初めての異世界転生

藤井 サトル

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不思議なアイテム。呪いの道具もその一つ

一人多数の方が状況有利だ!

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「いつまで休んでるつもりじゃ!」

 いい加減動かないことにしびれを切らした仮面の爺さんがくるくると俺らの頭上を飛び交う。
 この爺さんに急かされるのも少し癪ではあるものの、何時までも休憩しているわけにはいかないのも確かである。

「ダイチさん。本当に大丈夫ですか?」

「ああ、十分に休めたからな……」

 水をのみ終わり座っていた大地は腰を持ち上げ立ち上がる。
 今の位置からお城は見えるものの、それは上半分くらいなもので下半部分は他の建物で見えなくなっている。そこから推測するにまだしばらく歩く事になるだろう。

 みんなの準備は言いようで仮面を先頭に歩き出した。一つ気になることと言えば分かれ道が多いことだ。建物と建物が重なり道が別れている。

 しかし、そんな中でも仮面は迷いなく道を選び俺たちを導いてくれている。ここの王様だけあって便りになるぜ。

 右に曲がり前へ進みまた右に、分かれ道をまっすぐ進み左へ曲がる。そしてついに着いたのだ。

「行き止まりじゃねぇか!!」

 目の前には右に壁、左に壁、前に壁、上に屋根、下は地面。後ろしか道がない。

「う、うむ。こんなに……入り組んでおったかのう……」

 まさかの事態に嘆く呪いの仮面はとてもシュールなのだが、正直それを笑ってはいられない。何故なら奴が落ち込むという事はつまるところ……俺たちは迷っているのだろう。

「仕方ありませんね。皆さん私についてきてください!あのお城まで駆け抜けますよ!」

 そう言って立ち上がったのは女神様ことフルネールだ!
 一瞬だけ大地は本当に大丈夫か?との疑念が脳裏を横切るが、信じる者は救われる。つまり、疑う事なく彼女について行けば一発でお城の中よ!

 そして一行は歩き出す。戻って、戻って、戻って、左に曲がり、真っすぐ進み、右に曲がって、更に真っすぐ歩き、ちょっと戻って、左に曲がり、そして直進した。

 俺たちは無事にたどり着いたんだ。

「行き止まりになぁ!そうなると思ったよ!!」

 目の前には壁、右にも左にも壁、上は吹き抜け、下は地面。

「おかしい……こんなはずでは……私はどこで道を間違えてしまったの……?」

 そんなRPGの訳ありの負けた敵NPCのようなセリフ吐きながらフルネールは落ち込みだす。その頭上にはなんかどんよりした雲が見えてくるようだ。

「それでは。今度は俺が先を歩きましょう。リリアさんもそれでいいですか?」

「はい。グラネスさん。お願いします」

 三番手はグラネスだ。彼が酒以外の事で立ち上がるのはリリアと戦闘くらいかと思っていたが、実はそうでもないんだな。きっとこの仮面の爺さんの為に――。

「このままでは帰れず酒も飲めませんから本気で行きます」

 ――酒か。

 そしてグラネスを先頭にして歩き出す。

 戻って右へ曲がり、まっすぐ、真っすぐ、真っすぐ、そして壁。

 早いよ!もう壁に行き当たったよ!

 そんな大地の疑念は次の一言で吹き飛んだ。

「ここからが本番です。下がっていてください。この壁をぶちこわす!!!」

 低い声ですげぇ剣幕で言い放つグラネスに、その場にいた爺さん含む4人は驚く。そしてグラネスはその大剣を振り下ろし、ズガンっと音を立てながら壁を壊す。
 乱暴ではあるが確かに合理的かもしれない。爺さんも何かを諦めたみたいだが、自分にとっての大事な物。その優先順位を直ぐに決めた様だ。

 こうなるとグラネスの暴走を止める人はいない。

 前へ、前へ、前へ、壊す、壊す、前へ、前へ、壊す、前へ、前へ、前へ、ドカン、前へ、ズカン、グッシャー、バキン、メキメキ、ゴス、前へ、前へ。

「一旦止まってくれ、さすがにいくら何でも城の近くに来てないとおかしくないか?」

 大地がグラネスの暴走に待ったをかけた。グラネスが城に向かって壁を壊しながら直進しているのだが、遠くの城との距離が縮まらないことに不信感を抱いたのだ。

「そうですね。少しだけ待ってください」

 そう言ったリリアは杖を掲げて集中し始めた。杖が輝き光始めるがそれは数秒で消える。

「わかりました。魔法によって空間に閉じ込められてますね」

 リリアが言うには噴水に立ち寄ったことがトリガーになったらしく、同じ空間に無理やりや迷わせられているらしい。

 それにたいしてフルネールが「そうですよね!私に落ち度はありませんよね!」と、何かにたいして必死に弁明する。……何でこんなに必死なんだよ。

「どうでもいいが……」

 後方から「どうでもいいとは何ですかー!」等と言葉が聞こえてくるのを無視してリリアになにか対策がないかを質問する。

「そうですね。たぶんですが、魔法を発動した媒体が何処かにあると思います。それを破壊したらこの魔法も解除されるはずです」

 その媒体が何処にあるか探さないといけないか。しかし、何処にあるかな。

「何か探す方法は無いか?」

「一番怪しいのは噴水ですけど……」

 歯切れが悪いのはきっと確証がないからだろう。

「よし!壊すか」

「なっ、ワシが頑張って作った噴水じゃぞ!」

「おう、悪いな」

 憤慨する爺さんに大地はあっけらかんといい放つ。

「たぶん、思い出もあるんだろうけどよ止まるわけにはいかないだろ。だから悪いな」

 しかし次の言葉はいたって真面目であり、それゆえに爺さんも「しかたないのう」と折れてくれる。

 噴水まで戻り始めるが、不思議なことに時間はかからなかった。まるでゲームのループダンジョンに入ったみたいな感覚だな。

「これ、物理的に壊せるのか?」

 大地は兵器を召喚する。

 ダ~イ~ナ~マ~イ~ト~

「コイツに火をつけてドカンとやりゃ木端微塵よ!全員離れてろ」

 大地の言葉とフルネールの誘導のもと建物にかくれたのを確認した大地は火を……。

「あれ、どうやって火をつけよう」

 ライター等無い。火をつける物は無い。火炎放射でも火はつけられるだろうが燃やした瞬間ドカンだ。

「ダイチさん。これで火をつけられますよ?」

「ありがとう」

 いつの間にかに隣にいたリリアがマッチの様な棒に火をともしていて、ダイナマイトの導火線に火をつけていた。

「ちょ!なんでここにリリアが!」

 そう叫ぶと同時に噴水の近くへ濡れないようにダイナマイトを投げるとリリアを抱えて建物とへ飛び込んだ。

 ――ドッカーン!

 そんな擬音が一番伝わりやすいだろう。轟音をならし振動を広げ、強烈な光が当たりの影を一瞬だけ濃くした。

「なな、なんですかあれ!」

 爆発音や衝撃に驚きながらリリアは大地に物凄い抗議をするように聞く。

「いや、ダイナマイトくらいは知っているだろう!」

「ダイナマイト……って聞いたことあります。お山で使うって……あれがそうなんですね!」

 今度は目をキラキラさせながらはしゃぎ始めた。

 ダイナマイトは知識だけか……まぁかくいう俺も取り出したのはそれっぽいイメージで固めただけなんだけどね!なんにせよ怪我無くてよかった。

「でも壊れませんでしたね」

「え?」

 そのリリアが呟いたことを疑うように大地は噴水へ視線を移すと確かに壊れていない。
 いや、それどころか傷一つついていない。マジかよ……。

「それじゃあ私がやってみますね」

 そう言ってリリアは噴水へ近づいていく。

 ダイナマイトでも壊せなかった噴水をリリアが壊せるのか?

 そんな疑問を持つ大地をよそにリリアが手をかざすと反対の手に持っている杖の宝玉が光だす。
 そして、宝玉の光の強さに比して噴水も輝き始めた。

 光る噴水から少しずつ淡い粒子が上へ舞っていく。幻想的に見えるその光景にみんなは黙って見守っていると、やがて輝きは消え失せていった。

「これでもう迷わないはずですよ」

 くるりと振り替えるリリア。その聖女の服の裾が少しだけ翻る。

 見事だった。そう投げ掛けようとした大地だが、先にリリアから大地に向かって口を開かれた。

「ダイチさん。何でも壊そうとしたらダメですよ?」

 ぐぅ。正論を言われて反撃が出来ない。

「そうですよ。まったく、大地さんは困った人ですね」

「そうじゃのう。若さゆえであろうがもう少し回りを見るべきじゃな」

「うむ。うむ。もう少しリリアさんを見習うべきであるな」

 こいつら便乗して俺をリンチしやがる……グエー。
 っていうか最後の脳筋大剣酒男にだけは言われたくねぇよ!!

 とはいえ正論……。

 なにか言おうもんなら更なる追撃が来る可能性があり、みんなからのリンチはチート能力あっても怖いわけで。大地は「わかった。気を付ける」としか言えなかった。
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