すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

文字の大きさ
上 下
178 / 248
賢者、新たな地に旅立つ。

1

しおりを挟む
近付いてくるのはスラリと背の高い男──男のはず?
「我が魔法研究所の者が失礼した。パトリック大賢者殿とお見受けするが。失礼ながら家名をお伺いできるだろうか?」
「は?」
意味が分からず、私も思わず表情が凍りついた。
「いえいえ……我がローシャル・ルーフェル国国王陛下だけでなく、ご出身のローシャル・ダヴィッテ国と妖精国シェリエム国からも認められる御仁とお聞きしたゆえ。さぞかし歴史のある貴族家のご出自かと。ぜひともお近づきになりたく」
おかしな話し方をする男だという以上に、その内容に思わずムッとする。
どうやら伯爵令嬢を叱りつけたのは組織上の役目と思っていたが、単なる『貴賤差別』の持ち主だったらしい。
その証拠に私だけでなくディーンを見る目付きも微かに蔑みの色を含んで、口も小馬鹿にしたように歪んでいる。
「我がカラウセン侯爵と言えば、隣国ローシャル・ダヴィッテ国にて知己もおり。おそらくパトリック大賢者殿ご縁の者とも顔見知りかもしれぬと」
「……そうですか。さて……私の方にはカラウセンという家名の知り合いはおりませんが。どちらにしろ私は孤児でしたから、家名というものは端から持っておりません」
「何っ……家名がない?これはこれは……今代の国王陛下はお人を見る目が確かなのか、やはり家名のない勇者殿を重用なさっておるとか。いやはや世も末……いやいや、お心が広くていらっしゃるゆえ。その目に留まられるとは、さすがさすが……」
もう何を言われているのか、よくわからない。
わかるが──わかりたくない。
私の後ろで気配を消しているはずのラダもミウも、スンッとした表情をしているのが感じ取れる。
どうやら名乗りをしない彼にとって、我々家名を持たない平民は、たとえ国王陛下に認められようと取るに足らない存在らしい。
だがそれがどうしたというのか。
私にしてみればまあ『賢者』という肩書が自称ではなく国家に認められたというのは心強いが、別に冒険者ギルドで登録して発行されるカードにその職業名が記されるだけで十分だ。
だがこの男にとっては身分らしき身分のない者は、相手にする必要もないのだろう。
残念ながらこの村にいる中できちんとした身分があるというのはトリウス伯爵令嬢のミウだったが、彼女は絶対に顔を出したくないとばかりに息を潜めているから、無理に前に出すことはしたくない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...