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第1章:冷静に悪役令嬢アティスを分析する

6:冷静にお母さまと対峙する

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あれからというもの、ジェイはちょこまかと私の周りを荒らすことをやめたらしい。毎朝の朝食のテーブルで、「おはよう、姉さん」、「ジェイ、ご機嫌よう」と笑顔でやりとりする様子を見て両親も、従者も最初は驚いていたけど、今では恒例の行事だ。

「最近、二人は仲がよろしいようで・・・母は嬉しい限りです・・それは、アティス、あなたの笑顔が増えたことと関係しているのかしら?」

母、ラフラは水色のふわっと空気を纏った髪に綺麗なラピスラズリの瞳を持つ儚げ美人。と言いますか、母は病弱で、朝食をみんなで囲むのもやっと。朝は体調を崩しやすく起きて来れないこともザラにある。母の体調を気遣って、従者たちは私たち子供をあまり部屋に近づけないし、A I(転生前アティス)もそれが最善と思ってか、母に甘えたことはないらしい。

私はとりあえず、ニコニコ母に顔を向ける。

「私、今朝からとっても調子がいいのよ。もし、アティスとジェイがいいなら、お茶を飲みに私の部屋に午後いらっしゃいな。」

その言葉に父をはじめ、ここにいた誰もが一瞬目を見開いたが何も言わなかった。


「お誘い、ありがとうございます。母様。」




****


お母さまのお部屋に行くのは何年ぶりだろうか。
お母様は確か、転生前でいうファンタジー物のお話が好きで、竜人とお姫様が駆け落ち?して厄災が二人の愛を吊橋効果でより強靭にして、最後は新しい土地で王国を築き上げるというお話が特に好きだった。
お母さまは、A Iから見て、いや一般人が冷静にみても、乙女気質だと思う。見た目もさることながら、お茶目な性格で、恋と幻想の世界で生きていたい人だ。もし、以前と変わっていなかったら、それはもう、乙女チックなインテリアだった・・はずで・・・。

そんなことを考えている間に母の部屋の前に来ていた。あれ?ジェイがいない?まあ、いいか。

お母さまの侍女たちが扉をそっと開けた。
その瞬間、ぽわ~っと甘い匂いがする。まず目に飛び込んできた色彩は、シャンパンゴールドとホワイト、シルバー。隠し味程度に薔薇のような差し色が混じったそれはもう、西洋風宗教絵画の世界のようだった。ロココの例えば、猫脚バスタブみたいな自然モチーフのインテリアではないのだが、この部屋に入った瞬間、キラキラした何かを感じた。真っ白な暖炉の上には、陶磁器で作られた、ユニコーンや、かぼちゃの馬車のような物、天使など、ファンタジーな品物が並んでいた。前は、ピンク系の色がもっと派閥を利かせていた気がするから、大人乙女にシフトしてきたのだなと思った。

私が部屋に入ると、侍女たちに目配せして、私とお母さま二人きりになった。


「こうして、二人で話すのも久しぶりね。」

「はい。」

「私ね、本当は二人の時間もっと作ればよかったなって思っていたの。アティスちゃん、とても可愛くて頭が良くて、冷静でそれはもう、親としては申し分のない子だけど・・・。感情を今まで表に出さなかったじゃない・・?それで、私、どう対応していいかわからなくなって、少し距離をとっていたのよ・・・。ごめんなさい、アティス。」


お母様は苦しそうな顔をしてそう私に話しかけてきた。

「いえ。私も、お母さまの体調に障らないようにと思ってのことでしたが、少し寂しかったのです。こうしてお母さまと会話できて今嬉しく思っています。」


お母さまは感激したような顔をして、手をのばし私を包み込んだ。

あたたかい・・・・。ホットジンジャーを飲んだ後のように、体の内側がポカポカする。

フワッと香る甘い母の匂いと、少しくすぐったい母のふわふわの髪。今の気持ちは、きっとA Iとも共感できている、そんな気がした。



「アティスちゃん。あなたの家庭教師から、あなたはとても勉学も優秀で、魔法も一度教えればできてしまうと聞いたわ。こうなれば、あと残すは、マナーと恋愛のレッスン!!私の出番だと思うのよ!!」

それに、アティスは今年記念すべき10歳の誕生日イベントが控えている。そこで、社交界デビューを果たす重要な儀式。つつがなくパーティーを成功させたいのだろう。


「そうと決まったら、今日からズンズン行くわよ!!」


(→疑問:お母さまは本当に病弱だったのか?)



コンコン。


「あら、ちょうどいいところに来たわね。お入りなさい。」


ジェイが入ってきた。
ジェイもこの乙女の香りにやられたのか、少し顔をキョロキョロさせている。



「アティスちゃんとジェイくん!せっかく歳近い男女がいるのだもの、これからは一緒にマナーとダンスの勉強をしましょうね!!とりあえず今日はダンスから!!」


有無も言わせぬお母さまの態度、固まる二人。



**


お母さまの部屋の扉からサンルームがついたダンス練習室に行ける。グランドピアノとツルツルタイル。それらには、サンルームから差し込む日差しと緑の色が映り込んでいた。
どこからかダンスの先生がやってきて、私はジェイと向かい合った。さあ、ダンスの時間だ。


**

ジェイ大丈夫・・・?

というのも、私の精神年齢は彼よりだいぶ上なので、抑えられているが、ジェイは先ほどから息をしていないんじゃないかって気がする。私と近づいたこと、いや、歳近い女の子とこんなに至近距離になったことはないのではないだろうか。

お母さまは好物を発見したかのような目を向けてあらあら~と微笑んでいらっしゃる、傍らジェイはもうそろそろ窒息死・・・。
うん、場を和ませてあげないと可愛そうになってきた。


「ジェイ、あなたとこんな近かくでお話するの初めてね。」

「う・・うん。」

「あなたの瞳って光に反射して見ると赤からピンクにグラデーションがかかっていてきれいだわ。」

「なっつ、なにいうんだ!」

急に顔赤くなって照れちゃって・・!私に意地悪してきたこと、まだ私根に持っているんだからね!

「それに、ジェイは毎日剣の練習しているんでしょ?」

「うん?」

「やっぱり筋肉がついてるっていうのか、男の子なんだなって今日思ったから」

(→抵抗:これ以上攻撃するとジェイが冷静さを保てません。既に大量に汗をかいています。直ちに撤退。)


確かに少し、いや、彼の汗には巻き込まれたくないので休戦に致しましょう。


「お母さま、少し休憩させていただけませんか?」

「あら・・。そうしましょう!」

お母さまは、ジェイをチラッと横目で見てから私にウインクした。
私が席につこうとした時、お母さまに耳打ちされる。


「アティスちゃんも隅におけないわね・・・!」


(→名誉挽回:なぜかお母さまにいろいろ誤解された気がします。)
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