すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
182 / 248
賢者、新たな地に旅立つ。

5

しおりを挟む
捕まりたくない時は、布を握って、息を止めて。

指示はできるだけ簡単にした。
王都から来た者たちの世話役を担わされた者だけでなく、同じ護符を村民全員に渡して絶対に守るようにとお願いし、老若男女皆が従うと頷いてくれる。
初めの頃はそれでも緊張していたが、日が経つにつれて特に子供たちは馴染みが早く、誰が一番兵隊のブーツに近付けるかという危険な遊びを始める始末。
さすがにそれは止めねばならないと思った矢先──王都からの面倒な客たちがやってきて10日ほどで事件は起こった。

それはまだ赤ん坊と言ってもいいぐらいの年齢のよちよちと歩みも覚束ない子が、握っていた布を手から離してしまった。
何のためにそれを持っていなければわかっていなかったのだろうが、それがたまたま居留守組の兵の近くだったのである。
「アンッ!」
「だぅ?」
「なっ…何だぁ?!このガキ、どこから……」
「あっ!む、娘っ子じゃねぇか!おい!お前!俺と遊べよ!」
「ズルいぞ!お前は王都に恋人がいるだろ?!こんな辺鄙な村に娼館なんか無ぇんだ。それに、たぶんコイツ処女だぜ?ほら見ろよ……俺ら見て、逃げたそうな顔してやがる……」
「ああ……それにこの赤ん坊も女だろ?それこそ初物だぜ?荷物ン中ツッコんで、王都まで持ち帰ろうぜ?」
「イ……イヤ……」
ガタガタと震える少女とつられて泣き出した赤ん坊を救おうと、村人たちが皆姿を消すことを諦めた。
「お、お願いです…この子は見逃して……」
「お金ならあげますから!」
「金?!お前らの持つ端た金なんか……いや?」
「なあ?こんなとこまで連れてこられてよぉ……臨時収入だけじゃ足りねえよなぁ?」
「ひぃ…嫌ぁっ!!」
力では村民は兵などに敵わない。
あっという間に縋りつく母世代以上の者が蹴飛ばされ、妹を抱き締めた少女を始め、その他にも姿を現してしまった若い女性の髪や腕を掴んで、兵たちは鬱憤晴らしをしようと地面のそこここで服を破って組み伏せ始めた。

ドスンッ。

そのちょうどど真ん中に、5本束ねた矢が突き刺さる。
そのあまりの深さに、ビィィン…と震える丸太状態の矢を見て、全員の動きが止まった。
「……何を、やっている?」
ズシンと足音をわざと立てて現れたのは、ひと際身体の大きなデューンだった。
今まさに乱痴気騒ぎを起こそうと思っていた兵たちは、地面に伏せていたせいもあり、翳るその体躯はさらに大きく見えるだろう。
「まさか私たちが見逃すとでも?」
「ハンッ……ケヴィンがいなきゃ、やりたい放題だとでも思った?やっぱり馬鹿ね、王都の連中って」
勇者と認められているケヴィンをはじめ、私たちが村民たちに危害が加えられそうな場面を見過ごすとでも思われたのだろうか?
彼らは自分たちが見張られているとは思っていなかったらしく、突然現れた私たちを見てソロソロと女性たちから身を放そうとしていた。
「い、いや……こ、これは……その、冗談、だよ…なっ?お、お前たち、そうだよな?」
「あっ…ああ……」
「馬鹿野郎!そいつらが王宮正規兵の俺たちに手を出せるわけがないだろうが!」
おそらく自分たちがやろうとしたことを正当化して誤魔化そうとした者たちの中、威勢のいい声が見当違いの主張をがなり立てた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

処理中です...