すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、後を追う。

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しかし──さて──どうしたものか────
「パッ、パトリック大賢者!」
「グッ…もう…抑えるのがっ……」
前衛として切り込んでいったケヴィンとデューンが弾かれ押し戻され、ラダの後衛補助魔法も魔力が尽きかけている。
ミウも魔力を込めた矢をつがえているが、何かに押さえつけられているように放てていない。
『賢者』という称号をいただいた私が描く魔法陣に誘い込めれば、そこで魔素毒を含むあの黒い『魔王』を封じて燃やし尽くせばいいのだが──

『燃やし消すなよ』

あの一言が気になった。
「……ミウ」
「はっ…はいっ」
「落ち着いたようですが、やはり放てませんか」
「……はい……アレ・・が『魔王』ではないとパト賢者様に言われたら、気持ちがスッと落ち着いたんですけど……ゆ、指が離せ、なくて」
「そのようですね。おそらくアレにとっての一番の脅威は、ミウの中にある魔力なんでしょう。おそらく火属性と光属性……風属性と強化魔法が混じっている物ですから、強化以外の属性に弱点がある魔物にとっては、そのどれかが致命傷となります」
「は……?え?あの…私、強化だけ……」
「属性でも強弱があるので、おそらく強化と風が顕著に表れ、他のものは意識できなかったんでしょう」
「え…えぇ……?」
「つまりミウの矢がアレに当たれば、最低でも弱体化、都合よく最大弱点であれば一気に蹴散らせます」
そっと彼女の肩に手を置けば、出口を求めてぐるぐると体内を巡るミウの魔力を感じる。
しかもそのどれもが私の魔力を拒むことなく、むしろこちらに流れを変えようと加速してきた。
まさかそれを放てるほどの技量はないので──
「私が誘導します。ミウはいつものように。呼吸を整えて、アレを貫くことだけを考えてください」
「はっ…はぃっ…ハッ…ハッ…」
いつもなら簡単にコントロールできるはずの自分の魔力が、勝手に私の手のひらに向かって流れようとするのだ──ミウの呼吸が乱れる。
それを拒否し、代わりに私の細い魔力を蔦のように伸ばしてその魔力を絡め、出るべきミウの指先へと流した。
「………今です」
「はいっ!!!」
小さな囁きにミウの叫ぶような声が重なり、それに驚いた表情でケヴィン、デューン、そしてラダがこちらを向く。

そして彼らの間をパリパリと火花を弾けさせた矢が豪風を纏って飛び抜け──狙い違わず黒い『魔王』の眉間と思しきあたりを貫いた。


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