初めての異世界転生

藤井 サトル

文字の大きさ
上 下
16 / 281
女神と同居は嬉しい?嬉しくない?

夢の中が快適でも、きつい現実のオアシスを選びたい

しおりを挟む
 俺は今、広大な砂漠の真ん中に立っています!
 理由はもちろんお分かりですね?
 これがBランクに上がるための正式な依頼だからです。

「……まじなんだこれ?」

 目の前には砂、砂。砂!
 上は太陽、こんなところさ迷ってたら死ぬぞ!チート能力者は自然に弱いんだから勘弁してくれよ。しょせん人の子なんだよ!

 そんな愚痴をこぼしながらギルド長の誘いに乗った数分前の自分を殴りたくなる。
 ホワイトキングダムから南の森をそのまま南に抜けるとこの砂漠が広がっているらしい。らしいと言うのは自分の足で来たわけではないからだ。ギルド長にここに砂漠があることと、でかいワームを倒してこい。という大雑把な説明を受けた直後に大きい布を被せられた。
 んで、気づいたらここだ。

「帰り道は自分でってか……」

 チート能力の創造魔法である兵器召喚でジェット戦闘機でも呼び出せば一瞬で帰れる。だから帰りは問題と言うほどではない。ないが、いきなり放り出されてこの暑さだ。地域によるものなんだろうが汗が流れ続けてきつい。

「ここでじっとしても仕方がない。歩くか」

 とっとと見つけ出してワーム倒して帰ればいい。それだけなんだ。

 そう一念発起して歩き出したはいいが、なんのモンスターすら見つからない。

 暑い……。

 まさか、ランクあげるのにこんなところへ送られるとは思わなかった。

 暑い……。

 Bランクの人達はこれをクリアしてきたのか。すげえな。

 暑い……。

 喉が乾いた。それに砂でやや足をとられるのがきつい。歩きにくい。

 暑い……。

 木すら見えない。なんの影もない。太陽がまぶしい。

 暑い……。

 どれくらい歩いたのかわからない。後ろを見ても足跡が並ぶだけで時間の指標にはならない。

 暑い……。

 水のみたい。眩しい。砂しかない。

 暑い……。

 ワームは?水は?影は?……どこ?

 暑い……。

 やばい。頭がボーッとしてくる。

 暑い……。

 あれは海?……幻覚ってやつか。

 暑い……。

 あのまぼ…し……たのしそ……。

 暑い……。

 あ……。

 一瞬にして目の前が暗くなり大地は砂の海の真ん中でバサリと砂を少しだけ巻き上げながら倒れた。


「おお勇者よ。倒れてしまうとは何事か」

 白い空間、白い世界。この白さのなかに銀髪が綺麗な女性が声をかけてきた。まぁ女神ですが。

「んー?俺はいつ寝たんだ?」

 この世界に来たと言うことは女神と契約する前に俺は寝てしまったから呼び出されたのだろう。そうなると今は夜か?

「寝たのではなく倒れたんですよ?」

「倒れた?」

 覚えている限りの記憶を振り絞る。ギルド長に袋を被されて砂漠へ。それから歩いていたのは覚えているけれど……。

「あー、なるほど。砂漠で倒れたんだな俺は」

 朦朧としてた事もあり確かな記憶ではないが、そこは推測を交えて聞くと女神はしっかり頷いた。

「はい。今の状態は熱中症+脱水症状ですわね。今起きたら頭痛、吐き気、めまい、高熱。更には倦怠感までありますわね」

 淡々と言う女神はなんというか悪魔に見えてくる。感じだ。

「起きたら死にそうだな」

 その大地のざれ言に女神も返す。

「起きなくても死にますわ」

 まぁそうだよな。くそう!恨むぜギルド長!!

「どうすっかな。正直、助かる案が全然見つからないんだが」

「そうねえ。起きても朦朧としてるだろうし、大地さんじゃどうにも出来ないですね♪」

 楽しそうに言いやがって鬼かこいつ!

「それじゃあ死ぬまでここで夢見ている方がいいのかねぇ」

「大地さんがそれでいいなら。あ、せっかくだし女神の膝枕でもして差し上げましょうか?」

 は?

「今、こちらに来てくれるならして差し上げますわよ?」

 そう言って女神は正座すると、指を揃えて大地に向かってちょいちょいと手で招く。

 普段は裾が長いワンピースのようなもので見ることが出来ない女神の太ももが、今は彼女自信の手でわざと捲られている。下着までは見えないが、遠目からでもわかる肌の極め細やかさはそそられるものがある。

 抗ってしまおうかと一度は悩むが、それでも大地は首を横に振った。

「女神の膝枕なんて体験はきっとこれから一生ないだろうけど……やめとくよ」

「えー?……うーん、やっぱり私よりリリアちゃんがいいんですねぇ」

「いやまて!俺はそんなこと一言も言ってないぞ!?」

 その慌てぶりを楽しむように女神は口許をにやけさせる。

「その慌てぶりは怪しいですわ。可愛いですもんねリリアちゃん」

 深くため息をして「勘弁してくれ」と嘆く大地。そこで、気になった事を思い出す。

「そういえば、聖女ってなんなんだ?」

「なに?ともうされても……そうですわね。私からしたら可愛い娘みたいなものですね。ずっと見守ってきた存在ですし」

 その表情は先程のいたずらな笑みを浮かべていたのとは違い、どこか愛しそうに見る母性溢れるもので、女神のこういう美しいところがズルいと思えてしまう。

「娘って言うことは、リリアを聖女にしたのは女神なのか?」

 聞いてから少しだけ間があったが、女神は首を振るう。

「いいえ、違いますよ……」

 そう言った時の女神の表情は少し陰りがあったように見えた。だが、それは見間違いだったに違いない。何せ次には楽しそうに大地をからかい始めたのだから。

「やっぱり大地さんはリリアちゃんのことが気になるんですのね」

 「うふふふ」と嬉しそうに笑い、大地が否定する前に続ける。

「そんな大地さん。今起きるととっても良いことがありますよ?」

「いいこと?体調がよくなったってのか?」

「そうですわねぇ。今は高熱と脱水症状と朦朧とする意識でしょうか?」

「変わってねぇじゃねぇか!!苦しいだけだろ」

「いいからいいから……きっと、嬉しいことがありますよ」

 そして俺はこの表情には勝てない。女神の慈愛に満ちて、優しくて、見守られているような表情。
 視界が暗くなってくる。



「ダイチさん……目覚めましたか……?」

 その言葉を聞いたとたん頬に水滴が当たったのを感じる。体は熱いままなのに、意識も確りしてるとは言いにくいのにだ。
 それに何より聞き覚えのある彼女の声もよくわかる。

「リ……リア。か?」

 うまく声がでない。それに今の俺はどんな体制なんだ?

 ぼんやりしていた視界が開けてくる。目の前直ぐに見えるのは何かの布が盛り上がっていることと、その奥にリリアの顔だ。頭は何か柔らかいものに乗せているらしい。

 大地の一言で更に水滴が落ちてきた。

「なん……で、ないて、るんだ?」

「ダイチさんのせいですよぉ。本当に生きてて良かったです……お水少しでも飲んでください」

 寝ている大地の唇に少しだけ水を入れたコップを近づける。膝枕をしているお陰で少しだけ頭が上になっているからこそ溢さずに器用に水を飲ませられる。

 何度も水なんてものは飲んできたが、これほど美味く、体に透き通ってくるのは初めてだった。

「美味い……な」

 その水のお陰で少しだけ楽になった喉が言葉を話しやすくする。
 そして、「もう少し飲んでください」再びリリアからコップを唇へと近づけられた。普段の大地であれば恥ずかしさや照れ、そして本の一握りの傭兵コースにより拒んでいただろう。

 だが、今はリリアが何故ここにいるのかとか、何故膝枕しているのかとか、そう言ったものを考える余地がなく、ただただ、リリアの好意に黙ってその身を預ける。

 次第にまぶたが重くなってくるのを大地は感じた。涙が止まったリリアに自分のボサボサ頭をゆっくり優しく撫でられると心地よく安心してしまう。だから「今は寝ていてください」と耳元で優しく囁かれてしまえば、大地はまた暗闇の睡眠へと落ちるのだった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

アブソリュート・ババア

筧千里
ファンタジー
 大陸の地下に根を張る、誰も踏破したことのない最大のロストワルド大迷宮。迷宮に入り、貴重な魔物の素材や宝物を持ち帰る者たちが集まってできたのが、ハンターギルドと言われている。  そんなハンターギルドの中でも一握りの者しかなることができない最高ランク、S級ハンターを歴代で初めて与えられたのは、『無敵の女王《アブソリュート・クイーン》』と呼ばれた女ハンターだった。  あれから40年。迷宮は誰にも踏破されることなく、彼女は未だに現役を続けている。ゆえに、彼女は畏れと敬いをもって、こう呼ばれていた。  アブソリュート・ババ「誰がババアだって?」

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

死んでないのに異世界に転生させられた

三日月コウヤ
ファンタジー
今村大河(いまむらたいが)は中学3年生になった日に神から丁寧な説明とチート能力を貰う…事はなく勝手な神の個人的な事情に巻き込まれて異世界へと行く羽目になった。しかし転生されて早々に死にかけて、与えられたスキルによっても苦労させられるのであった。 なんでも出来るスキル(確定で出来るとは言ってない) *冒険者になるまでと本格的に冒険者活動を始めるまで、メインヒロインの登場などが結構後の方になります。それら含めて全体的にストーリーの進行速度がかなり遅いですがご了承ください。 *カクヨム、アルファポリスでも投降しております

異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH
ファンタジー
 家柄こそ全て! 名家生まれの主人公は、絶望しながら死んだ。 そんな彼が生まれ変わったのがとある成り上がりラノベ小説の世界。しかも悪役貴族。 名家生まれの彼の心を占めていたのは『家柄こそ全て!』という考え。 新しい人生では絶望せず、ついでにウザい成り上がり共(元々身分が低い奴)を蹴落とそうと決心する。 別作品の執筆の箸休めに書いた作品ですので一話一話の文章量は少ないです。 軽い感じで呼んでください! ※不快な表現が多いです。 なろうとカクヨムに先行投稿しています。

見よう見まねで生産チート

立風人(りふと)
ファンタジー
(※サムネの武器が登場します) ある日、死神のミスにより死んでしまった青年。 神からのお詫びと救済を兼ねて剣と魔法の世界へ行けることに。 もの作りが好きな彼は生産チートをもらい異世界へ 楽しくも忙しく過ごす冒険者 兼 職人 兼 〇〇な主人公とその愉快な仲間たちのお話。 ※基本的に主人公視点で進んでいきます。 ※趣味作品ですので不定期投稿となります。 コメント、評価、誤字報告の方をよろしくお願いします。

処理中です...