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賢者、目的を果たす。
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「……そんなわけで、まあ実力は少々心許ないながらも彼らは無事にここまでたどり着いたのです」
「心許ないって……」
「事実です」
思わず私は苦笑したが、カウラセンはバッサリと切り捨てる。
「近衛兵だけでなく、国軍の中でも実力を誇る者たちは王宮で、国王陛下を始め王族を率先して守っています。国境である辺境地にいる者たちは別ですが」
「近衛兵たちはわかるけれど、国軍の中での実力者が集結……?」
「ええ」
おそらくケヴィンたちにも初耳だったらしいその情報に、私たちはそれぞれ驚いたり眉を顰めた表情で聞き入る。
「公にはされていませんが、魔王復活が確実となったため、王族を守るためだと」
「魔王復活が確実……って、別にあいつが討伐されたというわけではないだろう?」
「……それはそう、なんですが」
思わず私が気安く魔王のことを尋ねると、カウラセンは一瞬変な顔をして言葉を詰まらせたが、すぐにみんなの方に顔を向けて言葉を続けた。
「ここ数百年の間、魔王が現れたという目撃情報はあれど魔族が群れを成して人間を襲うことがなかったため、『おそらく魔王はいなくなった』ということになっていました」
「なっていました、って」
何といい加減な。
「何せ『魔王』という魔族がどんな姿かたちをしているのか、まったくわからないのです」
「わからない?」
思わず私はキョトンとしたが、逆に皆からとてつもなくおかしなことを言ったと言わんばかりに視線を向けられてしまった。
「えっ……」
「パトリック賢者様……」
「あなたは魔王の存在を知らないのか?」
「いや、そんなわけないわよ!……え?でも、ひょっとして、魔王ってこの国にしか現れないの?」
「それはない……はずだ」
ケヴィンたちに口々言われてしまったが、カウラセンが考えつつ私も『魔王』という存在自体は知っているという感じでまとめる。
「我が国と隣接するローシャル・ルーフェル国と妖精国シェリエム国にはほぼ共通した歴史があり、また魔物や魔獣に関する伝聞も共通している。魔王の出現についても然り」
それは知っている。
知ってはいるが──魔王は正体不明?
私の記憶の中にある『魔王』はいつも変わらず美丈夫で、黒い鎧とマントと、鎧を着ていなくとも黒いドレスような格好で。
「……黒、だよね?」
「ええ、そうです」
私はあいつがいつも『黒い服や鎧やマントを纏っている』というつもりでそう言ったが、カウラセンは明らかにホッとしたように頷いた。
「心許ないって……」
「事実です」
思わず私は苦笑したが、カウラセンはバッサリと切り捨てる。
「近衛兵だけでなく、国軍の中でも実力を誇る者たちは王宮で、国王陛下を始め王族を率先して守っています。国境である辺境地にいる者たちは別ですが」
「近衛兵たちはわかるけれど、国軍の中での実力者が集結……?」
「ええ」
おそらくケヴィンたちにも初耳だったらしいその情報に、私たちはそれぞれ驚いたり眉を顰めた表情で聞き入る。
「公にはされていませんが、魔王復活が確実となったため、王族を守るためだと」
「魔王復活が確実……って、別にあいつが討伐されたというわけではないだろう?」
「……それはそう、なんですが」
思わず私が気安く魔王のことを尋ねると、カウラセンは一瞬変な顔をして言葉を詰まらせたが、すぐにみんなの方に顔を向けて言葉を続けた。
「ここ数百年の間、魔王が現れたという目撃情報はあれど魔族が群れを成して人間を襲うことがなかったため、『おそらく魔王はいなくなった』ということになっていました」
「なっていました、って」
何といい加減な。
「何せ『魔王』という魔族がどんな姿かたちをしているのか、まったくわからないのです」
「わからない?」
思わず私はキョトンとしたが、逆に皆からとてつもなくおかしなことを言ったと言わんばかりに視線を向けられてしまった。
「えっ……」
「パトリック賢者様……」
「あなたは魔王の存在を知らないのか?」
「いや、そんなわけないわよ!……え?でも、ひょっとして、魔王ってこの国にしか現れないの?」
「それはない……はずだ」
ケヴィンたちに口々言われてしまったが、カウラセンが考えつつ私も『魔王』という存在自体は知っているという感じでまとめる。
「我が国と隣接するローシャル・ルーフェル国と妖精国シェリエム国にはほぼ共通した歴史があり、また魔物や魔獣に関する伝聞も共通している。魔王の出現についても然り」
それは知っている。
知ってはいるが──魔王は正体不明?
私の記憶の中にある『魔王』はいつも変わらず美丈夫で、黒い鎧とマントと、鎧を着ていなくとも黒いドレスような格好で。
「……黒、だよね?」
「ええ、そうです」
私はあいつがいつも『黒い服や鎧やマントを纏っている』というつもりでそう言ったが、カウラセンは明らかにホッとしたように頷いた。
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