すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、新たな地に旅立つ。

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唯一私たちと一緒にいなかったケヴィンを伴い、調査団という名のワガママ集団が帰村した。
地面にうつ伏せになっている者たちを見、半壊になった集会所を見、私たちを見、さらにあまりいい感情を浮かべない村の者たちを見る──そんな首と目の運動を数回繰り返す。
「こ、れは…いったい……」
「『無体を働いてはならない』というお達しが来ていたはずですが」
新参者ではあるが、一応パーティーの中で一番の年長者である私がカラウセンに対応した。
「そうだ」
「どうやら伝達が上手くいっていなかったようですね。もしくは、あなたに従う意思がなかったのか」
「はぁ?!」
最速にして最大に怒りの沸点に達したらしい。
いきなり顔を歪めてカラウセンは私に掴みかかった。
「我々を侮辱しているのかね?!彼らを貶めるような真似はやめて、速やかに開放したまえ!」
「おや…やっとちゃんと言い切りましたね。そっちの方が聞き取りやすいですよ」
「バ、バカにしおって!」
「いや今さら何を……ちなみに開放しませんよ。あちらのお嬢さん方に誠心誠意の謝罪と、彼らのせいで壊してしまった家屋を完全復元し、賠償するまでは」
「何を言って……」
私が手のひらを向けた方に怒りの眼差しを向け、さらに罵ろうとしたらしいカラウセンは、別の意味で顔を赤くした。

視線の先にいたのは、この騒ぎで恐怖に震えたまま動けずに──つまりは服を破られたままでなんとか毛布などで身体を包まれて泣いている若い女性たちと、彼の視線に負けないほどの怒りを込めた表情の家族たちだった。
乱れた髪。
傷ついた腕。
上半身はともかく、スカート部分も破れて汚れ、ふくらはぎまで見えている者もいる。
「……ま、まさか……」
「証人は、この場にいる全員です。幸いにも穢される前でしたので、極刑にはならないと思いますが」
たとえ戦争中であっても許されることではないが、滞在させてもらっている村の女性の純潔と尊厳を踏みにじる行為など、起こってはならないのだ。
たとえきちんとした目的で滞在地を留守にしたとしても、その監督責任はカラウセンに回ってくる。
そのことに思い至ったのか、サァッと魔法使いの顔から色が消えた。
「……く、詳しく話をしてもらいたく。内容如何では」
「いかんも何も。悪いのは地面に額を擦りつけるしか謝罪のしようがないあちらの方ですよ」
伏せの姿勢している男たちを指して言いながら思いっきり笑ってやると、まるで灰のような顔色に怯えた表情しかできない男が、ぎこちなくこちらを向いた。


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