すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、目的を果たす。

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「それにしても………」
思わず独り言を漏らしたが、聞いている者はいない。

『魔王』はひとり──いや、『ひとつ』ではないのか?

アイツはわざわざ私に教えてくれた。
魔族とは『独自の判断や考え方をしない個体ではない分裂したモノ』──つまり、ただ1つの個体だと。
人間や他の動物とは違う、ただ『同じモノ』
そこに魂とか個性とか別の要素が付随するのではないかと思うが、それでも『自分が思いつきもしないこと』をしないようだし、やはり感覚としては単体生物の分裂と何ら変わらないのかも──

「………様?」
「……………うん?」
「パトリック大賢者様!」
「………え?あ、ああ…そ、そうか、私か……」
呼ばれた気はしたが、自分のことではないと思ってまだ思考と過去の記憶の中で彷徨っていた私は、聞き覚えのある単語に反応したらしい。
のろのろと顔を上げると、不安というか心配そうな表情をしたケヴィンたちが、何故か私の頭上から顔を覗き込んでいた。
「だ、大丈夫か?」
「具合が悪いなら、ここで皆と待っていても……」
「あ!あたし薬調合するわ。えぇと…たぶん、こんな村でも薬局ぐらいあるでしょ!ちょっと、アンタたち誰か、店っぽいものが探して!」
「わ、私…えぇと…私はウルと横になれるところ整えてきます!」
「えっ…ちょっ……」
私が言おうとする前にそれぞれが動いてしまい、申し訳ないというよりも、集落に残してきた弟子や子供たちの姿と重なって思わず笑みがこぼれた。
あまり意識していなかったが、どうやら私はだんだんと自分が生きてきた時間を少しずつ思い出し、そして精神的に積み重ねて老成したようになっているらしい。

ああ、可愛い子らよ──

先に出て行った者たちがどうなっているかわからないが、とにかくここに残った者たちだけでも無事に守り、生きて王都に帰させねばなるまい。
その任を背負うのに私がふさわしいかどうかはわからないが、決意するぐらいはよかろうと私はとりあえず『現在の自分ができること』を自覚することに決めた。


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