すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、目的を果たす。

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とにかくカウラセンによれば『魔王』というのは『黒い服を纏った人為らざるモノ』という曖昧な姿で伝わっているらしい。
美丈夫だとも美女だとも言われることがあるらしいが、その顔かたちを覚えている者はおらず、とにかく『黒くてブワッとした何か』的な伝わり方で、『黒い魔物が現れた』という情報だけで勇者ケヴィンたちの行く先が決まっていた──というのも、実は今知った。

まあ私はこのパーティーに加わってすぐに王都を発ってしまったため、知らなくて当然か──

それにしても何故『黒』というはっきりした事柄と、容貌性別不明という曖昧な情報が両立して伝わっているのか。
『……ふん、それであれば都合がいいのさ』
「……ウル?」
スルッと私の太ももに頭を寄せてきた白い影がガウッと呟いた。
だが反応したのは私だけで、ミウとカウラセンは気持ちが繋がり始めた恋人らしくモジモジと頬を赤らめているし、ケヴィンたちはそれぞれ甘い物を食べ過ぎて頭が痛くなったような顔をしている。
『あいつらには聞こえていないさ。こいつはお前をえらく信用しているな……おかげで通じやすい』
「……お前……まさか……」
『ククッ……ああ、俺の評判を利用している『魔王』がいると知ってな。ちょっとばかり昼寝・・をしている隙に、ずいぶんと思いあがったモノもいたものだ』
「……『魔王』は元は同じ、なのだろう?」
『……ククッ……お前は、どう思う?』
「えっ……」
意外なことを言われて思わずウルを見下ろしたが、返ってきたのは愛嬌のある眼差し──どうやら『魔』は去ってしまったらしい。


先に集落を出た隊は、帰ってこなかった。
次に出た隊も、その次も──

戦力として役に立たない下男たちばかりが不安げな表情で集まっている。
このままでは埒が明かない。
とりあえず各家々に勝手に上がりこんでいた兵たちの荷物を纏めさせ、集会所として使われているだろう広場に積み上げてもらった。
「……どうしますか?」
「この中で一番があるのは君だろう。というか、今さらだがあの国兵たちに君まで連れて行かれなくて幸いだったよ」
「……それ、は、そう…ですね……」
魔術研究所でもトップレベルの魔術師──カーリン・リストニス・カラウセン侯爵。
当然ながらこの村にやってきた兵士のトップたちは彼にも同行を求めたが、せっかく婚約者のそばに堂々と入れるのだからと考え『勇者様たちのお役に立ちたい』と言って断ったのだ。
王都に戻ってからの彼の立場が心配ではあるが──カウラセンが言うところでは魔術研究所の組織に関しては王族といえど簡単に口出しできるものではないらしく、不安そうな兵たちを尻目にとっととミウの後ろ姿を追いかけていた。
なかなか肝が据わっているとは思うが、優先順位がハッキリしすぎてはいないだろうか。


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