初めての異世界転生

藤井 サトル

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女神と同居は嬉しい?嬉しくない?

情報戦は相手の予測を上回れ

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「ということで、依頼諦めてきた」

 ギルド長室の扉を無遠慮にバァン!と音をたてて入るや否や大地は昨日の依頼を放棄した旨をギルド長へと投げ掛けた。

「は?いや、お前ならワームくらい余裕だろ?」

 その答えが予想外だったのか驚きを隠していないギルド長は入ってきた大地に非難の目を向けた。

「無理だ無理。自然さまに人間が勝てるわけないぜ」

 片手でパタパタと扇ぐ仕草をしながらソファーに座る。

「……て言うかなんでリリアがあの場所に来たんだ?」

「そりゃあ心配だったからだろ?」

 大地が袋に詰められて飛ばされたあと、リリアは血相を変えて必要なものをかき集めて自ら袋の中に入ったらしい。

 なんの準備も無しに砂漠へ放り出せば死ぬことなど常識の範囲内だろっていう事を怒りながらだ。

 砂漠へついたリリアは大地の足跡を追う。ただ、予想以上に大地が歩いたため追い付くのに時間がかかったのだ。そして倒れている大地を見つけた彼女は青ざめながら近寄った。事態は深刻なもので最悪と言っても差し支えがない。

「水分がたりてない。熱もあるしうなされてる…このままじゃ死んじゃう!」

 リリアはまずテントが入った魔道具に魔力を込めた。魔道具が光ると目の前に簡易テントが出現する。使い捨てだが直ぐに必要な場合はこれが一番早い。

 なんとか大地をテントの中にいれると氷の魔道具によってテント内を涼しくさせる。更に水の魔道具で布を濡らしては大地の体にあてがい冷やす。そして、水を少しずつ飲ませるために大地の頭を自分の膝にのせて、ゆっくりと水を飲ませていった。

 大地が寝てからもリリアはずっと大地の顔を見ている。もしかしたら途中で起きて水を欲しがるかもしれないから……。
 しかし、途中で起きることはなかったのだが、少しずつ大地の容態が回復しているのが見え、朝になった時には回復しきった大地が目を覚ます。

 そこからは大地も覚えている。その睡眠では女神が現れなかったことについてはおいとくが、目を明け開口一番に言ったのはリリアへのお礼の言葉。ずっと起きていた少女は再び涙をこぼす。自分の頬に降る水滴を大地は気にせず、リリアの瞳に指を伸ばしてなんとか涙をぬぐう。

「ごめんな、心配かけて……」

 リリアが泣いている理由くらい流石に大地もわかる。だから、きっとリリアは怒るだろうそう思ったのだが、リリアから出た言葉は安堵のものだった。

「ダイチさん。よかった。本当によかったです……」

 一時は本当にダメだと思った。正直生きれるのは五分かもしれないとも考えた。でも諦めなくてよかった。そう思うとどんどん涙が出て止まらない。

 そこまで泣かれると流石に膝の感触を喜んでいる場合ではなく、大地は上半身を起こしてからリリアをそっと抱き締めたのだ。

 それからは大地の能力で乗り物を召喚して帰ることになる。その幻想的な乗り物によって寝不足のリリアにはとてもロマンチックに映ったかもしれない。


 大地の知らない部分を話してくれたギルド長は悪びれもせず言う。


「いやぁ、あの後、俺は妻に絞られてな」

 がっはっは。と笑うギルド長。

 いや、お前笑ってる暇ないと思う。

 ソファーに座っている大地は少しずつ開いていく扉に横目を向けると、絶対零度バージョンのユーナが少しずつ見えてくる。軽くホラー映像だコレ。

「ギルド長?まだ……足りないようですね?」

 『何が』とは言わない辺り凄みを感じるユーナをみたギルド長は慌て始めた。

「まてまて。わかってる!ちゃんと謝るから!!」

 しかしギルド長の話を聞かないユーナはズカズカとギルド長の近くまでよるとベシッとその頭をひっぱたかれる。

「ならとっとと謝りなさい!」

 パワーバランスはユーナ>ギルド長の構図がありありとわかる。
 そしてユーナは振り向くと大地に向かって頭を下げる。

「ダイチさん。本当に申し訳ありませんでした」

 ユーナさんが悪い訳じゃないからそんなに謝らなくても……。

「いやぁ。悪かったな!」

 むしろあんたはもっと申し訳なさそうにしろ!!

 大地の思念が伝わったのかユーナが振り向いてギルド長をキッと睨むとギルド長はその視線から逃げるように別方向を振り向く。

 このおっさん……!

「それより、どうだった!?」

 それより、だと!こっちは死にかけたんだが?

「どうとは?」

「だからよ、リリアさんだよ」

 前から思っていたがこのおっさんがリリアを『さん』付けで呼ぶのすげえ違和感があるな。それにリリアがどうしたって?

 そこでリリアの事を考えた大地はつられてその時の記憶も思い出す。いつもより近くにあるリリアの泣き顔と、頭から伝わる膝の柔らかい感触。そして甘く優しいような匂い……。まで鮮明に思い出した結果、顔が一瞬で真っ赤に染まる。

 お!その反応は!と身をのりだそうとしたギルド長の喉にユーナの渾身のチョップがくだる。断末魔すらあげられずギルド長は必死に痛みを耐えているのを無視するように再びユーナは「申し訳ありません」と謝ってくれた。

「そういや、あの時グラネスさんがいなかったけど……」

 あの時というのは当然リリアが助けに来てくれたときの話だ。

「ああ、そもそもあの転移袋は2回しか使えないからな。お前とリリアさんで終わりさ。いやぁあのときのリリアさんの勢いといやぁ凄かったぜ」

 それはちょっと見たかった。と思うのは流石に健気に頑張ってくれたあの子に申し訳がないのだ。

「だってよぉ泣きながら俺に袋を開けなさいって……」

 そして、だからこそ必死なリリアをバカにするように笑おうとするギルド長は許せず、手をあげたらハンターを続けられないとか、罪人になるとか。そう言った迷いは一切なく大人失格だろうと大地は魔法により拳銃うを抜き放ち銃口をギルド長に向けた。

「だまれ」

 そんな一触即発の空気の中、ギルド長は涼しげな表情で口を開く。

「なるほど、それがお前の魔法か。変わった形だが物を造り出す魔法か?」

 そのギルド長に一言「さあな」といい放ち、大地は指に力を――。

「降参だ。こうさん。悪かったな、謝る」

 込める前にギルド長が両手を軽く上にあげる。そこで大地が銃口を下げ拳銃を消したのは、ギルド長の真剣な目を見て察したからだ。

「俺の魔法を見るためだけに演技なんてしやがって」

 クックック。と笑うギルド長はその両手を下ろす。

「一応は見ておきたかったからな。ただ、お前はひねくれてそうだからな。ひと芝居打たせてもらったよ。さすがの俺もリリアさんのことを笑えはしねえからな」

 なんておっさんだ。まんまと嵌められたな……。

 ドカりとソファーに座り直した大地は食えないおっさんにたいして長いため息を吐き出した。ここまでされたら今の大地の行為が失礼に当たろうと知ったことじゃない。

「それじゃあ詫びとして3つほど情報を教えてやろう」

 ギルド長がユーナに視線を送るとユーナは部屋を退出した。

 なんの情報だ?ユーナさんを外に出すと言うことだから相当機密性が高いのか?

 ギルド長が指を一本立てる。

「一つ目はリリアさんについてだ」

 リリアの話。と言うことは聖女がらみか。確かに気になるが……彼女が知らないところで聞いて言いのか?

「そう心配するな。俺も伝えちゃいけない部分はわきまえている」

「だが……」

「ならやめとくか?」

 選択を迫られる。ただ、もし聖女としてなにかあるのならば今知っておかないと助けにいけない可能性もある。

 大地は意を決して答えた。

「いや、教えてくれ」

「いい目だ」

 大地の決意を確りと受けとる為の時間。そんな間をおいたギルド長がリリアについて口を開く。

 その情報は大地を二重の意味で驚かせた。

「実はな今、リリアは風邪を引いてるらしいんだ。昨日のことが祟ったらしい」

 は?風邪!?は?聖女ことじゃない!?……俺のせいか!!

 二重じゃたらなかった。三重の驚きだ。

「二つ目なんだが」

「まて、ちょっと追い付かない。聖女としての話じゃないのか?」

「そんなこといってないぞ?」

 確かにいってない。言ってないけど!すごいそれっぽい雰囲気出してたじゃねえか!!あとしてやったりのにやけ面がマジでムカつく!!
 とはいえ、リリアが風邪なら行かねば。俺のせいだし、お礼も兼ねて……な。

「ちょっと見舞いに行ってくる」

「お前はリリアさんの取っている宿屋知っているのか?」

 あ、そういえば知らない。俺はなんて無能なんだ。

「だから、ここで二つ目の情報だ。リリアさんの取っている宿屋について」

 完全にプライバシーの侵害じゃないか!このおっさん、さっき伝えちゃいけないのはわきまえてるって言ってただろ!なのに16歳の少女がとっている宿屋の場所を住所不定の30歳おっさんに伝えるとかありえねぇ。

 そこまで一気に頭をフル回転させた大地は口を開いた。

「たのむ」

 大地がそういうと思っていたのかギルド長は頷いて紙を一つ渡した。

「俺は文字は読めねぇぞ?」

 学がねえからな。この世界の!!

「安心しろ。それはわかってるから地図にしたんだ。それならわかるだろ?」

 くそ!変なところで有能だな。この地図も予め用意してたし。だが、コレで見舞いにいけるな。

「ありがとよ。それじゃあ」

 「行ってくる」と言おうとした大地をギルド長が止めた。

「まてまて、今はいくなよ」

「なんでだ?」

「お前……風邪引いたことないのか?普通夜にいくだろ?」

 はて、そんなマナーがあるのか?と言うか夜に少女の宿屋に行く方が問題じゃないか。

 そんな大地にギルド長はため息をはく。

「今ごろ疲れで寝ているだろうからゆっくり寝かせておいてやれって言ってんだ。そうすれば夜にはある程度体力も回復してるだろ?」

 このおっさんに正論言われるとムカつくぅ!だけど、確かにその通りだ。少しは見直し――。

「あー、それとも弱ったリリアさんの看病したいってか?それなら仕方ねぇな?」

 にやにやしだしたギルド長を見て、見直そうとした考えに却下を下す。

「それに、行くなら見舞いの品くらい持ってけよ。と言うことで、リリアさんが好きそうなジュースや風邪の時でも飲める物が売っている店も地図に書いてあるからな」

 くそっ!マジでさっきから振り回されてるな。なんてやつだ。

「わかったよ、そちらもありがとな。と言うことは三つ目の情報は……?」

 ギルド長はニヤリと笑う。

「そう、女神の名前だ」

「いや、「そう」って言ったけど、俺の思考と何一つ噛み合ってねえよ!!金がない俺にいい感じの依頼書をくれるんじゃないのかよ!」

「いや、依頼はもうすぐ良いのをユーナが見繕ってくるから」

 あの時のアイコンタクトってそれか……。ん?と言うことはこのおっさんとユーナさんは俺がお見舞いにいくのを予想してたのか。

 その直後、扉からノック音が聞こえユーナが入ってきた。

「ダイチさん。依頼書を持ってきました。この辺りなら直ぐに終わりますしリリアちゃんのお見舞いの品も買えますよ」

 その内容はごく簡単なモンスター退治だ。Cランクだとゆーなさんは教えてくれた。と言うことはアシッドマーダービーと同等の強さがあるのだろう。
 生息地域は東の山……山岳地帯ってやつだ。そこに人を襲う狂暴な鳥型モンスターのフラッシュバードがいるらしくそれの討伐だ。依頼書の絵を見てモンスターも把握ができた。

「フラッシュバードは身が固いのでお肉としては売れませんが、卵があれば高く売れますよ!何せすごい栄養満点ですから。あとは倒した明かしにトサカを切ってきて下さい」

「わかりました。ありがとうございます」

「なーんか、俺との対応に差がねえか?」

 普段の行いだろ……。

「普段のおこないですよ」

 おおう、俺が思った事をユーナさんが言ってくれた。

「ま、いいか。そうそう女神の名前だがフルネール・ラ・ミーミルって言うんだ」

「フルネール・ラ・ミーミルか。ところで何でギルド長は女神の名前を知っているんだ?」

「そりゃあ長生きしているからな。因みにユーナも知っているし長い――」

「あなた?女性の年に関わることを平然と口にしてはいけませんよー?」

 そういいながらユーナさんはすーっとスライド移動でギルド長に近づくと一瞬でギルド長をぼこぼこにし――終わっていた。まるで某格闘ゲームの必殺技みたいだ。改めてこの人を怒らせないと誓う。

「そ、それじゃあ行ってくるよ」

 ギルド長室から大地が出るのを見送った二人は視線を会わせる。ただそこには色っぽいムード等なく真剣な表情だ。

「どうでした?ダイチさんは」

「ん?そうだなぁ……海龍を倒したっていうからどんな依頼でも行けるかと思ったがまさか死にかけるとはな」

「あんな無茶させて、本当に死んでしまったらリリア様すごく悲しむんですからね?」

「あー。悪い。まさか死にかけて失敗するとはな。ただそのお陰で色々見えてきたのは収穫か」

「もう。でも、私もあなたと同じ意見ですよ。ちゃんとリリアちゃんのお父さんにダイチさん強くても信頼できる事と、リリア様を狙うようじゃない人ことを伝えてくださいね?」

「わかってる。あとは、リリア様も満更ではないことをつけておくよ」

 そう言うギルド長はどこか悲しそうな表情をしていて、またユーナも同じ気持ちなのか寂しく呟く。

「今ではそれが一番の問題ね」
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