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賢者、仲間の由来を知る。
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どんな小さな村だとしても、村を治めている者が家ごと潰されていなくなってしまえば──むしろ小さな村だからこそ、日常の均衡が崩れるとなれば村人皆が恐慌状態になるだろう。
そんな些事とは無関係に生きるラダの師匠である魔法使いは高みの見物で、事細かに顛末を教えてくれた。
「アタシはあいつらの手にかからなかったからとりあえず両親は無関係を装っていたらしいけど、他にも娘を差し出していた家の奴らが『自分達が堕ちていくのに、お前のとこが免れるなんて許せるか』って密告されたらしいの。いい気味!別に好きな男がいたわけじゃないけど、勝手に傷物にさせようとするなんてさ」
「ごもっとも」
「さすが大賢者様!わかってるわ!」
私が同意すると、ラダは上機嫌でグラスを干した。
現在は小休止で街道の脇にある野営地に馬車を停めている。
日が暮れるならばここで造営してもいいが、まだ明るい。
しかも──
「ちょっと暗くなるけど、この先に町があるんだ。あの『まったく魔物が現れない村』とは逆で、常に魔物の脅威にさらされているんだ」
「それはまた……」
「まあ…それでかなり冒険者が訪れるし、かなり賑わっているしで、そんなに脅威に怯えているってわけでもないんだよ」
「それはまた……何と言っていいか、極端だね」
「おかげでケヴィンはSランクまで最速で到達した町だ」
「は?」
いったいどんな町なんだと、私は思わずケヴィンとデューンの顔を見比べた。
自分の家から出るついでに村まで飛び出したケヴィンは、ハッキリ言って軽装もいいところだった。
気楽に道がある限り歩き、ふと気になって逸れた林の中で骨になっていた行商人を見つけ、彼の荷物を引き継いだのである。
とっくに商売物は誰かに奪われていたが、何か加護のついていたらしい短剣や首飾り、身元証明となる商業ギルドのプレートはそのままで、ケヴィンは残されていたそれらを残っていた服と思しき布切れに包んだ。
「で、しばらく歩いていたら、デューンたちがクエストを終えて帰ろうとしているところに会ってさ」
「うむ。まさか魔物や魔獣が出るような林の中を、武器らしい武器も持たない少年が歩いていたんだ。こちらも驚いて、擬態した魔物かと疑ったんだ」
幸いなことに武器を突き付けられても「うわぁ」と驚くだけのケヴィンを水浸しにできるぐらいの聖水がまだあり、それによってとりあえずは魔物ではないと判断され、取り調べられるためにケヴィンたちが向かう町まで同行させた。
そこで初めてケヴィンは『冒険者ギルド』について知ることになり、「冒険者になる」と宣言するだけではその職業についたとは認められないと知ったのである。
「いや~…僕の村には冒険者が来ることはあっても、ギルドがあるわけじゃなかったから、全然情報がなかったんだよねぇ。『どうやったら冒険者になれますか?』って聞いたこともあるんだけど」
「その答えは?」
「『大きくなって、冒険に出れるようなったらわかると思うよ』だった」
「……村で育つ子供が村を飛び出すっていうのは、ある意味死活問題だしね」
「あの時はそう思わなかったんだよね。子供の視界は狭い……村には『いっぱい人がいる』って思ってたから、一人二人子供がいなくなっても、誰も困らないって思ってたんだよね」
ケヴィンは屈託なく笑うが、その一人二人が三人、四人と増え──一家、一族となって、村が消滅することだってないわけではないのだ。
そんな些事とは無関係に生きるラダの師匠である魔法使いは高みの見物で、事細かに顛末を教えてくれた。
「アタシはあいつらの手にかからなかったからとりあえず両親は無関係を装っていたらしいけど、他にも娘を差し出していた家の奴らが『自分達が堕ちていくのに、お前のとこが免れるなんて許せるか』って密告されたらしいの。いい気味!別に好きな男がいたわけじゃないけど、勝手に傷物にさせようとするなんてさ」
「ごもっとも」
「さすが大賢者様!わかってるわ!」
私が同意すると、ラダは上機嫌でグラスを干した。
現在は小休止で街道の脇にある野営地に馬車を停めている。
日が暮れるならばここで造営してもいいが、まだ明るい。
しかも──
「ちょっと暗くなるけど、この先に町があるんだ。あの『まったく魔物が現れない村』とは逆で、常に魔物の脅威にさらされているんだ」
「それはまた……」
「まあ…それでかなり冒険者が訪れるし、かなり賑わっているしで、そんなに脅威に怯えているってわけでもないんだよ」
「それはまた……何と言っていいか、極端だね」
「おかげでケヴィンはSランクまで最速で到達した町だ」
「は?」
いったいどんな町なんだと、私は思わずケヴィンとデューンの顔を見比べた。
自分の家から出るついでに村まで飛び出したケヴィンは、ハッキリ言って軽装もいいところだった。
気楽に道がある限り歩き、ふと気になって逸れた林の中で骨になっていた行商人を見つけ、彼の荷物を引き継いだのである。
とっくに商売物は誰かに奪われていたが、何か加護のついていたらしい短剣や首飾り、身元証明となる商業ギルドのプレートはそのままで、ケヴィンは残されていたそれらを残っていた服と思しき布切れに包んだ。
「で、しばらく歩いていたら、デューンたちがクエストを終えて帰ろうとしているところに会ってさ」
「うむ。まさか魔物や魔獣が出るような林の中を、武器らしい武器も持たない少年が歩いていたんだ。こちらも驚いて、擬態した魔物かと疑ったんだ」
幸いなことに武器を突き付けられても「うわぁ」と驚くだけのケヴィンを水浸しにできるぐらいの聖水がまだあり、それによってとりあえずは魔物ではないと判断され、取り調べられるためにケヴィンたちが向かう町まで同行させた。
そこで初めてケヴィンは『冒険者ギルド』について知ることになり、「冒険者になる」と宣言するだけではその職業についたとは認められないと知ったのである。
「いや~…僕の村には冒険者が来ることはあっても、ギルドがあるわけじゃなかったから、全然情報がなかったんだよねぇ。『どうやったら冒険者になれますか?』って聞いたこともあるんだけど」
「その答えは?」
「『大きくなって、冒険に出れるようなったらわかると思うよ』だった」
「……村で育つ子供が村を飛び出すっていうのは、ある意味死活問題だしね」
「あの時はそう思わなかったんだよね。子供の視界は狭い……村には『いっぱい人がいる』って思ってたから、一人二人子供がいなくなっても、誰も困らないって思ってたんだよね」
ケヴィンは屈託なく笑うが、その一人二人が三人、四人と増え──一家、一族となって、村が消滅することだってないわけではないのだ。
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