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第2章:冷静に竜人国へ駆け落ちする

35:冷静にバケーション!

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思えば霧月国に来ていろいろなことがあった。
知りたかった竜人の基礎知識も学んだし、ファイ様にお母様の秘密を明かされてしまうし、挙げ句の果てに、春婆に殺されかけたし…。

(→あ、そういえばシエルさんに春婆を怒らせると怖いと言う忠告を受けていましたね。)

それでも、嫌なことばかりだったわけではない。
ファイ様のお母様スフェナ様の事件は許せないし、私がなぜ彼女の心臓を食べたのかわからないけど、スフェナ様は話に聞く限り素敵な女性だった。
そんなスフェナ様のことを知ることができて良かったし、これからの自分の目標もできた。それは彼女に恥じない生き方をすること。彼女が身を呈して大切に思っていた、白竜の力をみんなのために使うこと、その信念を決して無駄にしないように私は決めていた。


(→私自身も衝撃続きで大変でした。
自分たちが人から竜人になるきっかけが愛娘の死であったなんて。
考えただけでも私は胸が痛い。それに私が死んだ後、夫アクエスと娘がうまくやれていなかった事実も…
ファイ様が孫と気づいた時も大変ショックを受けました。美琴はファイ様にご執心だし…おばあちゃんとしてファイ様の幸せの行方をちゃんと見守らなければいけません。娘の分まで。)


そんなこんなで私もエフィスも激しい事実に整理をつけ、やっと元気を取り戻している頃だった。


「アティス!おはよう!今日はね、君に提案があって来たんだ。最近アティスに心労ばかりかけてただろう。そこで、私と一緒に霧月国で少し羽でも伸ばさないかいって提案だ!」


私は心が躍った。
そして私たちがファイ様に打ち明けたいことはまだ残っていた。
ちょうどいい機会かもしれない。

「喜んで!!」



****



え~っと、衣類入れたし、おやつは入れたし…
あ、旅行といえば茹で卵とみかん持ってけってお婆ちゃんに言われたな…


(→状況報告。
四次元ポシェットに今荷物詰めをしています。どうやら美琴は旅行の醍醐味の一つにこの荷詰めをカウントしているらしいです。)



扉を叩く音がする。


「どう?準備できた?」


扉を開けたファイ様。
今日のファイ様の服装は群青色した漢服だった。ゆったりと着こなし、白銀の髪を後ろで緩くむすんでいて少し色っぽい。
私服のファイ様も素敵だ!

(→ええ。孫だとわかってからファイ様のことを直視できるようになりました。ええ、目に入れても痛くないほどに。)

「アティスいいな!俺も行きたかったぞ、セード島。あそこには美味しもんも珍しいもんもたくさんあるんだ!!いいないいな!」

「こら、ショーン。アティスさまはお前と違って毎日遊んでたわけじゃない。いろいろ大変な目にあってるんだ。それにファイ様とアティス様の中を邪魔しちゃ悪いから、無理を言ってはいけないよ。」

「そうそう、ショーンお主が来ては邪魔だ!私とアティスで行くとずっと前から決めていたしな!また今度連れて行ってやる。」

私たちは二人に見送られ手を繋ぐと
視界がぐるっと回った。



***


セード島につきました!
青い海に白い砂浜。赤いお花に、ピンク色の素敵な貝殻。
こ、これぞ夏の島、セード島!!!


(→美琴、実は思い出したのですが、アクエスと来たことがあります!!セード島に!懐かしいです。)


「どうやら二人とも気に入ってくれたようだね。」


ファイ様がアティスに微笑みかける。
彼は、エフィスがアティスにいることは前回で知っている。しかし、普段彼と口を聞いている私、美琴のことはどう思っているのだろう。このことは確かめておきたかった。

「あの、ファイ様。その…」

「あ~ダメダメ!重い空気になりそうなこと言いかけたでしょ?こんなに天気のいい日よりなんだ!辛気臭い話はやめてまずは楽しもう!」



そして、私たちは近くで予約していた宿屋に荷物を預け、海に向かうことにした。


「あ、あのう。ファイ様。そ、そのう。」


そんな時私は大事なことに気付いてしまったのだ。
私は水着を買うことをすっかり忘れていた。


「そっか。セード島って言ったら海ってのが定番ではあるけど…よし!
アティス。私の背中に乗れ、天空という海原をアティスに教えたい!」

そう言うとファイ様は私を軽々背負った。

「いいか、絶対手を離すな。そうだ、私の髪につかまって」

彼は巨大な竜にあっという間になった。
8月の色濃い青空に、ファイ様の白い鱗の対比がとても印象的だった。

「それじゃ行くよ!アティス、君が望む場所、全てに私は行こう!」

その声とともに私たちは上昇する。


高い高い高い高いタッカーい!
エフィス、私ちょっとまた思考停止しそう…


(→えっ?美琴、高所恐怖症?それでは竜になった時どうするのです?わかりました。私が変わりましょう。)


私は意識を飛ばし、エフィスが交代してくれた。


「アティス?どう、空からの眺めは…海が煌めいて綺麗だろ!うん?やけに冷静ってことは…もしかしてエフィスさんなのかな?」


「そうです。意識が吹っ飛びましたので私が交代いたしました。私と話すのはあの日以来ですね、ファイ様。」


私たちは浅い雲の中に潜った。


「エフィスさん、おばあさまとお呼びした方がいいのかな?笑それで、おばあさま。あなたは何か知ってる?アティスのことでもいいし、祖父アクエスのことでも。」


「まずこちらからひとつ聞いてもいいですか?あなたは、祖父アクエスのことをどう思っているのですか?」


私たちは雲を抜け、穏やかな海の上に浮上していた。


「そうですね…難しい質問です。
祖父は、母さんを小さい頃から見放し、あなたのことばかり夢見るとんでもない人だった。それに母さんのことをずっと誤解したままだった。
私はね、エフィスさん。アクエスを疑っているんですよ、母さんが人間に襲われることを黙認した竜人がアクエスなんじゃないかってね。」


海は未だ穏やかに二人を照り返す。
しかし、二人の近くは冷たい空気が流れていた。


「ファイ様。アクエスのことは、私も正直驚きました。
私が死んだ後、そんなことになっているだなんて。アクエスと私は確かに、生前二人だけの世界にどっぷりと浸かっていました。ラティス国。あそこも私たちが安寧して暮らすために住んだ大地が国へと発展した場所です。それだけ私たちは頑なに外部と縁を絶って来た、それは認めます。しかし。アクエスは非道ではありません。どちらかといえば、アクエスと会う前の私の方が冷淡でそれに近かったでしょう。彼は、私に感情を与えてくれた愉快で朗らかな人なのです。あなたがなんと言おうと、私の記憶の彼は絶対にそんなことしません。」


「そうかそうか。
エフィさん、あなたはやはり祖父側ですね。それでは話題を変えましょう。アティスのことです。あなたともう一人、アティスの中にいますよね?その方はアティスなのですか?それともまた違う魂…?」


エフィスは、美琴に呼び掛けた、起きなさいと。
でも一向に美琴は起きそうにない。


「本当は二人でいるときに言おうと思っていたのですが、いいでしょう。お話します。私たちのこと、アティスのことについて。」


それからエフィスは大体全てをファイ様に話した。
まず美琴のこと。
そして二人ともT O K Y Oという場所からきた転生者であること。
アティスのこと。彼女の魂はもともとなく、その体に二つの転生者の魂が入ったということ。
次に、ジョカ横という乙女ゲームのこと。
ヒロイン、攻略対象、悪役令嬢という言葉。
ババ抜き系乙女ゲームで、ジョーカーというババをジャッジメントで引くとゲームオーバーになってしまうこと。
そして、そのジョーカーが今回、ゲーム支配人の手によってアティス自身とされ、条件つきでクリアするためにアティスとヒロインが共闘して頑張っていること。
ざっとこのような流れで、エフィスはファイ様に語った。


「またまた、アティスはすごく秘密多き令嬢だね。なるほど、だから王子から私を遠ざけたかったんだね。それに、支配人て…それさ、私の母上の死とも関係してきたりするのかな?どこまでこの現実世界とゲームの世界がリンクしているのか…そこも釈然としない。でも、わかった。私も協力させてもらおう。」

いつの間にか私たちは海を越え小さな島に立ち寄っていた。


「エフィス…美琴はまだ起きないの?」

「起こしてみましょうか?地上に降りれたんだし。」


私は叩き起こされた。ええ?なんか今頭叩かれたような気がする…


「はい、お疲れ様です。美琴です。」


「はじめまして、美琴。よろしくね!」


「はい!ファイ様!!」


「そ、それで、ここはどこですか?なぜか教会のように見えるのですが…」


(→ここは私とアクエスが結婚した時の教会です。もう廃れて誰も浸かっていないようですが、ファイ様が見つけてくれたのです。)


へえー、二人の思い出の地なんだ。


「エフィスに説明はしてもらえたかな?よし!いこう美琴。」


私たちは小さな懐かしい教会に足を踏み入れるのだった。
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