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賢者、新たな地に旅立つ。
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どちらにしろ現在この村に派遣されてきた兵たちを、臨時の上司であるカラウセンは元々信用していなかったということだろう。
その証拠にミウの妹であるメイという少女を、宿舎と化した集合所で兵たちと共に休ませていない。
もっともそれは自分の部下である魔法研究所の者も村長の家に寝泊まりさせているところから見て、単なるえこひいきをしているだけとも言えるが、何にせよ──
「ハァ~~~~~~ッ!!やっとここから離れられるぅ~~~!」
存分に伸びをするのは、駐在する兵やカラウセンと鉢合わせしないようにと村人の家に匿われ、数日間行動制限をされていたミウである。
何せ『ちゃんとミウが村にいる』と認識したカラウセンが何かと理由をつけては、私たちの野営場所に顔を出していくようになってしまったからだ。
魔法の使えない兵たちならば私の隠密魔法陣で存在を誤魔化せたが、カラウセンが相手では役に立たない。
ラダの魔法も優秀な魔法使いたちの前では児戯も同然で、いずれは見破られてしまうだろう。
確かにミウはカラウセンを慕うわけではなかったが、それと彼の能力とは別物であり、その見解は私も同様だった。
「お疲れ様です、ミウ」
「本当ですよぉ~~。まあ気配を消すいい訓練にはなりました。あのクソカーリン…コホン。カラウセン侯爵ともあろう者が、あちこちとうろつくんだもの」
魔物たちがいた森の調査と、あの後も何かしらと問題を起こす兵たちの後始末というか謝罪を兼ねての修復や改善と、最初の居丈高な態度を改めたカラウセンはなかなかの好印象を村人に与えていた。
だがミウの感情がそれで和らぐことはなく、とにかく顔を合わせたくない一心で行動していたらしい。
まあそれもそうだろう──まるで定位置のようにカウラセンの横にはミウの妹であるメイ嬢が陣取っており、つかり彼と顔を合わせるというのは、あまり愉快ではない事態を引き起こすだろうと予測できたのだから。
だからいよいよ野営道具をすべて片付け、村長以外には誰にも告げずに出立しようとしていたこの時──
「ミウラトリ・クラミラ・トリウス伯爵令嬢……我が、愛しの、ああ!ま、待ってくれ!!」
何か戯言を言おうとしていたらしいカラウセンが、慌てて私の後ろに回り込んだ少女に向かって懇願するように跪いてきたのには、心底驚いた。
「……何か御用ですか?」
「ご、御用なのは……そ、その……ある、のだ……できれば、その、ミウラトリ・クラミラ・トリウス伯爵令嬢に……個人的に……」
「私にはないです!」
「いや!頼む!お願いだ!助けると思って!」
「助ける?」
てっきり魔法を使ってでも強引に連れて行くのかと思ったが、思ったよりも真摯にカラウセンはミウに話を聞いてほしいと縋った。
しかし『助け』とは──
「話ならここで!10分以内で!じゃなければ、あなたを飛ばすから!」
「と、飛ばすって……」
「もちろん私の矢でよ。襟首貫いて、コートごと集会所の真ん中に落としてやるんだから!」
なかなかに物騒なことを言いだしたが、カラウセンは頑として動かない。
そんなことはできるはずがないと見くびっているのか、ミウの腕前を知らないのか。
なかなかの怖いもの知らずだと私は目を瞠ったが、ケヴィンたちはまたかと肩を竦める。
「わかっている。あなたがやると言ったら絶対やることは、身を以て知っている……で、では……私と結婚してくれ!ミウラトリ・クラミラ・トリウス!」
遠回しも何もない、まっすぐな婚姻の申し込みだった。
その証拠にミウの妹であるメイという少女を、宿舎と化した集合所で兵たちと共に休ませていない。
もっともそれは自分の部下である魔法研究所の者も村長の家に寝泊まりさせているところから見て、単なるえこひいきをしているだけとも言えるが、何にせよ──
「ハァ~~~~~~ッ!!やっとここから離れられるぅ~~~!」
存分に伸びをするのは、駐在する兵やカラウセンと鉢合わせしないようにと村人の家に匿われ、数日間行動制限をされていたミウである。
何せ『ちゃんとミウが村にいる』と認識したカラウセンが何かと理由をつけては、私たちの野営場所に顔を出していくようになってしまったからだ。
魔法の使えない兵たちならば私の隠密魔法陣で存在を誤魔化せたが、カラウセンが相手では役に立たない。
ラダの魔法も優秀な魔法使いたちの前では児戯も同然で、いずれは見破られてしまうだろう。
確かにミウはカラウセンを慕うわけではなかったが、それと彼の能力とは別物であり、その見解は私も同様だった。
「お疲れ様です、ミウ」
「本当ですよぉ~~。まあ気配を消すいい訓練にはなりました。あのクソカーリン…コホン。カラウセン侯爵ともあろう者が、あちこちとうろつくんだもの」
魔物たちがいた森の調査と、あの後も何かしらと問題を起こす兵たちの後始末というか謝罪を兼ねての修復や改善と、最初の居丈高な態度を改めたカラウセンはなかなかの好印象を村人に与えていた。
だがミウの感情がそれで和らぐことはなく、とにかく顔を合わせたくない一心で行動していたらしい。
まあそれもそうだろう──まるで定位置のようにカウラセンの横にはミウの妹であるメイ嬢が陣取っており、つかり彼と顔を合わせるというのは、あまり愉快ではない事態を引き起こすだろうと予測できたのだから。
だからいよいよ野営道具をすべて片付け、村長以外には誰にも告げずに出立しようとしていたこの時──
「ミウラトリ・クラミラ・トリウス伯爵令嬢……我が、愛しの、ああ!ま、待ってくれ!!」
何か戯言を言おうとしていたらしいカラウセンが、慌てて私の後ろに回り込んだ少女に向かって懇願するように跪いてきたのには、心底驚いた。
「……何か御用ですか?」
「ご、御用なのは……そ、その……ある、のだ……できれば、その、ミウラトリ・クラミラ・トリウス伯爵令嬢に……個人的に……」
「私にはないです!」
「いや!頼む!お願いだ!助けると思って!」
「助ける?」
てっきり魔法を使ってでも強引に連れて行くのかと思ったが、思ったよりも真摯にカラウセンはミウに話を聞いてほしいと縋った。
しかし『助け』とは──
「話ならここで!10分以内で!じゃなければ、あなたを飛ばすから!」
「と、飛ばすって……」
「もちろん私の矢でよ。襟首貫いて、コートごと集会所の真ん中に落としてやるんだから!」
なかなかに物騒なことを言いだしたが、カラウセンは頑として動かない。
そんなことはできるはずがないと見くびっているのか、ミウの腕前を知らないのか。
なかなかの怖いもの知らずだと私は目を瞠ったが、ケヴィンたちはまたかと肩を竦める。
「わかっている。あなたがやると言ったら絶対やることは、身を以て知っている……で、では……私と結婚してくれ!ミウラトリ・クラミラ・トリウス!」
遠回しも何もない、まっすぐな婚姻の申し込みだった。
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