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賢者、新たな地に旅立つ。
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捕まりたくない時は、布を握って、息を止めて。
指示はできるだけ簡単にした。
王都から来た者たちの世話役を担わされた者だけでなく、同じ護符を村民全員に渡して絶対に守るようにとお願いし、老若男女皆が従うと頷いてくれる。
初めの頃はそれでも緊張していたが、日が経つにつれて特に子供たちは馴染みが早く、誰が一番兵隊のブーツに近付けるかという危険な遊びを始める始末。
さすがにそれは止めねばならないと思った矢先──王都からの面倒な客たちがやってきて10日ほどで事件は起こった。
それはまだ赤ん坊と言ってもいいぐらいの年齢のよちよちと歩みも覚束ない子が、握っていた布を手から離してしまった。
何のためにそれを持っていなければわかっていなかったのだろうが、それがたまたま居留守組の兵の近くだったのである。
「アンッ!」
「だぅ?」
「なっ…何だぁ?!このガキ、どこから……」
「あっ!む、娘っ子じゃねぇか!おい!お前!俺と遊べよ!」
「ズルいぞ!お前は王都に恋人がいるだろ?!こんな辺鄙な村に娼館なんか無ぇんだ。それに、たぶんコイツ処女だぜ?ほら見ろよ……俺ら見て、逃げたそうな顔してやがる……」
「ああ……それにこの赤ん坊も女だろ?それこそ初物だぜ?荷物ン中ツッコんで、王都まで持ち帰ろうぜ?」
「イ……イヤ……」
ガタガタと震える少女とつられて泣き出した赤ん坊を救おうと、村人たちが皆姿を消すことを諦めた。
「お、お願いです…この子は見逃して……」
「お金ならあげますから!」
「金?!お前らの持つ端た金なんか……いや?」
「なあ?こんなとこまで連れてこられてよぉ……臨時収入だけじゃ足りねえよなぁ?」
「ひぃ…嫌ぁっ!!」
力では村民は兵などに敵わない。
あっという間に縋りつく母世代以上の者が蹴飛ばされ、妹を抱き締めた少女を始め、その他にも姿を現してしまった若い女性の髪や腕を掴んで、兵たちは鬱憤晴らしをしようと地面のそこここで服を破って組み伏せ始めた。
ドスンッ。
そのちょうどど真ん中に、5本束ねた矢が突き刺さる。
そのあまりの深さに、ビィィン…と震える丸太状態の矢を見て、全員の動きが止まった。
「……何を、やっている?」
ズシンと足音をわざと立てて現れたのは、ひと際身体の大きなデューンだった。
今まさに乱痴気騒ぎを起こそうと思っていた兵たちは、地面に伏せていたせいもあり、翳るその体躯はさらに大きく見えるだろう。
「まさか私たちが見逃すとでも?」
「ハンッ……ケヴィンがいなきゃ、やりたい放題だとでも思った?やっぱり馬鹿ね、王都の連中って」
勇者と認められているケヴィンをはじめ、私たちが村民たちに危害が加えられそうな場面を見過ごすとでも思われたのだろうか?
彼らは自分たちが見張られているとは思っていなかったらしく、突然現れた私たちを見てソロソロと女性たちから身を放そうとしていた。
「い、いや……こ、これは……その、冗談、だよ…なっ?お、お前たち、そうだよな?」
「あっ…ああ……」
「馬鹿野郎!そいつらが王宮正規兵の俺たちに手を出せるわけがないだろうが!」
おそらく自分たちがやろうとしたことを正当化して誤魔化そうとした者たちの中、威勢のいい声が見当違いの主張をがなり立てた。
指示はできるだけ簡単にした。
王都から来た者たちの世話役を担わされた者だけでなく、同じ護符を村民全員に渡して絶対に守るようにとお願いし、老若男女皆が従うと頷いてくれる。
初めの頃はそれでも緊張していたが、日が経つにつれて特に子供たちは馴染みが早く、誰が一番兵隊のブーツに近付けるかという危険な遊びを始める始末。
さすがにそれは止めねばならないと思った矢先──王都からの面倒な客たちがやってきて10日ほどで事件は起こった。
それはまだ赤ん坊と言ってもいいぐらいの年齢のよちよちと歩みも覚束ない子が、握っていた布を手から離してしまった。
何のためにそれを持っていなければわかっていなかったのだろうが、それがたまたま居留守組の兵の近くだったのである。
「アンッ!」
「だぅ?」
「なっ…何だぁ?!このガキ、どこから……」
「あっ!む、娘っ子じゃねぇか!おい!お前!俺と遊べよ!」
「ズルいぞ!お前は王都に恋人がいるだろ?!こんな辺鄙な村に娼館なんか無ぇんだ。それに、たぶんコイツ処女だぜ?ほら見ろよ……俺ら見て、逃げたそうな顔してやがる……」
「ああ……それにこの赤ん坊も女だろ?それこそ初物だぜ?荷物ン中ツッコんで、王都まで持ち帰ろうぜ?」
「イ……イヤ……」
ガタガタと震える少女とつられて泣き出した赤ん坊を救おうと、村人たちが皆姿を消すことを諦めた。
「お、お願いです…この子は見逃して……」
「お金ならあげますから!」
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「なあ?こんなとこまで連れてこられてよぉ……臨時収入だけじゃ足りねえよなぁ?」
「ひぃ…嫌ぁっ!!」
力では村民は兵などに敵わない。
あっという間に縋りつく母世代以上の者が蹴飛ばされ、妹を抱き締めた少女を始め、その他にも姿を現してしまった若い女性の髪や腕を掴んで、兵たちは鬱憤晴らしをしようと地面のそこここで服を破って組み伏せ始めた。
ドスンッ。
そのちょうどど真ん中に、5本束ねた矢が突き刺さる。
そのあまりの深さに、ビィィン…と震える丸太状態の矢を見て、全員の動きが止まった。
「……何を、やっている?」
ズシンと足音をわざと立てて現れたのは、ひと際身体の大きなデューンだった。
今まさに乱痴気騒ぎを起こそうと思っていた兵たちは、地面に伏せていたせいもあり、翳るその体躯はさらに大きく見えるだろう。
「まさか私たちが見逃すとでも?」
「ハンッ……ケヴィンがいなきゃ、やりたい放題だとでも思った?やっぱり馬鹿ね、王都の連中って」
勇者と認められているケヴィンをはじめ、私たちが村民たちに危害が加えられそうな場面を見過ごすとでも思われたのだろうか?
彼らは自分たちが見張られているとは思っていなかったらしく、突然現れた私たちを見てソロソロと女性たちから身を放そうとしていた。
「い、いや……こ、これは……その、冗談、だよ…なっ?お、お前たち、そうだよな?」
「あっ…ああ……」
「馬鹿野郎!そいつらが王宮正規兵の俺たちに手を出せるわけがないだろうが!」
おそらく自分たちがやろうとしたことを正当化して誤魔化そうとした者たちの中、威勢のいい声が見当違いの主張をがなり立てた。
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