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賢者、魔王と再会する。
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現世では異国人である私を含め『白雷の翼』のパーティーメンバーの中で、ミウ以外は平民である。
トリウス伯爵家の令嬢であるミウには幼少の頃から家庭教師がついており、それは貴族の特権であり、政治の中枢を担う人材として当然得ていなければならない義務でもあった。
自分たちの生活を守るためにいる領主一族が無学であることを良しとしたら、とんでもないことになるだろう。
農地で採れる作物を出荷した際にどれくらいの売り上げがあり、そこからどれくらいの税を取り、次の季節のためにどれくらいの投資ができ、領民の不便を取り除くための費用が必要か、経済を回し領主たちの生活以外にも領民の生活が潤うか──その結果、国から要求されることを受け入れてやっていけるのか、やんわりと駆け引きするのかの判断をしなければならない。
その『考える頭』がなければ、ちゃんと学んできた者にいいように扱われるか、もしくは誰の声も聞かずただ自分たちが贅沢をするためだけに目の前にすべての利益を吐き出させて破滅していくだけだ。
「……自分がきちんとした教育を受けてきたことを恥じる必要は、まったくないですよ」
「でも……」
「過ぎた謙遜は、却って侮辱になりますよ。私は独学ですが、ラダだってちゃんと自分の職業に見合った勉強をしていました。デューンの生まれ育った村では皆が一律に学べる機会を得られていました。ケヴィンも特殊とはいえ、素直に習う姿勢を示したことで、一部だけだとは思いますがあなたと遜色のない教育を与えられたと思いますよ」
「そう……でしょうか……」
「たぶんミウは『魔法を使えない子供』と蔑まれて育てられはしたけれど、体面を保つため『伯爵令嬢』として必要な教育を与えてもらったのでしょう。それはあなたが誰かから盗み取った機会ではなく、単純に『伯爵家に生まれた』という環境のもとで当然与えられるべきものだったのですから、堂々と胸を張って『自分はこれだけの物をもらいました』と言ってください」
赤ん坊は自分がどの家、どの地位、そしてどの地域に生まれるのかを選べるわけではない。
生まれてきたら、ただその環境で与えられる物を甘受するしかないのである──好き嫌いなどに関係なく。
そうわかってほしくて言葉を重ねるが、ミウは何となく腑に落ちないという顔で渋々頷く。
「そうよぉ!」
「……ラダ」
「アタシも師匠に習ったり……まあ、教えてくれないから勝手に調べたりしたけど、それを恥だなんて思ってないし。かといって別に貴族様の家に奉公に上がるわけでもないのに、『お嬢様と同じぐらいの教養を身に付けないといけません』とか言われてミウと同じ勉強なんかできないわよ!」
「……うん。ラダがお嬢様教育……うん、無いな~。ないないない!!」
「うっさいわ!!!」
『生まれ育ったのが違うから、違って当然』ということを言いたいのだと思うのだが、幼馴染であるケヴィンがラダの幼少期を思い出したのか、ブフッと大袈裟に噴き出して手を顔の前で振って完全に否定する。
どうもずいぶんとお転婆な幼少期だったようであるが、その頃を知らないはずのデューンもうんうんと頷いた。
「そうだな……俺もケヴィンと一緒に王都に行ってから知ったが、俺の村の子供たちと王都の平民たち、そして貴族の令嬢や令息たちと、皆それぞれに教育のレベルは違ったな。しかも平民でも『学びたい』という者にその機会を与えてくれるのは、やはり王都だと感心したぐらいだ」
「デューン……ケヴィンも……」
ミウの身体から強張りが消え、代わりに笑みが浮かび──
「『人間』とはそんなに様々違うのか。やはり……面白い」
クククッと籠るような笑い声と共に、私には感じ慣れた気配が──ケヴィンたちは一斉に警戒態勢を取らざるを得ないモノが現れた。
トリウス伯爵家の令嬢であるミウには幼少の頃から家庭教師がついており、それは貴族の特権であり、政治の中枢を担う人材として当然得ていなければならない義務でもあった。
自分たちの生活を守るためにいる領主一族が無学であることを良しとしたら、とんでもないことになるだろう。
農地で採れる作物を出荷した際にどれくらいの売り上げがあり、そこからどれくらいの税を取り、次の季節のためにどれくらいの投資ができ、領民の不便を取り除くための費用が必要か、経済を回し領主たちの生活以外にも領民の生活が潤うか──その結果、国から要求されることを受け入れてやっていけるのか、やんわりと駆け引きするのかの判断をしなければならない。
その『考える頭』がなければ、ちゃんと学んできた者にいいように扱われるか、もしくは誰の声も聞かずただ自分たちが贅沢をするためだけに目の前にすべての利益を吐き出させて破滅していくだけだ。
「……自分がきちんとした教育を受けてきたことを恥じる必要は、まったくないですよ」
「でも……」
「過ぎた謙遜は、却って侮辱になりますよ。私は独学ですが、ラダだってちゃんと自分の職業に見合った勉強をしていました。デューンの生まれ育った村では皆が一律に学べる機会を得られていました。ケヴィンも特殊とはいえ、素直に習う姿勢を示したことで、一部だけだとは思いますがあなたと遜色のない教育を与えられたと思いますよ」
「そう……でしょうか……」
「たぶんミウは『魔法を使えない子供』と蔑まれて育てられはしたけれど、体面を保つため『伯爵令嬢』として必要な教育を与えてもらったのでしょう。それはあなたが誰かから盗み取った機会ではなく、単純に『伯爵家に生まれた』という環境のもとで当然与えられるべきものだったのですから、堂々と胸を張って『自分はこれだけの物をもらいました』と言ってください」
赤ん坊は自分がどの家、どの地位、そしてどの地域に生まれるのかを選べるわけではない。
生まれてきたら、ただその環境で与えられる物を甘受するしかないのである──好き嫌いなどに関係なく。
そうわかってほしくて言葉を重ねるが、ミウは何となく腑に落ちないという顔で渋々頷く。
「そうよぉ!」
「……ラダ」
「アタシも師匠に習ったり……まあ、教えてくれないから勝手に調べたりしたけど、それを恥だなんて思ってないし。かといって別に貴族様の家に奉公に上がるわけでもないのに、『お嬢様と同じぐらいの教養を身に付けないといけません』とか言われてミウと同じ勉強なんかできないわよ!」
「……うん。ラダがお嬢様教育……うん、無いな~。ないないない!!」
「うっさいわ!!!」
『生まれ育ったのが違うから、違って当然』ということを言いたいのだと思うのだが、幼馴染であるケヴィンがラダの幼少期を思い出したのか、ブフッと大袈裟に噴き出して手を顔の前で振って完全に否定する。
どうもずいぶんとお転婆な幼少期だったようであるが、その頃を知らないはずのデューンもうんうんと頷いた。
「そうだな……俺もケヴィンと一緒に王都に行ってから知ったが、俺の村の子供たちと王都の平民たち、そして貴族の令嬢や令息たちと、皆それぞれに教育のレベルは違ったな。しかも平民でも『学びたい』という者にその機会を与えてくれるのは、やはり王都だと感心したぐらいだ」
「デューン……ケヴィンも……」
ミウの身体から強張りが消え、代わりに笑みが浮かび──
「『人間』とはそんなに様々違うのか。やはり……面白い」
クククッと籠るような笑い声と共に、私には感じ慣れた気配が──ケヴィンたちは一斉に警戒態勢を取らざるを得ないモノが現れた。
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