すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、仲間の由来を知る。

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しかしそんなふうに『自分には剣しかない』と直感しその通りに才能を発揮したケヴィンは、同じく自分には大斧を武器としたデューンとともに予見の大魔術師から示されるままに大討伐を行い、15歳を迎える頃には十分に王に謁見する権利を手に入れた。
その際にようやく放逐した三男の活躍を知った父親が自分で切り出した材木で作った馬車を牽いて、王都へやっとの思いで到着したのである。
そのまま礼儀知らずにも「ケヴィンの父親だから国王に会いたい」と王宮に乗りつけてきた時は当初はさすがに門前払いだったが、恋人を家に送ってからデューンと一緒に定宿に戻ろうとしていたケヴィンを見つけた父親が大騒ぎし、ようやく王宮左翼にある冒険者ギルドでギルド長と宰相がケヴィンの父に会うことを許した。
しかし何故かそこで父親が「ケヴィンが魔物討伐や冒険者ギルドで依頼を受けたものの報酬は自分が受け取るべきだ」と主張したのである。
理由は『ケヴィンがまだ未成年だから』ということだったが、最低年齢13歳で登録できる冒険者ギルドでは通用しない。
ミウに対して最低で低俗な要求をしていた今のギルド長ではなく、前任者がその当時の長だったため、宰相の威光を借りつつもケヴィンの父親の言葉をしっかりと退けてくれた。
「……だから、何であの人が今のギルド長を自分の後継に選んだのか、まったくわからないんだけど」
「何だ……ケヴィンは知らなかったのか。あの人は根っから実力主義者だ。単純にあの頃はあの男が冒険者ギルドで1番強かった・・・・・・だけだ」
「え?強いって、腕っぷしが?」
「腕っぷしが。言うことを聞かないような冒険者を追い出すために」
「腕っぷし……そんな基準だったんだ、アレ」
「ああ。頭の出来と性格を重視してくれればよかったんだがな……あの人は強い上に頭もよかったから、他の人間が両方を兼ね備えないということをすっぽり忘れていたんじゃないかと思う」
ケヴィンが呆れたように聞き返すが、さらに呆れたようにデューンが答える。

いや、本当にあちこち呆れた話である。

それはともかく彼の馬車作りの腕は確かだったようで、さすがに作ってきた物を取り上げるようなことはしなかったが、代わりに息子が専用で移動できる荷馬車を作るために期間限定で住む家と材料と出来上がった際の買取りを提案すると、ケヴィンの父は嬉々としてその仕事に着手した。
そのまま王都に住み着く気だったようだが、妻から帰宅してほしいという懇願の手紙が高い郵送費を使ってまで届くようになり、おまけに引き渡した荷馬車の代金の一部はすぐに渡されたものの、残りは元の村に戻ってから伝書鳥によって渡されると聞かされてようやく借家を引き払って帰村したのである。
だいたい王都は物価が村よりも遥かに高く、村から出る時に持っていた金も、やっと手に入れた荷馬車作成で受け取った代金の一部とはいえその大半も瞬く間に無くなってしまったことから、自分が王都で暮らしていくのは厳しいと実感したらしい。
「今でも冒険者ギルドあてに『お金を送ってほしい』って手紙が来るんだよね。その手紙を送るお金と、僕が村から一番近い町にある冒険者ギルドに渡すようにと手続したお金を取りに行くための時間とお金がどれくらいかと考えたら、そんなに割が良くないってことに気がつきそうなんだけどね」
「いっそのこと馬車を作って、さらに貸し馬車やでもやればいいんじゃないかと思うんだけれど」
「パトリック賢者の言うとおりなんだけど……王都で僕のためにと作ったように、先に鉄枠や車輪を用意してもらえるわけじゃないから、やっぱり厳しいのかもね」
そうなればやはりケヴィンに金の無心をするよりも、少ない金額でも貯めてから必要な部品を買った方がいいのではないかと、きっと私だけでなくデューンたちも思ったようである。


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