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賢者、新たな地に旅立つ。
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私がラダに説明しているのが聞こえなかったのか、突然集会所の前にあるオブジェに向かって、轟音と炎が上がった。
「ギャァァァァァァァァ───ッ!!」
「やっ…やめっ……た、助けっ……」
「イヤダァァァァァッ!!死にたくない──ッ!!」
「おがあさ──ん!おがあさ──ん!!だずげでぇぇぇぇぇっ!!」
「熱いっ!熱いっ!!あつ……あ……あれ……?」
何と非人道的か。
お偉い魔法使い様は、地面にいる兵たちに向かってありったけの炎を放った。
先ほどは話すことも無理だったはずなのに、ずいぶんよく叫ぶ。
だがそれもまったくの脅威でないとわかってからは、スンとした落ち着きに変わった。
「なっ…なっ…なっ………」
「半壊どころか、全壊だわね、あれ」
「ええ。建て直してもらうしかありませんねぇ」
私の魔法陣のおかげ──或いはそのせいで、誰1人として焼死者は出なかった。
火傷どころか、髪の毛一筋焦げていない。
全力で魔法を放ったらしいカラウセンは肩で息をつきながらその光景を呆然と見ていたが、それはこの場所にいる誰もが同じ状態だった。
「……冒険者ギルドで『ミウの得物は傷つけることはできない』と賢者殿は言っていたが、こういうことか……」
「ええ、こういうことです。森の中で魔物たちを囲んだのとは逆の理論というか、魔法陣の効果というか」
「すごいわね。どれだけ魔力があるの?パト賢者って」
「そんなにありませんよ?発動の時に魔力を込めますが、その後は放りっぱなし」
「は?」
「え?」
「ど、どういう……?」
おかしなことをラダに訊かれて私は首を傾げて返事をしたが、そのラダを始め魔法研究所の面々がそろって奇妙な目付きで私を見つめた。
どうやら私の持つ古代の知識と、彼らの魔法の発動条件に乖離があるらしく、私の頭の中身を寄こせと詰め寄られてしまった。
当然のことながら私の方に利益はなく、言いなりにつもりはまったくないと断る。
「私は未熟ながらも『大賢者』という地位をいただきました……このローシャル・ルーフェル国及びローシャル・ダヴィッテ国、そして妖精国シェリエム国の妖精王から認められて」
「ウッ………」
「その名に恥じぬため、私が知る知識のうち、理論はお教えしましょう。それらをあなた方の持つ知識に変換し有用に値するものにできるかどうかは、あなたたち次第です」
「そ、それは……」
何せ私の持つのは古代語のもの──現代語に直しても同じ効果が出る保証はないし、そもそも意味が違うものもある。
理論といっても膨大な量になり、それをすべて教えるわけではない。
それでも彼らにとっては大変な進歩に繋がるはずだ──解釈を間違えさえしなければ。
だが知識欲には抗えず、カラウセンは目をギラつかせ涎を垂らさんばかりの同僚たちの圧に押されて、この村の集会所とその前広場の補修、無理やり村長の家を奪って滞在したことへの損害賠償や、襲われた少女たちへの心身ケアや金銭的な解決法を約束させることに成功したのである。
建物の件はともかく、うら若い女性たちが本当に貞操の危機だった──しかもその清い身体を弄られていた者もいたという事実をしたカラウセンの怒りはすさまじく、ケヴィンが再び伝言鳥を飛ばすより早く『護送用の乗り物と代わりの護衛兵を寄こしてほしい』という伝言を自ら飛ばしていた。
「……ミウへの執着はともかく、他の女性への気遣いはちゃんと紳士的ですね」
「本当ね。もっともメイへの扱いも同じぐらい紳士的ならいいんだけど」
「確かに……」
明らかにミウの妹であるメイラトリ・クラリカ・トリウス──ラダが言うところの『メイ』という少女への接し方はぞんざいで、ひょっとしたらカラウセンという男は好意を寄せてくれる女性に対して自分の方が上位にあると思うタイプなのかもしれない。
「ギャァァァァァァァァ───ッ!!」
「やっ…やめっ……た、助けっ……」
「イヤダァァァァァッ!!死にたくない──ッ!!」
「おがあさ──ん!おがあさ──ん!!だずげでぇぇぇぇぇっ!!」
「熱いっ!熱いっ!!あつ……あ……あれ……?」
何と非人道的か。
お偉い魔法使い様は、地面にいる兵たちに向かってありったけの炎を放った。
先ほどは話すことも無理だったはずなのに、ずいぶんよく叫ぶ。
だがそれもまったくの脅威でないとわかってからは、スンとした落ち着きに変わった。
「なっ…なっ…なっ………」
「半壊どころか、全壊だわね、あれ」
「ええ。建て直してもらうしかありませんねぇ」
私の魔法陣のおかげ──或いはそのせいで、誰1人として焼死者は出なかった。
火傷どころか、髪の毛一筋焦げていない。
全力で魔法を放ったらしいカラウセンは肩で息をつきながらその光景を呆然と見ていたが、それはこの場所にいる誰もが同じ状態だった。
「……冒険者ギルドで『ミウの得物は傷つけることはできない』と賢者殿は言っていたが、こういうことか……」
「ええ、こういうことです。森の中で魔物たちを囲んだのとは逆の理論というか、魔法陣の効果というか」
「すごいわね。どれだけ魔力があるの?パト賢者って」
「そんなにありませんよ?発動の時に魔力を込めますが、その後は放りっぱなし」
「は?」
「え?」
「ど、どういう……?」
おかしなことをラダに訊かれて私は首を傾げて返事をしたが、そのラダを始め魔法研究所の面々がそろって奇妙な目付きで私を見つめた。
どうやら私の持つ古代の知識と、彼らの魔法の発動条件に乖離があるらしく、私の頭の中身を寄こせと詰め寄られてしまった。
当然のことながら私の方に利益はなく、言いなりにつもりはまったくないと断る。
「私は未熟ながらも『大賢者』という地位をいただきました……このローシャル・ルーフェル国及びローシャル・ダヴィッテ国、そして妖精国シェリエム国の妖精王から認められて」
「ウッ………」
「その名に恥じぬため、私が知る知識のうち、理論はお教えしましょう。それらをあなた方の持つ知識に変換し有用に値するものにできるかどうかは、あなたたち次第です」
「そ、それは……」
何せ私の持つのは古代語のもの──現代語に直しても同じ効果が出る保証はないし、そもそも意味が違うものもある。
理論といっても膨大な量になり、それをすべて教えるわけではない。
それでも彼らにとっては大変な進歩に繋がるはずだ──解釈を間違えさえしなければ。
だが知識欲には抗えず、カラウセンは目をギラつかせ涎を垂らさんばかりの同僚たちの圧に押されて、この村の集会所とその前広場の補修、無理やり村長の家を奪って滞在したことへの損害賠償や、襲われた少女たちへの心身ケアや金銭的な解決法を約束させることに成功したのである。
建物の件はともかく、うら若い女性たちが本当に貞操の危機だった──しかもその清い身体を弄られていた者もいたという事実をしたカラウセンの怒りはすさまじく、ケヴィンが再び伝言鳥を飛ばすより早く『護送用の乗り物と代わりの護衛兵を寄こしてほしい』という伝言を自ら飛ばしていた。
「……ミウへの執着はともかく、他の女性への気遣いはちゃんと紳士的ですね」
「本当ね。もっともメイへの扱いも同じぐらい紳士的ならいいんだけど」
「確かに……」
明らかにミウの妹であるメイラトリ・クラリカ・トリウス──ラダが言うところの『メイ』という少女への接し方はぞんざいで、ひょっとしたらカラウセンという男は好意を寄せてくれる女性に対して自分の方が上位にあると思うタイプなのかもしれない。
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