すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、魔獣の急襲に遭う。

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確かにカウラセンからはまったく制約魔法の気配はなく、盗難を防止するはずの腕輪はただぼんやりと光が灯っているだけである。
当然私たちの荷物に手を伸ばしても、まったく意味を成さない。
だがミウを正式な名で呼ぶ彼はずいぶんと素直な青年にしか見えず、むしろ尻尾でもあれば犬獣人のように尻尾を振りまくって好意を示していたかもしれない──ウルのように。
「……うぅむ……なかなか魔獣を従えている者に会うことができず、できればお話を伺いたいと思っていたんです」
いや、今はミウの後ろではなく、何故か私のそばに付き従っているのだが。
「しかも私にはただの唸り声や息を吐きだすだけにしか聞こえないのに、大賢者殿だけでなく、ミウラトリや勇者殿たちもこの魔獣の言葉がわかるという……ああ!羨ましい!!」
フードが取れてしまうのではないかと思うほど身震いするのに、どうやら器用にもマントがはだけない魔術を掛けているらしい──確かにそんなことに使ってもまったく隠形の魔術が解けないほど、カウラセンは才にも魔力にも恵まれているようだ。
「……私からすれば、君のような若者・・がこうやってこんな場所にいても不審がられないほど、完璧に気配を薄くしていることの方が驚きと羨ましさで身が焦がれそうだよ」
「そんなそんな……我々魔術研究所に所属する者たちは自然に反した研究を行うこともある……そのせいで、魔獣たちには従属の意志を得られない。むしろ、絶対に服従するものかと敵対されてしまう」
「敵対……」
「何せ服従すれば虐げられる、酷使される、場合によっては研究と称して開腹されたり実験体にされてしまう……彼らにとって良い目に逢うどころか、悲惨な最期しか与えられない存在。罪深いという言葉すら空々しく感じる、正しい『敵』です」
「なるほど……」
さすがに言葉を理解させるほど心を開いているとは言い難いが、ウルは特に警戒する様子もなく、カウラセンがそばにやってきて背中を撫でることを許している。
それを見ると彼ら魔術師がそんなに危険人物とは思えないが、ミウの両親やその他とは、何か心構えというか考え方が相容れないのかもしれない。
私がそう感じたことを口に出せばカウラセンは同意の頷きを返したが、それは荷物を整理し終えてこちらにやってきたミウも同じだった。
「最初は同じ……やはり『魔法を使える我々は偉い、選ばれた者だ』という思考がなかったとは言いません。ですが……」
「そうだよね。いつだったか、変なこと言ってた」
「変なことって……ただ、ミウラリアのように魔力があるのに回路が外側に通じていない者もいる。それもおそらく、自覚がないだけでどこにでも。だからそういった者たちでも魔術を使えるような魔道具を開発したいと」
「ほう」
しかしその考えは『選ばれた者』という誇りを持つ者たちにとっては異端であり、そして希少性を否定するものである。


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