すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、魔王と再会する。

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だからどちらかといえば、私にとって本当の『人生』はこの国に来てから──そう言い切ってもいい。
何代も前の『私』が残したあの家は、本当に『今の私』に必要な家だった。
あの時の『私』がそれを予見していたのかは知らないが、『私』がいなければきっと誰にも発見されずに朽ちていただろう。
「あ……でも、ひょっとして」
「ん?どしたの?」
思わずポツリと零したが、ラダが拾って返す。
だがそれに続ける言葉は聞かせられず、私は「何でもない」と誤魔化した。

あの男──男でもないのかもしれないが、少なくとも私の目には男に見える魔王ならば、いつか見つけたかもしれない。
そんなことを言えるわけはなかった。

だから私は心に浮かんだ弟子たちのことを、子供たちのことを、そして私を信じてくれたあの村と付属する集落となった施設のことを話した。
「………行きたい」
「え?」
「私、行きたいです!パトリック賢者様のお弟子さんと、子供たちと……会ってみたい!」
「あ、それ、アタシも」
「うん、僕も行きたい。皆で行こう」
「シュンゲルならどこまでも行けるぞ。何だったらパトリック賢者の生家まで渡るか?」
《ウルもー!》
バッとミウが手を挙げると、ラダも続けて手を挙げ、ケヴィンもデューンも続けて声を上げてくれたが、まさかウルまで置いて行かれてはたまらないと身体を摺りつけてくる。

ああ、私は幸せだなぁ──


そんな時間ももうすぐ終わる。
そんな予感がしたのは、いつしか大きな出来事が起こることも魔物の大襲撃の話を聞くこともなく、私たちは廃れた村に着いた頃かもしれない。
「なんだか不気味なぐらい魔物も魔獣もいなかったねぇ……」
「それを言うなら精霊も……かな」
「どう言うことだ?パトリック賢者」
デューンは精霊馬シュンゲルに好かれるあまり結界のように守護され、他の精霊などの存在があまりわからないらしい。


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