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1章
-3- 【私たちだけが正しい世界】
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私たちの間に、静寂を乗せた冷たい風が流れていく。
「……ジオさん」
「……」
彼はしばらく黙り込むと、がくっと両膝をついた。その姿はまるで、糸を切られたマリオネットのようだ。
それとは対象に、抑えきれなくなった魔力がどんどん溢れ出してくる。限界は近い。
「まだ、彼らと友人でありたいと思う?」
「……いや、もう、いい。いいんだよ。俺は普通じゃないから。もう普通には戻れないんだ。もう友達なんて要らない」
「そっか」
今まで信用していた者に裏切られたのだから当然だ。増してや、友人に体を売られたともなれば相当ショックだろう。
「俺はもう何も……誰も、信用しない」
「ち、ちょっと、それは待って欲しいな」
「……何?」
彼は脱力したような顔のまま、目だけはこちらを睨みつけてくる。
「”普通じゃない”ことってさ、周りが”普通”で、自分だけがおかしい事で、初めて成り立つんだよね」
「……それは、そうだろう」
ジオの眉間にシワがよっている。頭の上にハテナが3つくらい出てる感じだ。
「私もさ……”普通じゃない”のよね。そのせいで、私も今まで一人だった」
「何だ?お前、何が言いたい?」
自分でも、何を口走っているのかが分からない。でも、口走るのを止められない。止めたくない。
「”異端”な一人の世界に、同じ”異端”な人が一人入れば、その”異端”はその二人にとって”普通”になれるじゃないかなって」
「はは、そんなうまい話……あるわけないだろ」
「いるでしょ、異端な人。……君の目の前にさ」
「……!」
「私は”一人”で、君は”独り”。私達が普通じゃないせいで、今こうして迫害されているのなら」
「あ……」
「私たち二人で、私たちだけの”普通”を作ってみない?」
「普通を……作る」
目を伏せて考え込む彼に、そっと左手を差しのべる。
彼は一瞬驚いたような顔をして、こちらに何かを伺うような目つきをする。
私の背後から、沈みかけた日が差し込んでくる。逆行となった私の表情は、彼にはどのように見えているのだろうか。それは分からない。
けれど、彼はゆっくりとこちらに目を向け──私の差し出した手のひらにそっと、手を重ねた。
その手は私の手より断然大きくて、少しゴツゴツする。
剣士である私の方が魔法使いの彼より手を酷使しているのに、その手はなぜか私のよりずっと固くて、強そうだ。
なんでだろ、おかしいなぁ。
そう、クスッと笑いながら。彼の手をそっと握る。
「─────。」
小さく引き攣る呼吸を耳にして、はっと彼の顔を見る。
──彼のその真っ黒な目から透明な涙がひっきりなしに流れ落ちていた。唖然としたような、安心したような、そんな笑顔をして。
彼も本当は、救われたかったのだ。何も信じないなんてことをしたくなかったのだ。
なぜなら──私も、同じ気持ちだったのだから。
彼の目から、黒ずんだ部分が流れて消えていく。
かつて狂気に満ちていたその目は真っ白な姿を取り戻していく。溢れるほどの異常な魔力も静まっていった。
そして私は初めて、彼の素の顔というものを見たのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ね、ジオさん」
「……何だ」
「後でたくさんさ、お話聞かせてよ」
ぶっ壊した校舎に座り込む俺と、俺の造り出した地面片にしゃがみ込む彼女。その下では、ただこちらを黙って見つめる群集。
そんな中心にいる彼女の顔は酷く美しく、儚く、そして涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「……ジオさん」
「……」
彼はしばらく黙り込むと、がくっと両膝をついた。その姿はまるで、糸を切られたマリオネットのようだ。
それとは対象に、抑えきれなくなった魔力がどんどん溢れ出してくる。限界は近い。
「まだ、彼らと友人でありたいと思う?」
「……いや、もう、いい。いいんだよ。俺は普通じゃないから。もう普通には戻れないんだ。もう友達なんて要らない」
「そっか」
今まで信用していた者に裏切られたのだから当然だ。増してや、友人に体を売られたともなれば相当ショックだろう。
「俺はもう何も……誰も、信用しない」
「ち、ちょっと、それは待って欲しいな」
「……何?」
彼は脱力したような顔のまま、目だけはこちらを睨みつけてくる。
「”普通じゃない”ことってさ、周りが”普通”で、自分だけがおかしい事で、初めて成り立つんだよね」
「……それは、そうだろう」
ジオの眉間にシワがよっている。頭の上にハテナが3つくらい出てる感じだ。
「私もさ……”普通じゃない”のよね。そのせいで、私も今まで一人だった」
「何だ?お前、何が言いたい?」
自分でも、何を口走っているのかが分からない。でも、口走るのを止められない。止めたくない。
「”異端”な一人の世界に、同じ”異端”な人が一人入れば、その”異端”はその二人にとって”普通”になれるじゃないかなって」
「はは、そんなうまい話……あるわけないだろ」
「いるでしょ、異端な人。……君の目の前にさ」
「……!」
「私は”一人”で、君は”独り”。私達が普通じゃないせいで、今こうして迫害されているのなら」
「あ……」
「私たち二人で、私たちだけの”普通”を作ってみない?」
「普通を……作る」
目を伏せて考え込む彼に、そっと左手を差しのべる。
彼は一瞬驚いたような顔をして、こちらに何かを伺うような目つきをする。
私の背後から、沈みかけた日が差し込んでくる。逆行となった私の表情は、彼にはどのように見えているのだろうか。それは分からない。
けれど、彼はゆっくりとこちらに目を向け──私の差し出した手のひらにそっと、手を重ねた。
その手は私の手より断然大きくて、少しゴツゴツする。
剣士である私の方が魔法使いの彼より手を酷使しているのに、その手はなぜか私のよりずっと固くて、強そうだ。
なんでだろ、おかしいなぁ。
そう、クスッと笑いながら。彼の手をそっと握る。
「─────。」
小さく引き攣る呼吸を耳にして、はっと彼の顔を見る。
──彼のその真っ黒な目から透明な涙がひっきりなしに流れ落ちていた。唖然としたような、安心したような、そんな笑顔をして。
彼も本当は、救われたかったのだ。何も信じないなんてことをしたくなかったのだ。
なぜなら──私も、同じ気持ちだったのだから。
彼の目から、黒ずんだ部分が流れて消えていく。
かつて狂気に満ちていたその目は真っ白な姿を取り戻していく。溢れるほどの異常な魔力も静まっていった。
そして私は初めて、彼の素の顔というものを見たのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ね、ジオさん」
「……何だ」
「後でたくさんさ、お話聞かせてよ」
ぶっ壊した校舎に座り込む俺と、俺の造り出した地面片にしゃがみ込む彼女。その下では、ただこちらを黙って見つめる群集。
そんな中心にいる彼女の顔は酷く美しく、儚く、そして涙でぐしゃぐしゃになっていた。
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