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第九章 成人の儀
山路
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外は、6月の気候だった。
雨季はなく、暑さもまだ遠く、過ごしやすい。しかし、山の夜は冷えるために、フレアの着ているコートの襟をたてていないと身震いするほどだった。
山の門をくぐったのは、夜半すぎだったと思う。
まだ辺りは暗いが、だんだんに紫を帯びた闇に変化している。
フレアは、歩きながらも、自分がどこを目指していいのかをわからなかった。成人の儀の場所はわからないが、もし見つかればつかまってしまうだろう。山へ入ることは、掟をやぶることなのだから、自分は人に見つからぬように、行かねばならない。
フレアは、なんとなく、山へ入れば、自分の中に眠っている古来の血が、自分の行くべき場所を照らしてくれるように思っていた。
そこがどこにあるのかさえわからないまま、フレアは歩いていた。
次第に明るくなっていく空が、心細くなる心を溶かしてくれていた。
山といっても、広いのだわ。
昔すんでいたところがあるとしたら、山に集落があってもおかしくないかもしれない。
きっと、洞窟などにすんでいたのではないか。
フレアは、乏しい想像を精一杯働かせながら、岩や洞窟が見える場所を目指して進み続けた。
洞窟に、誰も見つからなくても、自分が住処として使うことができる。
それに、この同じ山にルウアが今いると思うと、なぜか気持ちが落ち着いてくるのだった。
どうしていいかわからなくなったときは、ルウアを探せばいい。
身体を捜すのではなく、魂を見つければいいんだわ。
昔幼い頃に、ルウアと二人でやった遊びを思い出していた。
一人が隠れて、一人が探す。
そのとき、お互いの魂をみつけて探すのだった。
ルウアがどこに隠れても、フレアは見つけるのが得意だった。じっと動かずにルウアの魂の糸を捜し、それがどこの部屋から伸びているかを心で確かめ、一気に見つけにいく。
ルウアは、まじないを使った!といつも当てられ怒っていたが、フレアは、ただルウアの魂が発している糸を捜すのが得意だったのだった。
お互いが双子だったゆえにできた遊びかもしれなかった。
フレアは、明け方の空をみながら、ゆっくり深呼吸をした。
山肌に照らし出される朝日に、なんとも清々しい気分がしていた。
水を一口ずつ、唇をぬらすようにして水分をとりながら、歩き進めた。
里で生まれ、里で育った少女には、普通ならば根をあげてしまう環境だったが、フレアは、勝手知ったるがごとく、足取りは軽やかだった。
夏の日差しのような暑い太陽が、のぼり始めていた。
光が、全身を差し、フレアの美しい髪が、黄金に輝いていた。
雨季はなく、暑さもまだ遠く、過ごしやすい。しかし、山の夜は冷えるために、フレアの着ているコートの襟をたてていないと身震いするほどだった。
山の門をくぐったのは、夜半すぎだったと思う。
まだ辺りは暗いが、だんだんに紫を帯びた闇に変化している。
フレアは、歩きながらも、自分がどこを目指していいのかをわからなかった。成人の儀の場所はわからないが、もし見つかればつかまってしまうだろう。山へ入ることは、掟をやぶることなのだから、自分は人に見つからぬように、行かねばならない。
フレアは、なんとなく、山へ入れば、自分の中に眠っている古来の血が、自分の行くべき場所を照らしてくれるように思っていた。
そこがどこにあるのかさえわからないまま、フレアは歩いていた。
次第に明るくなっていく空が、心細くなる心を溶かしてくれていた。
山といっても、広いのだわ。
昔すんでいたところがあるとしたら、山に集落があってもおかしくないかもしれない。
きっと、洞窟などにすんでいたのではないか。
フレアは、乏しい想像を精一杯働かせながら、岩や洞窟が見える場所を目指して進み続けた。
洞窟に、誰も見つからなくても、自分が住処として使うことができる。
それに、この同じ山にルウアが今いると思うと、なぜか気持ちが落ち着いてくるのだった。
どうしていいかわからなくなったときは、ルウアを探せばいい。
身体を捜すのではなく、魂を見つければいいんだわ。
昔幼い頃に、ルウアと二人でやった遊びを思い出していた。
一人が隠れて、一人が探す。
そのとき、お互いの魂をみつけて探すのだった。
ルウアがどこに隠れても、フレアは見つけるのが得意だった。じっと動かずにルウアの魂の糸を捜し、それがどこの部屋から伸びているかを心で確かめ、一気に見つけにいく。
ルウアは、まじないを使った!といつも当てられ怒っていたが、フレアは、ただルウアの魂が発している糸を捜すのが得意だったのだった。
お互いが双子だったゆえにできた遊びかもしれなかった。
フレアは、明け方の空をみながら、ゆっくり深呼吸をした。
山肌に照らし出される朝日に、なんとも清々しい気分がしていた。
水を一口ずつ、唇をぬらすようにして水分をとりながら、歩き進めた。
里で生まれ、里で育った少女には、普通ならば根をあげてしまう環境だったが、フレアは、勝手知ったるがごとく、足取りは軽やかだった。
夏の日差しのような暑い太陽が、のぼり始めていた。
光が、全身を差し、フレアの美しい髪が、黄金に輝いていた。
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