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賢者、目的を果たす。
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だが彼らは知らない──たとえ今回の件でこの集落の者たちのように消えてしまったとしても、それは単純に『何かによって消えた』という記録だけとなり、国の重鎮たちが悼む心を向けてくれるとは限らないことを。
「……そういうことなのだろう?」
「ええ。この村から人がいなくなったというのは本当に国軍へ上がった情報であり、そしてある意味『失っても惜しくない人材』が派遣されたのです」
「それは何故?」
そう言ったカウラセンがじっと見つめたのは、私ではなく愛しい恋人であり婚約者でもあるミウだった。
「はい……彼らはあなたたち勇者『白雷の翼』が無事であれば、たとえ国軍が1人残らず全滅したとしても構わないと」
「え?」
「何だって?」
気がつけば私とミウのそばにはケヴィンたちも集まり、ヒソヒソと話すのに合わせてやはり声量を落とす。
「……実は、彼らのリーダーとして任命されたあの男は、国軍でも少し持てあまされていまして」
「いやでも……」
カウラセンが呆れたように視線を飛ばしているのは、「ヤル気のある者はついて来い!」と檄を飛ばしている男だ。
しかしその男がいるからといって『全滅しても構わない』という意味がわからない。
「確か…あの男は俺たちがSランクに上がったばかりの頃も、何だかやたら見下してたな」
「そう言えばそうだったね」
デューンとケヴィンがそう言うと、ラダもミウも納得したという顔を見合わせた。
「そうね……パトリック様があのすごい結界魔術を展開して、ようやく態度を改めたもんね」
「しかし、どうしてああも元気に探索に行こうとしているのか……」
「ああ、それはきっと」
ミウがキッと拳を振り上げている男の背中を睨みつけながら断言する。
「パトリック賢者様が、すべての魔獣をあの箱の中に閉じ込めて討伐したと思っているからでしょう。しかも全部燃えてます……その討伐証明は残らず、でも村人が消えた痕跡か、もしくは消えた村人を見つければ」
「私、もしくは私が所属しているあなたたち『白雷の翼』よりも高い評価を得られる、と」
なるほど。
プライドも昇進欲も高いご仁というわけだ。
「しかし、だからと言って仲間というか、部下を巻き添えにするのは感心しないな……」
「それは仕方ありません」
カウラセンが疲れたように、呆れたように項垂れて呟いた。
その声音が引っ掛かり、私だけでなく皆がカウラセンに視線を向ける。
「本人は軍の中でも上に行きたいという欲は確かにあります。しかし……それは、彼らと共にいて、こそ」
「え?」
「どういう……?」
ケヴィンたちは驚いた顔をしているが、何となく私はそんな気がしていた。
「あの者とここに来ている兵たちの半分は、幼なじみや訓練兵の時から一緒にいた者たちです。新兵や下男として付いてきている者はともかく、少なくとも彼らも出世させたいという気持ちから、今回の出兵に志願したと」
「へぇ~……」
思いがけない人情話にケヴィンたちの彼らを見る目が少し変わった。
──が、それは私も同じ。
「……そういうことなのだろう?」
「ええ。この村から人がいなくなったというのは本当に国軍へ上がった情報であり、そしてある意味『失っても惜しくない人材』が派遣されたのです」
「それは何故?」
そう言ったカウラセンがじっと見つめたのは、私ではなく愛しい恋人であり婚約者でもあるミウだった。
「はい……彼らはあなたたち勇者『白雷の翼』が無事であれば、たとえ国軍が1人残らず全滅したとしても構わないと」
「え?」
「何だって?」
気がつけば私とミウのそばにはケヴィンたちも集まり、ヒソヒソと話すのに合わせてやはり声量を落とす。
「……実は、彼らのリーダーとして任命されたあの男は、国軍でも少し持てあまされていまして」
「いやでも……」
カウラセンが呆れたように視線を飛ばしているのは、「ヤル気のある者はついて来い!」と檄を飛ばしている男だ。
しかしその男がいるからといって『全滅しても構わない』という意味がわからない。
「確か…あの男は俺たちがSランクに上がったばかりの頃も、何だかやたら見下してたな」
「そう言えばそうだったね」
デューンとケヴィンがそう言うと、ラダもミウも納得したという顔を見合わせた。
「そうね……パトリック様があのすごい結界魔術を展開して、ようやく態度を改めたもんね」
「しかし、どうしてああも元気に探索に行こうとしているのか……」
「ああ、それはきっと」
ミウがキッと拳を振り上げている男の背中を睨みつけながら断言する。
「パトリック賢者様が、すべての魔獣をあの箱の中に閉じ込めて討伐したと思っているからでしょう。しかも全部燃えてます……その討伐証明は残らず、でも村人が消えた痕跡か、もしくは消えた村人を見つければ」
「私、もしくは私が所属しているあなたたち『白雷の翼』よりも高い評価を得られる、と」
なるほど。
プライドも昇進欲も高いご仁というわけだ。
「しかし、だからと言って仲間というか、部下を巻き添えにするのは感心しないな……」
「それは仕方ありません」
カウラセンが疲れたように、呆れたように項垂れて呟いた。
その声音が引っ掛かり、私だけでなく皆がカウラセンに視線を向ける。
「本人は軍の中でも上に行きたいという欲は確かにあります。しかし……それは、彼らと共にいて、こそ」
「え?」
「どういう……?」
ケヴィンたちは驚いた顔をしているが、何となく私はそんな気がしていた。
「あの者とここに来ている兵たちの半分は、幼なじみや訓練兵の時から一緒にいた者たちです。新兵や下男として付いてきている者はともかく、少なくとも彼らも出世させたいという気持ちから、今回の出兵に志願したと」
「へぇ~……」
思いがけない人情話にケヴィンたちの彼らを見る目が少し変わった。
──が、それは私も同じ。
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