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第3章:冷静にゲームクリアを分析する
54:冷静に卒業する
しおりを挟む私、アティスは最後のジャッジメントを迎えていた。
最後のジャッジメントは卒業式で進路を決めること。そこでヒロインが攻略対象に最後の審判をくだすというものだった。
ってまあ、そんなの今回はすでに選ぶまでもないけどね~
「卒業生代表、クシュナ・ハルビン。」
「はい」
クシュナが壇上に上がる。
彼女は、魔法実技試験以来、髪の毛はボブに切りそろえ、中性的な印象に変わっていた。もともと、乙女ゲームから出てきたヒロインというより、彼女の性格はもっとサバサバしていて自分から進んで動ける女性だった。今の彼女の方がクシュナらしくて私は好きだ。
(→美琴、あなただけじゃなくてジュノー殿下もそうお思いだとと思うわよ?)
エフィスの言う通り、壇上へ上がる彼女を、愛おしそうに見つめるジュノー殿下の姿がある。魔法旅行の後から、二人は水を得た魚のように私生活に置いて生き生きし始めた。ラブラブと言うより、二人でいるとどこへでも行けるような、今から冒険に出る前触れのような溌剌とした雰囲気だった。まあ、それに対してイチャイチャしてるのはどこまでも”冷静沈着ガール”だったはずのエフィス、アクエスペアですけどね。アクエスがジュリアスに刺されたことでアティスは覚醒し、その後、彼の一命を取り止めることに成功した。私たちが竜になれたのは、決してアクエスへの愛情からだけではない。竜になれたのはスフェナさんのおかげで、アクエスがいなくなって悲しむのは私たちだけでなく、ファイ様もきっとそうだからだ…。って、それにしてもさ、私がいるんだからもう少し遠慮してくださいよ。見つめ合うだけで顔を赤くする二人を至近距離で見せられる身にもなってください。もどかしイチャラブなんて全然求めてないんだから!!
壇上に上がった彼女を教会のステンドガラスの光が優しく照らしあげた。
「思い起こせば私たちは、三年前この学園に大志を抱いて入学しました。
お恥ずかしながら、私もここで宣言させていただいておりましたね、ジュノー殿下と結婚し、そして国母となれるような人材に、努力をしてなって見せると。
しかし、成長した今の私は努力だけに頼るのは間違いだったと思います。
努力は孤独なもの、一人続けていれば人は裏切ることはあっても、努力は自分を裏切らない…とは限りません。努力はなんのためにするのか、自分のためだけですか?自分のために努力して最後は何を目指すのでしょうか?
努力、つまり己の経験に頼ること、それだけでは先は見通せません。
私の場合、努力の先を見つめ直すことで、私以外の周りの皆さんが見えました。
そうです、ここで一緒に学び、そして国を築き上げていく、ここにいる私たちです。これはお別れの挨拶ではありません。努力してきた私たちの先の、始まりの挨拶なのです。」
ジュノー殿下はゆっくりとクシュナの隣に立ち、彼女の手を握った。
「さあ、これから先を、努力する先を共に見つけていきましょう。」
教会が歓声の渦に呑まれた。
クシュナの演説は、言い表せない覇気とそして、温かな希望で満ちあふれていた。
(→クシュナ。念願が叶ってよかったですね。あなたの幸せそうな笑顔、とても素敵です。)
******
家に帰ると、家族が無事卒業の祝福をしてくれた。
「ご卒業おめでとうございます、お姉さま!クシュナ様の最後の演説も素敵でしたわね。これならこの国も安泰ですわ!あ、そうだ!ところでお姉さま。卒業のお祝い旅行として家族旅行にでも行きませんか?」
アンジュが目を輝かせて続ける。
「お姉さまが以前行った霧月国などどうですか?お母様もいってらっしゃたではないですか、竜人の国に行ってみたいと。ファイ様もきっとお姉さまを歓迎なさると思いますし。」
「そうね!私も行ってみたかったの!!竜人たちの国!!それに…許されるのならよってみたい場所もあるしね…アティスちゃん、ファイ様に頼めないかしら?」
お母様の少し曇った表情を冷静に理解した私は、ゆっくりとうなずいた。
****
家族旅行で霧月国へ向かう前に、私たち家族は白く小さな墓跡の前で手を合わせていた。そう、エフィスさんが永遠に眠る場所で。
エフィスさんの討伐を協力するようはじめに命じたのは、お母様の母、チエであった。しかし、心臓を使った禁忌術をチエが行うことを恐れたお母様はお父様に頼み、チエに渡る前に高額で悪党から心臓を譲り受けお母様が最終的に手に入れたのだった。二人ともスフェナさんのことは全く知らず、スフェナさんという人物の話をしてあげたときはひどく落ち込み、お母様は涙を流していた。
スフェナさんのお墓には私たち家族が足を運ぶ義務があると感じ、こうして私たちはここへ来る約束をしていたのだった。
スフェナさん…あなたの意志を私たち家族は引き継ぎます。ですから優しくお見守りください…
****
その後、私たちは霧月国へ入った。
中華ファンタジーな世界に私以外の家族は目が点…無理もないけど。
シエルさんが私たちを出迎え、竜人たちの馬車、サラマンダー車をチャーターしてくれていた。それに乗り込む私たち。
「行き先は、ファイ様の実家、ハトファル家になります。それでは出発!!」
車内でシエルさんが予備知識のない家族にご丁寧に説明してくれた。
ハトファル家とハーベル家のつながり。ハトファル家の魔力や血の話、そして、お祀りしている月人様のお話。
最後の話で、一人いつも以上に真剣な表情で聞いている者がいた。
そう、私たち家族の中に月人でありそして支配人がいるのだから。
****
「こちらにおいでくだされ。」
出迎えた、久しぶりの春婆に私は反射的にびくっとする。
(→ふふふ、春婆には私たち殺されかけましたからね笑)
山の中にある鳥居を何十本も潜り抜け、ついたそこには小さな祠があった。
葉の一つも落ちていない、清潔すぎる石床に、私たちの衣擦れさえ響くような静寂。
「鳥囀らん。有明の蔀」
春婆の言霊に反応した小さな扉が急に開き、ひらひらと美しい布がその中からはためき始めた。その色は、透明なのに、七色に照り返す不思議な布で、よく見るとキラキラと細かな粉が靡くたびに空気へ舞っていた。
あまりの美しさにこの場にいる者全てが固まっていた。いや、一人を除いては。
「こ、これは。は~、ステキ。」
腕を伸ばし掴もうとする背中に向かって私は告げた。
「あなたですね、支配人は。」
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