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第十一章 覚え
ルウアの目覚め
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ルウアは、翼が羽ばたけるまで、あたりを探し回った。
あの感覚は、きっとどこかで山がまた消えたのだ。
だが、山が動いた場所というのは、暗い夜の景色の中で肉眼でみることは、叶わなかった。
草地に下りて、耳を澄ましたが、かすかに音はまだ続いていた。
さっきよりも細く小さく鳴っている。その音を追うことは難しい気がした。
ルウアは、木々の夜の涼しさの中、高ぶる胸の鼓動を感じていた。
宿営地に帰る気にはなれなかった。
明日になれば、山の男としての仕事が始まる。
山へ入りたくて、成人の儀を待ち、それが終わってしまうと、突如として自分の中に放置されていた違和感が湧いていた。
それは、自分がここにいるべきなのかという違和感だった。
もともと山へ入りたくて成人の儀を待ち望んでいた。しかし、自分の一風変わった言動が、周りの大人たちを困惑させ、掟をやぶり山へ入ったときですら、その気性を一目につかぬように、隠さねばならなかった。
俺が、山で見聞きしたことは、オババとフレア以外には誰にも告げていない。
そんな自分が、何も知らずに、同じように山のものたちや、同じ年のものたちとやっていけるのだろうか。
俺は、山へ入る免罪符が欲しかったんだ。
成人さえ過ぎてしまえば、大手をふって山へ入ることができる。
しかし、それと、翼を奪われることとは、違う。
自分という個性のままの気性で渡り合える場所、認められる場所がほしいのかもしれない。
宿営地の皆は、とても気がいい人たちだ。
しかし、俺には、こうして何かがあればいても立ってもいられなくなる本来の野生の気性が、山を前にして隠し通せるはずもないのだ。
やんちゃだった幼い自分ではなく、山へ惹かれる抗いようがない魂の荒さ。
俺は、もっと飛びたい。それに山に惹かれる理由は、もっと別のところにあると感じている。
山と自分をつなぐものが、知りたい。
ああ、ここにフレアがいてくれたら、きっと俺の気持ちをいつものように半分背負って持ってくれただろうに。
そんなことを考えていた頃、耳につんざくような悲鳴を感じた。
音というよりも、風が空間をつらぬくような、魂の叫びのようなもの。
あたりの山の風は、普通通りだったが、確かに、緊迫した何かがどこかで起きたような感じがする。
そんなに遠くではない。
ルウアは、翼を広げて飛び上がった。
森の木々をぬけて夜空へぬけると、空中でとどまりながらあの切迫した雰囲気のひずみを追った。
あたりを見回していたそのとき、森が連なっているであろう暗い眼下の中に、1里ほどのところの一角で光がわずかに見えた。
まるで、照明を爆破させたような光が、一瞬木々の中から閃光したのだ。
胸の高鳴りを押さえられなくなった。
ルウアは、そのまま何も考えぬまま光を目指して降下していった。
あの感覚は、きっとどこかで山がまた消えたのだ。
だが、山が動いた場所というのは、暗い夜の景色の中で肉眼でみることは、叶わなかった。
草地に下りて、耳を澄ましたが、かすかに音はまだ続いていた。
さっきよりも細く小さく鳴っている。その音を追うことは難しい気がした。
ルウアは、木々の夜の涼しさの中、高ぶる胸の鼓動を感じていた。
宿営地に帰る気にはなれなかった。
明日になれば、山の男としての仕事が始まる。
山へ入りたくて、成人の儀を待ち、それが終わってしまうと、突如として自分の中に放置されていた違和感が湧いていた。
それは、自分がここにいるべきなのかという違和感だった。
もともと山へ入りたくて成人の儀を待ち望んでいた。しかし、自分の一風変わった言動が、周りの大人たちを困惑させ、掟をやぶり山へ入ったときですら、その気性を一目につかぬように、隠さねばならなかった。
俺が、山で見聞きしたことは、オババとフレア以外には誰にも告げていない。
そんな自分が、何も知らずに、同じように山のものたちや、同じ年のものたちとやっていけるのだろうか。
俺は、山へ入る免罪符が欲しかったんだ。
成人さえ過ぎてしまえば、大手をふって山へ入ることができる。
しかし、それと、翼を奪われることとは、違う。
自分という個性のままの気性で渡り合える場所、認められる場所がほしいのかもしれない。
宿営地の皆は、とても気がいい人たちだ。
しかし、俺には、こうして何かがあればいても立ってもいられなくなる本来の野生の気性が、山を前にして隠し通せるはずもないのだ。
やんちゃだった幼い自分ではなく、山へ惹かれる抗いようがない魂の荒さ。
俺は、もっと飛びたい。それに山に惹かれる理由は、もっと別のところにあると感じている。
山と自分をつなぐものが、知りたい。
ああ、ここにフレアがいてくれたら、きっと俺の気持ちをいつものように半分背負って持ってくれただろうに。
そんなことを考えていた頃、耳につんざくような悲鳴を感じた。
音というよりも、風が空間をつらぬくような、魂の叫びのようなもの。
あたりの山の風は、普通通りだったが、確かに、緊迫した何かがどこかで起きたような感じがする。
そんなに遠くではない。
ルウアは、翼を広げて飛び上がった。
森の木々をぬけて夜空へぬけると、空中でとどまりながらあの切迫した雰囲気のひずみを追った。
あたりを見回していたそのとき、森が連なっているであろう暗い眼下の中に、1里ほどのところの一角で光がわずかに見えた。
まるで、照明を爆破させたような光が、一瞬木々の中から閃光したのだ。
胸の高鳴りを押さえられなくなった。
ルウアは、そのまま何も考えぬまま光を目指して降下していった。
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