すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、目的を果たす。

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実に──実に長かった。

黒い炎が収まりを見せるまで掛かった日数は、実に丸々5日間。
そこは熱くもなければ匂いもしない──蠢くモノすらいない。
結界の中では黒い炎が轟々と狂ったように踊り結界の内側を舐め、天板を跳ねのけようとするかのようにぶつかり七色の煌めきを弾けさせていたが、数日間もの時間をかけて完全に屠ったのである。
「ようやく収まりましたか……」
さすがに魔術研究所のトップに近い者と勇者一行が国軍として派遣された者たちを守ろうと奮闘し、おこがましいが『大賢者』という称号を得た私が魔獣たちを一網打尽にして発火させたためか、国軍のリーダーは態度を軟化どころか敬うレベルまで引き上げてくれた。
「ええ。あとは中の魔素毒が完全に消費されきれば、結界が自然に解除します。通常の討伐であれば魔石や何らかの魔獣素材が手に入りますが、それらが見つかるかどうか……見つかったとしても、もう役に立たないただの石ころや焼け焦げたものになるでしょうが」
「そっ…そうかっ……」
魔法陣の改良の時は気付かず、こうして発動してから解除後のことに思い当たり、私は申し訳なく思った。
あれだけ大量に発生した魔獣──本来ならばけっこうな数の魔石や、武具を作るのに適した『素材』が手に入ったはずなのだが、それらを除外して魔法陣発動力の魔素を使うなどという文言を思いつかなかったのである。
というか、そもそもそんなことができるのだろうか?
「……それは仕方ありませんよ。確かに完全に分離して残った遺骸を燃料として燃やすということは可能でしょうが、今回のように一斉に討伐するために『魔石や魔素を含んだ素材は燃やさない』などという文言は魔法陣発動の文言と矛盾するため、発動したとしてもあっという間に解除されてしまうでしょう」
「やはりそう思うかね?」
手に入ったはずのひと財産が燃えカスとなったことに顔を青褪めさせ呻く国軍のリーダーを放り出し、私は魔法陣の成り立ちを理解しているカウラセンとの会話に没頭し始めた。

指定した条件が満たされれば勝手に発動されるが、1度きりしか使えない魔法陣。
発動し続けるために魔力を注がねばならない魔法陣。
自分の魔力以外を媒介として発動させる魔法陣。

そのどれも発動条件は『魔力』
たとえ罠のようなものであれ、発動するための魔力を予め込めておくのだ。
今回使った『作動し続ける』という魔法陣でしかも生きている魔獣たちを1匹たりとも出さないような強固なものを、私の魔力だけで発動し続けるというのは無理がある。
だからそれを補うために中に閉じ込めたモノを贄として『絶対に』『燃え尽きるまで』『魔素がなくなるまで』という文言を加えたのだ。
私たちが惜しんだモノは、それこそ魔素の塊であり、燃料。
消滅させ尽くすことができなければ、『仲間』の遺骸に覆われ生き残った魔獣が私の魔法陣を打ち破って、私たちに襲いかかったはずだ。
少なくともカウラセンの防御膜の内側にいたケヴィンたちは無事であったろうが、彼らが魔獣の生き残りを──どれだけ残るのかわからないが──討伐するまでの間、国軍に1人たりとも犠牲が出ないとは言い切れない。


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