すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、魔獣の急襲に遭う。

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だが彼が罪人全員に腕輪を飛ばしたのには他にも理由があり──
「やっと動きが止まったね。防御膜ディフェンス・フィルム
魔法陣を使わねば魔術を作動できない私とは違い、己の魔力と大気に満ちる魔気をつかって魔術を施行できる魔法使いであるカウラセンは、気を付けねば見えないほどの薄い半球型の魔法膜──いや壁を造って国軍全員まとめて覆いかぶせた。
「魔獣ぐらいは防げます。今のうちに退避を!」
「ハッ……ハヒッ……」
命令を下す立場の者たちは村の中心部分で待機しておりまったく無傷だったが、私たちから一番離れた場所にいた若い兵たちはどうやら魔獣を初めて見たらしく、襲われた仲間の血を浴びて恐怖で座り込んでいるようだった。
カツンガツンと激しい音を立てて普通の獣よりも数倍大きい体躯を力任せにぶつけてくる熊のような魔獣の迫力は凄まじく、抑えきれない恐怖心を剥き出しにしている獲物を諦める気はないらしい。
「デューン!」
「おう!」
仲間を助けに行こうとしない国軍の者たちを睨みつけながら、ケヴィンが長剣を鞘から抜き放って駆けだした。
一秒よりも短い瞬間でデューンの巨躯も大斧を振りかざして同じく飛び出し、私は慌てて彼らに持たせた手巾に刻んだ防御用魔法陣を発動させる。
「さすが!アタシはパワーを上げるわ!」
「む、無理だ!」グンと空気が動いてラダの魔力が走り去る2人を背中にぶち当たり、カウラセンがそれを視認して慌てた。
「わ、私の防御壁は魔獣の力ですら破ることは………」
「上は任せて!」
ラダとはまた違う──物量を纏った空気がものすごい勢いで上空を切り裂いていく。

ミウの強弓だった。

「なっ……」
呆然とする私とカウラセンの頭上を越えていったそれは、細槍のような太さの矢であり、しかも一度に5本も飛んで行く。
それらが球体状の防御壁に届く前に、さらにもう5本の矢が音を立ててミウの手を離れて飛ぶ。

バシュッ。

まるで煙を突き抜けるかのようにあっさりと矢はカウラセンの魔法を打ち壊し、飛び上がって防御壁を上から潰そうとしていた魔獣を狙い違わず撃ち落とした。


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