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女神と同居は嬉しい?嬉しくない?
困った時は女神様
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「長く苦しい戦いだった」
デビルアントの死骸を見ながら、良い汗かいたぜ。のような手の甲で額を拭うポーズを取る大地に女神は一言『お疲れさまでした』と、脳内に優しい声が響く。
からかうこともなく普通に言われてしまうと反応に困るもので、大地は右頬を人差し指でかくことで少しでも照れを隠そうとする。
「そう言えば語尾に無理やり『わ』をつけないのか?」
『ええ。大地さんに頂いたご助言通りに自然体でいこうと思います』
無理ない感じのしゃべり方は聞いてて安心するな。
『なので……』
ん?何か嫌な予感がする。
『からかう時もいつも通りの自然体でいきますね?』
喜怒哀楽。全部を使ってからかいますね?との言葉と同義だろう。これから苦労しそうだと、大地はため息が出てしまう。
「とりあえず奥に道があるからいくか」
もう今は時間の感覚がわからないため、そとに出て太陽の位置が知りたい。
「あーそうだ。一つ聞いて良いか?」
『どうしたんです?改まって?』
「いや、俺って一回死んだのか?」
『うーん?』
女神は意味がわからないといった様子で言葉に悩む。それを察した大地は自分の言葉足らずを恥じる。
「いや、すまん。俺は異世界転生してきてるんだよな?」
『はい。そうですよ?』
「死んで生まれ変わったのか?転生って言うくらいなら赤子でこの世界に生まれるとかじゃないのか?」
『あー。えっとですね。ちゃんと死んでますよ?』
あ、死んでるのか。ってそう軽く言われるとそれはそれで微妙な気持ちになるな。
『そもそも、頭にコンセント刺されて電気信号を大量に流されたら、普通の人はどうなると思いますか?』
「あのインストールか。……意識失ったのってつまり?」
『死んだからです!』
な、なるほどなー。
『そして、死んだあと体を作り替えたんです。その時のコツは知識、人格に傷つけないことですね。あとはこの世界に異物だと思われないように世界の仕組みにそってやりました!』
何か今、さらっと聞いちゃいけないこと聞いた気がするな。
「それにしても、そのやり方だと脳焼け切れるだろそれ……」
『どちらかと言うと、インストールはそれが目的ですからね』
ええ。脳焼くのか。転生する前に聞かなくてよかった。
「でも、脳を焼いて……もうこの話はよそう……気持ち悪くなってくる……」
『んー?そうですか?一応これだけは言いますが、記憶は魂に宿るので転生しても昔の記憶は覚えてられますからね……忘れたくない記憶もありますでしょう?』
まさか、脳科学?からそんな話になるとは……だけど。
「そうだな。昔の事とはいえ生きていれば色々あるからな……ありがとな」
恐らくこの女神は自分を安心させるために最後の一言を添えたのだとわかる。
そして、どうやら長い道のりも終わりを告げるように奥に明かりが見える。ずっと後光で光りっぱなしだったため変にコリそうだったが、やっと一息できるのだ。
「ここ、どの辺だろうか?」
洞窟から出た場所は、森とか崖とかではなく山岳地帯なのは変わらなかった。それ故に他と代わり映えしない景色であるために現在地まではわからない。
『同じような山ばかりですね。でも、日が落ちるまではまだありそうでよかったですね』
女神の言う通りで確かに太陽は高い位置にある。あとはとっととデカイ鳥を倒して卵を頂いて帰るだけだ。日帰りピクニックって訳よ。
「仕方ない。ひとまずこの山を登るか」
振り返り洞窟の出入口と繋がる山の頂上を見上げながら大地は登り始める。人が時間をかけて登る山を大地はゲームのパルクール的な感覚ですいすいと登っていく。
この登っている最中にモンスターがやって来たらめんどいくらいなものだったが、それもなく、わずか数分で山頂まで登りきった。
「……あれかな?」
一番高い山を見つける。だが、その間に小さな山が3つほど連なっていて遠く感じる。
流石に登って下りるを何度もやるのはしんどい。精神がしんどくなると疲れることは脳内女神の乱でよくわかっているのだ。
わかるっていうか、わからせられたっていうか……。
「と言うことで、飛んでいくか」
『流石にここでジェット戦闘機は……』
それを使うほどの距離でもなければ、離陸する地形もないため、ジェット戦闘機は流石に難しい。海龍を倒した時のように空中で召喚すれば問題ないのだが、乗り込む場合はそうはいかない。
「わかってる。だから、砂漠から帰る時にリリアと乗ったもので行こうと思う」
『あの、メルヘンチックな乗り物を大地さん一人で……?』
うっ。やめろ、それは心に刺さる……。
「仕方無いだろう。他に思い付かないし……それとも森に迷ったとき使ったカタパルトでも出すか?」
あの蜂退治の帰りはカタパルトで上空に飛んでからの、吹き矢つきハンググライダーで帰っているのだ。その時に武器っぽい扱いが出来れば兵器と見なされることはわかった。因にだが粘着照明弾も粘着することで武器扱いだ。強烈な光は熱にもなるし、そもそもあれがもし顔に張り付いたら……流石に惨いことはしたくない。だから、これからもそんなことしたいと思えない人と出会っていきたいものだ。
『それで山頂の穴にホールインワンしたら、またブラックアントとの大追走劇ですね』
二度、あれをやるのは流石に勘弁だな。
「それじゃあ出すか。リリアを乗せたメルヘンチックな兵器を」
そう言ってからイメージをする。あの砂漠で苦労と心配をかけたリリアを少しでも喜ばせたいと願った乗り物――空飛ぶ馬車だ。
馬車の基本形状を説明するならば大きい箱に木製タイヤを四つ取り付け馬に引かせる乗り物だ。この世界でもそれは同じた。
安い馬車なら前後が吹き抜けのような形に布を張った簡素なもので、役割的には荷物運びがメインで人も頼まれればのせる。という形だ。
貴族が乗る高いものになればしっかりと密閉された箱の形となり人を乗せるだけに特化したものだ。装飾は豪華になり場合によっては密談をすることもある。
だが、大地が造り出した馬車はその二つとは全く違う点がある。それは利用目的が荷物、人をただ運ぶだけの構造ではない。乗せた人を喜ばせるための作りを心がけている。
角ばった形より丸い形のほうが可愛く見えるだろう。流石にハート型はおっさにはきついので丸めに作る。
タイヤは出来るだけ細くして重厚感を極力削る。
そとの景色を眺めやすくするために入り口の反対方向には大きめなガラス窓。
装飾は要所要所に宝石をちりばめてキラキラするように。
色合いは全体的には白くしつつ清潔感を出す。
この馬車の運び手は中身が機械の本物そっくりの白馬。
『二回目ですがこの馬車ってまるで……』
「な、なんだよ……」
女神が途中で止めた言葉が気になる。
だが、その女神はやはり言うのは無粋だと思ったのか『いえいえ、やっぱり何でもありません』と断ることにモヤモヤを感じた。
「……まぁとりあえず乗るぞ」
『はい♪』
そう言って開いてある入口に足をかけて中へ入る。中は快適に過ごせるように広く作っていて向かい合って座れる内装だ。因みにこの乗り物もしっかりと兵器である。そうでなければ大地が召喚する事は出来ないのだ。
兵器の能力としては真下に爆弾を投下するものと、白馬がユニコーンに変形して突撃したりできる仕様だ。
その事についてリリアには一言も教えてはいない。メルヘンさがぶち壊しになるからな。
空を移動する速度もジェット機とまでは行かないがなかなか早い機動力を出す事は出来る。逆に遅くゆったり移動する事も出来る。リリアを乗せた時はゆっくりと空の旅を満喫させる為にやや遅めに動かしたが、今はそんな必要が無いため、移動速度を上げた。
ほどなくして先程いた山頂に戻ってくる事が出来た。そして目の前には巨鳥フラッシュバードだ。モンスターが大地を捕捉するとかなり高い声でクエー!!と鳴きながら飛びあがる。コレは威嚇だろうか。それとも懇願だろうか。
「悪いがこのまま仕留めさせてもらう」
馬車の爆弾では山頂に大穴を開けてしまう危惧がある。それ故に、使用するは白馬の方だ――と考えたが一瞬だけリリアの嬉しそうな顔を思い出してしまった。大地は頬をかくとメルヘンチックな馬車を消した。
『あれ?大地さん。馬車は使わないんですか?』
「ああ。必要ないだろう。別の武器で仕留める」
『……そうですか。いえ、いいと思いますよ』
その大地の言葉の少しの間がありもしたが女神はそのまま肯定してくれる。
この鳥には一杯食わされたからな、その礼はたっぷりとしないとな?
大地が武器を召喚する。それは振動する事なく相手を撃ちぬける。ゲームや映画のSFで大活躍するそれは電気的な力を利用して打ち出す事が出来る。レーザー銃と呼ばれる。
「まずは片翼を奪わせてもらうぜ」
形を言うならばアサルトライフルが一番近い形状だ。ただ、銃口といったような穴は開いていないが代わりに槍の様に先がとがっている。その尖った部分をフラッシュバードの片翼に向けて大地は引き金を引いた。
一瞬の光が空を駆け抜けて翼を貫いた。更に1発目に続いて2発3発と続いて翼を光線で貫く。
片翼が負傷したせいで地面に落ちたフラッシュバードが必死の抵抗をするように衝撃波を大地へ飛ばす。先ほどはこれによってボッシュートを受けたのだ。だからこそ今度は大きく跳躍して避け、一気にフラッシュバードの上に乗った。
じっとフラッシュバードは首を伸ばして振り向くように大地の顔を見続ける。こう見ると愛嬌ある顔だ。凛々しい顔つきに綺麗な羽。クエーと弱々しく叫ぶ鳴き声。だが――。
「悪いな。これも依頼なんだ」
そう言って大地はモンスターの頭を撃ちぬいた。
『可哀そうですか?でもこのモンスターはたくさんの人を……」
「言わなくていいよ。どんな理由であれ俺は仕留める気でいたんだからな……」
少しだけ気落ちしてそうな大地を慰める為に言ってくれた女神に心の内でお礼を言ってからフラッシュバードのトサカを切り落とすと、卵が置いてあるだろう巣へと近寄った。
「コレがフラッシュバードの卵か」
三つある内の一つへ置いてある卵に手を伸ばして掴む。
『あ!ダメです大地さん!』
女神の静止より早く卵を持ち上げた。その瞬間、卵が砕けて中身が落ち、中身は一瞬で蒸発した。
「なんだこれ」
『フラッシュバードの卵は魔力を流しながらじゃないと取れないんです』
魔力の流し方なんてわからねぇ。
「簡単にできるものか?」
『いいえ。リリアちゃんは出来ると思いますが、ほかの方ではなかなか難しいと思います』
どうしたらいいだろう。諦めるか?……いや、もう一つ方法があるか。
『あ、巣を持ち上げようとしてもダメですよ』
「その手があったか!」
『だからダメです!』
珍しく焦りを見せる女神が少し面白く思いながらも「すまんすまん」と大地は謝る。
既に女神もわかっているからこそ、止めに入るのだ。
「頼んでいいか?」
『はい。ではもう一度ちゃんと名前を呼んで頂けますか?』
む、確かに名前を呼んだのは一度切りだったか。
「頼む。女神フルネール・ラ・ミーミル……君が必要なんだ来てくれ!」
その言葉に呼応したのか目の前に光が降り注ぎ、夢で見たその姿をこの世界へ召喚した。
銀色の髪も美人の容姿も何もかもが同じの女神だ。
「どうしました?あ、私に見惚れてますー?」
キャッというように頬に両手を当てながら照れる様相を見せる女神。
ああ、いつもの脳内女神だ。
「見蕩れてないから卵を頼む」
「もう。姿を見せても乗ってきてくれないんですね」
そうぶつくさ言いながら女神は卵に目線を移すと手を伸ばす。魔力のコントロールが非常に難しく、卵を取る依頼であればランクはAかSになるレベルだ。それほど脆く壊れやすい卵なのだ。だが、女神からしたら容易い以外の言葉はない。指先に魔力を込めながら卵に触れると魔力が流れ、卵が発光しだした。その光具合を見て問題ないと判断した女神は卵を手に取った。
『はい。大地さん。ちゃんと大事に持って帰らないとだめですよ?』
大人しく受け取る大地に微笑みながら女神はもう一つの卵も同じように魔力を流し掴み手に取る。
「はい。こちらも取れましたよ」
そう言って二つ目も大地に渡す。
「ありがとな……」
「あら?お礼を言うならちゃんと目を見て言ってくれますか?」
嬉し愉しそうな顔で女神は両手を後ろに回して上半身だけをズイッと大地に近づけて言う。その視線はしっかりと大地の目へと向けられている。
そのぐいぐい来る感じは脳内よりかなりパワーアップしている感は否めない。とはいえ、力を貸してもらっておいて、彼女のいうごく正論を無視する事も出来ない。だから、大地は腹をくくった。
「フルネール!」
ガシッとその両肩を掴むとフルネールは一瞬だけビクつくように震えた。
「……ありがとう。助かった!」
「どどういたしまして!」
その女神は慌てて体を引くように元の体勢へと戻る。
「そ、それよりその卵はやっぱり売るんですか?」
それも悪くない。悪くないんだが……。
「少しだけ思うところがあるからな。ひとまずギルドへ帰るか」
女神が頷くのを見てから大地は二人が乗れる変わった乗り物を召喚した。
「これで帰るんですか?」
見上げる形でその乗り物を見て、さすがの女神も驚いた
「ああ。俺の世界ではSF作品くらいしか出てこないが、UFOと呼ぶな。円盤型で光学迷彩……所謂ステルス機能も搭載しているぞ」
そう説明するとUFOから光が下りてきて大地と女神を光のエレベーターで吸い込んでいく。
「わ、わわ。なんか変な感じですよ大地さん」
「俺も初めてだからちょっと困惑しているよ……」
これがアブダクションと言うヤツなのだろう。
こうして不思議な浮遊感を味わいながらUFOへ乗り込み、ホワイトキングダム近くまで飛んで帰るのであった。
デビルアントの死骸を見ながら、良い汗かいたぜ。のような手の甲で額を拭うポーズを取る大地に女神は一言『お疲れさまでした』と、脳内に優しい声が響く。
からかうこともなく普通に言われてしまうと反応に困るもので、大地は右頬を人差し指でかくことで少しでも照れを隠そうとする。
「そう言えば語尾に無理やり『わ』をつけないのか?」
『ええ。大地さんに頂いたご助言通りに自然体でいこうと思います』
無理ない感じのしゃべり方は聞いてて安心するな。
『なので……』
ん?何か嫌な予感がする。
『からかう時もいつも通りの自然体でいきますね?』
喜怒哀楽。全部を使ってからかいますね?との言葉と同義だろう。これから苦労しそうだと、大地はため息が出てしまう。
「とりあえず奥に道があるからいくか」
もう今は時間の感覚がわからないため、そとに出て太陽の位置が知りたい。
「あーそうだ。一つ聞いて良いか?」
『どうしたんです?改まって?』
「いや、俺って一回死んだのか?」
『うーん?』
女神は意味がわからないといった様子で言葉に悩む。それを察した大地は自分の言葉足らずを恥じる。
「いや、すまん。俺は異世界転生してきてるんだよな?」
『はい。そうですよ?』
「死んで生まれ変わったのか?転生って言うくらいなら赤子でこの世界に生まれるとかじゃないのか?」
『あー。えっとですね。ちゃんと死んでますよ?』
あ、死んでるのか。ってそう軽く言われるとそれはそれで微妙な気持ちになるな。
『そもそも、頭にコンセント刺されて電気信号を大量に流されたら、普通の人はどうなると思いますか?』
「あのインストールか。……意識失ったのってつまり?」
『死んだからです!』
な、なるほどなー。
『そして、死んだあと体を作り替えたんです。その時のコツは知識、人格に傷つけないことですね。あとはこの世界に異物だと思われないように世界の仕組みにそってやりました!』
何か今、さらっと聞いちゃいけないこと聞いた気がするな。
「それにしても、そのやり方だと脳焼け切れるだろそれ……」
『どちらかと言うと、インストールはそれが目的ですからね』
ええ。脳焼くのか。転生する前に聞かなくてよかった。
「でも、脳を焼いて……もうこの話はよそう……気持ち悪くなってくる……」
『んー?そうですか?一応これだけは言いますが、記憶は魂に宿るので転生しても昔の記憶は覚えてられますからね……忘れたくない記憶もありますでしょう?』
まさか、脳科学?からそんな話になるとは……だけど。
「そうだな。昔の事とはいえ生きていれば色々あるからな……ありがとな」
恐らくこの女神は自分を安心させるために最後の一言を添えたのだとわかる。
そして、どうやら長い道のりも終わりを告げるように奥に明かりが見える。ずっと後光で光りっぱなしだったため変にコリそうだったが、やっと一息できるのだ。
「ここ、どの辺だろうか?」
洞窟から出た場所は、森とか崖とかではなく山岳地帯なのは変わらなかった。それ故に他と代わり映えしない景色であるために現在地まではわからない。
『同じような山ばかりですね。でも、日が落ちるまではまだありそうでよかったですね』
女神の言う通りで確かに太陽は高い位置にある。あとはとっととデカイ鳥を倒して卵を頂いて帰るだけだ。日帰りピクニックって訳よ。
「仕方ない。ひとまずこの山を登るか」
振り返り洞窟の出入口と繋がる山の頂上を見上げながら大地は登り始める。人が時間をかけて登る山を大地はゲームのパルクール的な感覚ですいすいと登っていく。
この登っている最中にモンスターがやって来たらめんどいくらいなものだったが、それもなく、わずか数分で山頂まで登りきった。
「……あれかな?」
一番高い山を見つける。だが、その間に小さな山が3つほど連なっていて遠く感じる。
流石に登って下りるを何度もやるのはしんどい。精神がしんどくなると疲れることは脳内女神の乱でよくわかっているのだ。
わかるっていうか、わからせられたっていうか……。
「と言うことで、飛んでいくか」
『流石にここでジェット戦闘機は……』
それを使うほどの距離でもなければ、離陸する地形もないため、ジェット戦闘機は流石に難しい。海龍を倒した時のように空中で召喚すれば問題ないのだが、乗り込む場合はそうはいかない。
「わかってる。だから、砂漠から帰る時にリリアと乗ったもので行こうと思う」
『あの、メルヘンチックな乗り物を大地さん一人で……?』
うっ。やめろ、それは心に刺さる……。
「仕方無いだろう。他に思い付かないし……それとも森に迷ったとき使ったカタパルトでも出すか?」
あの蜂退治の帰りはカタパルトで上空に飛んでからの、吹き矢つきハンググライダーで帰っているのだ。その時に武器っぽい扱いが出来れば兵器と見なされることはわかった。因にだが粘着照明弾も粘着することで武器扱いだ。強烈な光は熱にもなるし、そもそもあれがもし顔に張り付いたら……流石に惨いことはしたくない。だから、これからもそんなことしたいと思えない人と出会っていきたいものだ。
『それで山頂の穴にホールインワンしたら、またブラックアントとの大追走劇ですね』
二度、あれをやるのは流石に勘弁だな。
「それじゃあ出すか。リリアを乗せたメルヘンチックな兵器を」
そう言ってからイメージをする。あの砂漠で苦労と心配をかけたリリアを少しでも喜ばせたいと願った乗り物――空飛ぶ馬車だ。
馬車の基本形状を説明するならば大きい箱に木製タイヤを四つ取り付け馬に引かせる乗り物だ。この世界でもそれは同じた。
安い馬車なら前後が吹き抜けのような形に布を張った簡素なもので、役割的には荷物運びがメインで人も頼まれればのせる。という形だ。
貴族が乗る高いものになればしっかりと密閉された箱の形となり人を乗せるだけに特化したものだ。装飾は豪華になり場合によっては密談をすることもある。
だが、大地が造り出した馬車はその二つとは全く違う点がある。それは利用目的が荷物、人をただ運ぶだけの構造ではない。乗せた人を喜ばせるための作りを心がけている。
角ばった形より丸い形のほうが可愛く見えるだろう。流石にハート型はおっさにはきついので丸めに作る。
タイヤは出来るだけ細くして重厚感を極力削る。
そとの景色を眺めやすくするために入り口の反対方向には大きめなガラス窓。
装飾は要所要所に宝石をちりばめてキラキラするように。
色合いは全体的には白くしつつ清潔感を出す。
この馬車の運び手は中身が機械の本物そっくりの白馬。
『二回目ですがこの馬車ってまるで……』
「な、なんだよ……」
女神が途中で止めた言葉が気になる。
だが、その女神はやはり言うのは無粋だと思ったのか『いえいえ、やっぱり何でもありません』と断ることにモヤモヤを感じた。
「……まぁとりあえず乗るぞ」
『はい♪』
そう言って開いてある入口に足をかけて中へ入る。中は快適に過ごせるように広く作っていて向かい合って座れる内装だ。因みにこの乗り物もしっかりと兵器である。そうでなければ大地が召喚する事は出来ないのだ。
兵器の能力としては真下に爆弾を投下するものと、白馬がユニコーンに変形して突撃したりできる仕様だ。
その事についてリリアには一言も教えてはいない。メルヘンさがぶち壊しになるからな。
空を移動する速度もジェット機とまでは行かないがなかなか早い機動力を出す事は出来る。逆に遅くゆったり移動する事も出来る。リリアを乗せた時はゆっくりと空の旅を満喫させる為にやや遅めに動かしたが、今はそんな必要が無いため、移動速度を上げた。
ほどなくして先程いた山頂に戻ってくる事が出来た。そして目の前には巨鳥フラッシュバードだ。モンスターが大地を捕捉するとかなり高い声でクエー!!と鳴きながら飛びあがる。コレは威嚇だろうか。それとも懇願だろうか。
「悪いがこのまま仕留めさせてもらう」
馬車の爆弾では山頂に大穴を開けてしまう危惧がある。それ故に、使用するは白馬の方だ――と考えたが一瞬だけリリアの嬉しそうな顔を思い出してしまった。大地は頬をかくとメルヘンチックな馬車を消した。
『あれ?大地さん。馬車は使わないんですか?』
「ああ。必要ないだろう。別の武器で仕留める」
『……そうですか。いえ、いいと思いますよ』
その大地の言葉の少しの間がありもしたが女神はそのまま肯定してくれる。
この鳥には一杯食わされたからな、その礼はたっぷりとしないとな?
大地が武器を召喚する。それは振動する事なく相手を撃ちぬける。ゲームや映画のSFで大活躍するそれは電気的な力を利用して打ち出す事が出来る。レーザー銃と呼ばれる。
「まずは片翼を奪わせてもらうぜ」
形を言うならばアサルトライフルが一番近い形状だ。ただ、銃口といったような穴は開いていないが代わりに槍の様に先がとがっている。その尖った部分をフラッシュバードの片翼に向けて大地は引き金を引いた。
一瞬の光が空を駆け抜けて翼を貫いた。更に1発目に続いて2発3発と続いて翼を光線で貫く。
片翼が負傷したせいで地面に落ちたフラッシュバードが必死の抵抗をするように衝撃波を大地へ飛ばす。先ほどはこれによってボッシュートを受けたのだ。だからこそ今度は大きく跳躍して避け、一気にフラッシュバードの上に乗った。
じっとフラッシュバードは首を伸ばして振り向くように大地の顔を見続ける。こう見ると愛嬌ある顔だ。凛々しい顔つきに綺麗な羽。クエーと弱々しく叫ぶ鳴き声。だが――。
「悪いな。これも依頼なんだ」
そう言って大地はモンスターの頭を撃ちぬいた。
『可哀そうですか?でもこのモンスターはたくさんの人を……」
「言わなくていいよ。どんな理由であれ俺は仕留める気でいたんだからな……」
少しだけ気落ちしてそうな大地を慰める為に言ってくれた女神に心の内でお礼を言ってからフラッシュバードのトサカを切り落とすと、卵が置いてあるだろう巣へと近寄った。
「コレがフラッシュバードの卵か」
三つある内の一つへ置いてある卵に手を伸ばして掴む。
『あ!ダメです大地さん!』
女神の静止より早く卵を持ち上げた。その瞬間、卵が砕けて中身が落ち、中身は一瞬で蒸発した。
「なんだこれ」
『フラッシュバードの卵は魔力を流しながらじゃないと取れないんです』
魔力の流し方なんてわからねぇ。
「簡単にできるものか?」
『いいえ。リリアちゃんは出来ると思いますが、ほかの方ではなかなか難しいと思います』
どうしたらいいだろう。諦めるか?……いや、もう一つ方法があるか。
『あ、巣を持ち上げようとしてもダメですよ』
「その手があったか!」
『だからダメです!』
珍しく焦りを見せる女神が少し面白く思いながらも「すまんすまん」と大地は謝る。
既に女神もわかっているからこそ、止めに入るのだ。
「頼んでいいか?」
『はい。ではもう一度ちゃんと名前を呼んで頂けますか?』
む、確かに名前を呼んだのは一度切りだったか。
「頼む。女神フルネール・ラ・ミーミル……君が必要なんだ来てくれ!」
その言葉に呼応したのか目の前に光が降り注ぎ、夢で見たその姿をこの世界へ召喚した。
銀色の髪も美人の容姿も何もかもが同じの女神だ。
「どうしました?あ、私に見惚れてますー?」
キャッというように頬に両手を当てながら照れる様相を見せる女神。
ああ、いつもの脳内女神だ。
「見蕩れてないから卵を頼む」
「もう。姿を見せても乗ってきてくれないんですね」
そうぶつくさ言いながら女神は卵に目線を移すと手を伸ばす。魔力のコントロールが非常に難しく、卵を取る依頼であればランクはAかSになるレベルだ。それほど脆く壊れやすい卵なのだ。だが、女神からしたら容易い以外の言葉はない。指先に魔力を込めながら卵に触れると魔力が流れ、卵が発光しだした。その光具合を見て問題ないと判断した女神は卵を手に取った。
『はい。大地さん。ちゃんと大事に持って帰らないとだめですよ?』
大人しく受け取る大地に微笑みながら女神はもう一つの卵も同じように魔力を流し掴み手に取る。
「はい。こちらも取れましたよ」
そう言って二つ目も大地に渡す。
「ありがとな……」
「あら?お礼を言うならちゃんと目を見て言ってくれますか?」
嬉し愉しそうな顔で女神は両手を後ろに回して上半身だけをズイッと大地に近づけて言う。その視線はしっかりと大地の目へと向けられている。
そのぐいぐい来る感じは脳内よりかなりパワーアップしている感は否めない。とはいえ、力を貸してもらっておいて、彼女のいうごく正論を無視する事も出来ない。だから、大地は腹をくくった。
「フルネール!」
ガシッとその両肩を掴むとフルネールは一瞬だけビクつくように震えた。
「……ありがとう。助かった!」
「どどういたしまして!」
その女神は慌てて体を引くように元の体勢へと戻る。
「そ、それよりその卵はやっぱり売るんですか?」
それも悪くない。悪くないんだが……。
「少しだけ思うところがあるからな。ひとまずギルドへ帰るか」
女神が頷くのを見てから大地は二人が乗れる変わった乗り物を召喚した。
「これで帰るんですか?」
見上げる形でその乗り物を見て、さすがの女神も驚いた
「ああ。俺の世界ではSF作品くらいしか出てこないが、UFOと呼ぶな。円盤型で光学迷彩……所謂ステルス機能も搭載しているぞ」
そう説明するとUFOから光が下りてきて大地と女神を光のエレベーターで吸い込んでいく。
「わ、わわ。なんか変な感じですよ大地さん」
「俺も初めてだからちょっと困惑しているよ……」
これがアブダクションと言うヤツなのだろう。
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