すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、仲間の由来を知る。

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私がその『鑑定玉』だとか『判定玉』を利用したことがないのも当然だった──何せ故国を出る時に『賢者見習い』として登録してあり、わざわざこちらに来たからといって職業を変える必要性を感じなかったのだから。
ひょっとしたら自分に合わないと思いながらも剣士や戦士などの職業で旅をしてこの国に来て、あの昔の家に腰を落ち着けた後で『やはり賢者になろう』とどこかの町の冒険者ギルドに職業変更の申し込みをしていたら、この国ならではの判定方法を試せたのかもしれない。
今となっては遅い──
「いや……遅いか?」
「パトリック賢者様?」
思わずつぶやいた私の顔を、ウルとともに隣に座ったミウがひょこっと覗き込む。
「いや、その『鑑定玉』とか『判定玉』というものを見たいなと思って。私自身は職業を変えるつもりはないけれど、機会があったら鑑定してもらいたいなと……」
「えっ?」
「『えっ?』て……何かおかしいことを言ったかな……?」
「おかしいっていうか……えぇと……きっと鑑てもらっても、パトリック賢者様は職業を変えることなんて、できませんよ?」
「うん。いや別に変えたいとかそういうわけでは……え?そもそも私は、職業を『変えられない』?」
何か私はおかしいことを言ったらしく、ミウだけでなく、ケヴィンもデューンもラダも驚いたような顔をこちらに向ける。
何も変わらないのは、会話を聞いてはいるが理解はしていないらしいウルだけだ。

私が『職業を変えられない』というのは一体どういうことかと首を捻るが、さっき皆に言ったとおり、どちらにしろ職業を変更するつもりなどないのだが──
「職業の変更が認められるのは、だいたい5年目までの冒険者がほとんどだって聞いているけど」
「5年目?何故そんな区切りが……」
「だいたい『高ランクになりたいと思って登録したけど、違うかもしれない』と感じるのは、冒険者になって2年とか3年目ぐらい……レベルがなかなか上がらないから。それぐらいで改めて鑑定してもらう者って多いから」
ケヴィンがそう教えてくれたため、それもそうかと納得する。
「そうだよね。まぁ……用心深いのは最初から鑑定するけど、あれはお金が掛かるから『とりあえず冒険者になってレベルアップしなかったら鑑定してもらうためのお金を稼ごう』っていうのが多いから。アタシはもともと薬師か後方支援職になるつもりだったけど」
「だいたいはそうやってわかるのよね。武器を持つとしっくりくるとか……私の場合は、まず魔法使いや魔術師が持つ杖に『魔力を通す』という意味がわからなかったのに、弓と矢を持つとそれが自然にできた……だから、後方攻撃のできる弓士になったのだもの」
「それに冒険者として活動できる期間もだいたい10年から15年……そんなに長く続けられる仕事じゃない。特に前方で剣を振るような者は、体力や腕力が衰えれば冒険に出ることも難しくなる。賢者殿は老年になったとしても、パーティーの者たちについていければずっと長く旅に出れるが」
デューンも会話に加わり、年数を区切る意味を知る。
「なるほど……すでに冒険者を廃業する年齢近くになって職業を変えるというのは、せっかくのレベルを捨てるようなものだし、そこまで上達しないのにひとつの職業に拘る者は、もともと冒険者自体向いていないのかもしれないのだね」
「そっかぁ……確かにそうだなぁ……僕は最初から剣を持つことしか考えてなかったけど、もし剣士じゃなくて魔法使いか何かで成功しようとしていたら、こうやってパトリック賢者と旅に出ることもなかったのかもしれないなぁ……」
深く溜息をついたケヴィンは、晴れ晴れとした顔で空を見上げた。


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