰が?

 私がですよ?大地さんは私に抱きつかれても感想いってくれないんですもん。

 そんなん言えるか!それに覚えてねぇよ!

 むー。それじゃあ今から抱きつきますから感想を聞かせてもらいましょう!

 マジやめろ!リリアと王女に変な目で見られるだろ!

 大丈夫です。そこはうまくやりますから!

 その脳内会話の直後、大地の後ろから小さな悲鳴が聞こえた。

「きゃっ!」

 直ぐに振り向いた大地の目の前には足をもつれさせて階段から転びそうになるフルネールが目の前にいた。
 大地は咄嗟に真正面から受け取られるように体の向きを変え、両腕はフルネールを抱え込むように抱き締める。

 重心が後ろにかかりそうになるのを何とか堪えると、フルネールが怪我を追わずにすんだ事でほっと胸を撫で下ろした。

「ありがとうございます。大地さん」

「……足元は気を付けないとな。怪我は無いか?」

「ごめんなさい。私は大丈夫です」

「……そうか」

 一見、無事を確かめ合う簡単な会話だ。大地もその言葉の後では振り返って再び階段を下り始め、リリア達はそのやり取りを安心しながら見ていた。――のだが、実のところ二人のやり取りは以下の様な脳内会話があった。

***

「ありがとうございます。大地さん」

 どうでした?私からいい匂いしました?

 花のようないい匂いしたけどよ!

 ふふ。それならよかったです♪

「……足元は気を付けないとな。怪我は無いか?」

 まったく、何であんな無茶するんだよ!

 えっと、それは……。

「ごめんなさい。私は大丈夫です」

 まぁとりあえず無事で何よりだ。

 でも……大地さんならしっかり受け止めてくれるって信じてましたよ?

「……そうか」

 あれ?怒ってます?

 怒ってない。怒ってないからこっちの顔を覗き込もうとするな。

***

 今の自分の顔を見られたらフルネールはきっと茶化すだろう。何せ、彼女の体をダイレクトに受け止めたのだ。つまり……あの放漫な胸の感触をたんの……いや、しっかりと感じてしまったため、フルネールの顔なんてまともに見れたものではない。見れば思い出して一気に顔から火が出るだろうから。

 そうして大地はフルネールの攻める動きを防ぎつつ顔を見られない様になんとか階段下まで下りるだった。
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