192 / 248
賢者、新たな地に旅立つ。
15
しおりを挟む
「だーかーらー…私にはその気はないって、ずっと言って」
「わかっている!」
「じゃあ……」
「だが、君と結婚しなければ、私は君の妹と結婚させられてしまう!」
「はぁ?!メイラトリと結婚したくないから、私と結婚したいって?!」
「当然だ!」
「バッ…バカにしてっ……」
「何故私が、好きでもない女と結婚せねばならない?!君の妹なんかと結婚したら、君と結婚できないではないかっ!!」
「はぁっ?!」
カラウセンの言葉の意味がわからないとミウが固まり、そして私たちも固まる。
だが気持ちが昂るカラウセンはおもむろに立ち上がり、ズイッと距離を縮めて、逃げる隙も与えずにミウの手を握った。
「私の目は節穴か?君の妹はデビュタント前から私に纏わりついている……単純に、君の父上の覚えがめでたいからと。憧れではない。若さと未熟さゆえの勘違いでもない。単純に、『魔法研究所で1番偉くなれそうだから』と『1番見た目が良いから』という理由で」
「そ…それは、あなたも同じじゃない……わ、私の見た目が良いのと、魔力があるからって……」
「それは認める!君は美しい!魔力もたっぷりとある!使うことができないだけで!だがそれがどうした!見た目だけなら君の妹だって似たようなものだ!だが、彼女ではないのだ!君なのだ……君だけが、我が真珠。唯一。至宝。無数の星の中でも必ず見つけられる輝き……だからっ……どうかっ……」
手を握られているミウも困惑して私たちを順番に見るが、私たちも困っている。
一体何を見せられているのか──
「今すぐとは言わない。君が……あなたが、いずれ使命を、勇者と共に魔王を斃すという大役を果たした暁でいい……それまで、あなたを待つ権利を、どうか私に……」
「う……うぅぅ……」
傍目から見ても、彼女が言い負かされるのは時間の問題と言えた。
そして結局のところ、ミウは押し切られ、婚約の印を互いの左手に刻み込んだ。
気持ちはまだ彼にはないと言ったが、それでもカラウセンは上機嫌で自分の左手を大事そうに撫でる。
「ああ……いいのだ……君を待つ権利がここに……それだけでも、私はここでいつまでも待てる」
「ここで?」
「ああ。王都には戻らない。トリウス伯爵にはもう報告済みだ。不思議なことにここには魔素がまったくない。大賢者殿の協力で村にあった古文書の解読も進み、その理由か地理的謎についての研究ができそうなのだ。なので、この村に研究所の分所を建設すると。村長からも許可を得た。メイラトリ・クラリカ・トリウス伯爵令嬢は、すでにこの村に飽いているようであるから、いずれは私を見限って王都へ去る。であるから……」
ところどころ話し方が戻ってきているようだが、元より女性のような美形の男は輝くような笑顔を向け、今後の展開を比較的普通の言葉遣いで活き活きと話した。
あまり認めたくはないが、どうやらこの男は本当に『魔法』というものが好きらしい。
「どの地点においてすべての魔素が消滅するのか、どういう理屈で……それが判明すれば、魔物や魔獣が発生する条件も解るかもしれない。逆に魔素を強制的に発生したり集めて何ができるのか……君のように、魔力はあるのに使えないという原因が解明できるかも……」
ああ──彼の原動は、どうやらここらしい。
常に、愛する人のために。
あまりの熱烈さにミウも多少は気持ちが揺らいでいるのか、目を泳がせている。
「さっ…さあ!もう約束の10分はずいぶん過ぎたし!行きましょう!パトリック賢者様!」
「あっ……ああ……」
「あっ、あのっ……」
私に声をかけたミウが手を引っ張ろうとして、慌ててラダの方へと逃げていく。
何がどうしたと私は腰を上げかけたが、カラウセンに呼び止められた。
「あの……け、賢者殿は……大賢者殿は、その、ミウラトリと……」
「……私にとっては、彼女は孫みたいなものです」
「まご?」
「あー…いや、結婚どころか恋愛対象ですらありませんよ。安心なさい」
「ほ、本当に?」
この村を訪れた時とは打って変わって、だいぶしおらしい態度でカラウセンは私に尋ねてきた。
もちろん答えは決まっており、その顔が喜びに輝くのを見て少しばかりイラっとしてしまう。
これは嫉妬ではない──断じて。
「わかっている!」
「じゃあ……」
「だが、君と結婚しなければ、私は君の妹と結婚させられてしまう!」
「はぁ?!メイラトリと結婚したくないから、私と結婚したいって?!」
「当然だ!」
「バッ…バカにしてっ……」
「何故私が、好きでもない女と結婚せねばならない?!君の妹なんかと結婚したら、君と結婚できないではないかっ!!」
「はぁっ?!」
カラウセンの言葉の意味がわからないとミウが固まり、そして私たちも固まる。
だが気持ちが昂るカラウセンはおもむろに立ち上がり、ズイッと距離を縮めて、逃げる隙も与えずにミウの手を握った。
「私の目は節穴か?君の妹はデビュタント前から私に纏わりついている……単純に、君の父上の覚えがめでたいからと。憧れではない。若さと未熟さゆえの勘違いでもない。単純に、『魔法研究所で1番偉くなれそうだから』と『1番見た目が良いから』という理由で」
「そ…それは、あなたも同じじゃない……わ、私の見た目が良いのと、魔力があるからって……」
「それは認める!君は美しい!魔力もたっぷりとある!使うことができないだけで!だがそれがどうした!見た目だけなら君の妹だって似たようなものだ!だが、彼女ではないのだ!君なのだ……君だけが、我が真珠。唯一。至宝。無数の星の中でも必ず見つけられる輝き……だからっ……どうかっ……」
手を握られているミウも困惑して私たちを順番に見るが、私たちも困っている。
一体何を見せられているのか──
「今すぐとは言わない。君が……あなたが、いずれ使命を、勇者と共に魔王を斃すという大役を果たした暁でいい……それまで、あなたを待つ権利を、どうか私に……」
「う……うぅぅ……」
傍目から見ても、彼女が言い負かされるのは時間の問題と言えた。
そして結局のところ、ミウは押し切られ、婚約の印を互いの左手に刻み込んだ。
気持ちはまだ彼にはないと言ったが、それでもカラウセンは上機嫌で自分の左手を大事そうに撫でる。
「ああ……いいのだ……君を待つ権利がここに……それだけでも、私はここでいつまでも待てる」
「ここで?」
「ああ。王都には戻らない。トリウス伯爵にはもう報告済みだ。不思議なことにここには魔素がまったくない。大賢者殿の協力で村にあった古文書の解読も進み、その理由か地理的謎についての研究ができそうなのだ。なので、この村に研究所の分所を建設すると。村長からも許可を得た。メイラトリ・クラリカ・トリウス伯爵令嬢は、すでにこの村に飽いているようであるから、いずれは私を見限って王都へ去る。であるから……」
ところどころ話し方が戻ってきているようだが、元より女性のような美形の男は輝くような笑顔を向け、今後の展開を比較的普通の言葉遣いで活き活きと話した。
あまり認めたくはないが、どうやらこの男は本当に『魔法』というものが好きらしい。
「どの地点においてすべての魔素が消滅するのか、どういう理屈で……それが判明すれば、魔物や魔獣が発生する条件も解るかもしれない。逆に魔素を強制的に発生したり集めて何ができるのか……君のように、魔力はあるのに使えないという原因が解明できるかも……」
ああ──彼の原動は、どうやらここらしい。
常に、愛する人のために。
あまりの熱烈さにミウも多少は気持ちが揺らいでいるのか、目を泳がせている。
「さっ…さあ!もう約束の10分はずいぶん過ぎたし!行きましょう!パトリック賢者様!」
「あっ……ああ……」
「あっ、あのっ……」
私に声をかけたミウが手を引っ張ろうとして、慌ててラダの方へと逃げていく。
何がどうしたと私は腰を上げかけたが、カラウセンに呼び止められた。
「あの……け、賢者殿は……大賢者殿は、その、ミウラトリと……」
「……私にとっては、彼女は孫みたいなものです」
「まご?」
「あー…いや、結婚どころか恋愛対象ですらありませんよ。安心なさい」
「ほ、本当に?」
この村を訪れた時とは打って変わって、だいぶしおらしい態度でカラウセンは私に尋ねてきた。
もちろん答えは決まっており、その顔が喜びに輝くのを見て少しばかりイラっとしてしまう。
これは嫉妬ではない──断じて。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる