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賢者、後を追う。
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ミウの肩に手のひらを置き、ゆっくりと魔力を流す。
私の魔力など微々たるもので、本来ならば膨大な魔力を有する彼女に必要とされるものですらない。
だが今は──
「私の魔力を糸にして、ミウの魔力が乗った矢に纏わせてくださいね」
「はっ、はいっ!」
何をやっているのかわからないとは思うが、返事がいい。
もし私の学舎にいれば、双子たちどころか皆に『母』と呼ばれるリムを凌ぐ魔法使い──魔法弓士となったかもしれない。
今でも素晴らしい強弓の使い手ではあるが、どうやら属性を繊細に操るのは不得手らしいから──
そんな余計なことを考えてしまいそうになったが、息を深く吐いて目の前に集中する。
ミウの肩から、腕から、そして指先から矢じりに流れる魔力に細く細く私の魔力を伸ばし纏わせ、途切れないようにとその細さからは想像がつかない強度を持たせた。
『糸』というがそれはただのイメージで、実際に存在する綿を縒った物などとは違う。
ただ途切れないための物──アレが逃げ着く先を辿り着くためだけの。
「射て」
私がミウの耳元に顔を寄せてそう囁くと、細い身体の内にある魔力がぶわりと膨れ上がり、ピュンッという鋭い音が鳴ったかと思うと、一直線に矢が黒い『魔王』に向かって行く。
その速さと纏う魔力の大きさに気付かないわけではないだろうが、アレは私が勇者たちに施した防御魔法に後れを取っただけだと言わんばかりに圧を高め、やや形成を押し戻しつつあった。
「いけます」
「ああ、そうだね」
前衛で堪えるケヴィンやデューンに施した防御魔法は破られ、暴力的なまでの魔力に精神を押し潰されそうに見える。
しかし私と
ミウにはわかっていた──あの矢は、必ずアレを貫くと。
私の魔力など微々たるもので、本来ならば膨大な魔力を有する彼女に必要とされるものですらない。
だが今は──
「私の魔力を糸にして、ミウの魔力が乗った矢に纏わせてくださいね」
「はっ、はいっ!」
何をやっているのかわからないとは思うが、返事がいい。
もし私の学舎にいれば、双子たちどころか皆に『母』と呼ばれるリムを凌ぐ魔法使い──魔法弓士となったかもしれない。
今でも素晴らしい強弓の使い手ではあるが、どうやら属性を繊細に操るのは不得手らしいから──
そんな余計なことを考えてしまいそうになったが、息を深く吐いて目の前に集中する。
ミウの肩から、腕から、そして指先から矢じりに流れる魔力に細く細く私の魔力を伸ばし纏わせ、途切れないようにとその細さからは想像がつかない強度を持たせた。
『糸』というがそれはただのイメージで、実際に存在する綿を縒った物などとは違う。
ただ途切れないための物──アレが逃げ着く先を辿り着くためだけの。
「射て」
私がミウの耳元に顔を寄せてそう囁くと、細い身体の内にある魔力がぶわりと膨れ上がり、ピュンッという鋭い音が鳴ったかと思うと、一直線に矢が黒い『魔王』に向かって行く。
その速さと纏う魔力の大きさに気付かないわけではないだろうが、アレは私が勇者たちに施した防御魔法に後れを取っただけだと言わんばかりに圧を高め、やや形成を押し戻しつつあった。
「いけます」
「ああ、そうだね」
前衛で堪えるケヴィンやデューンに施した防御魔法は破られ、暴力的なまでの魔力に精神を押し潰されそうに見える。
しかし私と
ミウにはわかっていた──あの矢は、必ずアレを貫くと。
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