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不思議なアイテム。呪いの道具もその一つ
呪いの王と呪われた王妃
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全ての兵士を見送ったフルネールの姿は女神だと言うことを改めて実感させられる。
人では確実に出来ないことを平然とやってのけるその神業こそ奇跡と呼ばれるものなのだろう。
そんなフルネールが大地からくる視線を感じ取ったのか顔ごと大地へ振り向いた。
「やだー、大地さん。そんなに私を熱い視線で見詰めて……惚れちゃいました?」
両手を頬に当てながらキャーとはしゃぎ始めるフルネールからは先程の神秘性はまったく感じられなかった。
「惚れてねぇよ!」
「えー。結構頑張ったのに大地さんは冷たい……です」
しくしくと鳴き始めるフルネール。いつものパターンなら泣き真似であるはずだ。そう何度も騙されることはない。
しかし、フルネールは顔を隠しながら、されどしくしくと泣くのは止まらない。止まらないから大地はふと思う。
あれ?泣き真似ではないのか……?と。
「いや!確かにすごかったぞ!見蕩れるくらいに綺麗だったぞ!!」
そうやって必死に励まそうとすると、フルネールは一瞬で笑顔にもどる。
「やっぱり見蕩れちゃったんですね!私って罪な女ですね♪」
まぁつまり、結局大地はフルネールに騙されたのだ。
そんな二人のやり取りをよそにリリアは神の奇跡を目の当たりにして感銘を受けていた。心が震えるはじめての感覚に戸惑いながら、しかし、胸が熱くなるようなそんな感動すら覚える。
フルネールが女神様であることはわかっていたし、この奇跡も女神様にかかれば些事に等しいのもわかる。だからこそ、自分はその域に達することが出来ないことも理解してしまう。
なにより……そんなすごい存在が大地の身近にいるのだ。自分の存在に疑問を持たざるを得なくなってしまう。
「それにしても、爺さんはフルネールが女神だと知っていたんだな」
「まぁ何となく気づいたって感じじゃがな。皆を送ってくださりありがとうございました」
改めて例を言うグラッセンをフルネールは茶化さず真正面から受け止める。
「あなたも確り見届けましたね?」
「はい……!」
それだけ聞くとフルネールは優しく微笑む。
「さて、それじゃあ来た道戻って王妃様に会いに行くか」
その大地の一声で皆は再び歩き始めた。長い廊下を進み、寂しくなった大広間へ来ると階段を上る。
階段を上った先も分かれ道をになっているが仮面のジーさんが先導する。
いくつかの扉を横切りようやく仮面が一つの扉の前で止まった。
「ここじゃ……」
大地は扉へと手をかけゆっくり開いていく。音を立てながら開かれたその先で一番最初に目に入るの大きなベッドだ。立派な天幕からもこのベッドが王族が使用しているのだとよくわかる。
「あなた……?」
そのベッドの前に暗くて見えにくいが影が一つあり、その主が声をかけてきた。
「その声は……クレア……か?」
グラッセンの声に反応したように寝室の回りにある石に光が点り室内を明るく照らす。それにより目の前の王妃がようやく視認できた。
色白の肌、年老いてなお美しさを保つな顔立ち、後頭部で纏められた髪。そして、薄黄色を基調としたドレス。
グラッセンはその姿に懐かしさを思い出しながら違和感を感じずに近づいていく。
「まちなさい!」
だが、そのフルネールの一言で仮面の動きもピタリと止まった。
「あなたは誰ですか?まさか本当にクレア・ミル・バルニアと言うつもりですか?」
そのフルネールの怒りをあらわにした声に応えるようにクレアから先程の優しげな声とは別の男の笑い声が聞こえてきた。
「ククク。ハーッハッハッハ!!」
うわ!まるで悪役の笑い声た!こいつ悪者だ!!
さっき大地さんもそれっぽい笑いかたしてませんでしたっけ?
……気のせいじゃないのー?
横目で見てくるフルネールの視線から逃げるようにその反対方向へ振り向く大地は口笛を吹きつつごまかす。
「よくわかったな」
クレアから黒い靄が右側に流れるように出てくると靄は男の形を作り上げる。全身黒ずくめの服装で嫌な雰囲気を纏っている。
「貴様の顔は見覚えがあるぞ。確かモルダーと言ったな」
「爺さん知っているのか?」
「知っているも何もこやつがワシを殺したのじゃ。ワシに取り入って不意打ちでな」
そういや人を疑ったりするのが苦手な王なんだっけかこのじーさん。
「よく覚えていてくださいました。間抜けな王よ。そうです!私があなたの魂を利用する為に殺したのですよ!……しかし、残念なことにあの時、あなたの魂はどこかに消えてしまった。この女のせいで。だから、コイツも殺したんだ」
クレア王妃のとなりの悪霊……モルダーは忌々しそうに続ける。
「しかし、その後すぐに私も殺されてしまった。だから!私はこの女の魂を使って生き延びる事にした。魂に呪いをかけてそこに寄生するようにね。ああ、一つだけ教えてあげますとこの女の魂も生きていますよ?ただ、自我は封じ込めさせていただいていますが……」
そしてモルダーは高笑いをする。
「どうですか!?貴方が無能であるからこの王国は崩れた!貴方が無能にも仮面に魂を逃がしたからこの女は死んだ!貴方が無能だから兵士すらも呪われた姿になった!全て全て貴方が――」
そんなまくしたてるように言うモルダーの眼前に拳が迫る。
「うわぁっ!!」
モルダーは情けない声を上げるが、しかし、その拳はモルダーをすり抜けてしまう。
手ごたえが無かった大地は舌打ちをしながらモルダーをにらみ上げる。
「幽霊だからかすり抜けるのか」
誰でも分かるようなことをする大地の行動だが、それを笑う仲間はいなかった。
「リリア!」
「ひゃい!」
「こいつを一発でも殴りたいんだが実体化させる方法ってないか?」
モルダーに人差し指を向けながら聞く。
ここまできたらとりあえず殴らなきゃな。なんか腹立つし。
「この幽体の俺を実体化だと!?そんなことが出来るやつなんて世界に何人いると思う?出来るのは聖女級の魔法が使えるやつくらいだ!一人か二人くらいしかいねぇよ!」
「なら安心だな。どうだ?」
「もちろん……できます!」
そう言って集中し始めるリリア。
まさかここまでリリアに頼る事になるとは思わなかったな。
そうですね。何かお礼でも考えてあげては如何です?
そうだなぁ。少しは金余っているから久々に全員で宿の飯でもどうだ?
いいですね!私も食べて見たかったんです!
なら決まりだな。
「おい!俺の話を無視してんじゃねぇ!そんな無駄な事をしなくていいから俺の前からその仮面だけ残してとっとと消え――」
「エンティティ・グラント!!」
リリアの魔法によりモルダーへ光が振る。その光により透明度が無くなっていき実体として存在し始めた。
そして実態になったことでモルダーは王妃から離れていく。
「な……愚かな。この俺に肉体を与えた事を公開させてやる」
そう言ってモルダーは大地へと拳を繰り出すが大地は後方へあっさりと避ける。
「っち。よけやがったか。だが、俺の手でお前らを始末できるようになった。感謝するぜ」
そう言いながらモルダーは壁に掛かっている剣を取り出すと構えた。
ああ、一ついいこと思い付いた。
「なぁ、グラッセン。お前は悔しくないか?悔しいと思うなら俺のもとへこい!」
大地は仮面のじーさん。グラッセン・ミル・バルニアへと声をかける。一瞬だけ仮面の動きに迷いがあったものの、大地の近くへ浮遊した。
「何をする気じゃ?」
「お前にその気があるならアイツはお前が倒すか?」
「何を。それに今のワシじゃ何もできん」
「察しが悪いな。俺の体をかしてやるよ。どうする?」
大地さん!何を言っているか分かっているのですか!?
お?フルネールが焦るなんて珍しいな。
当たり前です!もし、大地さんが完全に操られてそいつに暴走されたら……止める方法は貴方を殺すしかないんですよ!
……なるほど。まぁ、でもよ。大丈夫だ。
何を根拠に……。
ん~。根拠はないが……何となくな。このままじゃちと爺さんが可愛そうだしよ。
もう……馬鹿ですよ。大地さんは……。
「いいんじゃな?お主を乗っ取ったら暴れるかもしれんぞ?」
「そんときゃ、うちの仲間が何とかするから大丈夫だ」
「やれやれじゃ。じゃが……貸してくれ。ワシが始末をつける!」
「あいよ!」
そう言って大地は仮面を掴むと自分の顔へと近づけて高らかに声を上げる。
「変身!」
木の仮面から革製の布で全身を包み込む兵器を召喚する。所々に武装をつけているおかげで全身スーツも兵器として扱ってくれる。
その姿は某虫型の変身ヒーローの様でなんかキックとかパンチの威力があがってそうな見た目だ。
あの。大地さん?もしかしてそれがしたくて……?
はい!
はいじゃないですよぉぉぉぉ!!!!
見ろよこの仮面〇イ〇ー感。やっぱ憧れはあるよな。
各方面に謝罪を要求します!
って意識は有るんだな。体は動かせそうにないか?いや、兵器召喚できそうだな。
グラッセンが動かす大地の手に一つの剣が出来上がった。
「手に馴染むいい武器じゃ。さて、モルダーよ。今引導を渡そう」
「ふん、貴様に俺が殺せるか?」
「当然じゃ!」
そのグラッセンの言葉の後に二人は激突する。両者の刃が交差する度に火花が散り、金属音が奏でられる。
モルダーの剣が煌めく。その起動は斜めに振り下ろされる袈裟斬りだがグラッセンは横振りによって迎え撃つ。
グラッセンはそのまま膂力によってモルダーを押し返すとすかさず一歩踏み込みながら再び横一閃でモルダーの体を真っ二つにした。
「これでおしまいじゃ……」
モルダーが断末魔をあげ消えていく。
そして、クレア王妃の体に光が指し、ゆっくりと透けていく。
それを見たグラッセンは大地から離れるとクレアへと近づいた。
「あなた……またあえて私は嬉しいです……」
「ワシもじゃ……ずっと待たせてしまったな」
大地の姿もスーツ姿から普段の姿に戻り、二人の成り行きを見守っているのだが、その大地にグラッセンとクレアは振り向いた。そして、グラッセンは言う。
「大地よ。色々迷惑かけてすまなかったな。ワシはクレアと共に逝くよ」
その言葉の瞬間、仮面から魂が抜け出た。仮面は地面に落ち、魂は白髪の男性へと姿を変えた。
隣をちらりと見るといつのまにかに立っているリリアが魔法で何かしているようだ。
「まぁそのなんだ、王妃とまたあえて良かったな」
「……あぁ。本当に……例じゃが仮面についてる宝石を持っていくといい。あれは高く売れるじゃろ。何せ魂を保管できるほどの石じゃからな」
そう聞くと確かに値打ちものだと思える。
「フルネール様、リリア様、グラネス様。本当にありがとうございました」
おい!なぜ俺だけ呼び捨てなんだ!!
仕方ないですよ。だって私は神様ですもん!
自分で様つけるって……人間様みたいな言い方だろ……。
抗議しようにもグラッセンとクレアは幸せそうにリリアの魔法で天に昇っていった。
「ふぅ……これでもう安心……で……す」
二人を魔法で送ったリリアはその疲れからか一気に自分を支える筋力が抜けてしまった。一過性のものだが支える力がなくなった以上、その体は傾き地面へと吸い寄せられていく。
「おっと」
隣にいた大地はさも当たり前のようにリリアを支えると、その足の膝裏へ片腕を通し、もう片方は方のややした当たりで彼女を掴むと一気に抱き上げる。
二度目だからか、もしくは疲れからかはわからないが、お姫様だっこされるリリアに過剰な反応はなく、「すみません」と一言だけ謝られた。
「病み上がりに無理させてすまなかったな」
そんな一言を大地は言うが、リリアは言葉を返さないものの困った表情をする。
そこに何となく言いたそうなことを予想はするものの、敢えて大地は知らないふりをしてフルネールへ呼び掛けた。
「フルネール、その仮面の宝石を取っといてくれ。あいつが言うには値うちもんらしいからな」
「はーい」
そう言って仮面から二つの宝石を取り外したあと、フルネールは最後に仮面を見てからベッドへそっと置いた。
「そんじゃま。帰るとしますか!」
大地が寝室のドアへ振り向きながら言うと、全員は声を揃えて「おー!」と賛成の意を示した。
人では確実に出来ないことを平然とやってのけるその神業こそ奇跡と呼ばれるものなのだろう。
そんなフルネールが大地からくる視線を感じ取ったのか顔ごと大地へ振り向いた。
「やだー、大地さん。そんなに私を熱い視線で見詰めて……惚れちゃいました?」
両手を頬に当てながらキャーとはしゃぎ始めるフルネールからは先程の神秘性はまったく感じられなかった。
「惚れてねぇよ!」
「えー。結構頑張ったのに大地さんは冷たい……です」
しくしくと鳴き始めるフルネール。いつものパターンなら泣き真似であるはずだ。そう何度も騙されることはない。
しかし、フルネールは顔を隠しながら、されどしくしくと泣くのは止まらない。止まらないから大地はふと思う。
あれ?泣き真似ではないのか……?と。
「いや!確かにすごかったぞ!見蕩れるくらいに綺麗だったぞ!!」
そうやって必死に励まそうとすると、フルネールは一瞬で笑顔にもどる。
「やっぱり見蕩れちゃったんですね!私って罪な女ですね♪」
まぁつまり、結局大地はフルネールに騙されたのだ。
そんな二人のやり取りをよそにリリアは神の奇跡を目の当たりにして感銘を受けていた。心が震えるはじめての感覚に戸惑いながら、しかし、胸が熱くなるようなそんな感動すら覚える。
フルネールが女神様であることはわかっていたし、この奇跡も女神様にかかれば些事に等しいのもわかる。だからこそ、自分はその域に達することが出来ないことも理解してしまう。
なにより……そんなすごい存在が大地の身近にいるのだ。自分の存在に疑問を持たざるを得なくなってしまう。
「それにしても、爺さんはフルネールが女神だと知っていたんだな」
「まぁ何となく気づいたって感じじゃがな。皆を送ってくださりありがとうございました」
改めて例を言うグラッセンをフルネールは茶化さず真正面から受け止める。
「あなたも確り見届けましたね?」
「はい……!」
それだけ聞くとフルネールは優しく微笑む。
「さて、それじゃあ来た道戻って王妃様に会いに行くか」
その大地の一声で皆は再び歩き始めた。長い廊下を進み、寂しくなった大広間へ来ると階段を上る。
階段を上った先も分かれ道をになっているが仮面のジーさんが先導する。
いくつかの扉を横切りようやく仮面が一つの扉の前で止まった。
「ここじゃ……」
大地は扉へと手をかけゆっくり開いていく。音を立てながら開かれたその先で一番最初に目に入るの大きなベッドだ。立派な天幕からもこのベッドが王族が使用しているのだとよくわかる。
「あなた……?」
そのベッドの前に暗くて見えにくいが影が一つあり、その主が声をかけてきた。
「その声は……クレア……か?」
グラッセンの声に反応したように寝室の回りにある石に光が点り室内を明るく照らす。それにより目の前の王妃がようやく視認できた。
色白の肌、年老いてなお美しさを保つな顔立ち、後頭部で纏められた髪。そして、薄黄色を基調としたドレス。
グラッセンはその姿に懐かしさを思い出しながら違和感を感じずに近づいていく。
「まちなさい!」
だが、そのフルネールの一言で仮面の動きもピタリと止まった。
「あなたは誰ですか?まさか本当にクレア・ミル・バルニアと言うつもりですか?」
そのフルネールの怒りをあらわにした声に応えるようにクレアから先程の優しげな声とは別の男の笑い声が聞こえてきた。
「ククク。ハーッハッハッハ!!」
うわ!まるで悪役の笑い声た!こいつ悪者だ!!
さっき大地さんもそれっぽい笑いかたしてませんでしたっけ?
……気のせいじゃないのー?
横目で見てくるフルネールの視線から逃げるようにその反対方向へ振り向く大地は口笛を吹きつつごまかす。
「よくわかったな」
クレアから黒い靄が右側に流れるように出てくると靄は男の形を作り上げる。全身黒ずくめの服装で嫌な雰囲気を纏っている。
「貴様の顔は見覚えがあるぞ。確かモルダーと言ったな」
「爺さん知っているのか?」
「知っているも何もこやつがワシを殺したのじゃ。ワシに取り入って不意打ちでな」
そういや人を疑ったりするのが苦手な王なんだっけかこのじーさん。
「よく覚えていてくださいました。間抜けな王よ。そうです!私があなたの魂を利用する為に殺したのですよ!……しかし、残念なことにあの時、あなたの魂はどこかに消えてしまった。この女のせいで。だから、コイツも殺したんだ」
クレア王妃のとなりの悪霊……モルダーは忌々しそうに続ける。
「しかし、その後すぐに私も殺されてしまった。だから!私はこの女の魂を使って生き延びる事にした。魂に呪いをかけてそこに寄生するようにね。ああ、一つだけ教えてあげますとこの女の魂も生きていますよ?ただ、自我は封じ込めさせていただいていますが……」
そしてモルダーは高笑いをする。
「どうですか!?貴方が無能であるからこの王国は崩れた!貴方が無能にも仮面に魂を逃がしたからこの女は死んだ!貴方が無能だから兵士すらも呪われた姿になった!全て全て貴方が――」
そんなまくしたてるように言うモルダーの眼前に拳が迫る。
「うわぁっ!!」
モルダーは情けない声を上げるが、しかし、その拳はモルダーをすり抜けてしまう。
手ごたえが無かった大地は舌打ちをしながらモルダーをにらみ上げる。
「幽霊だからかすり抜けるのか」
誰でも分かるようなことをする大地の行動だが、それを笑う仲間はいなかった。
「リリア!」
「ひゃい!」
「こいつを一発でも殴りたいんだが実体化させる方法ってないか?」
モルダーに人差し指を向けながら聞く。
ここまできたらとりあえず殴らなきゃな。なんか腹立つし。
「この幽体の俺を実体化だと!?そんなことが出来るやつなんて世界に何人いると思う?出来るのは聖女級の魔法が使えるやつくらいだ!一人か二人くらいしかいねぇよ!」
「なら安心だな。どうだ?」
「もちろん……できます!」
そう言って集中し始めるリリア。
まさかここまでリリアに頼る事になるとは思わなかったな。
そうですね。何かお礼でも考えてあげては如何です?
そうだなぁ。少しは金余っているから久々に全員で宿の飯でもどうだ?
いいですね!私も食べて見たかったんです!
なら決まりだな。
「おい!俺の話を無視してんじゃねぇ!そんな無駄な事をしなくていいから俺の前からその仮面だけ残してとっとと消え――」
「エンティティ・グラント!!」
リリアの魔法によりモルダーへ光が振る。その光により透明度が無くなっていき実体として存在し始めた。
そして実態になったことでモルダーは王妃から離れていく。
「な……愚かな。この俺に肉体を与えた事を公開させてやる」
そう言ってモルダーは大地へと拳を繰り出すが大地は後方へあっさりと避ける。
「っち。よけやがったか。だが、俺の手でお前らを始末できるようになった。感謝するぜ」
そう言いながらモルダーは壁に掛かっている剣を取り出すと構えた。
ああ、一ついいこと思い付いた。
「なぁ、グラッセン。お前は悔しくないか?悔しいと思うなら俺のもとへこい!」
大地は仮面のじーさん。グラッセン・ミル・バルニアへと声をかける。一瞬だけ仮面の動きに迷いがあったものの、大地の近くへ浮遊した。
「何をする気じゃ?」
「お前にその気があるならアイツはお前が倒すか?」
「何を。それに今のワシじゃ何もできん」
「察しが悪いな。俺の体をかしてやるよ。どうする?」
大地さん!何を言っているか分かっているのですか!?
お?フルネールが焦るなんて珍しいな。
当たり前です!もし、大地さんが完全に操られてそいつに暴走されたら……止める方法は貴方を殺すしかないんですよ!
……なるほど。まぁ、でもよ。大丈夫だ。
何を根拠に……。
ん~。根拠はないが……何となくな。このままじゃちと爺さんが可愛そうだしよ。
もう……馬鹿ですよ。大地さんは……。
「いいんじゃな?お主を乗っ取ったら暴れるかもしれんぞ?」
「そんときゃ、うちの仲間が何とかするから大丈夫だ」
「やれやれじゃ。じゃが……貸してくれ。ワシが始末をつける!」
「あいよ!」
そう言って大地は仮面を掴むと自分の顔へと近づけて高らかに声を上げる。
「変身!」
木の仮面から革製の布で全身を包み込む兵器を召喚する。所々に武装をつけているおかげで全身スーツも兵器として扱ってくれる。
その姿は某虫型の変身ヒーローの様でなんかキックとかパンチの威力があがってそうな見た目だ。
あの。大地さん?もしかしてそれがしたくて……?
はい!
はいじゃないですよぉぉぉぉ!!!!
見ろよこの仮面〇イ〇ー感。やっぱ憧れはあるよな。
各方面に謝罪を要求します!
って意識は有るんだな。体は動かせそうにないか?いや、兵器召喚できそうだな。
グラッセンが動かす大地の手に一つの剣が出来上がった。
「手に馴染むいい武器じゃ。さて、モルダーよ。今引導を渡そう」
「ふん、貴様に俺が殺せるか?」
「当然じゃ!」
そのグラッセンの言葉の後に二人は激突する。両者の刃が交差する度に火花が散り、金属音が奏でられる。
モルダーの剣が煌めく。その起動は斜めに振り下ろされる袈裟斬りだがグラッセンは横振りによって迎え撃つ。
グラッセンはそのまま膂力によってモルダーを押し返すとすかさず一歩踏み込みながら再び横一閃でモルダーの体を真っ二つにした。
「これでおしまいじゃ……」
モルダーが断末魔をあげ消えていく。
そして、クレア王妃の体に光が指し、ゆっくりと透けていく。
それを見たグラッセンは大地から離れるとクレアへと近づいた。
「あなた……またあえて私は嬉しいです……」
「ワシもじゃ……ずっと待たせてしまったな」
大地の姿もスーツ姿から普段の姿に戻り、二人の成り行きを見守っているのだが、その大地にグラッセンとクレアは振り向いた。そして、グラッセンは言う。
「大地よ。色々迷惑かけてすまなかったな。ワシはクレアと共に逝くよ」
その言葉の瞬間、仮面から魂が抜け出た。仮面は地面に落ち、魂は白髪の男性へと姿を変えた。
隣をちらりと見るといつのまにかに立っているリリアが魔法で何かしているようだ。
「まぁそのなんだ、王妃とまたあえて良かったな」
「……あぁ。本当に……例じゃが仮面についてる宝石を持っていくといい。あれは高く売れるじゃろ。何せ魂を保管できるほどの石じゃからな」
そう聞くと確かに値打ちものだと思える。
「フルネール様、リリア様、グラネス様。本当にありがとうございました」
おい!なぜ俺だけ呼び捨てなんだ!!
仕方ないですよ。だって私は神様ですもん!
自分で様つけるって……人間様みたいな言い方だろ……。
抗議しようにもグラッセンとクレアは幸せそうにリリアの魔法で天に昇っていった。
「ふぅ……これでもう安心……で……す」
二人を魔法で送ったリリアはその疲れからか一気に自分を支える筋力が抜けてしまった。一過性のものだが支える力がなくなった以上、その体は傾き地面へと吸い寄せられていく。
「おっと」
隣にいた大地はさも当たり前のようにリリアを支えると、その足の膝裏へ片腕を通し、もう片方は方のややした当たりで彼女を掴むと一気に抱き上げる。
二度目だからか、もしくは疲れからかはわからないが、お姫様だっこされるリリアに過剰な反応はなく、「すみません」と一言だけ謝られた。
「病み上がりに無理させてすまなかったな」
そんな一言を大地は言うが、リリアは言葉を返さないものの困った表情をする。
そこに何となく言いたそうなことを予想はするものの、敢えて大地は知らないふりをしてフルネールへ呼び掛けた。
「フルネール、その仮面の宝石を取っといてくれ。あいつが言うには値うちもんらしいからな」
「はーい」
そう言って仮面から二つの宝石を取り外したあと、フルネールは最後に仮面を見てからベッドへそっと置いた。
「そんじゃま。帰るとしますか!」
大地が寝室のドアへ振り向きながら言うと、全員は声を揃えて「おー!」と賛成の意を示した。
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