すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、新たな地に旅立つ。

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とはいえ、私とて黙ってみている趣味はない。
静かに移動の呪文で賊と変わらない態度に成り下がった男たちの背後に回り、ふわりと布を落としてやる。
「ウグッ!」
ズシンという音とともに、男がひとり地面に伏せる。
「は?」
「な、何が……?」
「うるさいですよ」
ふわり。
ふわり。
適当に布を放り投げ、それが手や背中、頭に触れた瞬間に魔力を開放して次々と拘束の魔法陣を発動した。
もちろん全員がその術にかかるわけではなく、布に触れなければいいと気付いた者がサッと避ける。
「フンッ!たかが布切れ。触らなければ何の意味も」
「本当に頭が悪いな。賢者殿しか攻撃できないとでも思ったか」
私の魔法陣布に押さえつけられるよりも重たい音がして、デューンの拳があっという間に数人の男を沈める。
そのまま縄で縛り直すのも面倒で、私は地面に落ちた布を拾い、気絶している男たち1人ひとりに身動ぎされることなく、腹やら背中やらに確実に置いて拘束具の代用にした。

ミウの強弓は最初の脅しだけで、私とデューンの連携はまずまずだったのではないかと思う。
今や留守組の兵たちで地面に縫い付けられていない者はいない。
「うぅっ……お、お前ら……お前ら……」
いや、1人だけふらつきながら半壊の集会所から出てきた。
まだ正常な判断ができる状態ではないらしいが、その頑丈さは目を瞠る。
さすがは国軍。
声に出さずに私は感心したが、ブルブルと腕を震わせながらこちらを指差すのは行儀が悪すぎるだろう。
だが彼の視線がようやく周囲の状況を見て取って、ポカンと口が開いた。
「お、お前ら……お、お、お、あ…こ、これは……な、な、な……」
「前言撤回。うん、おバカさんの頭は、おバカさん」
「パト賢者、何も言ってないわよ?」
「そうでした?まあ……先にデューンが言ってくれましたから、私も同意ということで」
私が呆れて評価すると、ラダが正確さを求めて発言を咎めてきた。
まあそんなやり取りはお遊びのようなもので、デューンは構わずにズイッと唯一立っている兵の前に進み出る。
「お前も仲間と一緒に地面に縫い付けられるのと、自らの非を認めて村長以下に謝罪と弁償の申し出をするか、どちらかを選べ」
「なっ………」
言われたことを理解するのに、彼は数秒を要したようだ。

その結果──仲の良いことに、仲間たちと同じ姿勢になることを選んだ。


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