初めての異世界転生

藤井 サトル

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異世界でも家を建てるにはお金が必要

転生するまえの前振りって必要だよね

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 目の前には女神がいる。
 それは本人はそう言ったとか、自分に信仰心があるとかそんなんじゃあない。
 何というか後光といえばいいのか?それとも神々しいといえばいいのか?そういった雰囲気があって彼女が神であるということを本能として理解させられた。

 あと……綺麗な人……いや神だ。

「大地さんですね?」

 名前を呼ばれたことでハッと気づく大地。

「あ、そうだけど……」

 敬語も使おうとしない30の男にも苦笑を見せず愛らしい笑顔を見せ続けてくれる女神様はやっぱり女神だ。この白い世界でも不思議と安心感が芽生えてくる。

 その女神は俺が肯定したのに対して頷くと再び口を開いた。

「それでは……異世界に転生してもらえますか?」

 いきなりで意味が分からなかった。そもそもこの白いだけの世界は一体どこだ?とか。ここに来るまでに何してたっけ?とか。もうその辺からわからない。

「まっ、待ってくれ!そもそも何の説明もなくてそんなこと言われても困る」

 そう困惑している様子を見せつけると女神が驚いたように口を広げた。

「え?……でも、大体の人はこれだけ言えばいいって。女神ネットワークのメガミッターで流れてきたのですが」

 メガミッター?……T〇it〇erみたいなものだろうか?

「そもそも俺はなんでこんなところにいるんだ?」

 そう口にする大地だが、大体の漫画やライトノベルではお決まりのことが頭をよぎる。
 ある主人公はトラックにひかれ、ある主人公は学校でいきなり拉致られ、ある主人公はゲーム画面へと飛び込む。
 全部が全部そうと言い切れないが、8割くらいの主人公は元の世界で『死』んでいるんじゃないだろうか?(※個人の感想です)
 であるならば、まさか自分も?などと考えた。

「適当に選びました~」

 まさかの間延びした声でかる~い気持ちで言ってきた女神に若干「イラッ」とくるものがある。

「はぁ。てきとー……ねぇ。俺が死んだとかでは……?」

 それでも、もし元の世界で死んでてその魂をここに呼んだとかだったら――。

「いえ、生きてますよ?」

 もう救いようがない。っていうか俺は帰してもらえるのだろうか?やりかけのゲームも、読みかけの漫画も、楽しみにしている小説も、もうすぐ公開される映画も。残っているんだぞ?

「あの……」

 その一言だけ口に出した後、大地の言葉は詰まった。理由は明白で元の世界と異世界転生というワードに天秤をかけ始めたからだ。
 確かにゲームなどの娯楽は惜しい。……非常に惜しい。
 だが、これがもしその娯楽にある異世界転生であれば……?考えてもみると自分の生活は職に就くことなくアルバイトを転々としてきただけだ。少しのお金を稼ぎ、ボロアパートに住まい、ちょっとの娯楽を嗜む。それだけの生活。それなら、いっそ行っちゃったほうが楽しいんじゃないか?

「チート能力ってもらえるのか?」

 その言葉に女神は異世界へ移動することについて肯定的だと捉えたのか笑顔になりながら空中にパネルみたいなのを映像として見せつけてきた。

「はい!どんなチートがいいでしょうか?」

 そのパネルの数は視界に入りきらないほどあるようで女神の真後ろにはずらりと並ぶ。

「例えばこの肉体の限界を超える能力はいかがですか?」

 目の前に出てきたパネルには【俺が最強だ】と書かれていた。

「これはですね人類が到達できない次元の肉体を手に入れることが可能で、人差し指で星をも砕くという――」

「いらない」

 女神のまくしたてる声に大地はスパッと鋭い刀で切るような言葉の刃で拒否をする。
 その言葉に不満だったのか女神は「えー」とふてくされ気味に言うが、人差し指で星を砕くとか冗談じゃない。そんなものがあれば日常生活に支障きたしまくりだろう。

「ではこちらはどうでしょう?」

 そう言って女神が出してきたパネルには【夢を掴むのはキミシダイ】と書かれていた。
 うるせえよ!どうせ俺は夢がつかめなくてバイト生活だよ。ちくしょー!

「で……これはなに?」

 少しぶっきらぼうな聞き方になってしまったのは仕方がない。だってパネルで煽られてるわけだし。
 と、誰に言うわけでもなく大地は心の中で自分に擁護しつつ指をさした。

「ふっふっふー」

 と、不敵な笑みを浮かべる女神は楽しそうに言う。

「これこそがロマンの塊でしょう!何せ頭の中で思ったことが現実になる能力です。お金!権力!ハーレム!どれでもとりほうだ――」

「いらない」

 ふざけんな。メリットしか言わないあたり悪質なセールスかよ。どう考えてもやばすぎる代物だろ。頭の中で考えたものが現実?ちょっと嫌なことがあって悪いことを考えただけで大惨事になりかねないものなんていらねぇ!

「これも嫌なんですねぇ」

 我がままだなぁってニュアンスを含めながら言う女神。っていうか本当に女神なんだろうか?さっきから推奨される能力がやばい系しかないぞ?

「それではこちらは如何でしょう?」

 三つ目のパネルには【女神との契約】と書かれていた。
 ん?見た目は……マシか?

「これはどんな能力なんだ?」

 そう言いながら大地はパネルをこっちに近づけるように手でクイクイと指示をする。

「それはですねぇ。私と契約できるパネルですよ!」

 あ、やっぱり女神であってたんだ。よかった。

「へぇ。契約ねぇ。契約すると何があるんだ?」

「ん~そうですねぇ」

 そう言いながら女神は人差し指を唇に当てながら話すことを考えている。

「例えば念じれば神々しくなることができますよ?」

 大地は女神をじっと見る。彼女の体の周りは確かに光っているのがわかる。まぶしいというわけではないが威厳がある光といえばいいのだろう。ただ、光って何するの?

「光るだけ?」

「いえいえ、光れば暗い道も安心して歩けますよ!それに何時でも私とお話しできますよ?お得でしょう?」

「えー、チート能力っていう割には微妙なような?」

「そ、そんなことはありませんよ!あ、あとあと、私を地上に召喚することだって出来ますよ!」

 女神は「ほらほら。こんなにかわいい私を連れて歩きたくないですか?」みたいなこと言ってピョンピョン跳ねて自分をアピールしだした。
 改めて女神を見ると銀色の髪は綺麗で美しい。女性の象徴である胸はかなりあるようで大体の男は振り向くだろう。顔立ちだって表情一つで美しくも可愛くも見える。更に髪がロングヘア―というのはポイントがすごく高い。ロングヘア―最高だ。年齢は……まぁわからないが神という人間とは違う存在だからこそ考える意味はないだろう。それに、神様であるなら多分強い……でも、それだと俺が無双できなくね?

「うーん、あ!ちょっとまて!ここに小さく『クーリングオフ不可』って書いてあるぞ!!」

 その言葉に女神はしまった!というような顔をしながらそむける。

「これどういうことよ!?どんなデメリットがあるんだよ!」

「で、デメリットなんてありませんわ……」

 それでも顔を背け続ける女神の顔を冷めた視線で見続ける大地。それに耐えられなくなったのか女神が崩れ落ちてへたり込む。

「うぅ。転生先の世界を散歩したかっただけですわぁ……」

 女神だけど自分の欲望に忠実な彼女は泣き言をいうが、それにチート能力の権利を持っていかれるのは納得がいかない。

「もっとマシなものないのか?」

「マシな……ものですか?」

 再び考えるそぶりをする女神が「あっ!」と何かを思いついたような表情をした後、パネルを差し出した。そのパネルにはこう書かれていた。

【兵器召喚】

 なんじゃこりゃ。『兵器』という言葉でわかるものといえば重火器とかだろうか?その次の言葉も『召喚』というのもゲームや漫画などの知識に照らし合わせると呼び出すものだよな。神獣とか悪魔とか?そうなるとこれは重火器を召喚する能力ってことでいいのか?

「これは大地さんが思い浮かべる兵器を出現させる創造魔法を基にした能力です」

 大体考えたことが当たっているのか。

「これって例えばハンドガンとかも呼び出せるのか?」

 そう言ってから女神に『ハンドガン』って言葉がわかるのだろうか。と危惧をするがそれは杞憂だった。

「もちろんです。マグナムやアサルトライフルだって出せちゃうんですよ!」

 女神が言う重火器にロマンを感じる大地。

「今ならなんと!大地さんの世界にある電子の湖。その中にあるウキペデアの銃の知識もサービスで上げちゃいます!」

「マジで!よろしくお願いします!」

 銃の知識が多いほうではないがその女神のサービスもあることで二つ返事でOKを出す。だが、その瞬間女神の瞳が怪しく光ったような気がした。

「それじゃあこれで契約完了ということで、まずはサクッと転生しちゃいましょうか。それと同時にインストールもしますわ」

「ああ、そうだな転生を……って、何する気?インストールってなに!?」

 女神の手元にあるものを見て大地は少しあとずさりをする。だが、逃げれるのは2歩だけで見えない壁によって下がれなくなる。
 後ろを振り向く大地だが後ろは真っ白で壁があるのか、何があるのか。まったくわからない。
 そして目の前には巨大なコンセントプラグを構えた女神。逃げられない俺。少しずつ迫る女神。下がれない俺。
 ああ、これがベッドで迫ってきてくれるようなシチュエーションであれば大歓迎だっ……た……。
 そう大地が思った瞬間、女神は巨大なコンセントプラグを大地の頭のてっぺんに思いっきりぶっさした。

「ぎゃあーーーーーーーーーーー!!」

 刺された痛みとさらに電気ショックのような二重の拷問に意識が薄らいでいく。
 そのまどろむ時間の中で吐息が耳にかかるほどの近い距離で女神が優しく言う。

「次に目が覚めたら異世界です。ぞんぶんに楽しんでくださいね。あと、私の……契約も……ておきました」

 最後のほうの言葉は意識を保つのが難しく正確に聞き取ることはできなかった。
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