すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
199 / 248
賢者、仲間の由来を知る。

7

しおりを挟む
冒険者ギルド登録前の戦果など、はっきり言ってゴミとして捨てているも同然だ。
だが幸運なことに、保存魔法のついた亜空間鞄マジックバッグを所持していた老魔法使いの護衛をすることになったのである。
もちろん正式な依頼というわけではなかったからある意味互いの性善説を信じての契約だったが、それでもデューンたちの目的と同じ町まで行くというその老人を見捨てるという選択は、まだ冒険者となる前であってもケヴィンの中には存在しなかった。
「……そのじいさんっていうのが、また豪胆な人でな」
「そうそう。『魔法使いは魔物のいる場所がわかる』とか言ってホイホイ行っちゃうんだもんな~。そしてまた、言ったとおりに現れる、現れる」
「まったく泉を満たす清水如くとはこのことか…と思うぐらいにな。しかもそのじいさん、あっという間に俺やケヴィンの討伐部位を回収しちまって……」
「で、それが僕たちの目指してた町の冒険者ギルドのマスターで」
「………それ、は」
『運がいい』とかそういう次元ではない。
いったいどうしてケヴィンは登録前にそんな大物に出会えたのかと、不思議には思わなかったのだろうか。
「イホウスという町のマスターだったんだが、別名『予言師タミラン』と呼ばれている大魔法使いだったんだ」
「予言師?それはまたすごい」
賢者も魔法使いも戦闘系職業に比べると先天的に魔力を持つなど、『なりたくてなれる』というものではない。
私のように突き詰めて研究を重ねるような者に『大賢者』という称号を与えるのとはまた違って、特殊な能力が発現した者が『大魔法使い』と呼ばれる。
それも数十年に1人現れるかどうかというものだが、本当にそんな者が存在したのだ。
「予言……その力で、ケヴィンが現れることを知っていた、と」
「『勇者が来る』と、はっきり言っていたな……俺のことだと勘違いしたわけじゃない。そんなふうに思えるほど、自分の腕を勘違いしていない」
「僕の方を見て、名前を言う前に『おお!これが勇者か!まだひよっこじゃの~』って、孫みたいに頭を撫でてきた気楽なおじいちゃんだったもんね。まだ生きてるのかなぁ~……」
「代替わりなどがあれば、どこのギルドに行っても訃報が…いや、その報せが掲示されるはずだ。まだお元気だろう」
ぽやんとケヴィンは懐かしそうに話すが、デューンは呆れたように頭を振った。
「とにかく何故かそのタミラン師がケヴィンと俺を魔物がいる場所に案内して……あの時は『よく魔物が出てくる』としか思わなかったのだが、おそらく師が俺たちを誘導していたんだろうな」
「でもさでもさ、おかげで僕の冒険者ギルド登録、すんなりできたんだよね。その後もあのおじいちゃんが教えてくれるところに行って討伐できたお陰で、すぐランクアップしたし……」
「止めがワイバーンの群れを仕留めての『勇者認定』だもんね。自分の幼馴染みが『勇者』ってビックリだよ!」
「何だよ、ラダ。最初信じてなかったくせに!」
「あったり前でしょ?ワイルドベアーのボスをやっつけたっていうのも、最初信じられなかったぐらいなんだから!」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...