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賢者、仲間の由来を知る。
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可愛い子には恋をさせろ──とは、私の言葉ではなく私より年上なのに私より若く見える弟子のリムの言葉である。
未婚ではあるが婚約者との間に生まれた息子を立派に育て上げ、彼女の後押しで幸せな結婚生活を送っているのだから、この有難い助言を聞き流してはいけない。
「……何か、見てて恥ずかしい」
「大丈夫。ミルベルと会ったばっかのあんたとそう変わらない」
「えっ?!」
荷台の後ろ側に陣取っているウルの横にずっといるミウは自分の左手を上げて下げて、上げてしばらく見つめ、愛おしそうに撫でたかと思うともう見えない森の方に顔を向けてから頭を横に振る。
見ていてある意味飽きないのだが、同じように浮かれた時期を過ごした記憶のあるらしいケヴィンにとっては、甘酸っぱい記憶を刺激されるものだったようだ。
すかさずラダに茶々を入れられ、顔を赤くして「いやあの」だの「そんなことは」だのと反論しようとする。
もちろんラダには鼻で嗤われ、愛馬である角無し魔馬のシュンゲルを操るために御者台にいるデューンも、パーティーリーダーを助けるどころか「デートに誘うにも店の前を100回は行き来して躊躇っていた」と畳みかける。
あっちではソワソワと、こっちではワタワタと、楽しい旅行きであった。
冒険者でもレベルが低いと受けられるクエストも報酬が少ない物が多いため、他の町に移るにも乗合馬車を頼むか、その金すら惜しい者はひたすら自分の足を頼みにする。
実際私が王都へ向かった時も徒歩だったし、出る時もそうなる覚悟だったのだが。
さすがに揺れを防ぐ魔法が掛けられていると噂されるような上等な物ではないが、大人が4人と従魔であるウル、そして野営道具や食料、各自必要な物を積み込んでも大丈夫なぐらいの広さがある。
「気になっていたんだが……これは王家から贈られた物なのかな?」
「いいえ。違うわよ。ケヴィンの父親が……木こりなんだけど」
「ほう」
「馬車屋もやっててね」
「では、旅立つ時に?」
「いいや」
ラダが説明してくれているところに、ケヴィンが溜息をつきながら割り込んでくる。
「冒険者になるって言ったら『出てけー!』って追い出されたんだよ。それこそ身ひとつで。別に子供は僕1人じゃなかったんだけど」
「え?」
子供が他にいないのならば跡取り息子が出て行くのは許されないだろうが、ケヴィンはひとりっ子ではないらしい。
「僕の上に兄貴が2人。下に弟と、さらに双子の妹。両親は健在で。平凡な田舎者だから、たぶん同じ村の娘を娶らされていたんだろうけど……」
「あ~…それならある意味平和だろうけど、あんたの父さん、アタシも候補に入れてたみたいだよ?わざわざ山の中腹にあるうちの村まで来て、うちの敷地の林込みで婿入りどうだって」
「何だよそれ!失礼にも程があるな!!あー、よかった……村から出れて……」
ある山の中ほどにある村で生まれ育ったラダと、その麓にあった村で生まれ育ったケヴィンは幼なじみであり、元気の有り余っていたケヴィンは幼い頃から遊び場としていた山林がラダの父がそこを管理していたという。
だが子供たちにはそんな気持ちはちっとも持ち合わせていない上に、ラダの父もまた村の有力者に娘を嫁がせるつもりだった。
未婚ではあるが婚約者との間に生まれた息子を立派に育て上げ、彼女の後押しで幸せな結婚生活を送っているのだから、この有難い助言を聞き流してはいけない。
「……何か、見てて恥ずかしい」
「大丈夫。ミルベルと会ったばっかのあんたとそう変わらない」
「えっ?!」
荷台の後ろ側に陣取っているウルの横にずっといるミウは自分の左手を上げて下げて、上げてしばらく見つめ、愛おしそうに撫でたかと思うともう見えない森の方に顔を向けてから頭を横に振る。
見ていてある意味飽きないのだが、同じように浮かれた時期を過ごした記憶のあるらしいケヴィンにとっては、甘酸っぱい記憶を刺激されるものだったようだ。
すかさずラダに茶々を入れられ、顔を赤くして「いやあの」だの「そんなことは」だのと反論しようとする。
もちろんラダには鼻で嗤われ、愛馬である角無し魔馬のシュンゲルを操るために御者台にいるデューンも、パーティーリーダーを助けるどころか「デートに誘うにも店の前を100回は行き来して躊躇っていた」と畳みかける。
あっちではソワソワと、こっちではワタワタと、楽しい旅行きであった。
冒険者でもレベルが低いと受けられるクエストも報酬が少ない物が多いため、他の町に移るにも乗合馬車を頼むか、その金すら惜しい者はひたすら自分の足を頼みにする。
実際私が王都へ向かった時も徒歩だったし、出る時もそうなる覚悟だったのだが。
さすがに揺れを防ぐ魔法が掛けられていると噂されるような上等な物ではないが、大人が4人と従魔であるウル、そして野営道具や食料、各自必要な物を積み込んでも大丈夫なぐらいの広さがある。
「気になっていたんだが……これは王家から贈られた物なのかな?」
「いいえ。違うわよ。ケヴィンの父親が……木こりなんだけど」
「ほう」
「馬車屋もやっててね」
「では、旅立つ時に?」
「いいや」
ラダが説明してくれているところに、ケヴィンが溜息をつきながら割り込んでくる。
「冒険者になるって言ったら『出てけー!』って追い出されたんだよ。それこそ身ひとつで。別に子供は僕1人じゃなかったんだけど」
「え?」
子供が他にいないのならば跡取り息子が出て行くのは許されないだろうが、ケヴィンはひとりっ子ではないらしい。
「僕の上に兄貴が2人。下に弟と、さらに双子の妹。両親は健在で。平凡な田舎者だから、たぶん同じ村の娘を娶らされていたんだろうけど……」
「あ~…それならある意味平和だろうけど、あんたの父さん、アタシも候補に入れてたみたいだよ?わざわざ山の中腹にあるうちの村まで来て、うちの敷地の林込みで婿入りどうだって」
「何だよそれ!失礼にも程があるな!!あー、よかった……村から出れて……」
ある山の中ほどにある村で生まれ育ったラダと、その麓にあった村で生まれ育ったケヴィンは幼なじみであり、元気の有り余っていたケヴィンは幼い頃から遊び場としていた山林がラダの父がそこを管理していたという。
だが子供たちにはそんな気持ちはちっとも持ち合わせていない上に、ラダの父もまた村の有力者に娘を嫁がせるつもりだった。
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