初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
25 / 281
女神と同居は嬉しい?嬉しくない?

お見舞い品は最高のものをご用意しました-その2

しおりを挟む
 その突拍子のないセリフにリリアは反復するように聞く。

「別の世界?」

「そうだ。そこの女神にいきなり拉致られてきたんだ」

「そう言いますけど、大地さんもちゃんと了承したじゃないですか」

 フルネールがやや拗ねるのを無視する。

「前に言っていた女神様にあったって。そういう事だったんですね」

 すんなり受け入れる素直なリリアに頷きながら頭を撫で続ける。少しでも落ち着けられるように。

「ああ。そしてこちらの世界に来ると決めた時に色々女神からもらったんだ。そのうちの一つで女神を呼ぶ事が出来た。ということなんだが……」

 やはり傍から見れば突拍子もない事だろう。リリアもきっと受け入れられないかもしれない。

 そんな大地の心配毎を一切していないリリアはむしろもっと別の事が気になって気がかりで心配だった。

「あの、ダイチさん……」

 その直後にリリアのお腹がクゥーと鳴ってしまった。考えてみれば今日一日、ろくにご飯を食べてないのだ。

 それによって「あ……」とうつむいてしまうリリアを見て、大地はフルネールに視線を移した。

「フルネール。アレ作ったろ?食べさせてあげてくれ」

「そうですね。リリアちゃんお腹減ったでしょう?」

 そんな二人のやり取りを見て首を傾げたリリアだが、女神はこの宿屋の厨房を借りて作った食べ物をどこからか取り出した。それも女神の力で出来立てのを。(どこから取り出したかは女神の秘密ですよ?)

 その食べ物は小さい土鍋で作られたおかゆである。
 大地の世界にあるお米を女神の力で取り寄せたあげく、彼女手ずから料理したのだ。

「えっと、これはなんでしょう?」

 だが、リリアは見たことが無い。真っ白く何かちっちゃいものが入っていて水気が有る食べ物。

「あー、これはな俺の世界の料理なんだが、病人に食べやすいものなんだ。フルネールに作ってもらったんだが……その嫌だったら――」

「あの!た、食べさせていただけますか?」

 大地の言葉を遮りながら、お願いしたい思いを瞳に込めてリリアは聞く。

 そしてそこで察するフルネールが後押しだ!と言わんばかりに「はい、大地さんこれとこれもってくださいね」とおかゆを鍋敷き事持たせて、木製のスプーンも同時にわたした。

「ちゃんとリリアちゃんのお口に運ばないと駄目ですよ?あ、でも、リリアちゃんに触れる為にわざと零しても多少は……」

「やらねぇよ!っていうかリリアは俺でいいのか?そこに女神がいるんだぞ?」

 そう聞くがリリアは「お願いします」と言ってジッと大地の目を見続ける。

 そこでようやく諦めると、スプーンでおかゆを救う。そして、リリアの口へ運ぼうとした瞬間、女神がダメ出しをする。

「大地さん?まじめにやってください!」

 真面目って何だよ!これ以上俺になにを求めるんだ?

 そんな抗議の目を向けるが女神はさも当たり前の事を口にした。

「おかゆは熱いんですよ?リリアちゃんを火傷させる気ですか?」

 そして女神は少し愉しそうに「だからぁ」と言って少しだけ間を溜めると「フーフーしてくださいね?」と告げる。見よ!これが女神の宣託だ。まじで?

 少しだけ躊躇してリリアに目を向ける。せめて彼女が抗議してくれれば避けられるのだが、未だに待ち続けるリリアの視線は肯定的なものだった為、諦めて顔を赤くしながらスプーンのおかゆに息を吹きかけて冷ます。

「ちゃんと冷ましたらいうんですよ!」

 おっさんにハードルを上げまくるこの悪魔め。……せめてルビくらい女神を入れてください!

「リリア?……あーん」

 そう言って大地はスプーンをリリアの口元へと運ぶとリリアもそれに応える。

「あーん」

 可愛らしく口を開けてくれたリリアが確りとおかゆを口にいれてくれる。ただ、口に会わないかもしれない。大地は食べなれているからこそ美味しく食べられるがリリアははじめて食べるのだ。余り無理させたくはない。

「リリア?その美味しくなかったら別のを……」

 最後まで言うその前にリリアは熱っぽい顔でも満面の笑みを浮かべた。

「美味しいです!」

 大地の世界の料理。それは言い換えると大地の故郷の料理だ。だから、少しでも理解したいと考えながら食べもを口にした。だが、そんな事を考える必要はなかった。塩気を感じつつどこか甘く、水気があって食べやすい。

「あの、もう一口ほしいです」

 結局、ものの数分でおかゆを平らげることになる。ただ、それはがっついてしまうようにも本人が感じてしまい、少し恥ずかしそうにしていた。

「ご飯も食べた事ですし、リリアちゃんお着換えしましょう?」

 フルネールからの予想外の言葉でリリアは驚く。着替えも何ももっていないのだ。しかし、フルネールはそんなことお構いなしだと言わんばかりに大地を外へ放り出した。

 廊下からドア越しで聞こえてくる声は以下である。

「さぁリリアちゃん。脱いでください。恥ずかしがらずに」

「あ……はい……」

「服はお洗濯するとして、一先ず……を履いて、これも着けて……あとはこちらです」

「見たことないのですけど……」

「いいからいいから。うん!やっぱり可愛いですね。大地さん入ってきてください」

 短いやり取りの後に部屋へ招き入れられた大地はリリアの姿を目にする。

 ドアの前にいるリリアの姿はこちらの世界にはないパジャマ姿だった。可愛らしく花の模様がついていて、その顔は風邪からきているのだろうが赤みがかっていてよりかわいく見える。

「えと、どうです……ケホケホッ」

 とはいえ、病人を立たせておくのは良いわけない。

「ああ、可愛いぞ。ただ、あまり病人が長く立っているものじゃないな」

「はい……あっ」

 大地に褒められて嬉しくなりながら戻ろうとしたところでフラフラする重い体でバランスを崩して倒れかけた。

 倒れかけたと言うのは踏みとどまったと言うわけではなく、素早く動いた大地がその体を支えたのだ。
 そんな風に迷惑をかけた大地に向かって謝ろうとしたリリアより先に大地が「少しだけ我慢してくれ」と言って、リリアをお姫様抱っこで抱えた。

「きゃっ」

 と少し驚くも、自分がどういう状況にあるか直ぐに理解したリリアは、何も考えず自然と自分の体を大地へ甘えるようにくっつけた。

 計画通りに進行して女神は満足気に微笑みを浮かべる。

「大地さん。ベッドに連れ込むのはいいんですけど、上半身は起こしておいてくださいね」

 その言い方に物を申したい事がなくはないが、女神の意図を理解した大地は「わかった」と応え、リリアをゆっくり優しくベッドの上におろした。

 二人のやり取りの意図が全く分からないままリリアは成り行きを見守っていると大地が声をかける。

「リリア。もう一つのお見舞い品だ」

 そう言って女神が取り出した(どこから取り出したかは女神の秘密です)ものはコップよりも小さめの器に入った黄色い何かだ。

「これはプリンと言ってな甘いお菓子なんだ」

 先ほどのおかゆ事件で慣れてきてしまった大地はそれを小さいスプーンですくってリリアの口へと運ぶと、リリアはつい口を開けた。

「すごい……美味しい……甘い。もしかしてお砂糖使っているのですか?」

「ああ、砂糖も女神が取り出して作ってくれたよ。フラッシュバードの卵を使っているから風邪も治りやすいだろう。栄養満点らしいからな」

「そ、そんな高価なものを……お砂糖だけでも高いのにこれ以上はいただけません!」

 あ、油断してた。まさかそこまで高い物なのか。とは言え折角リリアの為に用意したのにそれは困る。

 スプーンにプリンをすくって差し出すもリリアが口を閉ざしてかたくなに拒む。それを見た女神が動いた。

「そうですか。リリアちゃんはたべないのですか」

 お?この腹黒悪女神が説得してくれるのか?

「それじゃあ私が頂いちゃいましょう!」

 そう言って大地の手を両手で添えるように優しく掴んでからスプーンの先へ自分の顔を近づけてパクリと加える。

 リリアと大地の回路はショート寸前よぉ。

 ななな、何してんだコイツ。って両手で優しく掴むのもやめろおおお。振り払いにくいんだよ!ああ、くそっ可愛いじゃなくて!上目遣いも……ぐぬぬぬ。

「あ……」

 女神がニコニコと嬉しそうな笑顔でプリンを食べる様子を見て、リリアはつい口が出てしまった。それを聞き逃さない女神は咥えていたスプーンを離すとリリアの耳元に唇を寄せる。

「リリアちゃん。遠慮していると全部食べちゃいますよ?もちろん、大地さんのおててを使ってね」

 リリアだけに聞こえるように優しく言うが、リリアは「うぅ、でも……でも……」とまだ遠慮する。そもそも大地の極貧生活を知っているだけにやはり憚られるのだ。

「リリアちゃんの為に取ってきて作ったんです。それにリリアちゃんがいつも頑張ってたことを女神である私はずっと見てました。だから今日くらいは甘えてください。それとも、大地さんの故郷のお菓子は食べられませんか?」

 大地より汚い女神の手腕にリリアは「女神様ずるいです」の抗議の目で向けた後、大地に振り向いた。

「その、さっき……頂けませんと――」

 先ほどの言葉を撤回しようとするリリアの気持ちは既に分かっている大地は、リリアが全部を言う前にプリンを乗せたスプーンを差し出した。

「ほれ、あーん」

 その言葉にリリアは風邪だと言うことを忘れさせるような明るい笑顔を見せる。

 そして「あーん」と口を開けてプリンを食べる。のだと予想していたのだがリリアは一つ女神から悪影響を受けてしまっていたのだ。

 リリアは大地の手を自分の両手で優しく添える様に掴んだ。そう、女神と同じ手法を取り入れてしまったのだ。そして、ゆっくりと顔を近づけて言って口を開き、大地に目線を向けながらパクリとスプーンを咥えた。

 二回目の、それも二人目も同じことされてしまえば大地の許容量はパンクしてポーカーフェイスは維持できず顔を真っ赤に染めた。

 それでも毎回、その方法でプリンを食べるリリアに悶えそうになりながらも全部食べ切ってもらう最中、女神をチラリと見るとニヤニヤと笑みを浮かべてやがった。

 コイツ!図ったな!!

 そうですよ?リリアちゃんの可愛さを全面に出す方法ですし。

 な!?コイツ脳内に直接!?

 残念ですけど契約で繋がっているので会話出来ちゃいますね。因みに今まで考えてたことも筒抜けですよ?

 マジかよ……。っていうか死にたい……。

「ダイチさん。その御馳走さまでした」

「ああ、もう一つ作ってあるから後でまた食べてくれ。女神に保存魔法掛けさせているからいつでもおいしく食べられるらしいぞ?」

 高価な食べ物をもう一つ置いてある事に今気づいたらしいリリアは困惑の色を強めるが、大地はその頭に手を乗せて撫でる。

「遠慮ばっかりしてるな。また、元気になったらギルドで会おうぜ」

 そう優しく言ったはずなのだが、何故か涙をこぼすリリア。

 こ、これはどうしたらいいんだ?

 うーん?あ、もしかしたら?

「ご、ごめんなさい。嬉しくて……」

「リリアちゃん。大地さんはリリアちゃんの事を嫌ってませんから安心してください」

 え?何で俺が嫌っている事になるんだ?

 乙女心は複雑なんですよ?もっともおっさんの大地さんでは分からないと思いますけど

 脳内交信で煽ってくる女神だが、全てわかってそうな女神悪魔のハイブリッド型にはかないそうにないと思いながら仕方なく黙って成り行きを見守るしかない。

 フルネールの次の言葉はやはりリリアだけに聞こえる声で言う。

「でも、一番うれしいのは大地さんのことを知る事が出来たから。ですよね?」

 その言葉にハッと一瞬だけ小さく震えると耳まで真っ赤にしながらコクンとフルネールにだけ伝わるように頷くのだった。


 その後、リリアの宿を出て大地が歩き出すのを見てフルネールも後を追う形でついて行く。

「そういえば大地さん。今日の宿はどうするんですか?」

「ああ、もう場所は決まっているから」

 そう言いながら歩いていく道のりはどうにもギルドのある方向で、フルネールは嫌な予感がする。

「あ、あの。宿……ですよね?」

「ああ。ちゃんとベッドがあるぞ?石畳という名のな」

 大地が足を止めた場所は当然ギルド前の何時もの場所だった。リリアに全部お金を使ったため、無一文である。意外に高かったのは宿の調理場を借りるときに出した金であるのはリリアに絶対言えないことだ。

 女神INサバイバル!!お外の生活へようこそ!!

「せめて、御布団をくださーーーーーーーーーーい!!」

 夜中に女神の絶叫が響いたと言う。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アブソリュート・ババア

筧千里
ファンタジー
 大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。  そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。  あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。  アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

処理中です...