すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、魔獣の急襲に遭う。

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村人だと思われる人間は、どんなに探しても見つからなかった。
ここから一番近い町にも、集落にも、親戚がいるという村にも──知り合い程度の者ですら現れたという情報はなく、しかもこの村以外で消えた者もいない。
「これは一体どういうことだ?」
「ここまでくると、探索隊だけでなく、魔術協会からも探索術が可能なものを派遣してもらうしかないのでは?」
「うむ……しかし、連中が気持ち良く命令を聞くとは思えないが……」
「代償に何を要求されるか」
「いやいや、そんなことを言ってる場合ではないでしょう?!」
言い争うのは王都から来た者たちだが、カウラセンは自分の正体を明かさず、ずっとミウのそばに護衛のように佇んでいる。
というよりも存在を消し、ここに来たことも皆に忘れられるようにわざと振舞っているようにも感じられた。
「……当然です。我ら魔術師が独立しているのはプライドが高いということもありますが、能力を軽く扱われることが許せないんです」
「いや、それをプライドが高いっていうんじゃ……」
「それだけじゃないの」
ボソボソとカウラセンが正体を明かさない理由を話すが、ケヴィンが理由の矛盾点をまぜっかえす。
だが意外にもそれに口添えをしたのは、他でもないミウだった。
「リストが言った『能力を軽く扱う』っていうのは、『簡単にできるだろう』という認識です。確かに魔術が使える者にとっては簡単にできるものが多い……けれど、できない者の方が多いでしょう?そのやっかみもあって、『簡単ならお前がやればいい』みたいに言われることが多くて」
「確かにそうだと思って気軽に手助けをしてしまう者もいる……魔術を扱うための魔力というのは体内にいくらでもあって、どんなに使っても減らない。そんな間違った認識で、しかも蔑まれて……気がついた時には魔力枯渇で生命まで脅かされるんです」
それは──私自身は魔力が尽きるほど魔法や魔術を使ったことはないし、言ってしまえばそんな状態になるほど魔力を使った人生を無事過したことがない。
せいぜいが魔術関係の論文を目にした程度だが、その内容については当時の『私』の理解力が及ばず、生命力と魔力の関係などさっぱりだったのだ。
「だからといって自分たちは選ばれた人間だと思い上がってはいけないのだろうが……私たちはどこかで折り合いをつけなければならないのだけれど、魔術研究所に所属する者たちが揃ってそういった考えは異端だと聞き入れてくれない」
「それはまた……」
カウラセンが苦しそうに項垂れるが、彼もまた同じ思想ではなかったのか。
私だけでなく、悲しそうな表情をするミウも含めて、皆が疑問の目を彼に向ける。
「私がミウラトリに婚姻を申し込みたいと言った時も、ご両親に言われました…『魔力があろうと使えない欠陥な娘などより、メイラトリの方がよほど使えるだろう』と」
「そんな……」
「私はそんなつもりでミウラトリを望んだわけではない。そう言っても何故か彼らには理解してもらえず……もともとメイラトリには魔術師としての興味どころか、異性として魅力を感じることもできないというのに。しかも当の本人が言うんです、『姉様より私の方が使えるでしょう?』と」
痛ましそうに眉を顰め首を振るカウラセンに向ける視線は、咎めるというよりも憐みを込めたものに変化していく。


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