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異世界でも家を建てるにはお金が必要
宴会でご飯が食べれないときって忙しいときだよね
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えー。突然ですがここでお便り(一部空想)が来ているのでご紹介いたします。
その1.某女神さんからのお便り
Q:大地さんが異世界転生者としてこの世界に来ているわけですが、人恋しく思ったりしませんか?例えば女神成分が足りない。とか
A:そんなことはありません。周りにはいい人が多いので女神成分?は今のところ必要ありません。
その2.某ショートヘアーの制服女性
Q:倒れていたダイチさんを起こしたユーナさんという美人をどう思っていますか?
A:優しい人だと思っています。こんなおっさんにお風呂まで入れてくれるほどですし。ただ、危機感はもう少し持ってもらいたいですね。
その3.某金髪少女。子供じゃなくて大人です
Q:ちょっ、ちょっとまってください。今の話ってなんですか??
A:その質問には誠に遺憾ながらお答えできません。
その4.豪快ガサツのギルドで偉い人
Q:今日の朝もギルドの前で倒れ……寝てただろ?Cランクの依頼で得たお金はどうした?
A:誠に遺憾ながらその質問にもお答えできません。
その5.某聖女少女。大人じゃなくて子供……じゃなくて大人です
Q:もしかしてネックレスとご飯で?
A:……リリアが気にすることではありません。俺のベッドがギルド前だったと言うことのだけです。
その6.豪快ガサツのギルドで偉い人
Q:いや……おい……
A:……
「っていうかこれなんなんだよ!」
しびれを切らして大地が叫ぶ。
今の状況を端的にみると面接官とバイト志望者、またはテレビのクイズ番組だろうか。大地の前に4人の人間だ。左からギルド長、ユーナさん、リリア、グラネスの順番で席に座っている。因みに席に座ってからグラネスはゆっくり酒を飲むだけで一言もしゃべっていない。渋い男だぜ。
「ギ、ギルド長がここらで新人歓迎会をやろうと言い出しまして」
ギルド内部の内装を少しだけ変えてただいま宴会中となった部屋を見渡す。そして思うのだった。
ギルド内の人と話すことってあんまりないよなぁ。……あれ?っていうか一回もないかもしれない。俺が話す人というと目の前の、ギルドのおっさん。ユーナさん。ちんちくりん。グラネスさん。だけだよな?もっと交流は深めないといけないよなぁ。住みやすい僕の街づくり的な感じで。
「ダイチさん。今、失礼なこと考えませんでした?」
俺の視線から何かを読み取ったのか、はたまた俺がサトラレなのか、リリアがむっとした顔で抗議してきたが、証拠がないので「そんなわけないだろ」と笑顔でかわす。
目の前のテーブルには料理がたくさん並んでるし、ギルド内はいろんな人の声が飛び交っている。
「っていうかこの並びも独特すぎねぇ?」
「ああ、それはこいつらがちょうどいいから色々聞いてみたいって言ってたからこうなったんだ」
ギルド長が指をさした人物はユーナとリリアの二人で、二人は少しだけ照れたように笑う。
左様か……。
「まぁもう質問はいいだろ?」
実は冒頭より前にもいくつか質問を受けて答えてきていたのだ。「好きな食べ物」から始まり「好きな魔法」や「好きな趣味」、それと「どこから来たのか」等だ。
まぁその辺はざっくりと雑に答えたんだが好きな趣味に対して「モンスター狩りです」と答えたらリリアにすごい目で見られはしたな。テレビゲームのことだけど。
「よお。お前さんが新人ハンターでCランクになったってやつだよな?」
いきなり声をかけてきたのは若そうな青年だ。偉そうだこいつ!30のおっさんに敬意もってなさそうだぞ!
「そうだが?」
「どんな手を使ったんだ?よもや本当にアシッドマーダービーをお前が倒したってか?冗談きついぜ」
若干顔が高揚しているのを見る限り酔っぱらっているのだろう。
「あー、結構な酔っぱらいだな」
そうやってめんどくさそうにする大地のふてぶてしい姿に青年が憤慨し始めたところで、彼を止めるために両サイドにパーティメンバーと思わしき人物が並ぶ。
「ちょっと。カイ。酔いすぎよ」
「すまない。うちの若いのが迷惑をかけた」
カイと呼ばれた酔っ払い青年を止めに入ったのはビキニアーマーを着こなすセクシーな女性で、謝ってきたのが40台のおっさんだ。とんがり帽子をかぶっているあたり魔法使いなのだろう。
「ええい、止めるなマリン。オーガスも謝る必要ないだろう。視線の配り方もなく、貫禄もなく、武器も持ってねぇこいつが強いわけないだろ!」
おーおー、酔っぱらっちゃってまぁ。言っていることは結構正しいんだよな。俺のは女神サポートありきだしズルしているからね。喚け喚け……負け犬の遠吠えをな!
青年のまけ――遠吠えを肴に酒を飲みながら聞くことにした大地だが、そのことが癇に障ったのかさらにヒートアップするカイ青年。
「すました顔しやがって俺たちがどんだけ大変な思いをしてやってきたと……どうせコネでランク上げてもらったんだろう!受付のユーナさんやギルド長、さらにリリアさんにまで取り入って楽して上げたん――」
そこまで口にした瞬間、リリアの目に怒りの灯がともった。
――聖女なんだから騒がず聞きながしゃあいいのにな。
「カイさん!私たちが不正にランクを上げたというんですか!?」
思わぬ飛び火にカイが「いや、それは」とたじろぐ。流石俺らの聖女様だぜ。貫禄が違うな。
「まぁランクを飛ばして依頼を許可したのはギルド長ですけど」
ユーナがシレっと言い放った言葉をギルド長はさらりと流そうとしたが、リリアは許さなかった。
「そうですよ!なんでギルド長はあんな無謀な依頼を渡したんですか!?」
カイの熱が収まってきたと思えば今度はリリアに火がついたらしく、その矛先はまだギルド長に向いているのが幸いだと思う。ただ、このまま自分に火の粉……どころか火炎弾が飛んでくるのも時間の問題かもしれない。と大地は逃げ道を『必死』に探す。
「あ、あー。まぁとりあえずさ。終わったことだしその辺でな?」
藪蛇だったのは言うまでもない。
その大地の一言を聞いたリリアがターゲットを大地にロックオンしたのだ。
「そもそも。大地さんも受けなければランクを上げることはなかったし!カイさんだって不満に思うことはなかったんですよー!!」
ああもう……立ち上がってるし、完全に激おこじゃないか。どうすんのこれ?ちょっと誰か助けてくれない?
そんな視線をカイに送るが、カイ青年は残念ながらリリアの激おこっぷりを見たことがなかったのか呆然としている。
このポンコツめ!
仕方なく、ギルド長、ユーナ、グラネスと順番に見たら全員に視線を逸らされてしまう。
ここが孤立した戦場か。くそっったれ!援軍は期待できない。孤軍奮闘とはこのことか!!どうにかして彼女の機嫌を取らなければ飯を食うどころじゃないぞ。こいつぁ。
「だいたいですね――」
などとリリアが前口上を口に始めたのを聞いて、このままいけば長期戦になると考えた大地は意を決して割り込む。
「リリア!」
「ひゃっ」
ふむ、反応するだけまだ理性があるようだ。それなら反撃するしかない。
「リリアの言いたいことはわかる。心配してくれてたんだよな」
まず彼女の言葉が正しいよと受け入れる。
「はい。ですから――」
彼女の言葉を遮りながら次につなげる。
「でもな、俺にも意地があったんだよ」
「意地ってそんなの命よりだい――」
「そりゃあの時、リリアを怒らせちゃったからな。大事だろ?」
遮りながらも言いたいことをしっかり聞いているアピールしながら、それでも君のことを想っているんだぜ、というように話を進める。
「う、うー」
ここでリリアの言葉の弾丸がなくなったところで一気に畳み込む。
「確かにリリアの言う通り危険だったが、その価値はあったよ」
そう言いながらリリアが今してくれているネックレスをわざとらしく見ると、リリアが顔を赤くして照れたように「も、もういいです!」などと言って着席してくれた。一安心だ。これでおちついて酒が――飲めなかった。
「ま、まだ俺の話が終わってないぞ!不正野郎め!」
我に返ったカイ青年が再び絡んでくるのだ。マリンと呼ばれた女性とオーガスと呼ばれた男が何とか止めようとしているが止まらない。
再び負け犬の姿を拝みながら一杯やろうかとも考えたが、せっかく宥めたリリアにまた火が付きそうだったので、大地は諦めて応じることにした。
「まったく。俺に何してほしいんだ?」
席を立ちあがりながらカイの瞳にまっすぐ視線を向ける。
っていうか、さっきギルドの人と話したことがないって心の中で愚痴ったが、こんなに面倒ならいつもの人っていうかユーナさんだけでよくないか?依頼書読んでくれるし。……まぁ、手を出そうものならギルド長をも仕留めるギルドクローを受けることになりそうだから欲情はしないように気をつけねばだが。
「へ、お前の腕を試させてくれよ」
おいおいこいつ大丈夫か?なんか雑魚敵モブキャラが言いそうなセリフ吐き出したぞ。っていうかこいつもCランクなんだよな?
「いいけど何すればいいんだ?」
「そうだな、俺の剣技を見切るっていうのはどうだ?」
そのとたん、ギルド内のテーブルをほかのギルドの人間が料理と酒を死守するために一丸となって端っこへ移動させていく。
訓練された動き――何度もこういう場面があったんだろうなぁ。
そんな風にしみじみ思っているところにカイが後ろに下がって抜刀を始めた。
まじかよ、こんな場所で抜いてもいいのかよ?
大地が後ろで座るギルド長を見ると、そいつは酒を飲んで楽しそうにしてやがった。
その隣のユーナさんは何か考えた後、楽観的に大丈夫だよね。見たいな表情を浮かべている。
グラネスに至っては目を閉じて酒を味わっている。ってまだ飲むんか。宿で食事を一緒したときにも追加で酒頼んで飲んでたな。
唯一心配にしているのがリリアだけと言う。オロオロしてるし杖も握りしめてるし。まったく……この聖女様は心配性すぎるだろう。
「リリア。大丈夫だから」
その一言だけ言って振り返ってカイ青年の前に大地は立つ。
「とりあえず、俺は君の剣に当たらなければいいんだよな?」
「そうだ。だが、俺の剣速は早いぞ?」
銃弾より早いなら困るが――。
そんなことを考えている最中にカイの剣による刺突が大地の耳すれすれに伸ばされた。
「反応できなかったか?だが、こんなもんじゃないぜ!!」
再びカイの剣が煌めく。風切り音が奏でられまくるほどの連突が大地へ向かう。その間大地は止まったままである。何度も大地の体すれすれに刃が通る。
「な、なんで動こうともしないんだよ!!」
何度も刺突を繰り返したカイが急に切れた。
「反応できないにしろせめて驚くとか怖がるとかあるだろ!?」
「いやだってよ」
当然大地にも言い分がある。それは。
「当てる気ないだろ。現に何もしなくても一発も当たってないしな」
さすがに銃弾より早いことはなかったよ。よかったよかった。ていうか刺突が得意ならレイピアみたいな武器を使うだろうし刺突が得意ってわけじゃないよな。この程度の剣速じゃ当たるかどうかわかっちまうし。ごめんな。女神サポート強くて。
「な!?」
「んで、とりあえずこれで終わりなら俺の勝ちでいいか?」
「くそ、どこまでもふざけやがって。それなら本気で切ってやるよ」
あ、そういえば漫画とかで見たことで一度やってみたいことがあるんだよな。この能力差なら全然いけるか。
一歩分後ろに下がり、剣を右手で持つカイはその右腕を自分の胸の前を横切らせ、剣先は左腕の後ろになるように構える。ここから予想できるのが左から右にかけての横一閃である。もしかしたら攻撃を仕掛けるタイミングで体もひねり剣をふるう速度を速めてくるかもしれない。
「くらえ!!」
そしてカイが勢いよく一歩飛び出るとともに体をひねって腕を伸ばして真横に一文字を作った。――腕だけで。
「おー出来た出来た」
カイの目の前にいた大地がいない。声が聞こえたのは自分の真後ろに奴はいた。それも今の今まで自分が持っていた剣も一緒に。
「ほら、返すぜ」
大地はとても満足した。やってみたいことの一つ、剣を振ったら武器がとられていたシチュエーション。完璧だった。そして、これでようやく自分の強さをお披露目できたであろう。と思うがそうならないのが現実だ。
「カイー。あまり手を抜いてんじゃねぇぞー!!」
という外野のヤジ。
あれ?俺手を抜かれてるの?あー、でもカイの顔青ざめているし手は抜いていないのか?
「うーん?」と思っている間もカイへのヤジは止まらない。そこで気づく。俺の強さの証明にならないと。カイが遊び心を出して大地に花を持たせたんだ的な流れになっていることを。ヤジの中には「流石に新米ハンターに本気はださねえよな」とか「やはり先輩ハンターは違うな」とかが聞こえてきてる。
そんな馬鹿なことってあるか!
だが、再戦しようにも余興は終わりのような雰囲気がありテーブルもまたすごい速さでギルドの人間に戻されていく。剣を返した大地は置いてきぼりを食らった感を味わいながら、自分の席へ戻り、そのテーブルへ目を向けた。
「あれ?料理は?」
おいしそうな肉、野菜、魚。それらをふんだんに使われていた料理が残っていないのである。
「えっと、ギルド長が……少しだけでも取っておこうとしたのですが……それもギルド長が……」
悲しそうに言うリリアの隣の隣に座る人物は「げふぅ」と盛大に口から音を鳴らしていた。
その1.某女神さんからのお便り
Q:大地さんが異世界転生者としてこの世界に来ているわけですが、人恋しく思ったりしませんか?例えば女神成分が足りない。とか
A:そんなことはありません。周りにはいい人が多いので女神成分?は今のところ必要ありません。
その2.某ショートヘアーの制服女性
Q:倒れていたダイチさんを起こしたユーナさんという美人をどう思っていますか?
A:優しい人だと思っています。こんなおっさんにお風呂まで入れてくれるほどですし。ただ、危機感はもう少し持ってもらいたいですね。
その3.某金髪少女。子供じゃなくて大人です
Q:ちょっ、ちょっとまってください。今の話ってなんですか??
A:その質問には誠に遺憾ながらお答えできません。
その4.豪快ガサツのギルドで偉い人
Q:今日の朝もギルドの前で倒れ……寝てただろ?Cランクの依頼で得たお金はどうした?
A:誠に遺憾ながらその質問にもお答えできません。
その5.某聖女少女。大人じゃなくて子供……じゃなくて大人です
Q:もしかしてネックレスとご飯で?
A:……リリアが気にすることではありません。俺のベッドがギルド前だったと言うことのだけです。
その6.豪快ガサツのギルドで偉い人
Q:いや……おい……
A:……
「っていうかこれなんなんだよ!」
しびれを切らして大地が叫ぶ。
今の状況を端的にみると面接官とバイト志望者、またはテレビのクイズ番組だろうか。大地の前に4人の人間だ。左からギルド長、ユーナさん、リリア、グラネスの順番で席に座っている。因みに席に座ってからグラネスはゆっくり酒を飲むだけで一言もしゃべっていない。渋い男だぜ。
「ギ、ギルド長がここらで新人歓迎会をやろうと言い出しまして」
ギルド内部の内装を少しだけ変えてただいま宴会中となった部屋を見渡す。そして思うのだった。
ギルド内の人と話すことってあんまりないよなぁ。……あれ?っていうか一回もないかもしれない。俺が話す人というと目の前の、ギルドのおっさん。ユーナさん。ちんちくりん。グラネスさん。だけだよな?もっと交流は深めないといけないよなぁ。住みやすい僕の街づくり的な感じで。
「ダイチさん。今、失礼なこと考えませんでした?」
俺の視線から何かを読み取ったのか、はたまた俺がサトラレなのか、リリアがむっとした顔で抗議してきたが、証拠がないので「そんなわけないだろ」と笑顔でかわす。
目の前のテーブルには料理がたくさん並んでるし、ギルド内はいろんな人の声が飛び交っている。
「っていうかこの並びも独特すぎねぇ?」
「ああ、それはこいつらがちょうどいいから色々聞いてみたいって言ってたからこうなったんだ」
ギルド長が指をさした人物はユーナとリリアの二人で、二人は少しだけ照れたように笑う。
左様か……。
「まぁもう質問はいいだろ?」
実は冒頭より前にもいくつか質問を受けて答えてきていたのだ。「好きな食べ物」から始まり「好きな魔法」や「好きな趣味」、それと「どこから来たのか」等だ。
まぁその辺はざっくりと雑に答えたんだが好きな趣味に対して「モンスター狩りです」と答えたらリリアにすごい目で見られはしたな。テレビゲームのことだけど。
「よお。お前さんが新人ハンターでCランクになったってやつだよな?」
いきなり声をかけてきたのは若そうな青年だ。偉そうだこいつ!30のおっさんに敬意もってなさそうだぞ!
「そうだが?」
「どんな手を使ったんだ?よもや本当にアシッドマーダービーをお前が倒したってか?冗談きついぜ」
若干顔が高揚しているのを見る限り酔っぱらっているのだろう。
「あー、結構な酔っぱらいだな」
そうやってめんどくさそうにする大地のふてぶてしい姿に青年が憤慨し始めたところで、彼を止めるために両サイドにパーティメンバーと思わしき人物が並ぶ。
「ちょっと。カイ。酔いすぎよ」
「すまない。うちの若いのが迷惑をかけた」
カイと呼ばれた酔っ払い青年を止めに入ったのはビキニアーマーを着こなすセクシーな女性で、謝ってきたのが40台のおっさんだ。とんがり帽子をかぶっているあたり魔法使いなのだろう。
「ええい、止めるなマリン。オーガスも謝る必要ないだろう。視線の配り方もなく、貫禄もなく、武器も持ってねぇこいつが強いわけないだろ!」
おーおー、酔っぱらっちゃってまぁ。言っていることは結構正しいんだよな。俺のは女神サポートありきだしズルしているからね。喚け喚け……負け犬の遠吠えをな!
青年のまけ――遠吠えを肴に酒を飲みながら聞くことにした大地だが、そのことが癇に障ったのかさらにヒートアップするカイ青年。
「すました顔しやがって俺たちがどんだけ大変な思いをしてやってきたと……どうせコネでランク上げてもらったんだろう!受付のユーナさんやギルド長、さらにリリアさんにまで取り入って楽して上げたん――」
そこまで口にした瞬間、リリアの目に怒りの灯がともった。
――聖女なんだから騒がず聞きながしゃあいいのにな。
「カイさん!私たちが不正にランクを上げたというんですか!?」
思わぬ飛び火にカイが「いや、それは」とたじろぐ。流石俺らの聖女様だぜ。貫禄が違うな。
「まぁランクを飛ばして依頼を許可したのはギルド長ですけど」
ユーナがシレっと言い放った言葉をギルド長はさらりと流そうとしたが、リリアは許さなかった。
「そうですよ!なんでギルド長はあんな無謀な依頼を渡したんですか!?」
カイの熱が収まってきたと思えば今度はリリアに火がついたらしく、その矛先はまだギルド長に向いているのが幸いだと思う。ただ、このまま自分に火の粉……どころか火炎弾が飛んでくるのも時間の問題かもしれない。と大地は逃げ道を『必死』に探す。
「あ、あー。まぁとりあえずさ。終わったことだしその辺でな?」
藪蛇だったのは言うまでもない。
その大地の一言を聞いたリリアがターゲットを大地にロックオンしたのだ。
「そもそも。大地さんも受けなければランクを上げることはなかったし!カイさんだって不満に思うことはなかったんですよー!!」
ああもう……立ち上がってるし、完全に激おこじゃないか。どうすんのこれ?ちょっと誰か助けてくれない?
そんな視線をカイに送るが、カイ青年は残念ながらリリアの激おこっぷりを見たことがなかったのか呆然としている。
このポンコツめ!
仕方なく、ギルド長、ユーナ、グラネスと順番に見たら全員に視線を逸らされてしまう。
ここが孤立した戦場か。くそっったれ!援軍は期待できない。孤軍奮闘とはこのことか!!どうにかして彼女の機嫌を取らなければ飯を食うどころじゃないぞ。こいつぁ。
「だいたいですね――」
などとリリアが前口上を口に始めたのを聞いて、このままいけば長期戦になると考えた大地は意を決して割り込む。
「リリア!」
「ひゃっ」
ふむ、反応するだけまだ理性があるようだ。それなら反撃するしかない。
「リリアの言いたいことはわかる。心配してくれてたんだよな」
まず彼女の言葉が正しいよと受け入れる。
「はい。ですから――」
彼女の言葉を遮りながら次につなげる。
「でもな、俺にも意地があったんだよ」
「意地ってそんなの命よりだい――」
「そりゃあの時、リリアを怒らせちゃったからな。大事だろ?」
遮りながらも言いたいことをしっかり聞いているアピールしながら、それでも君のことを想っているんだぜ、というように話を進める。
「う、うー」
ここでリリアの言葉の弾丸がなくなったところで一気に畳み込む。
「確かにリリアの言う通り危険だったが、その価値はあったよ」
そう言いながらリリアが今してくれているネックレスをわざとらしく見ると、リリアが顔を赤くして照れたように「も、もういいです!」などと言って着席してくれた。一安心だ。これでおちついて酒が――飲めなかった。
「ま、まだ俺の話が終わってないぞ!不正野郎め!」
我に返ったカイ青年が再び絡んでくるのだ。マリンと呼ばれた女性とオーガスと呼ばれた男が何とか止めようとしているが止まらない。
再び負け犬の姿を拝みながら一杯やろうかとも考えたが、せっかく宥めたリリアにまた火が付きそうだったので、大地は諦めて応じることにした。
「まったく。俺に何してほしいんだ?」
席を立ちあがりながらカイの瞳にまっすぐ視線を向ける。
っていうか、さっきギルドの人と話したことがないって心の中で愚痴ったが、こんなに面倒ならいつもの人っていうかユーナさんだけでよくないか?依頼書読んでくれるし。……まぁ、手を出そうものならギルド長をも仕留めるギルドクローを受けることになりそうだから欲情はしないように気をつけねばだが。
「へ、お前の腕を試させてくれよ」
おいおいこいつ大丈夫か?なんか雑魚敵モブキャラが言いそうなセリフ吐き出したぞ。っていうかこいつもCランクなんだよな?
「いいけど何すればいいんだ?」
「そうだな、俺の剣技を見切るっていうのはどうだ?」
そのとたん、ギルド内のテーブルをほかのギルドの人間が料理と酒を死守するために一丸となって端っこへ移動させていく。
訓練された動き――何度もこういう場面があったんだろうなぁ。
そんな風にしみじみ思っているところにカイが後ろに下がって抜刀を始めた。
まじかよ、こんな場所で抜いてもいいのかよ?
大地が後ろで座るギルド長を見ると、そいつは酒を飲んで楽しそうにしてやがった。
その隣のユーナさんは何か考えた後、楽観的に大丈夫だよね。見たいな表情を浮かべている。
グラネスに至っては目を閉じて酒を味わっている。ってまだ飲むんか。宿で食事を一緒したときにも追加で酒頼んで飲んでたな。
唯一心配にしているのがリリアだけと言う。オロオロしてるし杖も握りしめてるし。まったく……この聖女様は心配性すぎるだろう。
「リリア。大丈夫だから」
その一言だけ言って振り返ってカイ青年の前に大地は立つ。
「とりあえず、俺は君の剣に当たらなければいいんだよな?」
「そうだ。だが、俺の剣速は早いぞ?」
銃弾より早いなら困るが――。
そんなことを考えている最中にカイの剣による刺突が大地の耳すれすれに伸ばされた。
「反応できなかったか?だが、こんなもんじゃないぜ!!」
再びカイの剣が煌めく。風切り音が奏でられまくるほどの連突が大地へ向かう。その間大地は止まったままである。何度も大地の体すれすれに刃が通る。
「な、なんで動こうともしないんだよ!!」
何度も刺突を繰り返したカイが急に切れた。
「反応できないにしろせめて驚くとか怖がるとかあるだろ!?」
「いやだってよ」
当然大地にも言い分がある。それは。
「当てる気ないだろ。現に何もしなくても一発も当たってないしな」
さすがに銃弾より早いことはなかったよ。よかったよかった。ていうか刺突が得意ならレイピアみたいな武器を使うだろうし刺突が得意ってわけじゃないよな。この程度の剣速じゃ当たるかどうかわかっちまうし。ごめんな。女神サポート強くて。
「な!?」
「んで、とりあえずこれで終わりなら俺の勝ちでいいか?」
「くそ、どこまでもふざけやがって。それなら本気で切ってやるよ」
あ、そういえば漫画とかで見たことで一度やってみたいことがあるんだよな。この能力差なら全然いけるか。
一歩分後ろに下がり、剣を右手で持つカイはその右腕を自分の胸の前を横切らせ、剣先は左腕の後ろになるように構える。ここから予想できるのが左から右にかけての横一閃である。もしかしたら攻撃を仕掛けるタイミングで体もひねり剣をふるう速度を速めてくるかもしれない。
「くらえ!!」
そしてカイが勢いよく一歩飛び出るとともに体をひねって腕を伸ばして真横に一文字を作った。――腕だけで。
「おー出来た出来た」
カイの目の前にいた大地がいない。声が聞こえたのは自分の真後ろに奴はいた。それも今の今まで自分が持っていた剣も一緒に。
「ほら、返すぜ」
大地はとても満足した。やってみたいことの一つ、剣を振ったら武器がとられていたシチュエーション。完璧だった。そして、これでようやく自分の強さをお披露目できたであろう。と思うがそうならないのが現実だ。
「カイー。あまり手を抜いてんじゃねぇぞー!!」
という外野のヤジ。
あれ?俺手を抜かれてるの?あー、でもカイの顔青ざめているし手は抜いていないのか?
「うーん?」と思っている間もカイへのヤジは止まらない。そこで気づく。俺の強さの証明にならないと。カイが遊び心を出して大地に花を持たせたんだ的な流れになっていることを。ヤジの中には「流石に新米ハンターに本気はださねえよな」とか「やはり先輩ハンターは違うな」とかが聞こえてきてる。
そんな馬鹿なことってあるか!
だが、再戦しようにも余興は終わりのような雰囲気がありテーブルもまたすごい速さでギルドの人間に戻されていく。剣を返した大地は置いてきぼりを食らった感を味わいながら、自分の席へ戻り、そのテーブルへ目を向けた。
「あれ?料理は?」
おいしそうな肉、野菜、魚。それらをふんだんに使われていた料理が残っていないのである。
「えっと、ギルド長が……少しだけでも取っておこうとしたのですが……それもギルド長が……」
悲しそうに言うリリアの隣の隣に座る人物は「げふぅ」と盛大に口から音を鳴らしていた。
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