すみません。その魔王は親友なので、勝手に起こさないでもらえます?

行枝ローザ

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賢者、『勇者』と認められる。

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それにしても王家公認の『勇者』という肩書は、とてつもない魅力を持っているらしい。
そっくりとまではいかずとも「ああ、姉妹だな」とわかるほどにはミウに似ているその女性──いや、少女は今回の調査団の団長らしき者が村長に向かって訪問の目的や国王からの王令書を読み上げているというのに気もそぞろで、うっとりとケヴィンを見つめている。
その表情は言ってもなんだが、王の威光を借りてケヴィンと私を無理やり呼び出した第二王女とそっくりだ。
「私にはよくわからないけれど、『勇者』というのはそんなに将来有望そうに見えるのかな?」
「まあ…そうだな……だいたい冒険者として請け負う依頼はギルドからばかりだが、『勇者』という称号があれば王家からのものがほとんどだし、それらはだいたい普通の冒険者が得られるより巨額の報酬が提示される上に、あくせく小金稼ぎをする必要もない」
「それはまた……しかし、王家からの依頼など、そうそうあるものではないでしょう?」
「そりゃないけれど……今俺たちが請け負っている『魔王討伐』に関しては期限などないし、請け負っている間はずっと依頼維持の報酬という普通の依頼ではあり得ない金がだいたい30日から50日で支払われている」
「つまり………」
「もし今回のあの魔物や魔獣の集団に本当に魔王がいて、それを俺たちが討伐したとしたならば依頼完了だが、そうでない限りは引き続き依頼金が入ってくる……まあ、そうでなくとも単純に『勇者』というものに魅かれることもあるだろう、あの娘のように」
確かにただの娘どころか『魔法研究所』という国のトップレベル機関を管轄しているトリウス伯爵家の娘であれば、金に困ることなどあるまい。
となればただ純粋に、ケヴィンを慕っているということか。
「ケヴィン本人を見ているのは、ミルベルだけだよ。あいつにすり寄ってくる奴は、アイツが本当に純朴でただの田舎者だなんて思いもしない」
「なるほど……」
「勇者様ぁ~……わたくしの不肖の姉がお世話になって……あら?いませんのね?とうとう逃げ出しましたの?ねえ……今度こそ、わたくしをお側に……あら?」
甘ったるい声と態度を側付きらしい男が窘めていたが、うるさいとばかりに手を振った少女の視線がこちらに向き、嫌な予感に背筋が震えた。


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