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女神と同居は嬉しい?嬉しくない?
お見舞い品は最高のものをご用意しました-その2
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その突拍子のないセリフにリリアは反復するように聞く。
「別の世界?」
「そうだ。そこの女神にいきなり拉致られてきたんだ」
「そう言いますけど、大地さんもちゃんと了承したじゃないですか」
フルネールがやや拗ねるのを無視する。
「前に言っていた女神様にあったって。そういう事だったんですね」
すんなり受け入れる素直なリリアに頷きながら頭を撫で続ける。少しでも落ち着けられるように。
「ああ。そしてこちらの世界に来ると決めた時に色々女神からもらったんだ。そのうちの一つで女神を呼ぶ事が出来た。ということなんだが……」
やはり傍から見れば突拍子もない事だろう。リリアもきっと受け入れられないかもしれない。
そんな大地の心配毎を一切していないリリアはむしろもっと別の事が気になって気がかりで心配だった。
「あの、ダイチさん……」
その直後にリリアのお腹がクゥーと鳴ってしまった。考えてみれば今日一日、ろくにご飯を食べてないのだ。
それによって「あ……」とうつむいてしまうリリアを見て、大地はフルネールに視線を移した。
「フルネール。アレ作ったろ?食べさせてあげてくれ」
「そうですね。リリアちゃんお腹減ったでしょう?」
そんな二人のやり取りを見て首を傾げたリリアだが、女神はこの宿屋の厨房を借りて作った食べ物をどこからか取り出した。それも女神の力で出来立てのを。(どこから取り出したかは女神の秘密ですよ?)
その食べ物は小さい土鍋で作られたおかゆである。
大地の世界にあるお米を女神の力で取り寄せたあげく、彼女手ずから料理したのだ。
「えっと、これはなんでしょう?」
だが、リリアは見たことが無い。真っ白く何かちっちゃいものが入っていて水気が有る食べ物。
「あー、これはな俺の世界の料理なんだが、病人に食べやすいものなんだ。フルネールに作ってもらったんだが……その嫌だったら――」
「あの!た、食べさせていただけますか?」
大地の言葉を遮りながら、お願いしたい思いを瞳に込めてリリアは聞く。
そしてそこで察するフルネールが後押しだ!と言わんばかりに「はい、大地さんこれとこれもってくださいね」とおかゆを鍋敷き事持たせて、木製のスプーンも同時にわたした。
「ちゃんとリリアちゃんのお口に運ばないと駄目ですよ?あ、でも、リリアちゃんに触れる為にわざと零しても多少は……」
「やらねぇよ!っていうかリリアは俺でいいのか?そこに女神がいるんだぞ?」
そう聞くがリリアは「お願いします」と言ってジッと大地の目を見続ける。
そこでようやく諦めると、スプーンでおかゆを救う。そして、リリアの口へ運ぼうとした瞬間、女神がダメ出しをする。
「大地さん?まじめにやってください!」
真面目って何だよ!これ以上俺になにを求めるんだ?
そんな抗議の目を向けるが女神はさも当たり前の事を口にした。
「おかゆは熱いんですよ?リリアちゃんを火傷させる気ですか?」
そして女神は少し愉しそうに「だからぁ」と言って少しだけ間を溜めると「フーフーしてくださいね?」と告げる。見よ!これが女神の宣託だ。まじで?
少しだけ躊躇してリリアに目を向ける。せめて彼女が抗議してくれれば避けられるのだが、未だに待ち続けるリリアの視線は肯定的なものだった為、諦めて顔を赤くしながらスプーンのおかゆに息を吹きかけて冷ます。
「ちゃんと冷ましたらいうんですよ!」
おっさんにハードルを上げまくるこの悪魔め。……せめてルビくらい女神を入れてください!
「リリア?……あーん」
そう言って大地はスプーンをリリアの口元へと運ぶとリリアもそれに応える。
「あーん」
可愛らしく口を開けてくれたリリアが確りとおかゆを口にいれてくれる。ただ、口に会わないかもしれない。大地は食べなれているからこそ美味しく食べられるがリリアははじめて食べるのだ。余り無理させたくはない。
「リリア?その美味しくなかったら別のを……」
最後まで言うその前にリリアは熱っぽい顔でも満面の笑みを浮かべた。
「美味しいです!」
大地の世界の料理。それは言い換えると大地の故郷の料理だ。だから、少しでも理解したいと考えながら食べもを口にした。だが、そんな事を考える必要はなかった。塩気を感じつつどこか甘く、水気があって食べやすい。
「あの、もう一口ほしいです」
結局、ものの数分でおかゆを平らげることになる。ただ、それはがっついてしまうようにも本人が感じてしまい、少し恥ずかしそうにしていた。
「ご飯も食べた事ですし、リリアちゃんお着換えしましょう?」
フルネールからの予想外の言葉でリリアは驚く。着替えも何ももっていないのだ。しかし、フルネールはそんなことお構いなしだと言わんばかりに大地を外へ放り出した。
廊下からドア越しで聞こえてくる声は以下である。
「さぁリリアちゃん。脱いでください。恥ずかしがらずに」
「あ……はい……」
「服はお洗濯するとして、一先ず……を履いて、これも着けて……あとはこちらです」
「見たことないのですけど……」
「いいからいいから。うん!やっぱり可愛いですね。大地さん入ってきてください」
短いやり取りの後に部屋へ招き入れられた大地はリリアの姿を目にする。
ドアの前にいるリリアの姿はこちらの世界にはないパジャマ姿だった。可愛らしく花の模様がついていて、その顔は風邪からきているのだろうが赤みがかっていてよりかわいく見える。
「えと、どうです……ケホケホッ」
とはいえ、病人を立たせておくのは良いわけない。
「ああ、可愛いぞ。ただ、あまり病人が長く立っているものじゃないな」
「はい……あっ」
大地に褒められて嬉しくなりながら戻ろうとしたところでフラフラする重い体でバランスを崩して倒れかけた。
倒れかけたと言うのは踏みとどまったと言うわけではなく、素早く動いた大地がその体を支えたのだ。
そんな風に迷惑をかけた大地に向かって謝ろうとしたリリアより先に大地が「少しだけ我慢してくれ」と言って、リリアをお姫様抱っこで抱えた。
「きゃっ」
と少し驚くも、自分がどういう状況にあるか直ぐに理解したリリアは、何も考えず自然と自分の体を大地へ甘えるようにくっつけた。
計画通りに進行して女神は満足気に微笑みを浮かべる。
「大地さん。ベッドに連れ込むのはいいんですけど、上半身は起こしておいてくださいね」
その言い方に物を申したい事がなくはないが、女神の意図を理解した大地は「わかった」と応え、リリアをゆっくり優しくベッドの上におろした。
二人のやり取りの意図が全く分からないままリリアは成り行きを見守っていると大地が声をかける。
「リリア。もう一つのお見舞い品だ」
そう言って女神が取り出した(どこから取り出したかは女神の秘密です)ものはコップよりも小さめの器に入った黄色い何かだ。
「これはプリンと言ってな甘いお菓子なんだ」
先ほどのおかゆ事件で慣れてきてしまった大地はそれを小さいスプーンですくってリリアの口へと運ぶと、リリアはつい口を開けた。
「すごい……美味しい……甘い。もしかしてお砂糖使っているのですか?」
「ああ、砂糖も女神が取り出して作ってくれたよ。フラッシュバードの卵を使っているから風邪も治りやすいだろう。栄養満点らしいからな」
「そ、そんな高価なものを……お砂糖だけでも高いのにこれ以上はいただけません!」
あ、油断してた。まさかそこまで高い物なのか。とは言え折角リリアの為に用意したのにそれは困る。
スプーンにプリンをすくって差し出すもリリアが口を閉ざしてかたくなに拒む。それを見た女神が動いた。
「そうですか。リリアちゃんはたべないのですか」
お?この腹黒悪女神が説得してくれるのか?
「それじゃあ私が頂いちゃいましょう!」
そう言って大地の手を両手で添えるように優しく掴んでからスプーンの先へ自分の顔を近づけてパクリと加える。
リリアと大地の回路はショート寸前よぉ。
ななな、何してんだコイツ。って両手で優しく掴むのもやめろおおお。振り払いにくいんだよ!ああ、くそっ可愛いじゃなくて!上目遣いも……ぐぬぬぬ。
「あ……」
女神がニコニコと嬉しそうな笑顔でプリンを食べる様子を見て、リリアはつい口が出てしまった。それを聞き逃さない女神は咥えていたスプーンを離すとリリアの耳元に唇を寄せる。
「リリアちゃん。遠慮していると全部食べちゃいますよ?もちろん、大地さんのおててを使ってね」
リリアだけに聞こえるように優しく言うが、リリアは「うぅ、でも……でも……」とまだ遠慮する。そもそも大地の極貧生活を知っているだけにやはり憚られるのだ。
「リリアちゃんの為に取ってきて作ったんです。それにリリアちゃんがいつも頑張ってたことを女神である私はずっと見てました。だから今日くらいは甘えてください。それとも、大地さんの故郷のお菓子は食べられませんか?」
大地より汚い女神の手腕にリリアは「女神様ずるいです」の抗議の目で向けた後、大地に振り向いた。
「その、さっき……頂けませんと――」
先ほどの言葉を撤回しようとするリリアの気持ちは既に分かっている大地は、リリアが全部を言う前にプリンを乗せたスプーンを差し出した。
「ほれ、あーん」
その言葉にリリアは風邪だと言うことを忘れさせるような明るい笑顔を見せる。
そして「あーん」と口を開けてプリンを食べる。のだと予想していたのだがリリアは一つ女神から悪影響を受けてしまっていたのだ。
リリアは大地の手を自分の両手で優しく添える様に掴んだ。そう、女神と同じ手法を取り入れてしまったのだ。そして、ゆっくりと顔を近づけて言って口を開き、大地に目線を向けながらパクリとスプーンを咥えた。
二回目の、それも二人目も同じことされてしまえば大地の許容量はパンクしてポーカーフェイスは維持できず顔を真っ赤に染めた。
それでも毎回、その方法でプリンを食べるリリアに悶えそうになりながらも全部食べ切ってもらう最中、女神をチラリと見るとニヤニヤと笑みを浮かべてやがった。
コイツ!図ったな!!
そうですよ?リリアちゃんの可愛さを全面に出す方法ですし。
な!?コイツ脳内に直接!?
残念ですけど契約で繋がっているので会話出来ちゃいますね。因みに今まで考えてたことも筒抜けですよ?
マジかよ……。っていうか死にたい……。
「ダイチさん。その御馳走さまでした」
「ああ、もう一つ作ってあるから後でまた食べてくれ。女神に保存魔法掛けさせているからいつでもおいしく食べられるらしいぞ?」
高価な食べ物をもう一つ置いてある事に今気づいたらしいリリアは困惑の色を強めるが、大地はその頭に手を乗せて撫でる。
「遠慮ばっかりしてるな。また、元気になったらギルドで会おうぜ」
そう優しく言ったはずなのだが、何故か涙をこぼすリリア。
こ、これはどうしたらいいんだ?
うーん?あ、もしかしたら?
「ご、ごめんなさい。嬉しくて……」
「リリアちゃん。大地さんはリリアちゃんの事を嫌ってませんから安心してください」
え?何で俺が嫌っている事になるんだ?
乙女心は複雑なんですよ?もっともおっさんの大地さんでは分からないと思いますけど
脳内交信で煽ってくる女神だが、全てわかってそうな女神悪魔のハイブリッド型にはかないそうにないと思いながら仕方なく黙って成り行きを見守るしかない。
フルネールの次の言葉はやはりリリアだけに聞こえる声で言う。
「でも、一番うれしいのは大地さんのことを知る事が出来たから。ですよね?」
その言葉にハッと一瞬だけ小さく震えると耳まで真っ赤にしながらコクンとフルネールにだけ伝わるように頷くのだった。
その後、リリアの宿を出て大地が歩き出すのを見てフルネールも後を追う形でついて行く。
「そういえば大地さん。今日の宿はどうするんですか?」
「ああ、もう場所は決まっているから」
そう言いながら歩いていく道のりはどうにもギルドのある方向で、フルネールは嫌な予感がする。
「あ、あの。宿……ですよね?」
「ああ。ちゃんとベッドがあるぞ?石畳という名のな」
大地が足を止めた場所は当然ギルド前の何時もの場所だった。リリアに全部お金を使ったため、無一文である。意外に高かったのは宿の調理場を借りるときに出した金であるのはリリアに絶対言えないことだ。
女神INサバイバル!!お外の生活へようこそ!!
「せめて、御布団をくださーーーーーーーーーーい!!」
夜中に女神の絶叫が響いたと言う。
「別の世界?」
「そうだ。そこの女神にいきなり拉致られてきたんだ」
「そう言いますけど、大地さんもちゃんと了承したじゃないですか」
フルネールがやや拗ねるのを無視する。
「前に言っていた女神様にあったって。そういう事だったんですね」
すんなり受け入れる素直なリリアに頷きながら頭を撫で続ける。少しでも落ち着けられるように。
「ああ。そしてこちらの世界に来ると決めた時に色々女神からもらったんだ。そのうちの一つで女神を呼ぶ事が出来た。ということなんだが……」
やはり傍から見れば突拍子もない事だろう。リリアもきっと受け入れられないかもしれない。
そんな大地の心配毎を一切していないリリアはむしろもっと別の事が気になって気がかりで心配だった。
「あの、ダイチさん……」
その直後にリリアのお腹がクゥーと鳴ってしまった。考えてみれば今日一日、ろくにご飯を食べてないのだ。
それによって「あ……」とうつむいてしまうリリアを見て、大地はフルネールに視線を移した。
「フルネール。アレ作ったろ?食べさせてあげてくれ」
「そうですね。リリアちゃんお腹減ったでしょう?」
そんな二人のやり取りを見て首を傾げたリリアだが、女神はこの宿屋の厨房を借りて作った食べ物をどこからか取り出した。それも女神の力で出来立てのを。(どこから取り出したかは女神の秘密ですよ?)
その食べ物は小さい土鍋で作られたおかゆである。
大地の世界にあるお米を女神の力で取り寄せたあげく、彼女手ずから料理したのだ。
「えっと、これはなんでしょう?」
だが、リリアは見たことが無い。真っ白く何かちっちゃいものが入っていて水気が有る食べ物。
「あー、これはな俺の世界の料理なんだが、病人に食べやすいものなんだ。フルネールに作ってもらったんだが……その嫌だったら――」
「あの!た、食べさせていただけますか?」
大地の言葉を遮りながら、お願いしたい思いを瞳に込めてリリアは聞く。
そしてそこで察するフルネールが後押しだ!と言わんばかりに「はい、大地さんこれとこれもってくださいね」とおかゆを鍋敷き事持たせて、木製のスプーンも同時にわたした。
「ちゃんとリリアちゃんのお口に運ばないと駄目ですよ?あ、でも、リリアちゃんに触れる為にわざと零しても多少は……」
「やらねぇよ!っていうかリリアは俺でいいのか?そこに女神がいるんだぞ?」
そう聞くがリリアは「お願いします」と言ってジッと大地の目を見続ける。
そこでようやく諦めると、スプーンでおかゆを救う。そして、リリアの口へ運ぼうとした瞬間、女神がダメ出しをする。
「大地さん?まじめにやってください!」
真面目って何だよ!これ以上俺になにを求めるんだ?
そんな抗議の目を向けるが女神はさも当たり前の事を口にした。
「おかゆは熱いんですよ?リリアちゃんを火傷させる気ですか?」
そして女神は少し愉しそうに「だからぁ」と言って少しだけ間を溜めると「フーフーしてくださいね?」と告げる。見よ!これが女神の宣託だ。まじで?
少しだけ躊躇してリリアに目を向ける。せめて彼女が抗議してくれれば避けられるのだが、未だに待ち続けるリリアの視線は肯定的なものだった為、諦めて顔を赤くしながらスプーンのおかゆに息を吹きかけて冷ます。
「ちゃんと冷ましたらいうんですよ!」
おっさんにハードルを上げまくるこの悪魔め。……せめてルビくらい女神を入れてください!
「リリア?……あーん」
そう言って大地はスプーンをリリアの口元へと運ぶとリリアもそれに応える。
「あーん」
可愛らしく口を開けてくれたリリアが確りとおかゆを口にいれてくれる。ただ、口に会わないかもしれない。大地は食べなれているからこそ美味しく食べられるがリリアははじめて食べるのだ。余り無理させたくはない。
「リリア?その美味しくなかったら別のを……」
最後まで言うその前にリリアは熱っぽい顔でも満面の笑みを浮かべた。
「美味しいです!」
大地の世界の料理。それは言い換えると大地の故郷の料理だ。だから、少しでも理解したいと考えながら食べもを口にした。だが、そんな事を考える必要はなかった。塩気を感じつつどこか甘く、水気があって食べやすい。
「あの、もう一口ほしいです」
結局、ものの数分でおかゆを平らげることになる。ただ、それはがっついてしまうようにも本人が感じてしまい、少し恥ずかしそうにしていた。
「ご飯も食べた事ですし、リリアちゃんお着換えしましょう?」
フルネールからの予想外の言葉でリリアは驚く。着替えも何ももっていないのだ。しかし、フルネールはそんなことお構いなしだと言わんばかりに大地を外へ放り出した。
廊下からドア越しで聞こえてくる声は以下である。
「さぁリリアちゃん。脱いでください。恥ずかしがらずに」
「あ……はい……」
「服はお洗濯するとして、一先ず……を履いて、これも着けて……あとはこちらです」
「見たことないのですけど……」
「いいからいいから。うん!やっぱり可愛いですね。大地さん入ってきてください」
短いやり取りの後に部屋へ招き入れられた大地はリリアの姿を目にする。
ドアの前にいるリリアの姿はこちらの世界にはないパジャマ姿だった。可愛らしく花の模様がついていて、その顔は風邪からきているのだろうが赤みがかっていてよりかわいく見える。
「えと、どうです……ケホケホッ」
とはいえ、病人を立たせておくのは良いわけない。
「ああ、可愛いぞ。ただ、あまり病人が長く立っているものじゃないな」
「はい……あっ」
大地に褒められて嬉しくなりながら戻ろうとしたところでフラフラする重い体でバランスを崩して倒れかけた。
倒れかけたと言うのは踏みとどまったと言うわけではなく、素早く動いた大地がその体を支えたのだ。
そんな風に迷惑をかけた大地に向かって謝ろうとしたリリアより先に大地が「少しだけ我慢してくれ」と言って、リリアをお姫様抱っこで抱えた。
「きゃっ」
と少し驚くも、自分がどういう状況にあるか直ぐに理解したリリアは、何も考えず自然と自分の体を大地へ甘えるようにくっつけた。
計画通りに進行して女神は満足気に微笑みを浮かべる。
「大地さん。ベッドに連れ込むのはいいんですけど、上半身は起こしておいてくださいね」
その言い方に物を申したい事がなくはないが、女神の意図を理解した大地は「わかった」と応え、リリアをゆっくり優しくベッドの上におろした。
二人のやり取りの意図が全く分からないままリリアは成り行きを見守っていると大地が声をかける。
「リリア。もう一つのお見舞い品だ」
そう言って女神が取り出した(どこから取り出したかは女神の秘密です)ものはコップよりも小さめの器に入った黄色い何かだ。
「これはプリンと言ってな甘いお菓子なんだ」
先ほどのおかゆ事件で慣れてきてしまった大地はそれを小さいスプーンですくってリリアの口へと運ぶと、リリアはつい口を開けた。
「すごい……美味しい……甘い。もしかしてお砂糖使っているのですか?」
「ああ、砂糖も女神が取り出して作ってくれたよ。フラッシュバードの卵を使っているから風邪も治りやすいだろう。栄養満点らしいからな」
「そ、そんな高価なものを……お砂糖だけでも高いのにこれ以上はいただけません!」
あ、油断してた。まさかそこまで高い物なのか。とは言え折角リリアの為に用意したのにそれは困る。
スプーンにプリンをすくって差し出すもリリアが口を閉ざしてかたくなに拒む。それを見た女神が動いた。
「そうですか。リリアちゃんはたべないのですか」
お?この腹黒悪女神が説得してくれるのか?
「それじゃあ私が頂いちゃいましょう!」
そう言って大地の手を両手で添えるように優しく掴んでからスプーンの先へ自分の顔を近づけてパクリと加える。
リリアと大地の回路はショート寸前よぉ。
ななな、何してんだコイツ。って両手で優しく掴むのもやめろおおお。振り払いにくいんだよ!ああ、くそっ可愛いじゃなくて!上目遣いも……ぐぬぬぬ。
「あ……」
女神がニコニコと嬉しそうな笑顔でプリンを食べる様子を見て、リリアはつい口が出てしまった。それを聞き逃さない女神は咥えていたスプーンを離すとリリアの耳元に唇を寄せる。
「リリアちゃん。遠慮していると全部食べちゃいますよ?もちろん、大地さんのおててを使ってね」
リリアだけに聞こえるように優しく言うが、リリアは「うぅ、でも……でも……」とまだ遠慮する。そもそも大地の極貧生活を知っているだけにやはり憚られるのだ。
「リリアちゃんの為に取ってきて作ったんです。それにリリアちゃんがいつも頑張ってたことを女神である私はずっと見てました。だから今日くらいは甘えてください。それとも、大地さんの故郷のお菓子は食べられませんか?」
大地より汚い女神の手腕にリリアは「女神様ずるいです」の抗議の目で向けた後、大地に振り向いた。
「その、さっき……頂けませんと――」
先ほどの言葉を撤回しようとするリリアの気持ちは既に分かっている大地は、リリアが全部を言う前にプリンを乗せたスプーンを差し出した。
「ほれ、あーん」
その言葉にリリアは風邪だと言うことを忘れさせるような明るい笑顔を見せる。
そして「あーん」と口を開けてプリンを食べる。のだと予想していたのだがリリアは一つ女神から悪影響を受けてしまっていたのだ。
リリアは大地の手を自分の両手で優しく添える様に掴んだ。そう、女神と同じ手法を取り入れてしまったのだ。そして、ゆっくりと顔を近づけて言って口を開き、大地に目線を向けながらパクリとスプーンを咥えた。
二回目の、それも二人目も同じことされてしまえば大地の許容量はパンクしてポーカーフェイスは維持できず顔を真っ赤に染めた。
それでも毎回、その方法でプリンを食べるリリアに悶えそうになりながらも全部食べ切ってもらう最中、女神をチラリと見るとニヤニヤと笑みを浮かべてやがった。
コイツ!図ったな!!
そうですよ?リリアちゃんの可愛さを全面に出す方法ですし。
な!?コイツ脳内に直接!?
残念ですけど契約で繋がっているので会話出来ちゃいますね。因みに今まで考えてたことも筒抜けですよ?
マジかよ……。っていうか死にたい……。
「ダイチさん。その御馳走さまでした」
「ああ、もう一つ作ってあるから後でまた食べてくれ。女神に保存魔法掛けさせているからいつでもおいしく食べられるらしいぞ?」
高価な食べ物をもう一つ置いてある事に今気づいたらしいリリアは困惑の色を強めるが、大地はその頭に手を乗せて撫でる。
「遠慮ばっかりしてるな。また、元気になったらギルドで会おうぜ」
そう優しく言ったはずなのだが、何故か涙をこぼすリリア。
こ、これはどうしたらいいんだ?
うーん?あ、もしかしたら?
「ご、ごめんなさい。嬉しくて……」
「リリアちゃん。大地さんはリリアちゃんの事を嫌ってませんから安心してください」
え?何で俺が嫌っている事になるんだ?
乙女心は複雑なんですよ?もっともおっさんの大地さんでは分からないと思いますけど
脳内交信で煽ってくる女神だが、全てわかってそうな女神悪魔のハイブリッド型にはかないそうにないと思いながら仕方なく黙って成り行きを見守るしかない。
フルネールの次の言葉はやはりリリアだけに聞こえる声で言う。
「でも、一番うれしいのは大地さんのことを知る事が出来たから。ですよね?」
その言葉にハッと一瞬だけ小さく震えると耳まで真っ赤にしながらコクンとフルネールにだけ伝わるように頷くのだった。
その後、リリアの宿を出て大地が歩き出すのを見てフルネールも後を追う形でついて行く。
「そういえば大地さん。今日の宿はどうするんですか?」
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そう言いながら歩いていく道のりはどうにもギルドのある方向で、フルネールは嫌な予感がする。
「あ、あの。宿……ですよね?」
「ああ。ちゃんとベッドがあるぞ?石畳という名のな」
大地が足を止めた場所は当然ギルド前の何時もの場所だった。リリアに全部お金を使ったため、無一文である。意外に高かったのは宿の調理場を借りるときに出した金であるのはリリアに絶対言えないことだ。
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